日銀「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に対する代替案

9月21日に日銀はこれまでの金融政策についての総括的な検証を行い、新しく「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」への移行を発表した。この内容は難解ではあるが、多数の解説がすでに書かれている。ここでは内容にはふれず、私の意見だけを書かせてもらう。

まず、私の考え方は異端である。「日銀による大規模な国債購入と政府による増税とを組み合わせることにより、50年程度の時間をかけて国債の全額償還をめざす」という立場である。今回はこの立場から日銀の総括と新しい枠組みを批判することにする。

私が総括と枠組みを最初に読んだ第一印象は、多くの人たちと同じと思うが、「理解の難しい矛盾だらけの内容」であった。一方では、このような理解不能な政策を発表せざるをえない日銀の内部事情の方がよりはっきりと見えてきた。これは黒田総裁の就任以来、日銀を支配していたリフレ派と昔から日銀の多数派であった反リフレ派の妥協の産物であり、反リフレ派の方にやや有利な形で書かれたものである。

黒田総裁のリフレ政策にはいくつかの欠点があった。その中で黒田総裁が一番気にしていたことは、出口戦略がないことである。一応、米国式テーパリングが基本戦略ではある。しかし、FRBより実質的にはるかに大きなバランスシートを持つ日銀では、FRBと同じ政策を採用してもうまくいくはずがない。規模はよくわからないが、2003年のVARショック時を大きく上回る金利の上昇が発生する可能性が高い。

黒田総裁は、従来のリフレ政策がうまく効果を発揮できなかった理由を、原油価格の値下がりなどに求めている。この点が私の認識と全く異なる。失敗の最大の原因は、日銀の量的緩和の量が決定的に不足していたことと考えている。黒田総裁は2014年10月のバズーカ砲第2弾で量的緩和を打ち止めにしている。一方で、2%インフレの達成時期は何度も先延ばしにされた。黒田総裁に対する信認が薄れ、責任追及とも言える声が記者会見でも日に日に高まっていた。それでも、黒田総裁は追加の量的緩和を実施しなかった。黒田総裁は有効な出口戦略を持っていなかったため、追加の量的緩和をやりたくてもできなかったのである。この量的緩和の大幅な不足が失敗の最大の原因とみる。

もともと日銀プロパーの行員たちは、インフレ、バブルの発生防止を最優先し、デフレの悪影響を軽視する反リフレ派が主流であったはずだ。そこに安倍政権の誕生後、それまで日銀と対立していた黒田総裁を筆頭とするリフレ派が日銀に送り込まれた。トップがリフレ派になったため、日銀の行員もとりあえずは面従腹背するしかなかったのであろう。しかし、今や黒田総裁のリフレ政策の行き詰まりが明らかになった。この時、日銀内部の反リフレ派も、黒田総裁と同様の危機感を感じていたはずである。出口で金利上昇が起こり、経済が混乱に陥った場合、黒田総裁を始めとする一部のリフレ派だけの責任ですむことはない。リフレ政策に反対せず、本意ではないながらも協力してきた反リフレ派も含む日銀全体が歴史的な責任を負わされる。黒田総裁のリフレ政策の明らかな行き詰まりを目にして、日銀内部の反リフレ派がついに声を上げ始めたのであろう。苦悩していた黒田総裁も、日銀内部の反リフレ派の意見を取り入れざるをえなくなったのだと思う。

今回発表された「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という名の新しい枠組みについては、私の感覚では反リフレ派の勝利が4割、リフレ派の勝利が1割、残りの5割は両者妥協の引き分けという感じである。反リフレ派の意見とリフレ派の意見とが両方とも書かれてある。しかし全体としてはテーパリングに近い内容が中心で、黒田総裁は反リフレ派の方の意見をより優先的に扱っている。そのため、反リフレ派の勝利と言えなくもない。しかし、反リフレ派の完勝では全くない。

