実質実効為替レート 超円高・アジア通貨安の構造


実質実効為替レート、名目実効為替レートの最新のグラフはこちら

2012年11月以降、円安ドル高が進行し、直近ではほぼ継続して1ドル=100円台を維持し続けている。ここまで円安が進むと、再び現状が超円安であるとの意見が目立ち始めた。その理由として、実質実効為替レートで見た場合、超円安であることを指摘する意見が多い。

2012年10月以前は、円の為替レートが、「あらゆる角度から見て超円高」であることを繰り返し書いてきた。しかし、その後の円安進行により、「あらゆる角度から見て超円高」という見方は、現在では正しくなくなった。しかし、「実質実効為替レートで見た場合、超円安」という見方は完全に間違っている。今回は、実質実効為替レートから見た超円高という事実と、特にアジア諸国の通貨に対しては、異常な超円高が続いていることは、現在でも変わりはないことを説明する。

まず、日本とアジアの代表的な貿易相手国である、中国、韓国、台湾の通貨との為替レートを比較することにする。最初に、円が対米ドルでどのように推移したかを表すグラフを下記に示す。


円の推移

普通、為替レートは、1ドル=〇〇円という形で表現する。その場合、円高が進行すると、グラフは右肩下がりになる。すると、通貨価値が下がっているとの誤解を招きかねない。そこで、円高進行の場合は、右肩上がりにするため、1円=〇〇ドルであることを示す上記のグラフを作成した。この後に示すグラフは、全て同じ表現形式をとっている。すなわち、通貨高が進行すると、グラフは右肩上がりとなり、通貨安が進行すると、グラフは右肩下がりとなる。1964年-2011年の間、基本的には円高のトレンドが続いてきた。直近では、円安が進行している。

なぜ円の対ドルでの為替レートは、長く上昇し続けてきたのであろうか。最大の要因は、インフレ率の差である。実質実効為替レートでも、インフレ率の差のみに光を当てている。もう一つは、バラッサ=サミュエルソン効果(*1の最終段落を参照)である。経済が成長すると、同時にその国の通貨価値は上昇していくという法則である。

同じ時期、台湾ドルの為替レートが、対米ドル、対円でどのように推移したかを表すグラフを下記に示す。


台湾ドルの推移

左軸を対米ドル、右軸を対円にした。そして、台湾ドルの変化率が、対米ドルと対円でほぼ等しくなるように軸の縮尺を設定した。台湾ドルは、過去50年間に、対米ドルではジリ高であった。一方、対円では大きく値下がりしている。

次に、中国人民元の為替レートが、対米ドル、対円でどのように推移したかを表すグラフを下記に示す。


人民元の推移

人民元は、1972年までは、円と同様に固定相場制を採用していた。その後、1980年までは、対米ドルで人民元高が進んだ。問題はその後である。1980年7月から1993年6月にかけて、人民元は対ドルで86%、対円で93%下落した。これは、中国人民銀行が、意図的に人民元を大きく切り下げたからである。この間、中国は、改革、開放政策を進めており、経済成長実現のために様々な制度改革を実施していた。しかし、海外から見て最も影響が大きかったと考えられる制度改革は、この人民元レートの極端な切り下げ政策である。この政策により、中国の労働者の外貨建て賃金が、極端に大きく切り下げられたのである。この超人民元安誘導政策の結果、先進国から見た中国の生産拠点としての価値は大幅に高まった。その結果、1990年代の半ば以降、世界中の多国籍企業が続々と工場を中国に建設した。中国は世界の工場となり、世界第二位の経済大国へと急成長する最大の原動力となった。その後、人民元レートは上昇したが、大規模な為替介入の効果もあり、それほど大きなものにはならなかった。

次に、韓国ウォンの為替レートが対米ドル、対円でどのように推移したかを表すグラフを下記に示す。


韓国ウォンの推移

韓国ウォンも極端に大きく値下がりし続けてきた。韓国ウォンは、1980年1月までは固定相場制であった。その後、管理変動相場制を経て、現在は変動相場制となっている。その間のほとんどの期間において、韓国は自国通貨を割安に維持することを目指してきた。韓国ウォンは、過去50年間に、対米ドルで88%、対円で97%も値下がりしたのであった。

