GPIF改革論議の問題点

GPIF(年金積立管理運用独立行政法人)の資産運用方法の改革について議論されている。GPIFは国債の組入比率が約60%とかなり高い。これから先を見通すと、国債には金利上昇リスクがある。そうしたリスクを回避し、同時に投資収益率を高めるために、株などの運用比率を高めるべきだ、との考え方が増えつつある。それに対して、国債以外の資産はリスクが高く、年金資産をそうしたリスクにさらすべきではないという意見も存在する。

この問題については、以前(*1)、説明したことがある。その時は、GPIFを含む公的年金の運用資産を外国株40%、外国債券40%にまで高めるべきだと結論づけた。今でも結論はそれほど変わっていない。今回は、その時簡単に説明した、「政府の一部門が資産運用を国債で行うことの意味」をもう少し詳しく説明したいと思う。非常に重要な論点だと考えているが、現在のGPIF改革論議の中では、全く触れられていないからだ。

普通、国債という金融商品は、1つの国家の中で、最も安全な金融商品と見なされることが多い。日本でも同様である。日本は総政府債務の対GDP比率が240%であり、世界でこの比率が一番高い国である。そのため、何か起こったら、金利の急上昇が発生し、財政が破綻してしまうと言われることが多い。そうした警告があっても、日本国債の格付けは、それ以外の債券よりも高く、金利も低い。現在も金利は0.6%強でしかない。なぜ日本国債の格付けが高く、金利が低いのであろうか。その理由は、国債である限り、政府が増税、場合によっては歳出削減により、国債の償還資金を、最後には必ずひねり出すはずだという確信が、日本国債に対する投資家に存在するからである。国家が徴税権を握っているという点が大きい。この点が、他の個人や民間企業と完全に異なる点である。そのため、日本国債は、日本国内で流通している債券の中で、一番安全性が高いと見なされ、金利が一番低くなるのである。

それでも、国債にリスクは存在する。それは金利上昇のリスクである。インフレが定着すると、投資家はインフレによる債券の実質価値の減少を嫌気して、国債への投資を縮小するであろう。この場合、債券価格の下落による債券評価損、売却損を被る可能性が出てくる。この他にも、先に指摘した金利の急上昇、すなわち財政破綻リスクも存在する。財政破綻リスクは、私が最も警戒しているリスクであるが、最後に触れることにする。

国債に金利上昇のリスクがあると言っても、いつ金利上昇が発生するかは、誰にもわからない。しかし、インフレはすでに発生している。遠くない将来に、金利上昇が発生する可能性は高いと考えるべきであろう。従って、GPIFのような巨額の国債を保有する投資家は、現在の低金利の時期に国債を売却し、国債の組入比率を引き下げ、インフレに強い株などの資産の組入比率を増やすべきだという考え方が広まりつつあるのだ。

こうした論争は、かなり昔から行われていた議論である。株価が下落して株の評価損のためにGPIFの資産が大きく目減りした時には、GPIFは株などのリスク資産で運用するのは危険であり、全額国債で運用すべきだという正反対の意見もかなり有力であった。

上記のような考え方は、いずれも標準的な証券投資理論に立脚したオーソドックスな考え方である。この考え方では、国債のリスクを金利変動リスクだけと考える、教科書通りの考え方である。私の考え方は全く異なる。私は、国債のリスクを、ミクロレベルとマクロレベルとで分けて考える。ミクロレベルで見た個人や企業が行う国債での資産運用については、伝統的な証券投資理論を適用してもかまわないと考える。しかし、マクロレベルで見た場合、すなわち、国家、政府、GPIFのような政府の一部門が行う国債運用については、伝統的な証券投資理論は全く成り立たないと考えている。私の考え方では、政府が国債で運用する場合には、その国債は、「全資産損失確定商品」と呼ぶべきだと考えている。以前書いた時の表現は、「全資産損失確定が発生するリスクが最も高い運用手法」であった。厳密に言うならば、後の表現の方が、より正しい。今回は、国債の持つ安全神話を覆すことが目的なので、正確性を少し犠牲にして、より断定的な呼び方にする。GPIFの保有国債には、金利変動リスクのような小さなリスクが存在しているのではない。リスクなどというレベルではない。その資産価値が100%損失してしまうのである。従って、GPIFのような政府の一部門が、国債という「全資産損失確定商品」を保有するという選択肢はあってはならないのである。その理由を説明する。

