日銀ウォッチャー報告(2014年1月号)

マネタリーベース平残の推移2013012(グラフ)

2013年12月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で5兆円減少し、187.6兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201312(表)

上記の表に示した通り、季節調整済のマネタリーベース平残は、昨年2月の白川体制の末期から増加率が加速し、昨年11月までは高い増加率が続いていた。ところが、昨年12月に、季節調整済の前月比増加率はマイナスとなった。季節調整済のマネタリーベース平残が前月比でマイナスになったのは、2012年11月以来のことであり、2.6%もの大幅なマイナスになったのは、2011年12月以来のことであった。

12月の市中資金は、6.6兆円の不足であった。そこに、国債の購入5.7兆円、短期国債の購入3兆円、共通担保オペによる貸し出し1.6兆円、貸出支援基金による貸し出し1兆円などを中心とした金融調節により、合計11.3兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、4.7兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、11月末の102.4兆円から、12月末の107兆円へと、4.7兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、12月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比5兆円減少の187.6兆円になった。当座預金残高が前月比で増加したのにもかかわらず、季節調整済のマネタリーベース平残が前月比で減少した理由は、12月のマネタリーベースは、大幅に増加するという季節要因があるためである。

下記の表に示す通り、12月のマネタリーベース末残は201.8兆円であり、目標の200兆円を上回った。前月号では、昨年4月から11月までの金融調節を見て、日銀が季節調整済のマネタリーベース平残を前月比でマイナスにすることはなく、国債と短期国債の購入を増やし、12月のマネタリーベース末残を、207兆円-215兆円にまで増やしてくると予想した。日銀の金融緩和に対する強い姿勢について市場から疑問が持たれ、円高株安が進んでしまうことを避けると考えたからである。しかし、その予想は見事に外れた。12月も円安株高が続いているので、結果オーライであるが、私は、市場に対する日銀の金融緩和への信任を維持するためには、季節調整済での前月比マイナスという金融調節は、望ましくなかったと考える。


日銀BSとMB(実績と予想)201312

上記の表のように、今年の年末のマネタリーベースの予定残高は270兆円である。残り12ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、月間5.7兆円の純増が必要である。1月については、市中資金が13兆円の不足となる。国債については、7兆円の購入と想定する。短期国債は償還が7.3兆円あるので、購入金額は7.5兆円と想定する。貸出支援基金による大きな貸し出しは1月には実施されない。この結果、1月の資金供給は、長期国債と短期国債の購入で14.5兆円となる。1月末のマネタリーベース末残は、前月比1.5兆円前後の増加になると予想する。月間5.7兆円の増加目標には届かないが、12月の金融調節を考慮すると、資金不足が大きい月には無理をして増やさず、資金不足が小さい月に大きく増やすと考えざるをえないのである。季節調整済の平残に直した場合、前月比2兆円以上の増加になると予想する。

昨年4月4日に実施された異次元金融緩和の評価については、(*1)で詳しく説明した。その時指摘した、金融緩和がもたらしている異常現象が、国際収支面に存在し続けているので、今月号でも引き続き説明する。昨年10月までの国際収支表の問題部分を下記に掲載する。

国際収支201310

2012年11月以降、大胆な金融緩和が確実になると、海外投資家は、怒涛のごとく日本株を買い始め、国内投資家は、日本株を売り始めた。国内投資家は、日本株だけではなく、外国株や外国債券をも大挙して売り始めた。その結果として、昨年11月-今年10月の国際収支表における証券投資収支は、26.5兆円もの巨額の黒字になった。これは、大変大きな円高要因である。にもかかわらず、円高ではなく、円安方向に動いた最大の原因は、「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目が大幅な赤字になったからである。この3項目の赤字は、昨年11月末-今年10月末に、14.6兆円にのぼっている。「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目の合計は、長期で見れば、ゼロに近づく。従って、今後、少なくとも、14.6兆円の黒字、すなわち、円買い外貨売りが発生することになる。これは、大変大きな円高圧力になることは間違いない。

