国債発行の問題点と財政再建という茨の道

前回、財政破綻に至らないための条件について説明した。今回も、国債発行の抱える問題点を、前回とは異なる角度から見ることにする。

最初に、現在の日本の置かれている状況が、他の多くの先進国より深刻であることを示す。まず、フローの面から財政赤字の対GDP比率のグラフを下記に示す。


財政赤字対GDP比率

日本は先進国の中でも、慢性的な財政赤字を出し続けている。リーマンショック後の2009年は、世界中の国の財政赤字が急速に膨らんだ。特にひどいのはギリシャであり、2010年には、財政赤字の対GDP比率が30%をこえていた。しかし、その後、急速に財政赤字は縮小しつつある。ユーロ圏は、2011年7-9月期以降、景気後退が発生している。この景気後退は、財政再建を目的とする緊縮財政の結果として発生した景気後退である。その中で、日本だけが、財政赤字を拡大させ続けている。2011年の東日本大震災の影響もあったが、2013年も、景気対策として公共投資を拡大させてきた。その結果、ユーロ圏と比較すれば、日本経済は好調である。ユーロ圏、特にギリシャを中心とする一部の南欧諸国は、失業率が25%をこえるなど、実体経済は無茶苦茶になっている。しかし、実体経済が大変大きな打撃を受けながらも、日本とは異なり、財政再建はかなりの速度で進行している。

次に、ストックベースである、政府部門が抱える純債務の対GDP比率のグラフを下記に示す。


政府債務対GDP比率

上記のグラフでも、日本は先進国で最悪の状態になっている。ギリシャは借金の一部を帳消しにしてもらったため、純債務の対GDP比率は、少しは改善している。南欧の経済再建が今後も順調に進むかどうかまだわからないが、仮に成功した場合、先進国の中で日本だけが、唯一、借金を積み上げている国になる。

現在の日本においても、財政赤字=国債の発行残高の増加が日本経済に及ぼす影響について、エコノミストや経済学者の中でも意見は分かれている。リフレ派の中でも、財政政策については、財政緊縮派と積極財政派に分かれている。ただ、リフレ派の中にも、財政緊縮派はいるが、金融緩和を声高に叫んでも、財政緊縮を声高に叫ぶ人は少ない。そのため、リフレ派の中では、積極財政をも同時に主張する声の方が大きく聞こえる。財政再建をより強く訴える人たちの中心は、金融緩和と積極財政の両方の効果を否定し、構造改革による経済成長を重視する、構造改革派、新自由主義派のような立場の人たちである。

積極財政派がしばしば持ちだす理論に、次のような考え方がある。
「現在の日本国債は、保有者の大半が日本人であるので、国債の発行や償還は、国内での資金移転にすぎず、何の問題も引き起こさない。国債の発行が、子や孫の負担になることもない。」
この考え方の源流は、アバ・ラーナーが1940年代に打ち出した理論である。この理論についての議論はいろいろと行われているが、私自身の考え方を述べてみたいと思う。

日本は、過去20年以上にわたって、誤った金融政策が実施されてきた。20年前に異次元金融緩和を実施していたならば、資産デフレやモノのデフレに陥ることはなかったであろう。名目GDPは、増加し続けていたであろう。1990年代初頭のバブル崩壊による資産価格の低下は一時的であり、資産価格は、現在よりも大幅に高い水準で推移し続けていたであろう。為替レートは現在より円安が続いており、電機を中心とする日本の製造業は、現在よりはるかに強力な競争力を維持していたであろう。この場合、日本が大量の国債を発行する必要性は生じなかった。従って、巨額の借金に苦しめられるようなことは、起こりえなかった。国債の残高が大幅に増加する代わりに、海外への資金流出が継続し、円安が続き、経常収支の黒字が拡大する。その結果、分散化された対外純資産が、現在よりはるかに大きく膨らんでいたはずである。従って、政治的には、ジャパン・ナッシングではなく、凄まじいジャパン・バッシングが続いていたであろう。世界からぶん殴られ続けながらも、超少子高齢化、人口減少が本格的に始まる前に、日本は現在以上の所得、すなわちGDPと、対外純資産を保有していたであろう。金融緩和策の限界は、インフレとバブルの発生である。しかし、少し前までの日本経済は、デフレと負のバブルに苦しめられてきた。金融緩和が、長年、あまりにも不十分であったことの結果である。