まず、政府のバランスシートではないが、それに近い種類のものである日銀の資金循環統計、金融資産・負債残高表の政府部門を要約して下記に掲載する。


金融資産負債残高表

一般政府が、広義の政府であり、それが、中央政府、地方公共団体、社会保障基金の三部門に分かれる。社会保障基金は、GPIFが最大であり、それ以外では、国家公務員共済、地方公務員共済など、他にいくつか類似の資産が存在する。中央政府が国債と短期国債、地方公共団体が地方債を発行し、その一部を社会保障基金が運用しているのである。上記の表で色を付けたように、国債とそれに準じる短期国債、地方債は949兆円発行されている。社会保障基金でそのうち
78兆円が運用されている。ここから先では、国債、短期国債、地方債の合計を、単に国債と呼ぶことにする。この78兆円は、私の考え方では、「全資産損失確定商品」であるのだ。

そのことをわかりやすく説明するため、実際の金融資産・負債残高表の政府部門を大幅に簡略化することにする。その簡略化した表を下記に示す。


金融資産負債残高表 簡易版A

「A 金融資産・負債残高表」は、社会保障基金の資産が1000兆円存在し、その資産を国債ですべて運用していると仮定する。中央政府の資産・負債は、負債が国債として1000兆円だけ存在していると仮定する。

(A)の場合、高齢化が進んで、「実際の年金支払金額>社会保険料収入(プラス金利収入は省略)となると、国債の償還分を年金支払いに回す必要が生じる。社会保障基金の国債購入金額が減少し、やがて売り越しになると、政府は資金調達の方法を変更する必要が生じてくる。その方法は、(1)増税、(2)歳出削減、(3)別の主体に国債を保有してもらう、のいずれかしかない。ただ、(3)は、問題の先送りである。問題の先送りが永遠にできるわけではない。日本人の平均年齢が低い間は、GPIFのような社会保障基金や他の金融機関に老後に備えた貯蓄資金が大量に蓄積されてきた。しかし、日本人の平均年齢が高まり、団塊の世代が定年退職しつつある中で、そうした貯蓄が永遠に増え続けることはないのである。近い将来に先送りをやめて、(1)増税か、(2)歳出削減によって、国債発行金額を減らす必要がある。実際には、(1)増税が継続的に実施されると仮定する。

日本では、2002年から、社会保障基金への資金フローは、流入から流出基調へと転換している。そして、2009年からは、社会保障基金による国債の売買についても、買い越しから売り越し基調へと変化している。すでに、社会保障基金から資金が流出し、国債も売り越される年が増えている。それに対応して、実際に政府がとった政策は、(3)別の主体に国債を保有してもらう、であった。しばらくはこの先送り政策をとっていたが、(1)の増税が、この4月1日から、消費税増税という形で開始された。先送りをやめて増税に転じた日が、今年の4月1日の消費税増税開始の日であり、増税は2015年9月にも行われる予定である。上記の仮定は、フィクションではなく、現実を反映した仮定でもある。

(A)に戻り、国民の老齢化が進み、年金支払金額が増加すると、増税が行われるわけである。この場合の増税を国民サイドから見ると、支払いを受ける年金額と同じ金額が、増税によって吸い上げられることになる。(A)の表をよく見ると、社会保障基金に1000兆円の資産があることになっているが、中央政府の1000兆円の国債という負債によって相殺されている。人によっては増税より受け取り年金額が大きい人、増税だけに資金を吸い取られる人、と様々であろう。ただ、国民全体を平均してみると、国民の老齢化により年金支払金額が増えると、それに等しい金額だけ増税が実施されることになるのである。1000兆円もの貯蓄があると思って支払ってきた年金が、年金を受け取る段階になると、増税として同額の資金を政府に吸い取られてしまうのである。

