円高メリット論に対する反論

これまで、「超円高→産業の空洞化」の観点から、円高のデメリットを繰り返し書いてきた。しかし、日本には、少数とはいえ、円高メリット論者が、根強く存在する。

円高メリット論者の論拠は、何種類かあるが、最も有力な論拠は、「円高によって、日本は、輸入品を安く買うことができる。特に、最近、価格が高止まりしているエネルギー、原材料、食料等の一次産品を安く買うことができる。これは、消費者にとって大変大きなメリットである。」というものであろう。一次産品の中でも、特に、石油、LNG等のエネルギーの大部分を輸入に依存する日本にとって、エネルギーを安く買うことが可能になる円高の方が、円安よりも、メリットが大きい、というものである。もし円安になれば、輸入する一次産品の価格が高騰し、日本経済は、低成長の中で、輸入インフレによって苦しめられ、かえって我々の生活水準は低下してしまう、というのが代表的な理論であろう。

しかし、日本は、円安のメリットが大きく、円高のデメリットが大きい国である。

まず、フローの面から言うと、現在の日本は、弱体化したとは言え、輸出産業が健在であり、円安になれば、輸出が大幅に伸びる。円安が定着したならば、海外に移転した工場の国内回帰が増えることも予想される。

もう一つ重要な側面は、ストックの面からの円安メリットである。現在、日本は、多額の外貨建て資産と、より少額の円建て負債を保有している。2011年末の時点で、日本は、582兆円の対外資産、329兆円の対外負債、そして253兆円の対外純資産を保有している。対外資産の多くは外貨建て、対外負債の多くは円貨建てと推定される。円安になると、円換算での外貨建て資産は増加するので、対外純資産の増加につながる。

円高のメリットとしては、フローの面からは、輸入品、特に、エネルギー、原材料、食料等の一次産品の価格が安くなることは間違いない。しかし、円高により輸出が減少する上、ストックの面から、円換算での外貨建て資産が減少するので、対外純資産の減少につながる。

こうした、フロー、ストックの両面から見れば、日本は、円高のメリットより、円安のメリットの方がはるかに大きいことがわかる。

世界には、通貨安の方が、デメリットが大きい国がいくつか存在する。国内の輸出産業が弱体で、通貨安になったとしても、大して輸出が増えない国、そして、巨額の外貨建て純負債を抱えており、自国の通貨価値が下がると、対外純負債の額が増加してしまう国である。現在、問題となっているギリシャは、その典型的な例である。輸出産業があまり存在せず、観光産業以外には、外貨獲得が可能な産業は少ない。そして、対外純負債の金額が、GDP並みという、巨額の対外純負債を抱えている。ギリシャがユーロから追放されて、ドラクマが復活したならば、ドラクマの価値は、間違いなく大幅に下落する。その場合、通貨安による輸出増加は大きくないので、通貨安のメリットをあまり感じることができない。一方、ユーロ建て負債の金額は不変なので、ドラクマ換算の対外純負債の金額が、急増してしまう。ギリシャは、国民の生活水準をさらに引き下げて、巨額の借金を返済せざるをえなくなる。従って、ギリシャがユーロから離脱すれば、ドラクマの価値下落により、ユーロ加盟時代よりも、はるかに大きな苦しみを味わうことになる。

過去、多くの国家が、通貨危機に襲われて、IMF管理下に入ったことがある。そうした国家の多くは、ギリシャ型の経済構造を持つ国が多かった。そして、IMFにより通貨引き下げを強要され、少なくとも短期的に、場合によっては長期的にも、通貨安の苦しみを味わい続けている。

現在の日本経済は、ギリシャ型の経済とは正反対であり、通貨安のメリットが非常に大きい。

その上、仮に円高がメリットだとした場合でも、円高メリットを永久に享受することは不可能である、という点も重要である。円高が進行すればするほど、日本の製造業は次々と消滅してしまう。何割かが消滅した場合、貿易収支の悪化から、円安方向に転換してしまう可能性が高い。もし仮に、円高が継続して、日本の製造業が全滅する、という極端な仮定を立てた場合、日本経済は、どうなるかを考える。その時には、貿易収支が大幅な赤字に転落するので、円高から一転して、大幅な円安になる可能性が高い。一度失われた製造業のノウハウを、再び取り戻すことは非常に困難である。従って、製造業全滅後の円安により、日本は、高価なエネルギー、原材料、食料に加えて、高価な工業製品をも輸入せざるをえなくなる。

最悪のシナリオは、円高が継続し、製造業が全滅し、貿易収支と経常収支の赤字が継続し、対外資産を取り崩して、純債務国となり、その負債が膨れ上がった後に、超円安に襲われることである。この場合、日本は、超円安によって、非常に高価な輸入品を買わざるをえなくなる。その上、円建ての対外純負債の金額も急増し、借金の返済が非常に困難になる。日本は、生活水準を大幅に切り下げて、外国からの巨額の借金を返済していかざるをえなくなる。しかも、この現象は、少子高齢化、人口の減少と同時並行して、発生するのである。この将来の超円安のデメリットは、現在の円高のメリットとは方向が正反対で、かつ、量的に比較にならないほど、巨額のデメリットになるはずだ。

円高が継続した結果、将来、日本が、このような大きな苦しみを味わうようになることは、絶対に避けなければならない。そのためには、今のうちに、介入と金融の緩和の強化によって、円安誘導を強力に実行することが不可欠なのである。

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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