日銀の不作為により、過去20年以上にわたって、日本経済は低迷を続けることを余儀なくされた。それでも、日本経済が本物の破綻が避けられたのは、国債の大量発行という財政政策が実施されたからである。過去において、政府が国内の過剰な貯蓄を国債発行で吸い上げ、公共投資、消費、贈与に回してきた。そのため、過去の国債の大量発行という財政政策は、それがなされなかった場合と比較して、GDPの成長率を引き上げる大変大きな効果があったと考える。

来年4月からの消費税増税は、正式に決定されたが、世論の一部には、依然として消費税増税に対して、強く反対する意見がある。しかし、この国民に負担を押し付ける増税反対という世論は、過去の国債発行時に、声を出してもらいたかった。日本はすでに、国債の大量発行という、先楽後憂の手段を選択してしまった後なのである。増税反対の声を出しても、もはや、手遅れなのである。過去の国債発行時に、将来の増税を確実にする国債発行の反対という声を出すべきであった。アメリカでは、草の根団体であるティーパーティーが、国債の増発に強く反対している。国債の増発反対という主張自体は、まっとうな主張である。しかし、ティーパーティーはアメリカ国債をデフォルト寸前に追い込むなど、主張の仕方が、あまりにも過激すぎた。

日銀の資金循環統計によると、2013年6月末の時点で、家計は、金融資産をネットで1234兆円保有している。多くの日本人は、個人貯蓄が1234兆円あるので、老後の資金への備えとしては、十分とはいえないまでも、ある程度、確保されていると考えるであろう。しかし、その認識には錯覚が含まれている。政府部門で610兆円のネットの負債がある。民間の企業会計のように、年金の積立不足を計上したならば、ネットの負債額は610兆円を大幅に上回るであろう。そして、老後の貯蓄の何割かは、政府が過去に消費や贈与に回してしまっており、貯蓄は一部しか残っていないのである。

高度成長期の時代は、事情が異なっていた。当時の日本人の貯蓄率は今以上に高かった。その貯蓄は、銀行を通して、主として企業への貸し出しへと流れていた。企業は借り入れた資金を設備投資に回し、その投資こそが、将来の日本の新しい所得を生み出していた。日本人の貯蓄は、将来所得の製造マシーンに回されていたのである。こうした貯蓄は、経済成長にとって不可欠であり、高度成長期の貯蓄は、将来所得の製造という有効な形で使用されていた。

しかし、現在は高度成長期とかなり異なる。現在の個人の貯蓄の多くは、企業の貯蓄とともに、多くは政府部門に流れており、一部が海外に流れている。では、政府が赤字国債の形で集めた資金を何に使っているかというと、教育、防衛、医療などの費用、すなわち消費と、社会保障費の中の年金に対する国庫負担や、生活保護費などの所得移転、すなわち贈与へと回されているのである。国民が、貯蓄と思って貯めこんだ資金は、金融機関を通じて政府に流れている。しかし、政府はその貯蓄をかつての企業のような将来所得の製造マシーンには回すことなく、大半を消費や贈与に回している。将来所得の製造マシーンとなりうる企業が少ないだけでなく、政府が民間企業に補助金として資金供与した場合、WTOのルール違反にもなりうるからだ。国民は、貯蓄をしたと考えているかもしれないが、実はその貯蓄の何割かは政府が消費や贈与に回してしまっており、その分は何も残っていないのである。