次に、日中韓台の通貨の名目実効為替レートをBIS(国際決済銀行)が算出したデ-タから引用する。ただし、中国については1994年以降のデータしか存在しないので、1964年-1994年の人民元の名目実効為替レートは、米ドル・人民元レートに等しいと仮定して算出したレートを使用した。その名目実効為替レートを、1964年1月=100とおいてその変化を見ることにする。


アジア名目実効為替レート

長期で見た場合、日本の極端な上昇が目立つ。過去50年間、中韓台の名目実効為替レートは、程度の差はあるが、3ヶ国とも下落してきた。日本は中韓台とは正反対に、極端な円高を容認する政策をとり続けてきたのである。直近の日本は下落しているが、大幅な下落とまでは言うことができない。

次に、この4ヶ国の名目実効為替レートに物価変動を考慮した、実質実効為替レートのグラフを下記に示す。


アジア実質実効為替レート

名目と同様に、中国のデータは1994年以降しか存在しないので、1994年以前は人民元・ドルの実質為替レートで代用した。

物価上昇を考慮に入れると、名目実効為替レートよりも多少差は縮まった。しかし、依然として、超円高・アジア通貨安が継続中であることには変わりはない。なお、韓国の場合、1964年5月に、51%の平価切り下げを実施している。この切り下げは、一部がインフレ調整、残りは韓国ウォン安誘導を狙っていた。1961年2月に実施した平価切り下げの後、3年3ヶ月の間、インフレが進行したのは事実である。しかし、韓国は、その間のインフレ率を上回る大幅な平価切り下げを1964年5月に実施した。しかし、1964年1月からの実質実効為替レートを算出する際、使用するインフレ率の期間は1961年2月-1964年5月の3年3ヶ月ではなく、1964年1月-5月の5ヶ月間だけである。その結果、1964年5月の平価切り下げによる実質実効為替レートの下げは、実態を過大評価することになった。しかし、それを考慮に入れた場合でも、韓国の直近の実質実効為替レートは、上記のグラフで記した韓国の線と、台湾の線の間に位置していることは間違いない。

実質実効為替レートから見た場合、現在の円レートが超円高であることに間違いはない。特に中韓台の通貨に対しては、超円高である。実質実効為替レートから見た場合、超円安とか、円高ではないという人は多い。その人たちは、過去20年間の実質実効為替レートを見て、現在は超円安だとか、過去30年間の実質実効為替レートを見て、現在は円高ではないと主張するのである。日本では、1971年以前の固定相場制の時期から、円の実質実効為替レートは上昇してきた。そして、1971年からの変動相場制移行後の円高はすさまじかった。直近の円の実質実効為替レートは、1985年のプラザ合意前の水準に近い。だからといって円高ではないというのは、全く間違っている。プラザ合意以前の実質実効為替レートは、すでに極端な超円高であったからである。

実質実効為替レートで通貨の水準を考える際、基準時点をどこに置くかで、かなり見方が変わってしまう。過去20年、過去30年の実質実効為替レートでは、プラザ合意以前に発生した異常な超円高を見ることができない。過去50年が絶対に正しいというわけではないが、過去20年、過去30年よりは多くの情報を含んでおり、より適切な期間であることは間違いない。実質実効為替レートで為替レートの水準を判断する場合、BISが記録に残している最長の50年の期間を見て判断すべきである。

