地価の下落がもたらす財政破綻とその回避策

3月18日に、2014年の公示地価が発表された。最初に、その推移を表すグラフを下記に示す。

公示地価

公示地価の全平均である、「全国全用途平均」は、前年比0.6%のマイナスであった。1991年を頂点とするバブル崩壊後の最安値であり、23年にも及ぶ土地のバブル崩壊が、依然として終了していないことを見せてくれた。

日本では、全国平均の地価が23年間もほぼ継続して下落し、最安値を更新しているという事実が、ほとんど問題になっていない。まず、全国紙の見出しが、「公示地価、3大都市圏で6年ぶり値上がり」といった内容が多く、正確な事実さえ伝わりにくくなっている。そして、局地的でも地価の上昇が発生していることを問題視して、「バブルの芽を封じ込めよ」という内容の社説を掲載する全国紙もあった。世界の常識から完全にはずれた、日本特有の思考形式である。

これが、いかに異常な思考形式かを示すために、日・米・英・スウェーデンの地価の比較をすることにする。なぜ、比較対象がこの3ヶ国であるのかというと、この3ヶ国が、土地や住宅価格の長期のデータが容易に入手可能な国であるという、非常に消極的な理由である。しかし、この3ヶ国は、日本と同様に不動産バブルとその崩壊を経験しており、比較する意味のある3ヶ国でもあると考えている。ただ、アメリカのケース・シラー住宅価格指数は、アメリカで最も幅広く利用されている住宅価格指数であるが、最も長期のデータが存在する10都市の平均でも1987年1月からのデータしか存在しない。そのため、これから示すいくつものグラフは、1987年1月、または1987年を基準点、すなわち100としたグラフである。基準点とするには、最適であるということはできないが、最古の時点であるので、やむをえなく基準点として選択した。そして、全国の更地と住宅価格を同様に扱うというやや乱暴なこともしている。こうした違いがあることを頭に入れながら、多少の誤差があるのを覚悟の上、比較を試みた。

まず、日・米・英・スウェーデンの地価の推移を表すグラフを下記に示す。


地価

見てわかるとおり、米・英・スウェーデンの地価が順調に上昇しているのに対して、日本だけが、継続して下落している。アメリカとイギリスは、2006年-2007年頃まで住宅バブルが進行し、その後バブルが崩壊して、リーマンショックという金融危機を引き起こした。一方、スウェーデンの不動産バブルの頂点は、日本と同じ1991年であった。その後1993年までバブル崩壊が続くのだが、その後は日本とは正反対に、ほぼ継続的に地価が上昇し続けている。

米・英・スウェーデンは、日本と同様に不動産バブルとその崩壊を経験したのだが、日本との最大の相違点は、地価の下落期間が短期間であり、その後は継続的な地価の上昇が復活していることである。長期間、地価の下落が継続しているのは、日本だけである。

日本人の目からすると、現在の米・英・スウェーデンの地価の方こそがバブルではないかという疑問を持つ人がいるはずだ。それを調べるために、地価指数を、名目GDPをデフレーターとして使って、実質化することにする。GDPデフレーターではなく、名目GDPを使う理由は、地価は名目GDPが成長し続ける限り、土地の生産性は上昇し、モノの価格以上に上昇することは当然であるからだ。しかし、地価が名目GDPの上昇率を超えて上昇した場合、すなわち、地価の対名目GDP比率が上昇し続けると、いずれ必ずバブルへと発展するのである。従って、地価の対名目GDP比率のことを、ここでは実質地価と呼ぶことにする。

