知られざる巨額の為替差損

日銀のHPの「調査論文」のサイトに、日本の年末の対外純資産の推移とその要因を、毎年、分析したレポートが掲載されている。その中から下記のような数値を拾い出したり、加工したりすることができる。

1999年末 対外純資産_________________84.7兆円
2011年末 対外純資産_____________ 253.0兆円
1999年末-2011年末の対外純資産の増加額_ +168.3兆円
うち取引要因__________________+188.8兆円
うち為替要因___________________-88.1兆円
うちその他要因__________________+67.3兆円

「取引要因」の定義は、「投資収支+外貨準備増減」である。別の表現を用いれば、「経常収支+その他資本収支+誤差脱漏」である。しかし、「その他資本収支」は金額が小さく、「誤差脱漏」は、長期で見ればゼロに近い。ここでは、近似値ということで、「取引要因」=経常収支として扱うことにする。

「為替要因」は、為替変動による円建て評価額の増減である。

「その他要因」は、株価変動など、取引や為替変動以外による増減である。

この数値から理解できるのは、1999年末-2011年末の間に、日本は、経常収支の黒字で188.8兆円稼いだ。しかし、主に、日本人投資家が保有する外貨建て資産等で、88.1兆円の為替差損を出した。そして、主に、外国人投資家が保有する日本株式等で、67.3兆円の実現・評価損を出した。その合計が、対外純資産の168.3兆円の増加となった、ということである。

為替レートは、ドル円で1999年末が102.08円、2011年末が77.57円と、この12年間に、24.51円の円高となっている。その間に、日本は、88.1兆円もの資産を為替差損で失っているのである。この為替差損は、反対売買をして実現した実現損と、保有したまま評価損となっている未実現の評価損の合計である。

では、1999年以前は、どうであったのであろうか。日本の対外ポジションは、1967年末に3298億円の対外純負債の保有から、1968年末に972億円の対外純資産の保有に転換し、それ以降は、常に対外純資産の保有を続けている。しかし、1969年-1999年の詳細なデータはわからない。そこで、以下のような仮定を設定する。

「1969年-1999年の経常収支の合計と、1999年末時点の日本の対外純資産の差を、為替差損とする。」

この仮定は、「1969年-1999年の『その他要因』はゼロである。」という仮定と同じである。1999年末で残高が85.2兆円(前年比+50兆円)の外国人投資家保有の日本株式については、1999年末が日本株のバブル崩壊後の戻り高値の近くにあるため、その実現・評価損益は、プラスである可能性が極めて高い。1999年末で残高29.2兆円(前年比+5兆円)の日本人投資家保有の外国株式についても、海外の株価が右肩上がりに上昇していたので、その実現・評価損益も、プラスに違いない。両者が相殺しあって、1969年-1999年の「その他要因」は、大きなプラス・マイナスの数値を示す可能性は低い。上記の仮定は、決して現実離れした仮定ではないと考える。

総務省の統計サイトから、旧系列と現系列の経常収支の数値を拾い出し、
1969年-1999年の経常収支の合計金額を算出する。その金額は、
197.6兆円となる。一方、1999年末の対外純資産は84.7兆円しかない。ここから、1969年-1999年に112.9兆円もの為替差損を被っていたことがわかる。この間、為替レートは、ドル円で1968年末が360円、1999年末が102.08円と、この31年間に、257.92円もの円高となっている。巨額の為替差損が出るのも、当然のことであろう。1999年以降の数字を加えると、日本は、
1969年-2011年の43年間に、為替差損を合計201兆円も被っていたことになる。

2011年末の対外純資産は、253兆円であるから、為替差損がゼロであったならば、日本は、2011年末の時点で、454兆円の対外純資産を保有していたはずなのである。現在の日本は、世界最大の対外純資産の保有国であるが、為替差損を被らなければ、ドル建てでは不変であるが、円建てではもっと多額の対外純資産を保有していたことになる。

ちなみに、よく問題になるのは、政府の外為特会の為替評価損である。この為替評価損は、2011年末時点で35兆円前後であったと推定されている。もし、外為特会の為替実現益をゼロと仮定したならば、外為特会以外の資産の為替差損は、165兆円前後となる。つまり、

外為特会の為替評価損_____________約35兆円
外為特会以外の政府・民間部門の為替差損____約165兆円
日本の政府・民間部門の為替差損の合計_____約200兆円

というのが、日本の為替差損の全体像である。

よく、外為特会の為替評価損35兆円だけを取り上げて、このような巨額の為替評価損をもたらす介入などやめてしまえ、さらには、1.3兆ドルもの外為特会の資産は、多すぎるので、半分くらい売却してしまえ、という意見がしばしば聞かれる。しかし、外為特会の保有する外貨建て資産を大量に売却したならば、超円高が進行し、輸出が激減し、外為特会の保有する外貨建て資産に巨額の損失が確定するだけではない。外為特会以外の政府・民間部門の為替差損の165兆円のうち、未実現の為替評価損もさらに拡大してしまうのである。現在の日本全体の為替評価損は、35兆円よりもずっと大きい金額であることを理解する必要がある。

日本の抱える為替評価損を縮小するためには、介入の金額を増やし、円安誘導をすることが必要である。その結果、円安が進行すれば、日本全体が被っている為替評価損がどんどん縮小し、大量介入を継続したならば、やがては為替評価益に転じることもありうる。

もし、政治的に可能であるならば、財務省は、大規模な介入を実施し、為替評価損を解消し、為替評価益の出る水準まで、円安誘導を実施すべきである。


追記
2013年5月31日 
日銀「2012年末の本邦対外資産負債残高」のレポート公表 
2012年の為替要因は、+38.7兆円
従って、1969年-2012年の為替差損の合計は、162.3兆円にまで減少。

2014年5月30日
日銀「2013年末の本邦対外資産負債残高」のレポート公表 
2013年の為替要因は、+80.5兆円
従って、1969年-2013年の為替差損の合計は、81.8兆円にまで減少。

2015年5月22日
財務省「2014年末の本邦対外資産負債残高」の統計を公表 
2014年の為替要因は、+46.9兆円
従って、1969年-2014年の為替差損の合計は、35兆円にまで減少

2016年5月
2015年の為替要因は、-17.8兆円
従って、1969年-2015年の為替差損の合計は、52.8兆円にまで増加

2017年5月
2016年の為替要因は、-22.3兆円
従って、1969年-2016年の為替差損の合計は、75.1兆円にまで増加

(四捨五入による不一致あり)。


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