実質実効為替レート、名目実効為替レートの長期推移

非貿易財を含む消費者物価指数から作成される実質実効為替レートを見る場合、バラッサ・サミュエルソン効果(*1の最終段落を参照)(物価指数が非貿易財を含む消費者物価なので、購買力平価利用の際と理由は同じ)と合わせて見ることが必要。
日本はバラッサ・サミュエルソン効果に貿易摩擦も加わり、1995年までは異常な円高が発生。その後、日本経済の成長率低下に伴うバラッサ・サミュエルソン効果の是正=超円高の是正が起こった。しかし、超円高の是正は不十分。
日本周辺のアジア諸国では、固定レート制や政府・中央銀行の為替介入などにより経済成長に伴う通貨高=バラッサ・サミュエルソン効果がほとんど発生していない。
(購買力平価との関係)
IMFが算出している購買力平価で見ると、1ドル=97円であり現状はそれよりも円安。
従って、最近のIMFは円レートを適正とは評価しても、割高と評価することはない。
しかし、IMFの見方には3つの問題点がある。
第1点は、日本の購買力平価で見た一人当たりのGDPは欧米と比較すると過去のように高くはない。
先に示したバラッサ=サミュエルソン効果で示した通り、豊かではない国の為替レートは購買力平価で見て割安なのは当然。
これは、対米ドルや対欧州諸国の通貨に対して円が割安であることを正当化できる理由である。
第2点は、日本と貿易量の多いアジア諸国の通貨は、購買力平価で見ても非常に割安な国ばかり。
シンガポールなどの非常に豊かな国の通貨は日本よりかなり割安。
中国のようにあまり豊かとは言えない国の通貨はさらに割安。
日本と貿易量の多いアジア周辺諸国は、購買力平価で見ると超割安な国が多い。
第3点は、日本は1990年代後半のデフレ期以降は財価格↑≒サービス価格↑。
同期間の欧米諸国はサービス価格↑>財価格↑。
例 日米の消費者物価、財物価、サービス物価の差

日本の購買力平価比での円安や実質実効為替レートで見た円高是正はサービス価格の相対的な下落が原因。
財価格からみれば超円高の是正は全く不十分。
IMFなどの購買力平価だけからは見えないので、認識もされていない。
結果として、円は購買力平価で見ると円安、実質実効為替レートで見ると基準時点によっては円安。
しかし、財を主に生産する日本の輸出産業にとっては超円高が継続。
より厳密には欧米諸国の通貨に対しては超円高とは言えないが、大半のアジア諸国の通貨に対しては超円高。
詳細→ アジア諸国の近隣窮乏化政策と日本経済の低迷。
この超円高・アジア通貨安は是正されなければならない。
(超円高の是正方法)
1995年以降、実質実効レートが大きく円安方向に移動したことは事実。
しかし、名目実質実効レートは少ししか円安になっていない。
この現象下で発生したことは、日本の輸出産業の製品価格の下落、輸出産業の崩壊、物価下落、賃金下落、成長率低下。
賃金を見ても、世界の先進国の中で日本だけが上昇していない。

電機を中心とする輸出成長産業が大崩壊。
その結果、賃金は低下。
実質円高の是正方法としては最悪。
今後の実質円高の是正は名目円レートの引き下げでなければならない。
それならば賃金、物価の上昇も可能。
(経済成長の困難化)
長年の超円高・アジア通貨安の継続の結果、日本の輸出産業の基盤は大きく崩壊し、現在も崩壊中。
その結果として、規模の経済、外部経済が失われただけではない。
日本人の夢と希望が失われ、労働意欲、学習意欲も低下。
円安だけで経済を再生させようとしても完全に手遅れであり、もはや不可能。
しかし、円高進行なら、産業崩壊は加速=日本経済の崩壊も加速=国民は貧困化。
経済を再生させるためには、円安は最低限必要な条件。
痛みは大変大きいが、耐えるしかない。
経済成長は困難でも、衰退加速の防止には役立つ。
なお、コーポレートガバナンスコードは、ROE重視より先に、賃金上昇の重視へと改める必要がある。
日本のマクロ経済の特殊性を知らない経営学者が、欧米の常識をそのまま日本に導入したこともまた大きな間違い。
(参考)
上記の実質実効為替レート、名目実効為替レートは1964年1月が基準時点。
仮に1ドル=360円と決定された1949年4月を基準時点にすると、円は少なくとも米ドルとの実質レートではさらに割高になる。
仮に1ドル=4.27円であった1941年12月を基準時点にすると、1949年4月の1ドル360円はおそらく割安。
しかし、第2次世界大戦終了後のハイパーインフレ期の日本の消費者物価上昇率は精度の低い推測値しか存在しない。
正確な消費者物価上昇率を計算できないため、おそらく割安とは言えても、何%割安かという正確な数値を計算することは不可能。
従って、第2次世界大戦以前までさかのぼって実質実効為替レートの推移を見ようとしても、正確な計算が不可能である以上、正確な分析もできない。
第2次世界大戦以前までも含む分析は、正確性の低い分析にならざるをえない。
あまりにも誤差の大きい分析をして結論を出すのは、逆に危険になる。
(出所)
BIS effective exchange rate indices
Narrow indices comprising 27 economies, with data from 1964
中国だけは、Broad indices より
オーストラリア(ドル)、オーストリア(シリング→ユーロ)、ベルギー(フラン→ユーロ)、カナダ(ドル)、台湾(ドル)、デンマーク(クローネ)、ユーロ圏(ユーロ)、フィンランド(マルカ→ユーロ)、フランス(フラン→ユーロ)、ドイツ(マルク→ユーロ)、ギリシャ(ドラクマ→ユーロ)、香港(ドル)、アイルランド(ポンド→ユーロ)、イタリア(リラ→ユーロ)、日本(円)、韓国(ウォン)、メキシコ(ペソ)、オランダ(ギルダー→ユーロ)、ニュージーランド(ドル)、ノルウェー(クローネ)、ポルトガル(エスクード→ユーロ)、シンガポール(ドル)、スペイン(ペセタ→ユーロ)、スウェーデン(クローナ)、スイス(フラン)、イギリス(ポンド)、アメリカ(ドル)、中国(人民元)の合計27の国、地域の実質実効為替レートと名目実効為替レート。
メキシコ(ペソ)は実質実効為替レートだけ