過去最高に膨らんだ海外投資家による日本株の買い越し

2013年の1年間に、日経平均株価は56.7%上昇した。上昇率で見ると、戦後4番目という大幅な上昇率であった。この株高を主導した主体は、誰であったのであろうか。言うまでもなく海外投資家であった。海外投資家の日本株買い越し金額=国内投資家の日本株売り越し金額を示すグラフを下記に示す。

海外投資家の売買

海外投資家は、2013年に、日本株を15.1兆円買い越した。年間の買い越し金額としては、2005年の10.3兆円を上回る過去最高であった。アベノミクス相場の出発点とも言える2012年11月第2週からの買い越し金額を計算すると、17.2兆円になる。さらに、バブル崩壊後、海外投資家が大規模な日本株の買い越しを始めた1991年からの23年間を合計すると、89兆円になる。バブル崩壊後、海外投資家は、断続的ながらも、大量に日本株を買い越してきたのである。2012年11月14日に、政権交代とともに、金融緩和が大幅に強化される可能性が高まると、海外投資家は、日本株買いのアクセルを過去に例がないほど強く踏み込み、過去最高のペースで日本株を買い越し始めたのであった。

なお、こうした買い越し売り越し金額は、東証、大証(以前は名証も含む)という取引所内だけ、すなわち流通市場だけの取引についてである。発行市場においては、主として、個人投資家、海外投資家が大手の買い越し主体であったはずである。

次に、海外投資家の日本株買いをストックベースで見ることにする。海外投資家の日本株の保有金額と保有比率を示すグラフを下記に示す。


海外 日本株 保有金額比率

バブル崩壊直後の1989年度末、すなわち1990年3月31日時点において、海外投資家の日本株保有金額は21兆円、保有比率は4.2%であった。その後、断続的に日本株を大量に買い越してきたため、2013年3月31日時点で、海外投資家の日本株保有金額は106兆円、保有比率は28%にまで上昇した。2013年末時点での数字をごくおおざっぱに計算してみると、保有金額は150兆円前後、保有比率は32%前後にまで拡大していると推計する。

発展途上国の中には、海外投資家の自国株式に対する買いに対して、外資規制をかけている国が存在する。私は、先進国の場合、そのような規制をかけるべきではないと考える。株式市場は、原則として自由であるべきである。複雑な規制は、自由な市場を維持するために不可欠であるが、自由な市場自体を規制することは、極力避けるべきである。それでも、海外投資家による日本株の大規模保有は、日本経済にとってデメリットが多いのも事実である。対外純資産の減少(*1)、海外投資家の日本株買いに伴う円高の進行、配当金支払いによる所得収支の黒字幅縮小、日本企業の経営者が、日本の国益より、海外の株主の利益を重視せざるをえないという悪い意味での経営の国際化の進展、などである。

次に、国内投資家の売買について見ることにする。主要な国内投資家の投資部門別売買状況を掲載したグラフを下記に示す。


国内投資家の売買

国内の流通市場だけでの売買であるので、最初に記した通り、国内投資家の売り越し金額=海外投資家の買い越し金額が成立する。主要な国内投資家は、バブル崩壊後は軒並み売り越し基調である。昨年の海外投資家の15.1兆円という過去最高の大幅な買い越しに対しては、個人投資家、次いで信託銀行が売り向かっていた。

個人投資家は、発行市場で常に株を購入しているので、流通市場では売り越しになりやすい。加えて、2014年から株式譲渡所得に対する増税が決定されていたので、例年よりは売り越し金額が拡大することは予想できた。しかし、それらを考慮しても、年間8.8兆円という過去最高の売り越し金額は、やや衝撃的なほど大きかった。信託銀行は、2000年代の前半あたりまでは、年金資金が恒常的に流入し、運用資産が増加していた。しかし、高齢化の進展とともに、運用資産が減少する年も増えてきた。2013年の4兆円の売り越し金額は、過去3番目の金額であるが、株価上昇時には、この程度の売り越しは、過去の売買から見ると、想定可能な範囲内での売り越し金額であったと思う。