ただこれは、政府サイドから見れば当然である。過去に発行してきた国債は、医療や年金などの費用の支払い、公務員の給料、道路や橋の建設などに使ってきたのである。民間企業とは違って、支払金額以上のリターンの存在する何らかのものに投資してきたわけではない。そもそも、資本主義社会においては、支払金額以上のリターンの存在する何らかのものに投資することは、民間企業の役割である。リターンが存在せず、民間企業が担えない役割を、民間企業に代わって政府が行うのである。過去の国債収入を、リターンのないものに使うことは、政府の役割としては、当たり前のことなのである。従って、国債の満期が来た場合、増税によって資金を調達することは当然なのである。国債は、発行直後に消費などの形で使われてしまい、全資産が損失し、同時に将来の増税が確定するのである。

もう一度国民サイドに戻ると、年金を受け取る段階になると、年金支払金額と同額の増税が実施され、国民一人当たりの平均をとると、年金を一銭たりとも受け取ることができなくなるのである。日本の公的年金は、現在は賦課方式である。しかし、過去においては積立方式をとっていた事情もあり、巨額の積立金がGPIFなどに存在しているのは事実である。これでは、過去において、GPIFなどに貯蓄をため込んできた意味が全くなくなってしまう。

GPIFが資産の100%を国債で運用する場合、こうした現象が必ず発生する。一つの独立した組織と見るならば、GPIFは国債の利子に相当する運用収益を獲得している。しかし、GPIFを政府の一部門と考えると、政府と一体になって、すべての年金資産を損失させているのである。GPIFが保有する国債は、紙切れ(電子記録)にすぎないのである。従って、私は、GPIFが保有する国債を「全資産損失確定商品」と呼ぶのである。

次に、「全資産損失確定」が発生しないような運用方法を示したい。それは下記のように、運用資産を100%対外証券投資、すなわち外国証券で運用する方法である。その簡潔な内容を、下記に「B 金融資産・負債残高表」として示す。


金融資産負債残高表 簡易版 B

社会保障基金1000兆円のすべてを外国証券で運用していた場合は、年金の支払期日が来れば、少しずつ外国の株や債券を売っていけば良い。年金支払いの原資は、外国の納税者か外国の企業が負担することになる。1000兆円の外国証券という資産を少しずつ取り崩して年金支払いにあてればよく、年金支払いのための増税をする必要は全くなくなる。1000兆円の外国への貯蓄を少しずつ取り崩せば良いのである。

しかしこの場合、次のような反論が予想される。政府が1000兆円の国債を発行しているわけであるから、その償還金を増税によって調達しなければならない。年金支払い分は外国から調達するにしても、国債の償還金は、別個に国民に増税して調達する必要がある。それならば、(A)も(B)も違いはないのではないか、という反論である。

これに対しては、次のような反論ができる。日本の場合、発行済国債の91%は日本国内の投資家が保有している。発行済国債の全額を日本国内の投資家が保有していると考えても、それほど大きな違いは発生しない。(B)の場合、表に示したとおり、一般政府以外の国内部門が、1000兆円の国債を全額保有していることが最初に想定されている。1000兆円の国債償還のためには、増税が必要である。しかし、その増税分は、国内の国債保有者へと償還金が移動するだけである。(A)の場合、日本人全体の収入は、年金支払金額-増税額=ゼロである。(B)の場合の日本人全体の収入は、年金支払金額(=外国証券売却代金)+(国債償還金受取額-増税額)=外国証券売却代金となり、外国証券売却代金分だけ国民の収入は増えることになる。従って、(A)よりも(B)の方が望ましいことになる。

(A)と(B)が同じ結果になるためには、(A)の一般政府以外の国内部門が対外純資産を1000兆円持っていることが必要である。しかし、最初に(A)という例を設定した時、そうした前提を設けていないし、前提とすべきでもない。(A)は社会保障基金を国債で運用し、外国証券で運用しなかったために、結果として対外純資産が(B)よりも1000兆円少なくなっているのである。その延長線上として、(B)よりも資産と収入が大きく減ってしまっているのである。

加えて、社会保障基金が過去に資産の100%を外国証券で運用していたならば、円安と輸出拡大、GDP成長率の上昇の結果、国債発行残高が1000兆円にも達するという(B)の想定が、起こりえなかった想定になると考える。国債発行残高は700兆円か500兆円か300兆円かはわからないが、1000兆円よりは小さくなっていたはずである。日本経済の低迷の原因は、キャピタル・フライトが小規模過ぎたことが原因である。社会保障基金による外国証券運用という大規模なキャピタル・フライトが発生していたならば、円安を通じて対外純資産がより増加していただけではなく、国内の財政状況もより改善していた可能性が高いのである。

