ドーマー条件、ボーン条件、財政再建に必要な条件

今まで、財政緊縮、金融緩和の観点から、金融緩和の必要性について繰り返し書いてきた。今回は、金融緩和だけではなく、財政緊縮もまた、現在の日本にとって必要な政策である理由について書くことにする。

ネット上で「財政再建」という言葉で検索し、Wikipediaに書かれている内容の一部を下記に掲載する。

ドーマー条件
財政破綻が起こらないための十分条件の一つ。名目GDP成長率が長期金利を上回れば財政赤字は維持可能であるという内容の定理である。

ボーン条件
財政破綻が起こらないための十分条件の一つ。前期に財政が悪化していた場合には、今期はプライマリーバランス規模が改善するように財政が運営されていればよいとするもの。

財政破綻が起こらないための十分条件として、上記の二つの条件が示されている。両方とも簡素な条件であり、難しくない内容である。ただ、その内容についてのWikipediaの説明には、多くの問題点があるので、そのことについて説明する。先にボーン条件から始める。

ボーン条件で、「前期に財政が悪化していた場合」というのは、前期末の債務の残高が、前々期末の債務残高を上回った場合のことを指す。この場合、今期のプライマリーバランスを改善させれば、財政の破綻はない、という内容である。「プライマリーバランス規模が改善するように」と書かれているが。その具体的な規模が明示されていない。では、1円でもプライマリーバランスを改善させれば、財政破綻はないのか、本当にそうなのか、という疑問を誰もが感じるであろう。

わかりやすくするために、極端な数字を使った具体的な例で説明する。前々期末に9兆8039億円あった債務残高が、前期にプライマリーバランスが0円、利子相当分の債務が1961億円増加し、前期末の債務残高がちょうど10兆円になったと仮定する。今期のGDPが100兆円、今後、債務の利子率が2%、名目GDP成長率が1%の状態が続くと仮定する。前期に財政が悪化しているので、今期は、プライマリーバランスを、前期の債務残高の10兆分の1、ちょうど1円だけ改善させると仮定する。この条件は、後で説明するドーマー条件を満たしていない。ドーマー条件を満たさない場合、ボーン条件が本当に財政が破綻しない十分条件かを考えるのである。

この例の場合、今期の利払い費用は2000億円であり、その分債務が増加するが、プライマリーバランスは1円改善するので、今期末の債務残高は、10兆1999億9999円になる。これと同じ環境が長期間継続し、同じ作業を毎年続けたと仮定して計算する。すると、債務残高は、10年後に12兆円、100年後に72兆円、300年後に380兆円となる。1000年後の数字は、大きすぎて、表示の方法がわからない。1000年後の数字は、仮に、毎年のプライマリーバランスの改善がゼロ円であった場合よりも、債務残高は3901億3633万2288円だけ少なくなると計算できる。

この例での債務残高/GDPの比率を計算すると、10年後に0.11倍、100年後に0.27倍、300年後に1.94倍、1000年後に1919倍、2000年後に3646万8452倍となる。2000年後に債務残高の対GDP比率が3600万倍とういう状態で、財政破綻が起こらないとは考えられない。これは、ボーン条件では、財政破綻が起こらない状態を、横断性条件を満たすというものと定義するからだ。横断性条件とは、利子率>債務の増加率、の状態である。時間が無限大にあると考えるため、横断性条件が満たされる場合、債務残高の割引現在価値はゼロになる。こういう純粋に数学的な条件を満たした場合、ボーン条件は財政破綻が起こらない十分条件になる。しかし、常識で考えれば、上記の例は、完全な財政破綻である。つまり、財政破綻が起こらない定義を、横断性条件を満たすという定義にすることが間違っているのである。ボーン条件を満たしていても、常識的に考えた場合、財政破綻は起こる。ボーン条件は、財政破綻が起こらない条件としては緩すぎるのである。ところが、1990年以降の日本においては、ユルユルのボーン条件さえも、満たされていない年が多いのである。

