日銀ウォッチャー報告(2013年11月号)

マネタリーベース平残の推移2013011(グラフ)

2013年10月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比で2.3兆円増加し、過去最高の183.8兆円となった。

マネタリーベース平残の推移201311(表)

上記の表に示した通り、季節調整後のマネタリーベース平残は、今年2月の白川体制の末期から増加率が加速し、4月に黒田体制に移行してからも、高水準の増加速度が続いていた。最初に示したグラフを見てわかる通り、9月は、マネタリーベース平残が対前年比で見ても、オイルショック時の1973年11月に記録した43%を上回り、終戦直後の混乱期を除けば、過去最高の増加率となった。その9月と比較すると、10月のマネタリーベース平残の前月比、前年比の増加率は、若干鈍化することになった。

10月の市中資金は、10.9兆円の不足であった。10月としては過去最高の不足額である。これは、日銀が市中から購入した国債や短期国債が満期を迎えると、資金不足が拡大するという仕組みになっているので、当然の結果である。そこに、国債の購入7.6兆円、短期国債の購入7.5兆円、貸出金(共通担保オペ)回収の1兆円などを中心とした金融調節により、合計14.5兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、3.7兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、9月末の97.4兆円から、10月末の101兆円へと、3.7兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、10月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比2.3兆円増加の183.8兆円になった。当座預金残高増加額と季節調整後のマネタリーベース平残の増加額に差がある理由は、10月のマネタリーベースは増加しやすいという季節要因があるためである。


日銀BSとMB(実績) 201311

日銀BSとMB(予定) 201311


上記の表のように、今年の年末のマネタリーベ-スの予定残高は、200兆円であり、残り2ヶ月間、等金額で増やすと仮定した場合、マネタリーベ-ス残高は、月間5.1兆円の純増が必要である。3月末-10月末のマネタリーベース純増額平均が月間6.3兆円であったので、今後は、マネタリーベース純増の速度を、少し引き下げても良いことになる。

11月については、市中資金が15兆円の不足となる。11月の資金不足額としては、過去最高の金額である。マネタリーベースの末残を月間で5.1兆円増やす場合、20.1兆円の資金供給が必要である。ただ、12月は資金不足の金額が大幅に減少するはずなので、11月中の資金供給は、17.5兆円程度に抑えると予想する。この場合、11月のグロスの国債購入金額は7.5兆円、短期国債の購入金額は10兆円となる。同様に大幅な資金不足となった7月は、短期国債の購入額と貸出金(共通担保オペ)の残高を増加させた。しかし、11月は、7月当時よりも、当座預金残高の水準が高くなっており、これ以上、貸出金の残高を増やすことは不可能である。季節調整後のマネタリーベースの前月比増加額をプラスに維持するためには、短期国債の購入を増やすしかない。11月のマネタリーベース末残は、前月比で2.5兆円の増加、季節調整後のマネタリーベ-ス平残も同じくらいの増加となり、過去最高を更新するであろう。

4月4日の異次元金融緩和の評価については、(*1)で詳しく説明した。それでも、現状の金融政策に対してあまりにも危機感を感じ続けているので、ほとんど似た内容を繰り返し書かせてもらうことにする。異次元金融緩和の効果が現れたのは、異次元金融緩和の開始より5ヶ月前の昨年11月14日からであり、その効果は、今年5月22日に円安・株高がピークを打つとともに、一旦、終了した。その後の異次元金融緩和の効果は非常に小さく、足元の経済成長は、主としてアベノミクスの第2の矢である公共投資に支えられている。今年度いっぱいは、消費税増税前の駆け込み需要の発生により、堅調な成長が持続する可能性がある。しかし、それらは、金融政策とは無関係の経済成長である。一方、現在の金融政策を継続した場合、超円高・ドル安の再発で、5月22日以前の大きな成果が台無しになってしまう可能性を否定することができない。従って、追加の大規模な金融緩和が必要不可欠である。その理由を説明するために、国際収支の表を下記に示す。

国際収支201311

アベノミクスの最大の成果は、円安の実現である。反リフレ派の中でも、円安実現だけは成果として評価してよいと言う人も現れてきた。昨年11月以前の不況の最大の原因は超円高であり、超円高の是正こそが、景気回復、経済成長実現のために、最低限必要な条件であった。為替レートは、昨年11月14日から今年の5月22日まで円安が続き、その後、円安は一服している。円安の結果として発生した株高の動きも、景気回復へのセンチメントをもたらしただけではなく、実際の消費支出をも拡大させた。しかし、円安の基盤は脆弱であり、超円高の再発の可能性を否定することができない。昨年11月以降の円安を主導した主体は、「直接投資」、「金融派生商品」、「その他投資」、「誤差脱漏」のセクターから流出した資金であった。このうち、「直接投資」は、半永久的に赤字が続く可能性がある。一方、「金融派生商品」、「その他投資」、「誤差脱漏」の3項目は、中長期で見た場合、その合計はゼロに近い数字になる。昨年11月-今年8月の期間、この3項目で14.5兆円の赤字を記録している。この赤字は、長期間継続することはありえない。遠くない将来、この3項目で14.5兆円の黒字、すなわち外貨買い円売りが出ることは、間違いない。

