日銀ウォッチャー報告(2014年2月号)

マネタリーベース平残の推移201401(グラフ)

2014年1月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で9.3兆円増加し、201.4兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201401(表)

上記の表に示した通り、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になり、昨年11月までは高い増加率が続いていた。昨年12月に、前月比増加率はマイナスとなったが、1月には再び元の増加のトレンドに戻った。

1月の市中資金は、14.7兆円の不足であった。そこに、国債の購入7.1兆円、短期国債の購入11.5兆円などを中心とした金融調節により、合計18.1兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、3.4兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、12月末の107兆円から、1月末の110.5兆円へと、3.4兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、1月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比9.3兆円増加の201.4兆円になった。当座預金残高と季節調整済のマネタリーベース平残の増加に大きな差がある理由は、1月のマネタリーベースは、大幅に減少するという季節要因があるためである。

日銀は、1月の季節調整済のマネタリーベース平残は順調に増やしたが、12月はマイナスであった。市中資金は、昨年7月に大幅不足となり、通常の金融調節ならマネタリーベースは前月比マイナスになってもおかしくなかった。しかし、その時は、大量の資金供給により、季節調整前の末残も、季節調整済の平残も、前月比マイナスになることを避けた。日銀は強力な金融緩和をやり抜くという強い決意を、7月の時には感じられた。しかし、日銀は、12月はやや少なめの資金供給を行い、最低限の目標である2013年末のマネタリーベース200兆円という目標だけを達成し、季節調整済のマネタリーベース平残が前月比マイナスになることを容認した。そこから、2014年末のマネタリーベース残高の目標は絶対に達成するが、安定的にマネタリーベースを増やすとか、目標を上回る金額まで増やす意図は全く存在しないというメッセージが伝わってくる。ただ、7月と12月の政策の変化から、黒田総裁の異次元金融緩和に対する自信を超えた慢心が少しあるように感じられ、不安を抱かせる。


日銀BSとMB(実績と予想)201401

上記の表のように、今年の年末のマネタリーベースの予定残高は270兆円である。残り11ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、月間6.3兆円の純増が必要である。2月については、市中資金が10.2兆円の不足となる。国債の購入については7兆円と想定する。短期国債の購入については、昨年4月以降の平均的な購入金額である7.5兆円の購入と想定する。貸出支援基金による大きな貸し出しは2月には実施されない。この結果、2月の資金供給は、長期国債と短期国債の購入で14.5兆円となる。2月末のマネタリーベース末残は、前月比4.3兆円前後の増加になると予想する。季節調整済のマネタリーベース平残は、4.3兆円を少し下回る金額の増加になると予想する。

昨年4月4日に実施された異次元金融緩和の評価については、(*1)で詳しく説明した。その時指摘した、金融緩和がもたらしている異常現象が国際収支面に存在し続けており、同時に、この文章を書いている目の前で、円高株安が進行中なので、今月号も似た内容を書いて、結論を強調させてもらうことにする。昨年11月までの国際収支表の問題部分を下記に掲載する。

国際収支201401

2012年11月以降、大胆な金融緩和が確実になると、海外投資家は、怒涛のごとく日本株を買い始め、国内投資家は、日本株を売り始めた。国内投資家は、日本株だけではなく、外国株や外国債券をも大挙して売り始めた。その結果として、2012年11月-2013年11月の国際収支表における証券投資収支は、26.6兆円もの巨額の黒字になった。これは、大変大きな円高要因である。にもかかわらず、円高ではなく、円安方向に動いた最大の原因は、「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目が大幅な赤字になったからである。この3項目の赤字は、2012年11月末-2013年11月末に、13.5兆円にのぼっている。「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目の合計は、長期で見れば、ゼロに近づく。従って、遠くない将来に、少なくとも13.5兆円の黒字、すなわち、円買い外貨売りが発生することになる。これは、大変大きな潜在的な円高圧力が存在していることを意味する。