年金のように長期にわたる受益と負担をモデル化すると、どんなに単純化しても複雑でわかりにくいモデルとなってしまう。上記の考え方も、複雑な現実を大幅に単純化することにより、極力わかりやすくしているつもりだが、十分ではないかもしれない。どうか斜め読みではなく、丁寧に読んでいただきたい。しかし、単純化することにより論理の結果が変わるわけではない。モデルを複雑な現実に合わせることも可能であり、複雑でわかりにくくはなるが、結論は同じである。すなわち、GPIFが運用する国債は、「全資産損失確定商品」となる。その代わりに外国証券で運用した場合は、国債で運用した場合よりも、国民の受益は大きく増加するのである。現在の公的年金が賦課方式であるとしても、GPIFの運用方法により、受け取ることのできる年金支払額が大きく異なってくるのである。

現在のGPIFは、全資産の約60%を国債という資産で運用している。しかし、その60%の部分に、実は資産は存在しないのである。従って、GPIFは国債での運用をやめるべきである。資産を国債から外国証券に移すべきである。

外国証券で運用するなら、何でもOKというわけではない。その際、最も重要なことは、徹底的な分散投資を行うことである。私は、外国株と外国債券で運用する場合は、100%インデックス運用に徹するべきだと考えている。現在GPIFが一部で実施しているアクティブ運用は、長期で見れば、手数料分が損失となる可能性が高い。公的年金の場合は、可能な限りリスクを抑える運用をする必要があるため、インデックス運用が最も適切である。株と債券以外の資産、すなわち、世界の不動産、インフラ、天然資源、ベンチャービジネスなどでの運用は、インデックス運用が不可能である。こうした分野こそは、専門家をこれから養成して、可能なかぎり、ローリスク・ハイリターンの運用を目指すべきである。

国債のように、大半は消費や移転、必要性の高くない投資に使われてしまい、増税以外には裏付けとなる資産が存在しない金融商品が大量に存在する現在の日本経済は、望ましい姿ではない。個人や企業が資産運用を国債で行うことは、ミクロレベルの話であるので、国債を「全資産損失確定商品」と呼ぶことは必ずしも正しくない。国債で資産運用する一個人、一企業で見た場合、国債償還金額>増税金額となる個人、企業が必ず存在するからである。しかし、個人や企業の集合体であるマクロレベル、政府レベル、国民経済レベルで見た場合、国債償還金額=増税金額となり、国債は「全資産損失確定商品」となるのである。そうした国債の存在は、過去においては、需要不足を補い、総需要と総供給を均衡させるために大きな貢献をしてきたことは、間違いない事実である。しかし現在のような対GDP比で総政府債務が240%にも達してしまっている現状は異常である。マクロ的には「全資産損失確定商品」である国債の発行残高は、現状よりずっと少ない方が望ましい。

現在存在する国債は、できるだけ日銀に引き取らせるべきである。その結果として所得や資産価格が上昇し、その後、当然のごとく発生するインフレやバブルを、所得と資産に対する思い切った増税で封じ込め、財政再建を一気にすすめるのが一番正しい道である。日本国債が潜在的に抱える財政破綻リスクを完全に除去するためには、これくらい思い切った政策を採用することが不可欠なのである。そうした政策の一環として、GPIFや他の公的年金などをも含む一般政府の社会保障基金は、国債での運用はやめて、すべて日銀に国債を売却すべきである。国債を売却して獲得した資金は、主として外国証券に対するインデックス運用に回すのが、一番望ましい運用手法となるのである。


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経済成長と財政再建を両立させる政策 国債市場を殺せ

日本の財政状況が悪化している。政務債務は増加し続け、その大部分を占める国債の発行残高の増加が止まらない。最初に、国債発行残高の推移を表すグラフを下記に示す。

国債発行残高

今回使用する統計は、統計数値が複数存在するものが多く、実際に数値が異なっている。特に今まで頻繁に使用してきた国際収支統計の数値とは差があり、姿がかなり違って見えるものが存在する。それでも今回は、日銀の資金循環統計の数値に一本化して使用することにする。国債発行残高は2013年末で827兆円にものぼっている。