次に、ドーマー条件を見ることにする。名目GDP成長率が長期(国債)金利を上回れば財政赤字は維持可能というのも、意味は分かりやすい。名目GDP成長率をg、長期国債金利をiと置くと、g>iであれば、財政破綻は起こらない。意味するところを直観的に説明すると、大きな債務を抱えていた場合、その年率の増加率がiに当たる。そして、g=名目GDP成長率=実質GDP成長率+インフレ率になる。名目GDP成長率が実質GDP成長率に大きく依存している場合、実質での経済成長率が高く、その結果として税収が増加していることになる。この場合、成長税ともいうべき税収増加が発生していると考えることができる。名目GDP成長率がインフレ率に大きく依存している場合は、毎年インフレによって債務を帳消しにしている。これはインフレ税という税金を課税していることと同じである。g>iという状態は、債務の利払い以上に、成長税なりインフレ税の形で税収がそれ以上に拡大し、税収の増加>債務の増加が実現し、結果として債務残高は毎年減少していくことになる。しかし、この場合、考慮に入れているのは、既存の債務だけであり、新規債務、すなわちプライマリーバランスが全く考慮に入れられていない。仮にGDPが100兆円で、プライマリーバランスが今年10兆円、2年目に100兆円、3年目に1000兆円・・・と無限に増え続けた場合、やはり債務残高は無限に増加することになり、財政は破綻してしまう。つまり、Wikipediaの中の説明で、「財政破綻が起こらないための十分条件」という記述は、誤っている。そのため、プライマリーバランスの対GDP比率を固定し、Pbという定数にすることが行われる。この場合、時間を無限大にした場合、対GDPでの債務残高の比率は、Pb/(g-i)という定数に収束することがわかっている。ある定数に収束するなら、財政破綻にならないと言えるかもしれない。

だがしかし、である。この収束状態についても問題が存在する。わかりやすくするために、また、極端な数値を使用して説明する。プライマリーバランスの対GDP比率であるPbが10%、すなわち0.1、名目GDP成長率マイナス長期国債利子率(g-i)が1億分の1であると仮定する。その場合、Pb/(g-i)=1000万となり、債務総額はGDPの1000万倍にまで増えることになる。この場合も、数学的には定数に収束するが、定数があまりにも大きすぎるので、財政破綻はその前に発生しているはずである。常識的に考えれば、財政破綻が起こらない条件とするには、緩すぎるのである。

そこで使われるのが、名目GDP成長率>長期国債利子率、プライマリーバランス=ゼロ(g>i、Pb=0)という条件である。今期に、プライマリーバランス=ゼロを達成した場合、今期の債務残高/GDPの比率がピークとなり、その後は、この比率は減少し、超長期的には、債務残高をゼロに近づけることができる。そのため、単に「ドーマー条件」と言った場合、g>i、Pb=0の2つの条件を指す場合もあり、この場合には、間違いなく財政破綻が起こらない十分条件となる。

再び、だがしかし、である。ここで大変難しい問題が発生する。g>iすなわち、名目GDP成長率>長期国債金利と言う条件が、常に、あるいは長期の平均で成立するか、という問題である。ソローの成長モデルでは、長期的には、名目GDP成長率<金利、が成立する。ただし、これは、いくつかの仮定を置いた理論上で成立する結果であるので、現実の経済が常にg<iになるとは限らない。しかし、現実の経済においても、g>iが成り立つと考えている人は、少数派である。多数派は、g<iであり、次にg=iが多いと思う。

この問題については、(*1)で分析をした。そこで暫定的に導き出した私の結論は、下記のとおりである。

(A)実質GDP成長率が低下し、インフレの進行も緩やかになった多くの先進国については、長期の平均値をとった場合、名目GDP成長率と長期国債金利は、ほぼ等しくなる。