最近、AIJ投資顧問や、MRIインターナショナルのような事件が発生し、預けた資金がごく一部しか戻ってこないということが明らかになっている。政府が行っていることは、AIJ投資顧問や、MRIインターナショナルと同じではないが、共通点は多い。違いは、政府は、調達した資金の運用に失敗したり、運用に回さなかったのではなく、最初から運用などせずに、消費ないしは贈与に回すという予算を作成し、国会で承認された予算に従って消費や贈与を実施してきたことである。そして、政府は、税金徴収権という特別の権利を保持していることである。従って、国債の返済ができなければ、増税という形で、理論的には、いくらでも資金を集めることができるという点である。

国債とは、将来の歳出削減、または増税の予約証書である。長い言葉になるため、ここでは、将来の増税の予約証書であると書くことにする。国民が100万円の預金をして、その資金で銀行が100万円の国債を買っていたとする。将来、預金と国債の満期が同じ時期に来ると仮定しよう。この場合、最終的な借り手である政府の手元には資金がない。従って、国債が満期を迎える時期に、一人当たり100万円の増税を実施するとしよう。その場合、預金者は、元本100万円が戻ってきて、さあこれから老後の生活資金に使おうとする。しかし、同じ時期に、政府が国民1人当たりで100万円に相当する増税を実施するのである。預金が満期になったと喜んでいたら、その分がすべて増税で政府に取られてしまう。これでは、最初に100万円の貯蓄をした意味がなくなる。これは、わかりやすく説明するために作ったフィクションであり、実際には銀行預金と将来の増税が一対一で結びつくことはありえない。しかし、結果としては、これと類似の現象は、今後、いくらでも発生することになるであろう。大元の原因は、この例のように、国民の預金を政府が将来所得の製造マシーンに投資するなどの有効な形で使用せず、単なる消費や贈与に回していたことである。その結果、名前は国債や借入金、正体は将来の増税予約証書という債権債務関係が、ネットで610兆円、グロスで1126兆円にまで積み上がってしまったのである。

ここで重要なことは、個人ではなく国家というレベルで見た場合、日本国内で老後のためなどに、金融資産の形で貯蓄をする手段が存在しないということである。貯蓄するとすれば、海外に資金を預けるしかない。国内に貯蓄する場合、金融資産ではなく、住宅や工場、公共設備などの実物資産への投資の形でしか行うことができない。民間の設備投資や、真に必要な公共投資に流れるならば、将来所得の製造マシーンへの貯蓄になる。しかし、国債、特に赤字国債は、将来所得の製造マシーンではなく、単なる消費か贈与に回っている。国民の貯蓄となるのは、民間の設備投資や、真に必要な公共投資を除けば、海外への貯蓄だけである。先に異次元金融緩和を20年前に実施した場合のことに触れたが、対外純資産という海外への貯蓄が、現在よりも大幅に増えていたはずなのである。

過去において、政府は国債を発行して、消費や贈与を行い続けてきた。国債を償還する場合、手元に資金が残らない。従って、増税と歳出削減を実施しない場合、国債の発行残高を増やし続けるしかない。しかし、たとえ国内の投資家に対してであっても、政府が借金を永遠に増やすことはできない。これは、政府のグロスの債務が1126兆円からさらに1万倍、1億倍、1兆倍・・・と増やすことができないのは明らかであり、増やすことの可能な限度額がある。いつの時点かで、増税か歳出削減により国債を償還させることは、必ず必要なのである。先に示したグラフを見てわかるように、日本の政府純債務の対GDP比率は、先進国で最高である。国債は、正しくは、将来の増税の予約証書であるので、可能であれば、早めに財政再建に取り組み、将来の増税の予約証書なるものの残高の増加を止めることが望ましい。

しかし、国債発行の減額という財政再建策は、国債発行の増額が過去のGDPを引き上げた圧力よりも小さいが、将来のGDPを引き下げる方向への圧力となる。従って、超少子高齢化、人口減少という経済成長率引き下げ圧力に、財政再建という経済成長率引き下げ圧力がかかり、今後の日本は、低成長経済への道を歩むことを余儀なくされるであろう。増税や歳出の削減は、痛みを伴い、国民の暮らしを破壊する効果が大きいのである。しかし、痛みを伴うからといって、国債発行を永久に増やし続けることもできない。

