日銀ウォッチャー報告(2013年12月号)

マネタリーベース平残の推移2013012(グラフ)

2013年11月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比で8.7兆円増加し、過去最高の192.5兆円となった。

マネタリーベース平残の推移201312(表)

上記の表に示した通り、季節調整後のマネタリーベース平残は、今年2月の白川体制の末期から増加率が加速し、4月に黒田体制に移行してからも、高水準の増加速度が続いていた。10月は若干減速したが、11月には再び加速した。最初に示したグラフを見てわかる通り、9月以降は、マネタリーベース平残が、対前年比で見ても、オイルショック時の1973年11月に記録した43%を上回り、終戦直後の混乱期を除けば、過去最高の増加率を記録している。

11月の市中資金は、15.3兆円の不足であった。そこに、国債の購入8.4兆円、短期国債の購入8.0兆円などを中心とした金融調節により、合計16.6兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、1.3兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、10月末の101兆円から、11月末の102.4兆円へと、1.4兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、11月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比8.7兆円増加の192.5兆円になった。当座預金残高増加額と季節調整後のマネタリーベース平残の増加額に差がある理由は、11月のマネタリーベースは、増加しにくいという季節要因があるためである。


日銀BSとMB(実績と予想)201312

上記の表のように、今年の年末のマネタリーベ-スの予定残高は200兆円である。残り1ヶ月間で増やすので、マネタリーベ-ス末残は、月間8.4兆円の純増が必要である。12月については、市中資金が4.7兆円の不足となる。国債については、残高が目標を超えているので、償還分に等しい4.1兆円だけ購入すると仮定する。短期国債は償還が6.5兆円あるので、全額ロールオーバーすると仮定する。貸出支援基金の残高は少し増えるであろうが、その分、貸出金(共通担保オペ)などを含むその他の項目が減少し、この2項目の合計はゼロと仮定する。従って、前者の2項目のオペだけの合計で10.6兆円の資金供給となる。その他、今まで無視してきた紙幣の増加が4.9兆円見込まれる。この場合、12月のマネタリーベースの末残は、10.8兆円の増加(10.6兆円+4.9兆円ー4.7兆円)となり、12月の末残は、202.4兆円(191.6兆円+10.8兆円)になる。しかし、12月は、季節的にマネタリーベース末残が跳ね上がる月である。この仮定計算の場合では、12月の季節調整後のマネタリーベース平残を計算すると、11月比でマイナスになってしまう。12月の季節調整後のマネタリーベース平残を、11月比でプラスにするためには、少なくとも、12月の末残は、207兆円程度は必要である。さらに目標を、季節調整後のマネタリーベース平残で200兆円を目指すならば、12月の末残は、215兆円程度は必要である。従って、日銀は、先に示した仮定計算より、国債か短期国債を買い増して、12月末のマネタリーベース末残を、207兆円-215兆円くらいにまで引き上げてくると予想する。

4月4日の異次元金融緩和の評価については、(*1)で詳しく説明した。そこで指摘した金融緩和がもたらした異常現象が、国際収支面に存在し続けているので、今月号でも説明することにする。

昨年11月以降、景気回復が続いているが、その最大の原動力は、円安の実現であった。12月2日に、黒田日銀総裁は、「金融緩和の波及経路の中で、最も重要なルートは、実質金利の引き下げ」、と発言しているが、これは完全に正しい発言である。日銀総裁が円安誘導を目指して金融緩和を実施していると発言したならば、G20声明文違反となり、世界中から非難され、日銀は円高に戻すために金融緩和の縮小を強要されるかもしれない。従って、看板は実質金利の引き下げ、本音は円安の実現、という態度を日銀総裁は取り続けなければならない。今後も、金融緩和の結果としての景気回復を継続させるためには、最低限、現在の円安を維持することが必要である。より一層の円安が実現できるのならば、より望ましい。ところが、国際収支表の中には、一層の円安ではなく、将来の円高を示唆する数値が並んでいるのである。9月までの国際収支表の問題部分を下記に掲載する。

国際収支201312

昨年11月以降、大胆な金融緩和が確実になると、海外投資家は怒涛のごとく、日本株を買い始め、国内の投資家は、日本株を売り始めた。国内投資家は、日本株だけではなく、外国株や外国債券をも大挙して売り始めた。その結果として、昨年11月-今年9月の国際収支表における証券投資収支は19.1兆円もの巨額の黒字になり、大変大きな円高要因となった。にもかかわらず、円高ではなく、円安方向に動いた最大の原因は、「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目が大幅な赤字になったからである。この3項目の赤字は、昨年11月末-今年8月末には14.5兆円にのぼっていた。それが、昨年11月末-今年9月末には、8.3兆円にまで減少している。ただし、政府の外為特会が、為替先物の買いを外国証券などの他の商品に乗り換えるという作業を行っている。この金額は、今年4月末-今年9月末に350億ドルに上り、その結果、約3.5兆円の資金が、「その他投資」の赤字から、「外貨準備増減」の赤字に振り替わった。この特殊要因を考慮した場合、「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目の赤字額合計は、11.8兆円になる。「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目の合計は、長期で見れば、ゼロに近付く。従って、今後、少なくとも、8.3兆円-11.8兆円の黒字、すなわち、円買い外貨売りが発生することになる。これは、大きな円高圧力になることは間違いない。