(B)インフレ率が高騰すると、名目GDP成長率>長期国債金利となる。年間のインフレ率が15%あたりを超えて上昇すると、名目GDP成長率の伸びに、長期国債金利の上昇が追い付けなくなり、名目GDP成長率>名目国債金利の状態になる。

(C)(B)以外にも、 名目GDP成長率>長期国債金利となる国は、存在する。それは、実質GDP成長率が高い国である。

(B)のように、ハイパーインフレを発生させれば、すべての国家において、財政再建が可能となる。ただし、ハイパーインフレが発生する理由は、市場経済の崩壊が原因であるので、市場経済の崩壊=実質GDPの大幅なマイナスという結果が必ず付随する。これは、絶対に避けなければならない。現在の日本のように、今後、超少子高齢化、人口減少が続くという環境下で、実質GDP成長率を、高度成長期のように引き上げることは困難である。つまり、(C)を起こすことは、絶対に不可能ではないが、非常に難しい。現実的には、(A)で示したように、長期平均をとれば、名目GDP成長率=長期国債金利、すなわちg=iとなる可能性が高いと思う。同時に、g=iまでは、努力すれば実現が可能であり、実現させなければならない条件である。1990年以降、日本ではg<iとなる期間が長過ぎた。これは日銀の金融緩和が完全に不足していたことが原因である。今年4月1日から、5月13日までの期間と、おそらくであるが、今年8月5日以降の期間において、g>iが成立している。今年度いっぱいは、g>iが成立するであろう。しかし、消費税増税の影響を除いた場合でも、インフレの進行がより明確になれば、iも上昇に向かうであろう。一時的にはg<iに戻るかもしれない。しかし、適切な政策が採られた場合、長期の平均をとればg=iを成立させることは可能である。同時に、長期平均で見て、g<iという昔の状態に戻してはならない。

仮に、g=iと仮定すれば、ドーマー条件は成り立たない。私は、中間目標としてg=i、Pb=0を目指すべきと考える。この場合、プライマリーバランス(Pb)のゼロが実現した時点で、債務残高/GDP比率は横ばいとなり、その後も横ばいが続く。この中間目標を達成したあと、g>iを目指す努力をしながら、Pbのプライマリーバランスの黒字化をはかるべきだと思う。

プライマリーバランス=ゼロという目標は簡単ではない。私はその手段として、(*2)で具体的な財政再建方法を提示した。つまり、金融政策は、インフレとバブルの発生を目指して徹底的に緩和し、インフレとバブルの防止には財政政策、すなわち増税を徹底的に利用する、というものである。この場合、増税に加えて、超金融緩和を続けるため、日銀の国債保有残高は大幅に増加する。これは、日銀の国庫納付金を大幅に増加させ、歳入の増加につながる。この政策によりプライマリーバランスのゼロを追求し、それでも足りない場合に、別の政策を考えればよいと考えている。

問題となるのは、2014年4月と2015年10月に行われる消費税増税である。私は消費税増税は実施すべきものと考える。消費税増税をとりやめた場合、iに財政破綻リスクが発生し、iが上昇する可能性を完全に否定することができないからだ。

現在、iの水準は非常に低い。iが上昇する原因は、インフレ期待の形成と財政破綻リスクの発生である。インフレ期待が形成されて、iが上昇するのは、当然であり、避ける努力をする必要はない。少し前まで、iマイナス消費者物価上昇率で定義される実質金利が高すぎる時期が、あまりにも長く続きすぎた。これは、少し前のiが、ゼロ金利制約により高過ぎる環境下であるのにもかかわらず、金融緩和が不足し、デフレが長引きすぎたことが原因である。今年8月から、現在まで、実質金利はマイナスになっている。しかし、今後、本格的なインフレが発生した場合、iは、インフレ期待、インフレ発生により上昇するであろう。ただ、この場合、gも中長期的に見れば上昇していく。gとiがともに上昇して、g=iが続くのであれば、インフレ期待の形成によるiの上昇を恐れる必要はない。