20年前なら、痛みを伴う財政再建策は、必要ではなかった。20年前に異次元金融緩和を実施していたならば、経済は成長し、税収は増え、金利はあまり上昇しなかったであろう。先にも書いた通り、国債増発が必要でなく、政府純債務の対GDP比率を低い水準に維持することができたのである。これは、金融緩和の結果として、経済成長が起こり、財政再建が可能という選択肢が残されていたことを意味する。しかし、現在は、金融緩和による経済成長だけで、財政再建を実現させることは不可能である。過去20年間、誤った金融政策が続いた結果、日本経済は衰退し、経済成長という所得創出能力が低下してしまった。前回(*1)、詳しく説明したが、名目GDP成長率が長期国債金利を上回ることができなくなってしまった(*2)。これからの日本は、経済の低成長が続き、その結果として、増税や歳出削減なしには、財政再建を行うことができない。1993年時点では、国債の発行が、子や孫の負担にはならない道が残されていた。国債が将来の増税予約証書であったとしても、経済成長を通じた、「成長税」とも呼べる税の自然増収により、償還が可能であった。残念ながら、現在ではそのような道は失われてしまったのである。

先日発表された今年7-9月期の実質GDP成長率は、その多くを国債発行を原資とした公共投資に依存していた。しかし、本格的に財政再建の段階に入ったならば、従来の国債発行のプラスの効果が、国債償還のマイナスの効果に転換してしまう。その第一段が、来年4月の消費税増税である。これからの世代は、過去の世代が先延ばしにしてきた負担のツケを支払わざるをえない。今後の日本が経験しなければならない財政再建の痛みは、非常に大きなものとなるはずだ。しかし、痛みを少なくする方法は存在するが(*3)、痛みをそのものを取り除く方法は残念ながら存在しない。何度も繰り返して言うように、異次元金融緩和の実施が20年遅くなったために、日本はあまりにも多くの物を失い過ぎ、それらを取り戻すことが永久にできなくなってしまったのである。


関連記事

ドーマー条件、ボーン条件、財政再建に必要な条件(*1)
名目成長率と名目金利の比較(*2)
インフレ抑制とバブル防止を利用した財政再建策(*3)

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

コメントの投稿

非公開コメント

全記事表示リンク
目次のページを表示

株式関連 株 コメント一覧

  • 投資部門別 現物先物 時系列表

  • 投資部門別売買状況 時系列グラフ

  • 7月第1週 株 コメント

  • 6月第4週 株 コメント

  • 6月第3週 株 コメント

  • 6月第2週 株 コメント

  • 6月第1週 株 コメント

  • 5月第5週 株 コメント

  • 5月第4週 株 コメント

  • 5月第3週 株 コメント

  • 5月第2週 株 コメント

  • 5月第1週 株 コメント

  • 4月第4週 株 コメント

  • 4月第3週 株 コメント

  • 4月第2週 株 コメント

  • 4月第1週 株 コメント

  • 3月第5週 株 コメント

  • 3月第4週 株 コメント

  • 3月第3週 株 コメント

  • 3月第2週 株 コメント

  • 2016年 年間 株 コメント

  • 投資部門別売買状況アノマリー

  • 日本株 株式分布状況調査

  • 日銀資金循環統計 株 長期グラフ

  • 日銀資金循環統計 株 コメント

  • 株式先物投資部門別売買状況

  • 大手証券 先物建玉推移 グラフ

  • 海外投資家の株式買い越し金額

  • 世界の株価 国別 長期推移

  • 世界の住宅用不動産価格

  • 長期の実質実質為替レート

  • 最新記事
    カテゴリ
    最新コメント
    Twitterを表示
    経済指標が意味するところを解説
    FC2カウンター
    最新トラックバック
    検索フォーム
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR
    RSSリンクの表示
    Web Analytics