次に、国債発行残高の毎年の増加額を表すグラフを下記に示す。


国債発行残高純増額

2009年はリーマンショック直後の年であり、大規模な景気対策が打たれた年である。にもかかわらず、国債発行残高はこの年だけは減少している。理由は、2009年は、短期国債の発行残高が大幅に増えた年であるからだ。短期国債をも含めた場合、2009年の国債の発行残高は大幅に増加していた。

国債の発行残高が毎年増加し、金利の急上昇と財政破綻の懸念が出ている。これほど巨額の国債が発行された場合、そうした懸念が生じるのは当然である。中には、財再破綻は必死であるので、ハイパーインフレを引き起こして借金をチャラにするしかないという意見も存在する。消費税率を30%にまで引き上げる必要があるという意見もある。どちらの政策を採用しても、日本経済が大変大きな打撃を受けることは間違いないと思う。

国債の発行残高が大きすぎることは大問題であるが、すでに多くの人たちに知れ渡っている事実である。しかし、問題はそれだけではない。多くの人たちが気づいていないところで、巨額の国債発行残高は、日本経済に大変大きな悪影響を及ぼしているのである。それは、巨額の国債発行が引き起こすクラウディングアウトというべき現象である。国債の発行があまりにも巨額なものとなった結果、本来、他の部門に回るべき資金が、国債市場に吸い取られているという現象である。特に、リスク資産に回る資金が全く不足している。日本国内には、全体として余剰資金があふれているのにもかかわらず、その余剰資金が日本国債や預貯金などの無リスク資産への投資に粘着するようにくっつき、離れようとしない。巨額の国債発行の結果、リスク資産への資金流入が、クラウディングアウトされているのである。クラウディングアウトの過程で、名目金利が上昇していないために、見えないだけである。リスク資産に資金が流れていかないため、日本経済の成長を阻害する大きな原因となっている。

国債に粘着するようにくっつき、離れようとしない投資家の動向と、今までの日銀による国債購入拡大政策の効果を見ることにする。国債の主要な投資家別の売買動向を表すグラフを下記に示す。


投資家別国債売買

上記のグラフを見れば、日銀の国債購入政策が、効果を上げているように見える。2013年年間の日銀による国債購入金額は、51兆円であった。一方、先のグラフで示したとおり、昨年1年間の国債発行残高の増加額は、44兆円であった。一般的には、日銀は国債発行分の70%を購入していると言われている。しかしそれは、カレンダーベースでみた市中発行国債の70%近くを日銀が購入しているという意味であり、国債の償還分を考慮に入れていない。2013年は、国債の償還分をも考慮に入れると、日銀は、国債発行残高の年間増加額を7兆円上回る金額の国債を購入していたのである。見方によれば、国債の買いすぎである。しかし、私の目から見ると、日銀による国債購入金額は、あまりにも不足しすぎているのである。

次に、国債の主要な投資家別の国債保有残高を表すグラフを下記に示す。


投資家別国債保有高

上記のグラフは、ストックベースのグラフである。日銀の国債保有残高は急激に増えつつあるが、生保などの投資家は、以前と変わらないペースで国債の保有金額を増やし続けている。先に示したフローのグラフを見てわかる通り、年金、生保、投信といった日本を代表する機関投資家は、依然として国債を買い越しており、国債の保有残高を増やしつつあるのである。

それでは、日本の投資家は国債以外の資産保有をどのように変化させているのであろうか。まず日本株に対する投資の推移を表すグラフを下記に示す。


国内投資家の日本株投資

今まで何度も使ってきた統計は、東証が発表している統計で、流通市場に限った統計である。日銀の統計は発行市場での買いも含んでいるので、東証の統計よりも、売り越し金額が大幅に少なくなっている。以前、日銀の株式売買の統計は、誤差の多い統計で信用できないと批判したことがある。しかし、代わりに、誤差のより少ない統計を示すことができないので、やむをえなく使用した。従って、他の統計にも誤差はあるが、この統計にはより大きな誤差があるかもしれないことは、頭に入れておいていただきたい。ただ、2013年に国内投資家による日本株の売り越し金額が過去最高になったことは、間違いのない事実である。