恐れなければならないのは、財政破綻リスクがiにプレミアムとして織り込まれることである。現在のiの水準は非常に低く、財政破綻リスクはゼロか、ゼロに近いはずである。しかし、それは過去のことであり、将来、財政破綻リスクを織り込み始めれば、iは上昇に転じる。iが上昇しても、gは上昇しない。すなわちg<iが長期化してしまう。iが上昇した結果として、g<iが実現する場合、国債の利払い費用は大幅に増加する。しかし、名目GDPは、あまり増加しない。g<iが長期化し、政府債務残高が急増し、それがさらなるiの上昇を引き起こす。行きつく先は、金利の大幅な上昇か、高率のインフレ進行である。それを避けるためには、超々緊縮政策を実施して、プライマリーバランスを大幅に黒字にするしかない。これは、とてつもない痛みを伴う深刻な不況の発生を意味する。

従って、iに財政破綻リスクプレミアムが発生することだけは、絶対に避ける必要がある。消費税引き上げの見送りが、財政破綻リスクプレミアムの発生を引き起こす可能性を完全に否定することができない。もちろん可能性があるだけで、実際には何も起こらない可能性もある。しかし、政策論を考える場合、iに財政破綻リスクプレミアムが発生する可能性のある政策は、絶対に避けるべきである。その意味において、消費税引き上げの見送りは危険な政策であり、消費税の引き上げは実施すべきである。その上で、現在、予定されているような景気対策を並行して行うことは、景気後退リスクを除去するために、必要であると思う。

過去15年余りの間、日本は財政再建策として、プライマリーバランスのゼロを目指すことだけに努力を傾け過ぎてきた。プライマリーバランスがゼロでもg<iが続く限り、財政再建など不可能である。g<iを長く放置しすぎた結果、日本の政府債務残高の対GDP比率は、とてつもなく大きな数値に膨張してしまった。今後は、g<iを可能な限り避けなければならない。g=iは財政再建のために最低限必要な条件である。

しかし、プライマリーバランスの大幅な赤字を放置したまま、gの引き上げのみに傾倒することも、正しい政策とは思えない。g>iを目ざす努力は最大限行うべきであろう。その努力を続ける中で、思いがけない技術革新が発生し、実質GDP成長率が上昇し、g>iが実現する可能性は存在する。しかし、財政再建計画を策定する段階において、思いがけない技術革新を行程表にのせることは、適切ではない。財政再建計画は、g=iでなければならない。しかし、金融緩和だけで、gの引き上げに注力した場合、思いがけない技術革新などの幸運に恵まれなければ、g=iを維持することができなくなる。現在のようなプライマリーバランスの赤字を放置し続けたならば、いずれは、iに財政破綻プレミアムが発生して、ジ・エンドになってしまう。現在のようなプライマリーバランスの赤字を放置し続けた場合、財政破綻プレミアムがいつ発生するか、その時期を正確に予測することは不可能である。私の直観では、遅くとも30年以内に100%の確率で財政破綻プレミアムが発生すると考えている。

現在は、2015年10月までの消費税の増税が、ほぼ決定済みである。それ以上、急いだプライマリーバランスの削減策を実施すると、不況を長引かせ、かえって望ましくない結果をもたらす。消費税増税による不況圧力が存在する間は、消費税を除くインフレ率が大きく上昇する可能性は低い。消費税増税の悪影響が一巡する2016年度後半以降も景気回復が続き、インフレやバブルが発生するのならば、さらなる増税により、インフレとバブルを抑え込めば良いのである。金融政策はひたすら緩和、インフレとバブルが発生したならば徹底的な増税。この二つの政策の組み合わせこそが、長期的なg=iとプライマリーバランス=ゼロの実現に大いに役立つ政策である。今すぐ実行することが必要な政策は、金融緩和の大幅な強化である。しかし、なるべく早めにプライマリーバランスを均衡化させる政策もまた、必要不可欠な政策なのである。


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名目成長率と名目金利の比較(*1)
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