10月の証券投資収支は、7.3兆円の黒字であった。その内訳は、海外投資家が日本株を3.5兆円、日本債券を3.3兆円購入した要因が大きい。一方、10月は、「その他投資」で6.2兆円の赤字が発生している。一番目立った項目は、国内の金融機関などが短期の貸し出しを5.6兆円実施したことである。こうした取引の中で、ドル円の売買がぶつかり、結果としてドル円レートは9月末の98.8円から、10月末の98.5円まで、0.3円の円高が進行することになった。

11月の証券投資収支は、月次の速報ベースでは、1.3兆円の黒字であり、週次の速報ベースでは、12月第1-3週の収支は、3.5兆円の黒字となっている。11月以降も証券投資収支の黒字と「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目の赤字額合計は、拡大し続けている可能性が高い。

為替レートというものは、事後的に見た場合、変動の要因をよく理解できるものもある。しかし、事後的に見ても、よくわからない変動をすることが多々存在する。私が問題であると思うことは、よくわからない為替変動があると、為替ディーラーや為替ストラテジストたちは、ヘッジファンドの投機的な売買と決めつける傾向があることだ。よくわからない為替変動をヘッジファンドの売買と説明した場合、その説明を明確な根拠をあげて否定することができないことが多い。しかし、よくわからない為替変動の原因が、ヘッジファンドの売買であるという証拠を、誰も示すことができないのである。「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の赤字の大元の原因が、ヘッジファンドの売買が原因であるかどうかは、本当のところは誰にもわからない。ただ私は、一部はヘッジファンドの売買であることを否定しないが、大半がヘッジファンドの売買であるとは思えないのである。ヘッジファンドが数ヶ月以上の長期間、大量に円のショートポジションを持ち続けるとは考えられないからだ。ヘッジファンドのキャリートレードという見方も多いが、現在の米ドルの短期金利は、円の短期金利をほんの少し上回るだけである。加えて、短期で借りるならば、円ではなく、マイナスの金利が常態化しているスイスフランを借りた方が有利である。従って、円キャリーのポジションが大きく積み上がっているとは考えられないのである。

私は、「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目の赤字の大元の大部分は、海外投資家が保有する円貨建て資産に対するヘッジ売りであると書いてきた。海外投資家は、昨年9月末時点において、日本の株や債券などの証券を245兆円保有している。そのほとんどを占める円貨建て資産に対するヘッジ比率がゼロであることは、100%ありえない。具体的なヘッジ比率はわからないが、海外投資家が円の先安予想を持ち、全体で保有する円貨建て資産に対するヘッジ比率を10%引き上げた場合、24.5兆円の円売り外貨買いが発生する。このヘッジ売りは、年金や投信などの証券投資よりは期間が短く、ヘッジファンドなどの取引よりも期間が長い、中期的な取引が多いと思う。もちろん1日で解消される取引も、10年以上継続する取引もあるであろう。しかし、平均をとれば、数ヶ月-2年程度の取引が多いと思う。こうした円のショートポジションが、現在、数十兆円レベルで存在していることは間違いない。海外投資家の円レートの先行き予想が、円安から円高に変化した場合、こうした円のショートポジションの中から、簡単に10兆円レベルの円買い・外貨売りの売買が発生するのである。

このような海外投資家の日本の円貨建て資産をヘッジする取引は、常に発生している。こうしたヘッジ目的の取引は、短期で見た場合、ヘッジファンドやその他もろもろの投機家たちの売買よりは、金額が小さい。従って、短期の為替レートは、投機家たちの売買で決定されることになる。しかし、中期の為替レートは、経常収支、直接投資、証券投資、ヘッジ取引などに伴う売買で決定される。さらに長期の為替レートになると、ヘッジ取引が抜け落ちて、経常収支、直接投資、証券投資などに伴う売買で決定される。このように、為替レートの決定要因はいくつもあるのであるが、為替ディーラーや為替ストラテジストが解説すると、よくわからない為替変動をもたらす要因は、ほとんどすべてがヘッジファンドの投機的な取引であることになってしなう。