次に、国内投資家による対外証券投資の推移を表すグラフを下記に示す。


国内投資家の対外証券投資

2012年以前の国内投資家は、少なくとも日本株よりは、外国証券に対する投資の方が良いものと考えていたはずである。日本株は、配当を考慮に入れても、長期間の投資収益率がマイナスであるのに対し、外国証券は、為替差損を被っても、利子や値上がり益を合計すれば、必ずしも投資収益率はマイナスにはならなかったからである。しかし、2013年に、国内投資家による外国証券の売買は、売り越しへと転換している。

次に、海外投資家による日本株、日本国債の売買の推移を表すグラフを下記に示す。


海外投資家の対内証券投資

日銀の金融緩和に反応して、日本国債を売り越す一方、日本株は大量に買い越すようになった。グラフにはないが、今年に入って、海外投資家の日本株の売買は売り越し基調になっている。海外投資家が買わないと、日本の株価は上がらなくなってしまうのは、バブル崩壊後23年間以上続く不変のパターンである。

2012年11月14日から金融緩和の強化の予想が市場に広まり、2013年の4月4日に異次元金融緩和の実施により、金融緩和の強化が現実のものとなった。それに反応して、海外投資家は日本株を大挙して買い越し始めた。一方、国内投資家は、日本株と外国証券を売り越し始めた。

しかし、2013年年間の国内投資家の売却金額は、国債が10.7兆円、日本株が15兆円、外国証券が2.4兆円であり、その合計は28.1兆円である。この資金の大部分が確定利回りの預金に預けられ、それが回り回って日銀の当座預金残高となっている。昨年末時点の日銀当座預金の残高は107兆円であった。これが今年の年末には175兆円にまで増える予定である。ただこれだけでは、金融緩和の効果が顕在化するかどうかはわからない。国内投資家は、相変わらずリスク資産への投資を避け、預金に資金を集め、銀行を通じて当座預金残高として積み上がるだけになるかもしれないからだ。

昨年は、海外投資家の大活躍で、海外から日本株へと資金が移動し、株価が大きく上昇した。同時に、海外投資家は、円安進行のリスクを押さえるために日本から資金を借り入れ、その円を売って、円売りというショートポジションを作り、円安進行の大きな原動力となった。しかし、国内投資家の資金は、日本株、外国証券などのリスク資産から国内の預金などの無リスク資産への移動が発生した。その結果、ネットの資金の移動が、昨年末から海外から国内への流入超過となった。それが意味するところは、日本の経常収支は、必然的に赤字化するということである。

海外から国内への資金流入は、経常収支の赤字を通じて、所得の減少をもたらす。こうしたネットでの海外からの資金流入超過は、阻止しなければならない。そのためには、国内の余剰資金を海外に大規模に流出させる仕組みを作る必要がある。しかし、異次元金融緩和は、そうした仕組みを作ることに完全に失敗した。

2013年末の827兆円の国債発行残高のうち、日銀以外が保有する国債の金額は、683兆円であった。日銀が、今年、50兆円の国債を購入したとしても、650兆円以上の国債が、日銀の外に間違いなく残る。これはGDPの130%以上にもおよぶ巨額の資金のブラックホールが存在し続けることを意味する。この国債市場というブラックホールから資金を無理にでも引き出し、海外へと資金を流出させることが必要である。資金がネットで海外に流出すれば、金融収支が黒字化(以前の言葉を使えば、投資収支が赤字化)し、金額の少ない資本移転等収支と誤差脱漏を無視した場合、経常収支の黒字復帰が間違いなく実現する。金融収支の黒字拡大と並行して経常収支の黒字が拡大することは、国際収支という統計の定義なのである。

