為替介入の効果と限界

これまで何回も、超円高がもたらす日本経済への悪影響を、繰り返し書いてきた。

そこで、円安誘導を実現する手段は何か、について説明させていただく。私の意見は、政治的に可能であれば、介入の金額を大幅に拡大し、同時に金融の量的緩和も強化すべきと考える。

介入、特に日本単独の介入は、効果が無い、という意見をよく耳にする。その理由は、外国為替市場の取引金額が、介入金額を大幅に上回っていることを根拠とするものが多い。

円の取引金額については、BISのHPに、2010年4月の1日当たりの平均取引金額が、OTC取引のスポットとフォワードの合計で、4153億ドル、という金額が示されている。確かに、巨額の取引金額である。しかし、私は、この金額の大半は、投機家による超短期から中期の投機的取引と、銀行・ブローカーの超短期の投機的取引とポジション調整の取引であると考える。こうした取引は、短期の為替レートを決定する主因であるが、長期の為替レートのトレンドを形成することはありえない。なぜならば、大量に買ったとしても、次の売りの反対売買が、短い取引では、直後に、長い取引でも、せいぜい数ヶ月後に、必ず出て来るからである。

長期の為替のトレンドを形成する主な要因は、以下の4種類の取引が特に重要であると考える。
(1)経常収支に伴う取引
これは、買いが入った後、次の売りの反対売買が無い取引である。
(2)直接投資に伴う取引
これは、買いが入った場合、次の売りの反対売買が、数年後に出るか、あるいは、半永久的に反対売買が無い取引である。
(3)投信、年金、生保等の機関投資家による対外投資の実需に伴う取引
これは、買いが入った場合、次の売りの反対売買が、数ヶ月後から、数十年後に出る、といった取引である。
(4)政府・中央銀行の外貨準備の増減に伴う取引
すなわち介入であり、買いが入った場合、次の売りの反対売買が、数年後に出るか、あるいは、半永久的に反対売買が無い取引である。
こうした取引は、金額的には、中短期の投機的取引よりも小さいが、長期の為替レートのトレンドを決定する重要な要因であるはずである。

日本の財務省は、昨年1年間に、14.3兆円(財務省発表データ)のドル買い円売り介入を実施した。しかし、外国の政府・中央銀行・その他の公的部門は、昨年1年間に、日本の債券を20.6兆円(日銀発表統計)買い越している。これは、介入自体に効果が無いことではなく、介入金額が少なすぎるために、効果が無いことを示している。その上、財務省の外貨買い円売りが可能な上限金額は、現在、195兆円であるが、しばしば法律が改正され、上限金額が、拡大し続けている。従って、為替介入の上限金額さえ引き上げれば、1000兆円でも1京円でも介入は可能である。1京円の介入も、財源は、一次的には日銀引受の短期国債なので、財源にも問題はない。もっとも、短期間に1京円もドル買い円売りを実施すれば、間違いなくウルトラ円安が起こり、経済が混乱するので、そんな極端なことをすべきではない。

介入が困難なのは、政治的な理由からである。

WTOやIMFには、介入による通貨安誘導を直接禁止する規定は無い。しかし、アメリカの法律に、為替相場を不当に操作している国に対しては、為替操作国と認定し、関税引き上げなどの制裁を課することができる、というものがある。仮に、今後、日本政府独自の判断による介入で、円を、120円、160円へと円安誘導していけば、アメリカから為替操作国と認定され、関税を課されたりして、アメリカへの輸出が困難になる可能性が高い。1995年の夏から秋にかけて、当時の榊原英資大蔵省国際金融局長が、ドルの押し上げ介入(=介入による円安誘導)を実施したことがある。これは、榊原氏のアメリカ側のカウンターパートに、ハーバード時代の同僚であるローレンス・サマーズがいて、サマーズを通じて、アメリカ政府から、日本政府によるドル押し上げ介入の理解と黙認を獲得していたから可能であった言われている。これは、榊原氏の対米人脈だけではなく、当時のアメリカ経済が、住宅やITのバブルの初期であり、経済が好調であったから、可能であったと思われる。現在のようなアメリカの失業率が高いような時期に、ドルの押し上げ介入(=円安誘導)について、アメリカ政府の理解と黙認を獲得することは、非常に困難なことであろう。

もう一つは、G20サミットやG7財務相・中央銀行総裁会議の宣言による制約である。先日のロスカボス・サミット首脳宣言の文言に、「通貨の競争的な切り下げを回避することへの我々のコミットメントを再確認する。」とある。最近のサミットの宣言には、このような文言がいつも入っている。こうした宣言は、条約のような法的拘束力は無いものの、宣言文を受け入れてしまったからには、介入による円安誘導を実施することは、大変困難であろう。ただ、サミットの宣言には、「資金フローの過度の変動及び為替レートの無秩序な動きは経済及び金融の安定に対して悪影響を与えることを再確認する。」という文言も入っている。為替レートが無秩序な動きを示した場合には、介入も許される、と解釈することも可能な文言である。日本政府はこうした解釈を取り、昨年夏から秋にかけての大規模なドル買い円売り介入を実施している。この解釈だと、円が新高値を更新するなど、大幅な円高が進行した時には、「過度の変動及び為替レートの無秩序な動き」であると主張して、介入を実施して、円高進行を食い止めることは許されるかもしれない。しかし、それから先の円安誘導は不可能である。サミットのたびに、このような宣言を受け入れさせられている現状では、政治的に円安誘導は非常に困難であろう。

介入が難しければ、後は金融の量的緩和の強化である。これは、政治的には可能であるが、政策論として国内に反対意見が多い。金融の量的緩和は為替には影響を及ぼさない、とか、金融の量的緩和は円安をもたらすが、同時に賃金や製品価格の上昇をもたらすので、効果が相殺されて意味が無い、とか、そもそも、金融政策を使って為替を操作しようという考え方自体が間違っている、等々、様々な反対意見が存在する。私は、金融の量的緩和の強化による円安誘導は、可能であり、強力に実施すべきものと考えている。その根拠や副作用などについては、後日、金融の量的緩和の効果の一つとして、詳述する予定である。

現在、ツナミによる原発停止に伴うLNG等の輸入の急拡大と、超円高というツナミの効果による製造業の輸出競争力の低下により、経常黒字は大幅に縮小している。本来円高になるような環境ではない。それが、ユーロ圏の経済危機の継続によるユーロから円への資産逃避が発生しており、現在の極端に割高な円相場が、継続して実現している。そして、そのユーロから円への資産を移している最大の主体は、外国の政府・中央銀行である。

私は、現在のような局面においては、政府は、大量に外貨買い円売り介入を実施し、同時に、日銀は、思い切った量的緩和の強化を実施すべきだと考える。ただ、介入は、上記のような政治的な困難さが存在するため、実際問題として、ごく短期間しか実施できない。従って、その後は、日銀の大規模な金融の量的緩和を中心にして、円安誘導を実施するしかないと考える。


追記
この回の続きは、「金融の量的緩和と円安」です。


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テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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