なお、「外貨準備増減」も赤字が続いているが、これには特別な理由がある。今年4月末の時点で、外国為替特別会計は、為替の先物の買いポジションを700億ドル保有していた。その後、8月末までにそのポジションを420億ドルにまで縮小し、280億ドル分売却した。この280億ドルは、外貨建証券に投資されたと推測するが、金利上昇、債券価格低下の時期に重なり、外貨建証券の保有残高が減少しているので、正確なことはわからない。それ以上に重要ことは、為替先物のポジションは、外貨準備の中に含まれないことである。為替先物の買いポジションが閉じられ、外国証券のような資産を保有するようになると、「外貨準備増減」の赤字は、その分拡大する。為替先物の買いポジションが他の資産に振り替えられた結果、外貨準備増減の赤字幅が280億ドル、約2.8兆円拡大し、代わりに、「その他投資」の赤字幅が、約2.8兆円縮小したのである。従って、この特別な操作がなければ、昨年11月-今年8月の外貨準備増減は2兆円の赤字ではなく、0.8兆円の黒字であり、「その他投資」の黒字も5.3兆円ではなく、8.1兆円であったはずであるのだ。昨年11月-今年8月の「金融派生商品」、「その他投資」、「誤差脱漏」の3項目の赤字合計金額は、14.5兆円ではなく、17.3兆円であったのである。従って、遠くない将来、必ず発生する円買い外貨売りの金額は、おそらく17.3兆円であろう。14.5兆円という数字は、その他の様々な特殊要因が発生した可能性を考慮に入れた、非常に保守的に見積もった数字である。

最悪のシナリオは、この14.5兆円の円買いの一部の発生が円高を引き起こし、円高の進行が14.5兆円かそれ以上の円買いをスパイラル的に発生させ、超円高が再発する、というものである。1ヶ月前には、最悪のシナリオの発生確率を、直観で20%と書いた。このようなリスクが生じる大元の原因は、昨年11月-今年8月に、「証券投資」の項目で24.4兆円もの黒字が発生したことにある。これは、昨年11月に、無制限の金融緩和、大胆な金融緩和が実施されると予想されると、日本の国内投資家は、先を争って、日本株や外国株、外国債券を怒涛のごとく売り始めたからである。中央銀行が金融緩和を実施するとの予想が確実になれば、無リスク資産から株や外国証券などへのリスク資産へ資金を移動させるのが、普通の投資家の行動である。ところが、国内投資家は、それとは180度正反対の行動を取ったのである。日銀の大胆な金融緩和の予想が確実となった結果、日本のリスク資産、すなわち日本株を、国内投資家は大規模に売却し、反対に日本株を買い向かったのは、海外投資家だけであった。加えて、国内投資家は、外国株、外国債券も大量に売却するようになった。その場合、普通は、日本株の買い、外国証券の売りの需要に基づく円買い・外貨売りが発生し、円高が進行しなければならない。しかし、上記のように、「直接投資」と「金融派生商品」、「その他投資」、「誤差脱漏」のセクターで大量の円売り・外貨買いが発生し、円レートは、結果として円安方向に動いたのである。「直接投資」を除く3項目の円売り・ドル買いの大元の主体は、短期筋の投機でもなく、長期筋の投資でもない、普通はあまり使われない言葉である中期筋と言った表現が適切な、海外投資家の保有円資産に対するヘッジ売りだと考えている。しかし、そうした流れは、今年の5月22日に一旦終了した。その後は、「証券投資」の黒字も、ほぼなくなった。「直接投資」の赤字は続いているが、「金融派生商品」、「その他投資」、「誤差脱漏」の3収支の合計は黒字に変化している。現在は、円高進行が止まっているが、5月22日以前の円安の効果がより顕在化して「経常収支」の黒字額が拡大し、「直接投資」の赤字額に近づいた場合、「金融派生商品」、「その他投資」、「誤差脱漏」の3収支の黒字は、円高方向に為替レートを動かすことになる。

日銀の黒田総裁は、金融緩和の結果としてのポートフォリオ・リバランス効果は、少しずつ現れていると述べている。理由として、銀行の資産が、国債から国内での貸し出しや外貨建ての貸し出し、株式投資へと少しずつ移転し始めていることをあげている。一方、生保や年金などの国内の機関投資家が、株や外債を買う動きを見せないので、ポートフォリオ・リバランス効果は発生していないという意見も多い。しかし、実際に発生したのは、ごくわずかなプラスのポートフォリオ・リバランス効果と、巨額のマイナスのポートフォリオ・リバランス効果である。昨年11月-今年8月の「証券投資」が、24兆円もの過去に例のない巨額の黒字を計上していることが、その証拠である。プラスのポートフォリオ・リバランス効果の大半は、海外投資家のポートフォリオに対してであり、国内投資家のポートフォリオ・リバランス効果の合計は、大幅なマイナスであるのだ。国内投資家のポートフォリオ・リバランス効果がより拡大し、「証券投資」が安定的に赤字になり、円売り・外貨買いが継続するようにならなければ、安定的な円安を維持することはできない。それが発生する前に、「金融派生商品」、「その他投資」、「誤差脱漏」の14.5兆円の累積赤字が、大幅な黒字に転換し始めれば、超円高が再発してしまう。