一部の為替ディーラー、為替ストラテジスト、反リフレ派の中には、現在、ヘッジファンドなどの投機的な円のショートポジションが巨大に蓄積されつつあり、その投機家たちが円の買い戻しを始めた場合、超円高が再発すると警告する人たちが存在している。こうした意見は、私の意見とは、ヘッジ対投機という異なる部分があるが、結論部分で、大量の円買いが遠くない将来に発生するという点では一致している。

昨年10月以降進行している円安も、海外投資家の日本株、日本債券買いという円高要因と同時に進行している。円安進行開始からあまり時間がたっていないので、10月以降の円売りの主体については、ヘッジファンドか、円貨建て資産を保有するヘッジャーかを区別することはできない。しかし、投機であろうと、ヘッジであろうと、そう遠くない時期に反対売買が発生することは、間違いない。大半のリフレ派は、現在存在する潜在的な円高リスクに気付いていないようである。

円安は輸出企業を潤わせ、円安の結果として生じる株高は、株を保有する個人から企業、金融機関までも潤わせる。異次元金融緩和で最も効果のある景気刺激ルートは、円安なのである。円安が続く限り、日本経済は安泰であるが、円が再び反転上昇に転じれば、日本経済は再びデフレ不況の世界に戻ってしまう可能性が高い。

日銀がマネタリーベースを増やし続ける限り円安が続く、という考え方は間違っている。先に書いたように、為替売買の主体は様々であり、その目的も様々である。従って、為替レートは、ある時期にはマネタリーベースによって決定されるが、ある時期には内外金利差や経常収支によって決定されたりする。マネタリーベースが為替レートに大きな影響を与える時期が存在するのは間違いないが、常に影響を与えることができるとは限らないのである。現在、円のショートポジションを持つヘッジャーたちが、日銀の金融緩和に不足を感じ、円高予想を持ち始めたならば、円のショートポジション解消により急激な円高が発生することがありうる。急激な円高が一度発生してしまえば、その後にマネタリーベースを増やしても、円安には戻らない可能性が高い。海外のヘッジャーたちが持つ、日銀が円安を継続させるために十分な量的緩和を続けるであろうという確信、日銀に対する信任を、一度失ってしまえば、その信任を簡単に取り戻すことはできないからである。従って、海外のヘッジャーたちが持つ円安予想、日銀に対する信任を失うような可能性のある行動を、日銀は避ける必要がある。そのため、昨年12月のような、季節調整済マネタリーベース平残の前月比マイナスという実績を作ることは、望ましくないのである。

アメリカがテーパリングの時期に入り、日米金利差の拡大見通しが現在の円安の原因になっているという意見も、ある程度は正しいと思う。「ある程度」がついている理由は、昨年5月22日にバーナンキFRB議長が議会証言でテーパリングを示唆すると、その翌日から為替レートは、いっそうの円安ではなく、円高へと急反転したからである。為替レートというものは、「金利差」や「マネタリーベース」に正しく反応してくれることもあるが、正しい反応と正反対の反応を示すこともよくあるからだ。「日米金利差拡大」、「FRBを上回る日銀のマネタリーベースの拡大」が円安につながる可能性は十分に考えられるが、「絶対に」と言うことはできない。正反対、すなわち円高につながる可能性も、少なからず存在するのである。

私の目から見れば、現在のリフレ派の主流派は、あまりにも慢心しすぎていると思われる。昨年1年間の円安株高、景気の回復を見て、反リフレ派に対する勝利宣言をする人も増えてきた。しかし、マネタリーベースの拡大→円安→景気回復のメカニズムは、現在の日本では、非常に脆弱なのである。たとえ消費税増税がなかったとしても、景気後退のリスクは存在するのである。この点は、反リフレ派の批判の方に、より多くの真理が含まれているケースが多い。この脆弱なメカニズムを強固なものにするためには、日本国内の過剰と思われる資金が、対外証券投資を通じて、安定的に海外に流出するメカニズムを確立させなければならない。2012年11月-2013年10月の証券投資収支は、26.5兆円もの巨額の黒字となっている。これは、現在の量的緩和のポートフォリオ・リバランス効果が大幅なマイナスであることを意味する。ポートフォリオ・リバランス効果が発生していないとか、少ししか発生していないという見方は、誤りである。日銀の量的緩和は、国内投資家の保有資産に対しては、大幅なマイナスのポートフォリオ・リバランス効果しか発生させていないのである。