次に、4ヶ国の実質地価の推移を表すグラフを下記に示す。


実質地価

実質地価で見ても、日本の下げ率の大きさは一目瞭然である。米・英・スウェーデンの直近の実質地価は、名目の地価ほどには上昇していない。アメリカは1987年1月を14%下回り、スウェーデンは24%、イギリスは13%上回っている。一方、日本は47%下回っている。グラフで表示されている34年の期間を眺めてみても、4ヶ国の中で、日本だけが異常に下げすぎである。アメリカも水準は少し低めであり、バブルからはほど遠い。イギリスとスウェーデンは過去34年間の中で高めの位置にある。ただし、高めであっても、過去最高を下回っており、バブルとまでは言えないと思う。今後も、実質地価が継続して上昇し続けた場合には、間違いなくバブルへと発展するであろう。現時点では、まだその少し手前に位置していると思う。

先にも書いたとおり、日本は2つの点で異常である。すなわち、地価が長期間下がり続け過ぎているという事実と、局地的でも地価が上昇すると「バブル」と呼ぶ心理が、異常なのである。局地的でも地価が上昇すると「バブル」と呼ぶ心理は、病的な心理であることを認識する必要がある。この心の病を認識して治療し、今後はモノの価格だけではなく、地価も同様に引き上げることが必要不可欠であることを理解すべきである。

地価が大きく下がった場合、実体経済に間違いなく悪影響を及ぼす。その中で最も悪影響が大きいのは、財政赤字の拡大である。地価が下がると、財政赤字の拡大につながりやすい。この「風が吹けば桶屋が儲かる」のように見える事実関係の間に、論理的な因果関係があることを示したいと思う。

まず、4ヶ国の実質GDP成長率の推移を表すグラフを下記に示す。


実質GDP

経済成長は、財政再建に貢献するとよく言われるが、必ずしも正しいとは言い切れない。財政状態が最悪の日本が、実質GDP成長率が最低であるのは当然かもしれない。しかし、後ほど示すように、財政状態が最も健全なスウェーデンは、実質GDP成長率に関しては、アメリカ、イギリスよりも低いのである。

次に4ヶ国のGDPデフレーターの推移を表すグラフを下記に示す。


GDP def

GDPデフレーターが10数年間マイナスが続いているのは日本だけである。日本だけが異常なのであり、他の3ヶ国が、普通なのである。

次に、名目GDPの上昇率の推移を表すグラフを下記に示す。


名目GDP

日本は4ヶ国の中で、名目GDPの伸び率が飛び抜けて低い。実質GDPの伸び率の低さも一因であるが、GDPデフレーターがマイナスの期間が長く続いた影響の方が大きい。2番目の原因として、地価などの資産価格の低下があげられる。地価が上昇すると消費が増えやすくなるという資産効果、それと反対の逆資産効果が考えられる(*1)。すなわち、地価が上昇し続けると、名目、実質GDPも増加しやすくなり、逆に地価が下落し続けると、名目、実質GDPも増加しにくくなる。

地価の変動のより大きな影響は、財政の歳入面に現れる。GDP統計における一般政府ベースでの政府の歳入の推移を表すグラフを下記に示す。


歳入

日本の歳入の伸び率が飛び抜けて低い。この間、消費税の増税や、社会保険料の継続的な上昇が続いている。そうした歳入増加策があったのにもかかわらず、実際の歳入の伸び率は非常に低い。これも、名目GDPの伸び悩みが大きな原因の一つである。しかし、地価などの資産価格が下落した影響も大きい。地価が上昇して企業がその土地を売却した場合、企業の土地売却益は、GDPに加えられることはない。しかし、他の所得による損失と相殺される場合を除いては、法人税がかかり、税収は増える。一方、地価が下落する場合、土地の売却損がGDPから控除されることはない。しかし、企業が、他で所得を獲得している場合には、本来なら他の所得にかかるはずであった法人税が、土地売却による損失分だけ控除され、納入する法人税の金額が少なくなる。また、地価が上昇し続ける場合、個人が獲得する土地の譲渡所得は、GDPに加えられることはないが、税収そのものを増加させることに違いはない。先に指摘した、地価の変動が資産効果、逆資産効果を通して名目GDPを変動させ、その結果として税収が変動することもある。つまり、地価が上昇する局面では、名目GDP以上に税収が増えやすくなり、地価が下落する局面では、名目GDP以上に税収は減りやすくなる。税収は、名目GDPに影響されるが、それにプラスする形で、地価などの資産価格にも大きく影響されるのである。