11月の証券投資収支は、国内投資家の対外中長期債投資が3.2兆円もの赤字になったが、海外投資家の日本株投資が2.2兆円の黒字になるなどして、証券投資収支全体では、700億円の小幅の黒字となった。また、経常収支と直接投資収支の赤字を相殺する「その他投資」が1.3兆円の黒字になっている。この中では、海外投資家の短期借り入れが4.3兆円の黒字、すなわち借金返済があったことが特に目立った。

12月の証券投資収支は、月次の速報ベースでは、2.3兆円の黒字であり、週次の速報ベースでは、1月第1-3週の収支は、5兆円の黒字となっている。12月以降も証券投資収支の黒字と「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目の赤字額合計は、拡大し続けている可能性が高い。

証券投資を通じて、大量の資金が流入してくる環境下で円安になる原因として、為替ディーラーたちがしばしば出してくる、ヘッジファンドの投機的な円のカラ売りが大量にたまっているという説を、前月号で否定した。その他に、株式市場関係者がよく言及する説として、海外投資家が日本株を買う際、円安株高期待で買うのであるから、購入資金の大部分に円売りヘッジが付いているからという考え方が存在する。

この考え方も、一部だけ正しいが、大部分が間違っている。海外投資家が日本株を買う際、一般的に言って、為替ヘッジ率は低い。理由は、海外投資家の運用のベンチマークが、円建ての日経平均ではなく、ドル建て、または外貨建ての日経平均であるからだ。パッシブ系のファンドの場合、ヘッジ比率は大半がゼロに近いはずである。アクティブ系のファンドも、通常はヘッジ比率は低いはずである。しかし、円安株高予想から日本株を購入する際、通常よりはヘッジ比率が高まるが、100%ヘッジするファンドマネージャーは、いたとしても、ごくわずかであるはずだ。

この説の決定的な間違いは、海外投資家がヘッジ比率を決める際、新規投資の分だけに対するヘッジ比率を考えることは100%ありえないということだ。海外投資家がヘッジ比率を考える際、新規に買う日本株だけではなく、昔から保有している円貨建て資産をも含む、全ての円貨建て資産に対するヘッジ比率を考えるのである。海外投資家が保有している日本株、日本債券の総資産額は、昨年9月末の時点で、245兆円であり、その大半は円貨建て資産である。海外投資家の円貨建て資産に対するヘッジ比率は一般的には低い。しかし、それは245兆円弱の円貨建て資産に対するヘッジ比率が低いのである。海外投資家の円貨建て資産に対するヘッジ比率が、2012年11月時点で仮に10%であったとする。彼らの円安期待が強くなれば、245兆円弱の円貨建て資産のヘッジ比率が10%増加して20%にまで上昇する可能性がある。その場合、2012年11月から現在までに24兆円前後の円売り外貨買いが発生し、円ショートのポジションが全部で48兆円存在することになる。そのうち、遠くない将来解消されるショートポジションが、24兆円存在していることになる。なんらかの原因で、海外投資家の予想が、円安から円高に変わった場合、24兆円の円ショートポジションの解消=円買いドル売りが発生するのである。

一部の反リフレ派は、ヘッジファンドによる投機による円のカラ売りや、海外投資家が日本株買いの際、同時に作った円のヘッジ売りのポジションが大量に存在し、その反対売買が発生した場合、超円高が再燃すると警告する人が存在する。私とは、為替売買が発生する原因が異なるのであるが、遠くない将来に、大量の円買い外貨売りが発生するという点では、完全に意見が一致している。

問題は、黒田日銀総裁も、リフレ派の主流派もこうした危険性をほとんど認識していないことである。2012年11月-2013年11月の間に、証券投資収支が26.6兆円の黒字になったにもかかわらず、円高ではなく、円安になったという事実から目をそらしている。現在までの金融緩和の最大の景気回復経路である、円安が発生している構造を解明せずに、景気が回復した、インフレ率が上昇したと喜んでいるだけであるからだ。2012年11月から発生した円安株高と景気回復に浮かれ過ぎて、足元の危険性を見失ってしまっている。