こうした株価上昇時の国内投資家の売り越しというパターンは、バブル崩壊以降、不変の行動パターンである。1980年代後半のバブルの時期に、株を買い上がっていた投資家は、銀行(当時は信託銀行も含む)、投信などの国内投資家であった。1番最初に示したグラフを詳しく見ればわかるのだが、バブルが崩壊した1991年以降、株価が上昇する年には、海外投資家の買い越し=国内投資家の売り越しという現象が必ず発生していた(*2で詳細を説明)。バブル崩壊後、海外投資家が日本株を買い越すことなしに、株価が上昇したことは、一度もなかったのである。この法則が、2012年11月以降、規模が大幅に拡大し、海外投資家の買い越し金額=国内投資家の売り越し金額が年間で15.1兆円と大幅に膨らみ、2013年の株価が前年比56.7%上昇という、戦後4番目の大幅な株価上昇につながったのであった。

2001年に小泉内閣が誕生してから、「貯蓄から投資へ」というスローガンが唱えられ、個人投資家による株式投資の増加をはかるという政府の政策が、初めて姿を見せ始めた。しかし、この背景には、当時の日本の株式持ち合い構造を、スムーズに解消させたいという意図が見え過ぎていた。銀行などの金融機関が、株価下落で損をするのは好ましくない、損をするような金融商品は個人投資家に買わせよう、と政府は考えていたのであった。個人投資家は、以前から発行市場で株を大量に買っていたので、流通市場においては、株を売り続けるしかなかった。結果として、国内で買い手が少なくなった日本株は、海外投資家が大量に買うという結果にならざるをえなかった。先に書いた通り、外資の排除は誤りではある。しかし、外資の株式保有が増え過ぎないように、個人投資家だけではなく、他の多くの国内投資家の資金を株式市場に誘導する政策は、必要不可欠である。

次に、株式市場のバリエーション、すなわちPERの推移を下記に示す。


TOPIX PER


2009年の年初から1年半ほどの間、TOPIXベースでのPERが無くなったり、水準が大幅に高くなる現象が発生している。これは、リーマンショック後の超円高、デフレ不況で、上場企業の収益が赤字に転落し、その後の収益の水準も低かったためである。似たような現象は、1990年代に、銀行が不良債権の償却で大幅な赤字となり、PERが無くなったり、水準が大幅に高くなる現象がより長期間発生したことがあった。直近のPERは、過去と比較して、高いとは言えない。これは、円安と景気回復の結果として、企業収益が大幅に改善したためである。直近のPERはやや上昇傾向である。もう少し詳しく見ると、14.03倍(2012年11月14日、野田前総理の衆議院解散発言があった日)→17.26倍(2012年末)→17.17倍(2013年末)である。昨年1年間だけを見てみると、株価は56.7%上昇したが、その要因は企業収益の拡大が原因であり、PERは小幅ながら低下していたのである。

昨年1年間は、主として円安をきっかけにして景気が回復し、企業収益は大幅に増加した。その結果、海外投資家は過去最高の年間15.1兆円の日本株を買い越してきたが、国内投資家はそれと同金額の日本株を売り越してきた。その結果としての株価上昇は、企業収益の大幅な増加を反映した上昇であり、PERは小幅ながら低下し、バブル的な要素は全くなかったのである。

私の目から見ると、こうした現象は、非常におかしなものと感じられる。すなわち、景気が回復し、企業収益が大幅に拡大する中、国内投資家は、年間15.1兆円という過去最大の日本株の売り越しを実施したのである。企業収益の大幅な改善は、昨年4月、7月、10月の決算発表の前に、証券アナリストたちが予想していた範囲内に、だいたいは収まっていた。証券アナリストが景気回復とともに、企業収益の見通しを強気に出したり、収益予想の上方修正が相次いだ。企業の側も、景気回復とともに、増益の見通しを相次いで発表し、それを超過して達成してきた。2013年はそうした株価にとって「良いニュース」が溢れていた。こうした企業収益が急激に増加しつつある間、国内の投資家は、ひたすら日本株を売り続けていたのであった。株式市場に良いニュースが入ってくると、まず海外投資家が大挙して日本株を買い始める。デイトレーダーなどの一部の投機家を除けば、国内の大部分の投資家は、良いニュースが出て、証券会社や株式評論家が株の購入を推奨しても、そのような推奨はほとんど無視し、もっぱら株を売ることしか考えていなかったのである。国内の投資家は、株式市場に続々と流入してくる良いニュースに対して、「買い」という反応はほとんど示さず、ひたすら「売り」という反応しか示さなかったのである。「良い材料が出ると株を売る」という行動は、はたして正常な行動パターンであるのだろうか。