現在の政策の延長線上で、異次元金融緩和のストック効果により、プラスのポートフォリオ・リバランス効果が発生する可能性は存在する。来年度の国債発行残高の増加額が、今年度を大幅に下回ることになりそうであるからだ。それ以外にも、経常収支の黒字が拡大せず、直接投資収支の赤字が拡大し続けるというシナリオもありうる。このシナリオは、日本の産業の空洞化現象がいっそう進行し、輸出主導の景気回復を伴わない悪い円安が続くことを意味するので、避けなければならないシナリオである。そして、海外のヘッジャーたちによる円のショートポジションの大規模な解消により、遠くない将来に、超円高が再発する可能性を否定することはできない。リスクシナリオは、限りなくゼロに近くすべきであろう。

失われた20年の間、日本の余剰資金が流れ込み、安定的に繁栄し続けてきたのは、日本の国債市場であった。この国債市場が、日本の余剰資金をブラックホールのように吸い込み、日本株、外国証券などのリスク資産に資金が回りにくい構造が続き、円高株安の大元の原因となってきた。私は、その構造を、ゼロ金利下で発生する一種のクラウディングアウトであると考えている。この場合、クラウディングアウトされるのは、設備投資ではなく、日本株や外国証券などのリスク資産に対する投資である。この構造を打破するためには、日銀が国債を大量に購入し、従来の日本国債に対する投資家が、日本国債を買えないようにする必要がある。最近、よく使われる言葉で言うと、「国債市場の機能不全」を発生させることが必要なのである。国債市場が機能不全に陥った場合、現在、国債を購入している国内投資家は、日本国債を購入しにくくなり、外国証券や日本株などを購入するしか道はなくなる。その時、量的緩和が国内投資家の保有資産に対してもたらすポートフォリオ・リバランス効果が、大幅なマイナスからプラスへと転換する。そして、国内投資家の資金が、安定的に海外へと流出する仕組みが確立され、安定的な円安と景気回復の持続が保障されるようになる。現在のところ、異次元金融緩和は、昨年4月4日の開始直後の時期を除いて、「国債市場の機能不全」を引き起こすことに成功していない。

しかし、実際に「国債市場の機能不全」を引き起こすことは、日本国債に対する国内投資家が持つ日本国債購入という既得権益を破壊することになる。加えて、「国債市場の機能不全」が発生すると、債券ストラテジストの存在意義をも否定することになる。債券ストラテジストは、日本国内で日銀の行動を最もよく観察しており、日銀との関係も深いエリート集団である。異次元金融緩和のさらなる強化は、こうした国内の抵抗勢力から政治的な反発を間違いなく受ける。「国債市場の機能不全」は、日本経済の再生のために必要な政策である。しかし、債券ストラテジストたちが、「国債市場の機能不全」は、日本経済全体を機能不全に導く、とんでもない政策だと、誤っているが、賛同の得やすい論理を使って非難してくるのが目に見えている。国債の大規模追加購入という異次元金融緩和のさらなる強化を実施するためには、反リフレ派だけではなく、こうした国内の抵抗勢力の政治的な反対圧力をも排除する必要がある。これは、実際に簡単なことではない。リフレ派の主流派の多くが現状に満足し、さらなる追加金融緩和を主張しないのは、正しい姿勢だとは思えない。リフレ派は、様々な方向から飛んでくる、国債の大規模追加購入という追加金融緩和反対の声を、正確な理由をあげて論理的に反論し、排除するようにならなければならない。その結果として初めて、日銀の異次元金融緩和の大幅な強化が正当化され、実際に実施されるようになる可能性が高まるのである。


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