現在の景気回復は、海外投資家の円安期待という非常に不安定なものに支えられていることは間違いない。黒田総裁の2%インフレ実現に向けての意思は強く、必要があれば、今後も追加金融緩和の実施もためらわないであろうという海外投資家の黒田総裁に対する強い信頼感があるからこそ、円安が継続し、現在も景気回復が続いているのである。こうした強固な円安期待が形成された理由の一つは、昨年4月4日の異次元金融緩和が、大半の海外投資家が予想していた以上に大規模な金融緩和政策であったからであろう。しかし、異次元金融緩和は、国内投資家が、無リスク資産からリスク資産へと資金を移動させることには完全に失敗し、反対に、大量のリスク資産から無リスク資産へと資金を移動させるという意図とは正反対の結果をもたらした。

黒田総裁は、現状においても、先行きにおいても、強気の経済見通しを維持し、異次元金融緩和だけで消費税増税を乗り越え、2%までのインフレ実現も可能であると考えているようである。一方、現在すでに、海外投資家は、追加金融緩和を多少は期待しているようである。この乖離が大きく広まり、海外投資家の黒田総裁の金融緩和に対する姿勢への信頼が崩れた場合どうなるのであろうか。ミスター・クロダはもうこれ以上金融緩和を強化しない、日本の投資家は、相変わらず外国証券を買わない、その場合、円安は続かない、それならば円のショートポジションを保有するのは危険である、と考え方が変わるであろう。その場合、大量の円買いが円買いを呼び起こし、急激な円高が再燃することになる。1ドル=80円、日経平均株価9000円までの円高株安が発生し、デフレ不況が再び到来し、異次元金融緩和は無意味なものとなってしまうであろう。急激な円高が本格的に始まると、海外投資家の黒田総裁に対する失われた信頼を取り戻すことはできなくなり、その後に追加金融緩和を実施しても、効果は少なく、円高進行を止めることができなくなるのである。

本日2月4日の為替レートは、1ドル=101円近辺、前日比約1円の円高ドル安、日経平均株価は14008円、前日比610円安。急激な円高株安の進行である。私は、超円高の再燃という悪夢のシナリオの発生確率は20%と前から言い続けている。理論的にはその確率は変わってはいないと思う。しかし、目の前で急激な円高株安が進行すると、心理的には超円高の再燃という恐怖感を抑えることができなくなるのである、

海外投資家の円安株高期待のような不安定なものに日本経済を依存させることは望ましくない。いくら経済がグロバール化しているとは言え、直接的な日本経済に対する悪影響がゼロに近い一部の新興国の問題が、円高株安を通じて日本経済に揺さぶりをかけてくる。海外で少しばかりの悪材料が出ると、円が急上昇し、株価が急落する構造は、日本の円安株高が、海外投資家だけではなく、彼らの円安株高期待という不安定なものに依存しすぎている証拠である。海外投資家の円安株高期待というのは、目に見えるブレーク・イーブン・インフレ率よりも、はるかに大きく日本経済を動かしているのである。にもかかわらず、目に見えないので、ほとんど無視されている。日本経済が、海外投資家の円安株高期待のような不安定なものに依存する構造を改めなければならない。国内投資家のあり余った資金を安定的に海外に流出させ、円安が安定的に推移するような構造に変えなければならない。その結果として、株高と景気回復が安定的に続くことが可能となる強固で自律的な構造を作り出さなければならない。