出口戦略のないリフレ派の意見は後退させられている。しかし、反リフレ派の言う通りにすると、急激な円高が起こり、デフレ不況に戻ってしまう恐れがある。これを防ぐ具体案を反リフレ派は持ち合わせていない。株は年間6兆円のETF買いで短期的には急落を阻止することができる。しかし、急激な円高だけでも、発生したならば十分に打撃である。従って、円高やあるいはアメリカ、中国経済の不況化などにより日本に再び不況の波が襲ってきたならば、反リフレ派には対応できる政策がない。リーマンショックの大波に対して、ごく小規模の金融緩和で立ち向かい、円高株安を通じて日本を震源地のアメリカ以上の不況におとし入れた白川前総裁流の政策を単に復活させるわけにはいかないのである。経済危機が再発の場合は、たとえ出口が怖くても、年間80兆円の国債購入金額を増やすなどしてデフレ不況の再発を防がなければならない。そのために、リフレ派の意見も2番目に書かれている。日銀内部で分裂しているだけではなく、両派とも有効な政策を打ち出すことができていない。幸運の神様が舞い降りてきて、賃金上昇率が3%、インフレ率が2%にまで上昇し、そこでぴたりと止まるなどの現象が発生しなければ、どちらの政策でも成功にはたどり着くことができない。これはリフレ派、反リフレ派に関係なく、日銀という組織に、幸運なしでは現在の状況を打開できる能力が備わっていないからだと考える。

現在の状況を劇的に好転させる案はありえない。しかし、上記の2案より多少はましな案なら存在する。それは現状を、日銀単独ではなく日銀、政府が協力して改善させるという案である。具体的には、日銀が量的緩和を拡大させる一方、出口戦略は政府が引き受け、インフレ発生時には政府が増税によってインフレを鎮める責任を負うという政策である。金利ではなく、政府が増税でインフレを抑制するので、金利を長期間低く維持しておくことが可能になる。名目金利を名目成長率よりも低く維持する金融抑圧という政策である。政治的に一番容易な政策は、消費税増税の時期を2019年10月ではなく、2%インフレの到達後、できるだけ早く実施に移すという案である。第2次大戦直後のハイパーインフレを鎮静化させたという見方が有力なドッジ・ラインのバージョン2を作成できれば理想である。日銀が無制限に国債を購入すると同時に、インフレやバブルが発生した場合、政府が包括的な増税策を実施し、インフレやバブルを長期間封じ込めるという政策である。インフレ税と行きすぎたインフレやバブルが起こった際の消費税、地価税などの増税により、国債は50年くらいの時間をかけてでも全額償還をめざすのである。日本経済は消費税増税を始めとする増税に大変弱い。非ケインズ効果が発生するような国では不可能であるが、増税に弱い日本なら増税によりインフレを簡単にデフレ不況に戻すことが可能である。

株式バブルは増税による封じ込めが難しくなりつつある。そのため、株価が安い間に、できるだけ多額のETFを日銀があらかじめ購入しておく必要がある。株価にバブル色が強まれば、ETF売却によりバブルの進行を抑制し、同時に巨額の売買益+配当金を獲得して政府に日銀納付金として支払うのである。

国債の償還財源の大半は増税(または歳出削減)になる。しかし、その増税の実質価値をインフレによって大きく減少させる手段が、金融抑圧を通じたインフレ税である。インフレ税は国債や預貯金といった確定利付き債権の保有者に実質的な税金を課す資産課税である。デフレ時代にデフレ補助金をもらい、実質的に資産を増やしてきた国債や預貯金の保有者に対して、今度は実質的には税金を課することによって国に資産を移転させるのである。デフレ補助金は使うあてのない金融資産を保有する資産家(あるいは企業)の金融資産を増やすという大変悪い補助金であった。現在、すでにインフレ税に変わってはいるが、波があるのでインフレ税が定着したとは言えない。インフレ税を払いたくない資産家は株や外国証券を買えば良い。それならば円安株高が自然に進行する。「目で見る総括」の冒頭に、リフレ政策の成功には円高株安が大きく寄与していたということが書かれている。