BISは、主要先進国26ヶ国の名目と実質の実効為替レートを算出している。26ヶ国(プラス中国)の名目実効為替レートの推移を表すグラフを下記に示す。


主要国名目実効為替レート

先進国を含めても、円は長年、最も大幅に値上がりした通貨であったが、直近は、スイスフランに少しだけ抜かれた。しかし、円とスイスフランの値上がり率は図抜けている。

次に26ヶ国(プラス中国)の実質実効為替レートの推移を表すグラフを下記に示す。


主要国実質実効為替レート修正版gif

日本は、依然として世界一実質実効為替レートの高い国であり続けている。

日本は、1949年に決まった1ドル=360円の固定相場制下において、平価を切り下げたことは一度もなかった。固定相場制の下でも、インフレの進行と、英ポンドや韓国ウォンなど、米ドル以外の通貨の平価切り下げを通して、円の実質実効為替レートを上昇させてきた。そして、1971年に変動相場制に移行して以来、1995年まですさまじい超円高に見舞われ続けてきたのである。そうした超円高にもかかわらず、日本は経済成長を遂げてきた。通貨安を利用して経済成長を遂げたことは、一度もなかった。

一方、中国、韓国、台湾、シンガポール、香港などの日本周辺のアジア諸国の経済成長の最大の原動力は、自国通貨安であった。5ヶ国とも対GDP比で見た場合、日本を上回る巨額の外貨準備を保有し、自国通貨の価値を大幅に割安な水準まで誘導したり、維持し続けたのであった。そして、バラッサ=サミュエルソン効果という通貨価値の上昇が発生することを防いできた。通貨政策という点だけは、超円高という悪条件を克服しながら経済成長を実現した日本とは、全く異なる成長戦略を採用し続けてきたのである。

自国通貨安誘導政策を、最近はやりの言葉を使えば、為替操作となる。この大規模な為替操作の結果、日本周辺のアジア諸国は、日本よりも価格の安い工業製品を生産することが可能となり、自国の製造業を急成長させてきた。為替操作を原動力にして日本から徹底的に競争力を奪い取ることにより、経済成長を実現してきたのである。日本周辺のアジア諸国の割安な賃金は、経済発展段階の差だけが原因ではない。大規模な為替操作の結果、実現したのである。日本は、日本周辺のアジア諸国による大規模な為替操作という近隣窮乏化政策の最大の被害国である。にもかかわらず、最近、日本は、韓国などから、為替操作との非難を受けている。このような現象が発生する最大の理由は、世界の多くの国が、日本が為替操作をしていないかを厳重に監視している中で、ほとんどの日本人は、外国の為替操作のことに関心がなく、知ろうとしなかったためである。例外があるとすれば、アメリカが為替操作国とたびたび非難してきた中国だけであろう。日本政府が介入を実施すると、やむをえないかもしれないが、諸外国に迷惑がかかるし、非難もされるので、なるべく介入は避けた方がよい、と考える。中国以外にも多くの国が実施している為替操作に対する認識がないため、日本は長年、やられっぱなしであった。

日本周辺のアジア諸国が成長するその裏側で、現在の日本はあまりにも窮乏化しすぎてしまった。ここまで窮乏化が進んでしまうと、死亡した産業を生き返らせることも永久に不可能になる。もはや、日本の産業を再生させようとしても、いくつかの分野においては、手遅れである。これは、日本周辺のアジア諸国が悪者であったからではない。日本自身があまりにも愚か者であったからである。

超円高是正策が完全に手遅れとなったため、効果が減少し、副作用も大きくなってしまった。円安にもかかわらず、直近の貿易収支の赤字が拡大していることは、その具体的な例である。だからといって、円安誘導に意味がないとか、有害と考えることは、全くの間違いである。円の実質実効為替レートを引き下げることは、最低限必要なのである。

「競争力強化のために為替レートを動かすことを目的とする政策は禁止する。」というのが昨年2月のモスクワで行われたG20財務相、中央銀行総裁会議での約束である。この約束は、現在の日本が超円高を是正することを禁止しているので、日本にとっては非常に不利な約束である。昨年の中国は、大規模な介入を実施しても全く非難を受けなかった。日本が少しでも介入を実施した場合、諸外国から激しい非難を浴びていたことは確実である。看板はインフレターゲットにしながら、大規模な金融緩和の実施により、国内の余剰資金を大規模に海外へと流出させ、裏では円安誘導を進める必要がある。実質実効為替レートから見た超円高、特にアジア諸国の通貨に対する異常な超円高を是正する努力を続けることは、日本にとって最優先にしなければならない重要な成長戦略なのである。

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