そうした景気回復が安定的に持続する強固で自律的な構造を作り出すためには、異次元金融緩和の第二弾の実施が不可欠である。日銀が国債を大量に買い越すことにより、国債金利はより低下し、国債の流動性も大きく低下する。その結果、従来、日本の国債に投資してきた多くの国内投資家は、不本意ながらも外債などのリスク資産を買わざるを得なくなる。日銀が国債購入金額の大幅な拡大を発表したならば、多くの国内投資家は、そうした政策を激しく非難することは間違いない。しかし、これが実現して初めて、日本のあり余る資金を吸収してきた国債市場から資金が流出し、外債などのリスク資産へと資金は流出していく。その結果、円安は安定的に推移し、超円高再燃のリスクは、限りなくゼロに近づく。なお、国内投資家の株に対する拒否症は外債よりはるかに強い(*2)。国内投資家が株の上値を買うようにさせるためには、異次元金融緩和の強化をあと数回実施する必要がある。それでも異次元金融緩和の第二弾があった場合、国内投資家による株の売り越し金額を減少させる効果はあると思う。

異次元金融緩和の第二弾を実施することにより、その効果が現れ、インフレやバブルが発生し始めれば、金融引き締めではなく、増税によりインフレやバブルを封じ込めるべきである。消費税増税が予定されており、そのような望ましいシナリオが実現する可能性は非常に低いと思うが、インフレやバブルが発生し始めれば、増税による財政再建が可能になる絶好のチャンス到来となる。従って、政府は、インフレやバブルが進行し始めた場合に、増税によって封じ込めると宣言すべきである(*3)。出口戦略を日銀に押しつけている限り、日銀は追加金融緩和を実施しにくい。インフレとバブルの抑制の責任を、日銀ではなく政府が負うと宣言すれば、日銀は行きすぎた金融緩和を全く心配する必要がなくなり、異次元金融緩和を何弾でも追加して打ち出すことが容易になる。

現在の日本経済は、ささやかなものかもしれないが、一応、繁栄への道を進んでいる。しかし、その道は崖っぷちを進む道である。油断すれば崖から簡単に落ちてしまう非常に危うい道である。早く崖っぷちの道から離れ、平原の中を通る安全な繁栄への道へと向きを変えなければならない。出口戦略の責任を政府が負うことを宣言し、日銀が早急に異次元金融緩和の第二弾を実施することこそが、日本経済の成長と、もう一つの難問である財政の再建という課題を同時に解決することが可能になる繁栄への道なのである。


関連記事
異次元金融緩和の効果(*1)
日本の株式市場のヒステリシス(*2)
量的緩和の出口戦略 増税、増税、増税 !


人気ブログランキング

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

コメントの投稿

非公開コメント

全記事表示リンク
目次のページを表示

株式関連 株 コメント一覧

  • 投資部門別 現物先物 時系列表

  • 投資部門別売買状況 時系列グラフ

  • 8月第2週 株 コメント

  • 8月第1週 株 コメント

  • 7月第4週 株 コメント

  • 7月第3週 株 コメント

  • 7月第2週 株 コメント

  • 7月第1週 株 コメント

  • 6月第4週 株 コメント

  • 6月第3週 株 コメント

  • 6月第2週 株 コメント

  • 6月第1週 株 コメント

  • 5月第5週 株 コメント

  • 5月第4週 株 コメント

  • 5月第3週 株 コメント

  • 5月第2週 株 コメント

  • 5月第1週 株 コメント

  • 4月第4週 株 コメント

  • 4月第3週 株 コメント

  • 2016年 年間 株 コメント

  • 投資部門別売買状況アノマリー

  • 日本株 株式分布状況調査

  • 日銀資金循環統計 株 長期グラフ

  • 日銀資金循環統計 株 コメント

  • 株式先物投資部門別売買状況

  • 大手証券 先物建玉推移 グラフ

  • 海外投資家の株式買い越し金額

  • 世界の株価 国別 長期推移

  • 世界の住宅用不動産価格

  • 長期の実質実質為替レート

  • 最新記事
    カテゴリ
    最新コメント
    Twitterを表示
    経済指標が意味するところを解説
    FC2カウンター
    最新トラックバック
    検索フォーム
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR
    RSSリンクの表示
    Web Analytics