ブレークインフレ率の動きを見て、債券市場においては、内外の投資家のインフレ期待が少しばかり高まったことを確認することができる。しかし、為替市場、株式市場における国内投資家の予想は、円安株高が続かないという予想が続いているという事実を忘れてはいけない。国内投資家は、2013年に、15兆円という過去最高の金額の日本株を売り越したのである。また、国内投資家は、従来、恒常的に外国証券を買い越してきたが、2013年に、2.5兆円の売り越しに転じたのである。異次元金融緩和は、国内投資家の円安株高期待を形成することに、完全に失敗した。異次元金融緩和は、海外投資家の予想を円安株高に変えたが、国内投資家の予想をそれとは正反対の円高株安に変えたのである。円安株高を国内投資家の手によって実現させるために、現状の異次元金融緩和という手段を使って期待に働きかけ、円安株高の予想を作り出すことは、2年という短い期間では不可能なのである。金融緩和がインフレ期待を引き上げることができるとしても、国内投資家が短期間の間に、円安株高期待を持つように誘導することは不可能なのである。従って、円安株高を国内投資家の手によって短期間で実現させるためには、期待に働きかけるだけでは不十分である。もう少し強引な別の政策が必要なのである。

現在、国債市場においては、日銀による国債購入の大幅拡大策は、国債市場を機能不全に陥れる大変誤った政策であり、日本経済を機能不全に陥れる危険な政策であるという意見が当然視されている。従って、追加金融緩和があったとしても、国債市場の機能を低下させない程度、すなわち国債の購入金額の増加は最小限度に止めることが当然であると語られている。日銀が国債の購入金額を増やしすぎると、国債の流通量が低下し、いざという時には国債を売れなくなり、資金ショートなどの大変なことが起こるという話が大まじめに語られている。これは
100%デマである。日銀による国債購入の大幅拡大に反対する人たちは、巨大な国債市場というブラックホールを維持し、それで現在のメシの種を維持しようとする国債村の守旧派である。日本は、このような守旧派による誤った宣伝戦略により、成長への道を自ら閉ざしてはならない。

日本経済の諸悪の根源は、国債市場がブラックホールのように膨張しすぎ、経済成長に必要な部門に資金が回っていないことである。日本経済を成長させる一番確実な方法は、国債市場を殺すことである。その具体的な方法は、日銀以外が保有する国債が683兆円存在している中で、日銀が購入する国債の金額を年間50兆円の純増から大幅に拡大することである。年間200兆円の純増、仮に3年半続けた場合には、残りの国債を全額購入が可能な計画を立てるべきである。この計画は、後に示す通り、大きな障害があり、実現不可能である。ここではとりあえず、実現可能と仮定して議論を進める。

日銀が無理をしてでも国債を購入することにより、リスクのない運用をしたいと国債にこびり付いている国内投資家を、無理矢理にでも国債から引きはがすことができると想定する。昨年、国債を買い越した年金、生保、投信という機関投資家から、日銀が力まかせで保有国債を全額買い取るのである。機関投資家は、一旦、売却した国債代金を、銀行預金などの無リスク資産に預けることになる。しかし、機関投資家が、大量の資金を金利が0.1%以下の無リスク資産に長期間預けたままだと、逆ざやが広がり、存続不可能になる。頼りの国債は日銀が買い占めており、買うことができない。その場合、日本の機関投資家は、資産の何割かを、嫌々ながらも外国証券の購入に回さざるをえなくなる。これが実現すれば、この時こそ大幅な金融収支の黒字拡大が実現する。金融収支が大幅な黒字になると、経常収支は定義として大幅な黒字になる。

経常収支が必然的に黒字になるとしても、現在の日本は供給サイドが弱体化しており、短期間に経常黒字を増やすことのできる金額には限度が存在する。2007年の経常黒字は25兆円、対GDP比で4.9%であった。そこまでの拡大なら、足下の需給ギャップが仮にゼロだとしても、3年半の時間があれば、所得収支の黒字の若干拡大に加えて、輸出数量の拡大と輸入数量の縮小を通じて、実現が可能だと思う。

その場合、輸出増強にしろ、輸入代替にしろ、経常黒字を拡大するためには、国内生産を増やす必要がある。そのためにまず必要とされるのは、人手である。現在の人手不足は、超人手不足となり、賃金の上昇とインフレを引き起こす。そして日銀の大量の国債購入は、資金の一部が株や土地の購入にも回るので、バブルを引き起こすことになる。しかしこれを財政再建の絶好の機会とみて、資産の保有と売買、所得や消費などに対する税金を大幅に引き上げれば良い(*1)。インフレとバブルの進行は緩やかになるが、税収が急激に拡大し、財政収支の黒字化が実現可能となる。この場合でも、増税の痛みは当然ある。しかし、所得と資産の価格上昇が発生しており、所得と資産の価格上昇分の何割かを税金として吸い上げるのである。従って、増税の痛みは大きく相殺されるはずである。消費税単独の引き上げという痛みしか存在しない政策とは違うのである。