こうした国内投資家の行動パターンは、バブル崩壊後からずっと続いている大変大きな病理的現象と考えている。私はこの「株価が上がれば必ず売り越す」という国内投資家の投資パターンを「株式市場のヒステリシス」と考え、解決が困難であるが、解決を真剣になって考えなければならない大問題であると何度も書いてきた(*2)

もう一つの大きな問題は、日本の株式市場関係者やエコノミストたちが、この病的な現象を、病的な現象と考えてはいないということである。海外投資家が過去最高の速度で日本株を買い越し=国内投資家が過去最高の速度で日本株を売り越し、昨年1年間だけで15.1兆円、バブル崩壊後の1991年から23年間の金額を合計すると、89兆円もの日本株を国内投資家は流通市場で売り越してきたのである。バブル崩壊後に発生した病気が、年がたつにつれて重症化しているのである。この重症化してしまった病気を、病気と考える人が少なすぎることは、大変大きな問題であると考える。

それどころか、それとは正反対の病気と理解している人が多数存在している。それは、金融緩和の結果として、国内の投資家が株を買い過ぎている=バブルが発生しているという事実と正反対の認識が広まっていることである。昨年1年間、国内投資家が過去最高の速度で日本株を売り越しているという事実と、企業収益が大幅に増加し、その結果、PERが少しばかりであるが低下したという事実を認識していない人が多すぎるのである。

安倍総理の認識にも問題がある。昨年9月に、NY証券取引所で「バイ・マイ・アベノミクス」と呼びかけている。もうすでに日本株を買い過ぎている海外投資家に、日本株のさらなる買いを要請することは、誤った行動である。外資排除は望ましくないが、外資導入のやりすぎも望ましくないのである。日本は、過去23年間以上、株価上昇のほとんど全てを、海外投資家に依存し過ぎてきた。安倍総理が行わなければならないことは、国内投資家に対して日本株の買いを呼び掛けることである。昨年、企業収益が大幅に改善したにもかかわらず、国内投資家が過去最高の15.1兆円もの日本株を売り越したという事実を、国民の前で説明すべきであろう。そうして、個人だけではなく、国内のすべての投資家に対して、日本株を買うことの重要性を繰り返し呼びかけるべきである。

日本の株式市場のヒステリシスという重い病気を、安倍総理か黒田日銀総裁の周辺ブレーンの一人くらいは気がついてほしい。ヒステリシスという現象は、解決が困難な問題を指す言葉であるが、問題が長引けば、ますます解決が難しくなる。この現象を解決するためには、安倍総理が2013年の衆議院選挙の直前に発言していた「大胆な金融緩和」では力不足なのである。衆議院選挙が確実になった直後に発言していた「無制限の金融緩和」が必要なのである。2013年4月4日の異次元金融緩和は、2012年の11月から日本株を大量に売り越してきた国内投資家の投資パターンを変えることに完全に失敗した。国内投資家が日本株を本格的に買い越すようになるためには、異次元金融緩和とは何次元も次元が異なる大規模な追加金融緩和を続けることが必要なのである。今さら、金融緩和の強化により、国内投資家の資金を株式市場に向かわせて、株価を引き上げても、海外投資家の儲けが大幅に拡大し、対外純資産が大きく減少するので、完全に手遅れの段階に達している(*1で詳細を説明)。異次元金融緩和は、実施の開始が20年遅すぎたのである。それでも損失を少なくするためには、遅すぎでも実施に踏み切るしかない。国内投資家が株の上値を買い越すように転換するまで、無制限の金融緩和を実施するという政策は、遅すぎではあるが、真に求められている政策なのである。


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