インフレ税の導入は、金融資産を大量に保有する資産家に対する累進性の高い税金なので、資産格差の縮小につながる。2%程度のインフレ税は1日も早く実現定着させる必要がある。国債発行とデフレによって恩恵を受けた世代の中のほんの一部の資産家にインフレ税を多めに支払ってもらうことが必要であるからだ。世代間の不公平はできるだけ少なくしなければならない。インフレ税は、収入の大半を年金収入に頼る資産の少ない高齢者にとっても負担は軽いため、良い税金である。

金融緩和策には限界があり、日銀はインフレを引き起こすことができないと言われることも多い。こんなバカな話はない。日銀が額面100円の国債を100京円の価格で購入すればよい。即刻インフレが起こる。この場合はハイパーインフレであり、100京円は高すぎる。しかし、100円と100京円の間に適切な価格が必ず存在する。量的緩和拡大の途中でマイナス金利が拡大して、日銀が国債を買えなくなるという意見も有力である。こちらの方を金融緩和策の限界と呼ぶこともある。しかし、マイナス金利による損失は、その後に発生するプラスのインフレで取り戻すことができる。とはいっても私もマイナス金利の大幅な拡大は容認しない。金融抑圧による財政再建の効果縮小は小幅なものにとどめる必要がある。短期金利を引き上げたり、財政法を改正して国債発行の全額を日銀引受にするなどのテクニックも存在する。加えて全額償還までの目標を50年くらいとしているのは、マイナス金利が続いたとしてもマイルドなものにとどめ、国債の償還まで待つことも考えているからである。50年という期間は、担保として必要な国債を他のものに変更するのに必要な時間としては十分長い。こうした意味において、日銀はインフレを必ず発生させる能力を保有しているのである。

国債がなくなったらどうするか。国債は将来増税予約証書とも呼ぶべきものである。将来増税予約証書は可能な限り少なくすべきである。日銀は将来増税予約証書とは言えない社債、財投機関債、政府保証債などを買うべきである。これだけでは足りないので今回導入した期間が最長で10年の固定金利オペによる貸出金額を大幅に増やす。なお、国債以外の政府債務だけでもGDPの半分を上回っている。政府債務は、国債以外だけで十分である。環境が激変しているとはいえ、昭和40年以前の日本経済は、国債がなくても高度経済成長が可能であったのだ。

ISバランスを均衡させるためには、政府部門が国債を発行して赤字になる必要があるという意見も存在する。しかし、この状態でストックに対してインフレ税を課すことには全く問題がない。使うあてのない過剰な資金を保有する個人、企業部門から政府部門に対して円滑に資金を移転させる手段がインフレ税なのである。そして今の政策なら政府部門の赤字は永久に続くことになる。しかし、少子高齢化が進むと個人部門は黒字から赤字に転落する。今は国内部門は黒字であるが、将来的には赤字になり、海外部門の黒字に頼るしかなくなる。これは、現在は世界最大の対外債権国である日本が、50年くらい先に今のギリシャのような国に転落する可能性が高まることを意味する。ギリシャ化だけは絶対に避けたいため、50年かけて政府部門の中で少なくとも国債だけはゼロにしたいのである。

インフレ税と増税による国債の全額償還。これは言うは優しいが、実際に実行するのは非常に難しい政策である。日銀金融政策決定会合で政策を決めることと、国会で増税法案を作って政策を決めることとの間には大きな差がある。その他にも様々な問題が噴出することはわかりきっている。現在の日本の前にバラ色の道は存在しない。イバラの道しか残されていない。選択すべき道は、イバラのトゲが一番少ない道である。その道とは、リフレ政策を放棄する道ではない。出口戦略をも日銀が引き受けながらリフレ政策を続ける道でもない。日銀が国債購入金額を大幅に拡大し、インフレ率が高まったら出口で政府が増税をしてインフレの高進を止める、そして50年くらいの時間をかけて国債を全額償還させる。この道がイバラのトゲが一番少ない道であると信じている。

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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