9月の証券投資収支は、5.3兆円もの大幅な赤字であった。その内訳は、海外投資家が日本株・日本債券を3.4兆円売却したことと、国内投資家が長期債の貸借取引を使って、2.1兆円の資金を流出させたことの影響が大きい。国内投資家は、外国株、外国債券を依然として売り越している。一方、9月は、「その他投資」で6.4兆円もの大幅な黒字が発生している。非常に細かく分かれた項目の中で、一番目立った項目は、海外投資家が銀行からの短期の借り入れを4.9兆円返済したことであった。こうした取引の中で、ドル円の売買がぶつかり、結果としてドル円レートは8月末の98.4円から、9月末の97.8円まで、ほんのわずかな円高が進行することとなった。

10月の証券投資収支は、月次の速報ベースでは、3.5兆円の黒字であり、週次の速報ベースでは、11月第1-3週の収支は、0.7兆円の黒字となっている。(*2)で指摘した通り、国際収支表の数値は、単月ベースで見ると、かなりの誤差が含まれていると考えられ、数値が蓄積した長期で見た場合、その誤差は縮小すると考えられる。従って、毎月の数字に一喜一憂してはならないが、9月末に8.3兆円-11.8兆円にまで減少した「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目の赤字額合計は、直近では再び拡大している可能性が高い。異次元金融緩和は、海外投資家の保有資産に対しては、大幅なプラスのポートフォリオ・リバランス効果を及ぼしてきたが、国内投資家の保有資産に対しては、依然として大幅なマイナスのポートフォリオ・リバランス効果しか及ぼしていない。昨年11月-今年9月の証券投資収支が、19.1兆円もの黒字であることが、その証拠である。国内投資家の保有資産に対するポートフォリオ・リバランス効果が安定的にプラスになり、国内の余剰資金が海外へ安定的に流出するようにならなければ、安定的な円安を維持することができない。「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目の累積赤字が、黒字に転換する際、急激な円高が発生する可能性を否定することができない。

10月8日以降、円安がジリジリと進行している。この後、速報値ベースで見て特徴的なことは、11月に入ってからの海外投資家による日本株買い越しの拡大ぶりである。11月第1-3週の期間に2兆円強も日本株を買い越している。この海外投資家の日本株買いこそが、日経平均株価が、年初来高値を更新した最大の原動力であった。このパターンは、過去23年間不変のパターンである。ただ、国内投資家は、11月第1-3週の間に、2.1兆円の外国債券を買い越しており、この現象は、昨年11月-今年5月と比較すると、少し変化が生じてきている。それでも速報値ベースの証券投資収支は、10月と、11月の最初の3週間は黒字である。黒字であるのにもかかわらず、円高ではなく、円安が進行しているのは、「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目の合計が再び赤字となっている可能性が高い。急激な円高が発生する可能性は8月末から9月末にかけて少し減少したが、10月末、11月第3週と時間がたつにつれて、再び高まっていると考えられる。私の直観で、直近においてでも、1ドル=80円といった急激な円高が発生する可能性が20%くらいの確率で存在すると考えている。急激な円高が発生する可能性は高くはないが、仮に発生した場合、株価の暴落を引き起こし、景気は一気に後退へと向かう。異次元金融緩和は無意味な政策と評価される。そのようなことは絶対に避けなければならない。

7-9月期のGDP統計は、成長率が前期比+0.5%と減速しながらも成長し続けていた。しかし、寄与率を見ると、公共投資で+0.4%、在庫投資で+0.4%であり、この2つの寄与率を差し引くと-0.3%というマイナス成長であった。7-9月期も経済成長は続いていたが、もっぱら財政政策が効果を発揮しており、金融政策の寄与率は、ゼロかマイナスであった。金融緩和否定論者が、この結果を見て大喜びしていた。日銀もリフレ派の主流派もこの現状を素直に受け止めるべきである。現在進行中の円安がさらに進んだ場合、個人消費、設備投資、純輸出などの伸びは、再び回復するであろう。ただ、最近の円安は、日銀のさらなる金融緩和を一部織り込みつつあるようである。その場合、金融政策の現状維持を続けただけでも、円安期待が裏返しとなり、将来、円高が再燃する。最悪の場合、超円高に戻ってしまう。現在の金融緩和は、実験ではない。スイスや香港で、急激なインフレが発生しないことが証明済みの政策である(*3の後半を参照)。異次元金融緩和だけで、国内投資家の保有資産に対するポートフォリオ・リバランス効果を、現在の大幅なマイナスから、プラスの領域まで転換させることは困難である。すなわち、現在のマネタリーベースの増加額は、円安を維持、もしくは誘発して、経済成長率を引き上げるために必要な金額を大幅に下回っている。マッカラム・ルール(2年で物価を2%上昇させるのに必要なマネタリーベースの金額を算出する元になった理論)に従っていても、金融緩和がこれ以上の景気回復に役立つことはできないのである。現在進行中の円安も、長続きするような形での円安ではない。国内投資家の資金を安定的に海外へ流出させ、円安を維持、拡大させることが何よりも必要である。日銀は一刻も早く、大規模な追加金融緩和に踏み切るべきである。


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