次に4ヶ国の歳出の推移を表すグラフを下記に示す。


歳出

日本の歳出の伸び率が一番低い。この原因の一つは、モノのデフレの結果、歳出が実体以上に低く見えることである。ただ、同時に、日本は、他国との比較では、無駄な歳出をガンガン増やしたのではないことも事実である。社会保障関連の支出は確かに増えているが、他の3ヶ国と比べて、歳出全体の伸び率は低い。なお、スウェーデンは、歳出の伸び率がアメリカ、イギリスよりも低く、同時にスウェーデンの歳入の伸び率とも近い。これは、スウェーデンが財政再建に強く取り組んできたという要因が大きい。しかし、日本の歳出は、歳出削減によって財政再建を強力に進めてきたスウェーデン以上に伸びていないことも事実である。

次に、財政赤字の対GDP比率の推移を表すグラフを下記に示す。


財政赤字

スウェーデンの財政赤字の少なさが目立つ。スウェーデンよりももっと歳出の伸び率を抑えた日本が最悪である。アメリカ、イギリスは、リーマンショック以前はまずまずだったが、その後急速に悪化した。それでも、2010年以降は、財政再建が急速に進んでいる。日本は、スウェーデンとは正反対に、バブル崩壊後、財政赤字の拡大傾向が、一時期を除いて続いている。

次に、政府純債務の対GDP比率の推移を表すグラフを下記に示す。


政府債務

財政赤字と同様に、日本の悪化ぶりが目立つ。日本の場合、1991年以降、政府純債務の増加のグラフと、地価の下落のグラフとが見事なまでに対称的な動きを示している。地価の下落は政府純債務の増加を引き起こす原因であり、「風が吹けば桶屋が儲かる」といった偶然ではない。しかし、地価の下落だけが政府純債務の増加の原因ではない。従って、ここまで高い対称性には、「風が吹けば桶屋が儲かる」といった偶然が含まれているはずだ。

4ヶ国の中で、スウェーデンの財政状態が抜群によい。普通、スウェーデンは財政再建に真剣に取り組み、日本は真剣に取り組まなかったことが原因とされる。しかし、日本は、スウェーデン以上に歳出の伸び率が低かった。歳出は他の3ヶ国ほどは伸びなかったが、日本の歳入よりは伸びた結果、財政状態は最悪になった。財政再建に取り組んだのは、日本もスウェーデンも同じであるが、日本は失敗し、スウェーデンは成功したのである。日本が失敗した理由は、スウェーデンとは異なり、財政再建が成功する環境が存在しなかったことが大きく影響している。

日本とスウェーデンの財政状態に決定的な差がついた環境とは、価格という環境の差である。スウェーデンは、モノのデフレに陥らなかったが、日本ではモノのデフレが長引いた。モノのデフレは、富を、債務者から債権者に移転させる。日本における最大の債権者は高齢の資産家たちであり、債務者は政府である。モノのデフレは、高齢の資産家に対してデフレ減税を大規模に実施したことと同じである。害しかない大減税が密かに長期間実施されていたのである。もう一つは、資産価格の差である。土地を例にとると、1991年に土地のバブルが頂点に達した後、日本の地価はその後23年間、ほぼ継続的に下落し続けてきた。一方、スウェーデンは、1991年に地価が頂点をつけた後、1993年までは下落したが、1994年以降はほぼ継続して上昇し続けている。この地価という資産価格の継続的な上昇が、歳入の増加に貢献しただけではなく、不況の拡大を防ぎ、財政再建に伴う痛みのバッファーにもなったのである。その結果、財政再建を進めることが政治的に可能となったのである。日本は、地価や株価が下落している中、1997年に消費税を増税して不況を誘発し、財政再建は失敗に終わった。地価などの資産価格が上昇し続けていたならば、消費税増税の結果としての消費不振を資産効果による消費増加がかなりの程度相殺し、財政再建を続けることが可能であったと思う。日本も、スウェーデンのように1994年以降、ほぼ継続して地価が上昇し続けていたならば、財政再建は成功に向かっていたはずである。