この政策を実施するにあたっての最大の問題点は、金融収支の黒字拡大が経常収支の黒字拡大を導くため、途中で、大幅な円安が発生することである。足下では、円安進行の過程で、経常収支の悪化が進行している。そのため、経常収支の黒字化と黒字拡大が進行する際には、緩やかな円安ではなく、急激で大幅な円安の進行が発生せざるをえないのである。日本国内においては、円安による輸入価格の急上昇という痛みが発生するが、一時的なものであり、GDPが増加するとともに賃金が上昇し、痛みを上回ることになる。対外純資産も急激に増加する。

しかし、大幅な円安が発生する過程で、外国からは、「一国繁栄型の近隣窮乏化政策」と激しく非難されることは間違いない。日銀が国債の購入金額を大幅に拡大した結果、大幅な円安が進行した場合、日本という一ヶ国だけは繁栄が可能であるということは、グローバルスタンダードの考え方では常識なのである。しかし、長年、日本周辺のアジア諸国による超円高・アジア通貨安という近隣窮乏化政策により、日本は経済の供給サイドが大きく弱体化してしまったこともまた事実である。政治力の弱い日本が、外国からの非難をはねのけ、そうした政策を続けることは、実際問題としては不可能であろう。日本は、円安誘導が目的ではなく、デフレ転落への防止や財政再建などの国内目標を達成するために必要な金融緩和の強化をしているという看板を掲げ続けるしかない。海外からの近隣窮乏化の非難を最小限に抑える努力をしながら、国際社会で許されるギリギリ可能なところまで、日銀は国債の購入金額を拡大すべきである。具体的には、年間200兆円の国債純増を決定すると、円レートが急激に円安の方向に飛びすぎて、国際社会の非難の声が一挙に高まり、国債購入を続けられなくなる可能性がある。従って、年間の国債純増の金額を100兆円にとどめ、全力を挙げて近隣窮乏化の非難を押さえながら、100兆円純増の目標を死守することがより現実的だと思う。

日本経済を再生させるためには、日銀が国債購入金額を可能な限り拡大させることが最低限必要である。その結果、国内資金が海外にネットで大規模に流出し、円安を通じて経常黒字とGDPが同時に大幅に拡大する。そしてその結果として発生するインフレとバブルを増税によって封じ込めるのである。ハイパーインフレを起こせば、借金は帳消しにできるが、日本経済も同時に死んでしまう。金融政策の援護なしに、消費税率を30%にまで引き上げるだけの政策を採用した場合、消費税を段階的に引き上げる過程で、デフレ不況が深刻化して税収が減少し、金利が急上昇し、やはり日本経済は死んでしまう。金融緩和のみ、財政緊縮のみで、日本経済の成長と財政再建を同時に達成することは不可能である。超円高とモノのデフレ、資産のデフレにより窮乏化しすぎた借金大国を救う一番痛みの少ない政策は、可能な限りの金融の超緩和、その後に実施する財政の超緊縮という政策の組み合わせしかない。

超金融緩和、超財政緊縮の政策を採用しても、日本経済の将来がバラ色になることは100%あり得ない。日本は過去において、長年にわたって金融政策を誤り続け、同時に国債の大量発行という先楽後憂の仕組みを作り上げてしまった。憂いをなくす政策は存在せず、憂いを一番小さくすることができる政策が、超金融緩和、超財政緊縮という政策であるにすぎない。日本一ヶ国だけは繁栄が可能であるということが、グローバルスタンダードでは常識であることは間違いないが、超金融緩和をしなかった場合との比較で栄えるだけであり、日本経済の成長率が今から大きく上昇することはないのである。超高齢化、人口減少、巨額の政府債務を抱える日本経済の将来は、イバラの道しか残されていないのである。その中で、トゲに刺さって痛みを感じることが一番少なくなる政策を採用するしかない。その政策の第一段階が、日銀による国債購入金額を大幅に増やすことにより、ブラックホールのように日本経済を蝕んできた国債市場を殺すことなのである。


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