現在の日本は、今年のノーベル経済学賞を受賞したファーマ教授が、理論展開の前に当然の前提として置いたポートフォリオのハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターンという前提が全く成立しない世界である。そして、シラー教授のバブル理論と正反対の大規模な負のバブルの長期継続拡大という現象が発生している。ファーマ教授やシラー教授の理論は、アメリカを中心とする海外では成立し、現状分析に役立つ理論であるかもしれない。しかし、その理論は、日本では全く成立しない。そうした恐ろしい現実を一部だけ覆い隠しているのが、海外投資家の大規模な日本株買い、日本円売りなのである。

国内投資家は、過去20年以上に及ぶ資産デフレと円高の結果、リスクに対してあまりにも敏感になりすぎ、リスク資産の価格が少し戻ると、過去最高の速度でリスク資産を売るという行動を起こすように変化してしまった。リスク資産に、過去に例のないような大収縮が発生しているのだ。金融緩和の強化が予想され、実施された過去10ヶ月間に、24兆円ものリスク資産を売って無リスク資産に乗り換えるというという現象は、世界史上で一度も発生したことのない異常な現象だと思う。過去20年以上続いた資産デフレと円高継続の間に、日本人の行動パターンが異常をきたしてしまったと考えるしかない。金融緩和の強化が、24兆円ものリスク資産を売りまくるという異常な現象を発生させたという事実は、国際収支統計を見れば、非常に明確に見てとれる。にもかかわらず、その現象を異常だと認識する人があまりにも少なすぎる。指摘されるのは、ポートフォリオ・リバランス効果がゼロであるとか、金融緩和の継続が、バブルを発生させるという警戒感ばかりである。

リフレ派の主流派は、国際収支統計を、もう一度よく見るべきである。国内投資家が24兆円もの日本株、外国証券を売却する中で、円安・株高が発生し、今年の5月22日以前に、潜在成長率を大きく上回る経済成長が実現できたという事実を正確に認識するべきである。5月22日以降は、金融緩和の効果は小さくなってしまった。にもかかわらず、いずれ効果がまた現れるであろうと待ちの姿勢をとることは、超円高の再発を引き起こす可能性が残る危険な政策である。効果が小さいという点では、むしろ、反リフレ派の現状分析の方が正しい面がある。効果が小さ過ぎるのにもかかわらず、そのうち効果が現れるであろうと言ったまま、政策を変更しない。大変残念なことであるが、黒田総裁とその周辺のリフレ派たちは、以前の白川総裁時代の主流派のようになってしまったように見える。

日銀は、マッカラム・ルール(2年で2%のインフレ率を実現するために必要なマネタリーベースの金額を算出する根拠となった理論)を捨て去る必要がある。そして、金融緩和の強化が予想されて以来、10ヶ月間に24兆円ものマイナスのポートフォリオ・リバランス効果が発生するという従来の経済学では説明のできない行動パターンを取り続ける主体へと、日本人の行動パターンが大きく変化してしまったことを理解することが必要である。これは、経済学というよりは、心理学の世界である。そして、その異常な行動を、正常化させるためには、どのような政策が必要かを考えなければならない。現在の日本で、行きすぎたインフレが発生するとすれば、輸入する資源、食糧価格が高騰したり、海外投資家の円売りの結果、円安が継続する時期くらいであろう。生産年齢人口の減少=人出不足の深刻化=賃金の上昇は、今後、構造的なインフレ圧力となるが、今すぐに発生することではない。バブルが起こるのも、海外投資家が継続して日本の資産を買い続ける時期くらいである。現在の日本では、行きすぎた金融緩和策が、日本人の行動を変化させ、その結果として、行きすぎたインフレやバブルへと発展する可能性が非常に低くなっている。一番最初のグラフで示した、マネタリーベースの対前年比上昇率が43%という従来の記録を作った1973年11月時点の日本人と、現在の日本人は、全く異なる行動パターンをとるように大きく変化したというのが、歴史を詳細に分析した結果、導き出すことのできる結論である。終戦直後のハイパーインフレ、1970年代の狂乱インフレ、1980年代後半の資産バブルを2度と再現させてはならないという強固な意志を持った日銀が、過去20年以上、必要とされる金融緩和の実施を避け続けてきた。異次元金融緩和は、20年前に実施されるべき政策であった。その結果、日本人の行動パターンは、世界の多くの人たちの行動パターンの平均から、大きく乖離した異常とも言えるパターンへと変化してしまった。日本人の行動パターンを元に戻し、正常化させるためには、「証券投資」の項目が、大幅な黒字ではなく、安定的な赤字となり、国内投資家の資金が海外に流出し、円安・株高が継続することが必要である。そのためには、追加の大規模な金融緩和策が、必要不可欠な政策なのである。


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