2009年は、リーマンショックの影響により世界的な景気後退が発生した年である。この年の地価の変動率は、日本-3.5%、アメリカ-13.0%、イギリス-7.4%、スウェーデン+2.0%であった。一方、財政赤字の対GDP比率は、日本-10.4%、アメリカ-12.9%、イギリス-11.3%、スウェーデン-1.0%であった。アメリカ、イギリス、日本は2009年の地価が下落したが、スウェーデンだけは地価が上昇した。スウェーデンも2008年-2009年は景気後退となったが、地価が下がらなかったスウェーデンは、景気後退を短期間に克服しただけではなく、財政収支の悪化を最小限にとどめることに成功したのである。日本では、地価の下落率はそれほど大きくはなかったが、超円高・株安という別の資産価格の変動を容認したため、大変大きな不況が発生した。不況で歳入が大きく落ち込む中、財政支出拡大により不況をくい止めようとしたため、財政赤字は一気に拡大し、財政再建は完全に挫折したのである。

安定的なモノと地価などの資産価格の継続的な上昇は、不況の発生を防ぎ、それでも発生してしまった不況の悪影響を最低限に抑えることを可能にする。モノと地価などの資産価格の継続的な下落が続いた日本では、しばしば不況が発生し、歳入が減少する中で、財政支出拡大という景気刺激策がとられ、財政赤字が拡大し、財政再建が挫折したのであった。これは、日本がモノと資産価格、特に地価の下落をあまりにも長期間放置し続けてきたことが原因であった。

地価の下落が定着すると、金融政策の効果が小さくなる。異次元金融緩和は2013年4月ではなく、それより20年前の1993年4月に実施されるべきであった。1993年4月実施ならば、相当大きな効果を上げることが可能となり、失われた20年は存在しなかったはずである。しかし、2013年4月ではあまりにも遅すぎた。長引く資産デフレの結果、国民のリスク回避性向が極端に高まってしまったからである。20年遅れたからには、効果のある金融政策を実施するためには、より大規模な金融緩和が必要になってくる。

追加の異次元金融緩和を何度も繰り返せば、間違いなく地価は上昇してくるはずだ。これは日本経済にとって非常に良いことであり、必要なことである。しかし同時に、問題点も必ず発生する。人口減少下での地価は、全国で平均的に上昇するのではなく、人口減少率の低い地域のみが急激に上昇することが間違いないからである。私は、(*2)の後半部分で、地価の上昇率が高い地域の土地の保有や売買に対する増税を提案した。こうして、異次元金融緩和を大幅に上回る金融緩和を実施し、同時に地価が上昇する土地に対して重点的に増税を実施したならば、土地のバブルを抑制することが可能になるはずである。

従来の日本、特に日銀においては、とんでもなく誤った宗教が信じられていた。日銀が国債購入を増やすと、政府は安易に歳出を増加させ、財政赤字が拡大し、ハイパーインフレが発生し、日本経済は破綻するという宗教である。これは、1932年-1949年という準戦時経済体制、太平洋戦争という国家総力戦、敗戦による経済の崩壊という特殊な環境の下で発生した事実であり、一般化してはいけない事実である。日銀の国債購入は、アメリカ、イギリスのようにバブル崩壊直後ではなく、バブル崩壊から10年も経過した2001年からとあまりにも遅すぎ、同時に金額が小さすぎた。その結果が、モノのデフレと円高、株価の下落、そして、23年にも及ぶ地価の継続的な下落である。地価の下落だけは、現在進行形である。こうした環境下では、財政再建を不可能にする不況の発生が避けられない。政府債務を累積させ、世界ではギリシャと並んで最も悪く、歴史的にも1945年と変わらないくらいまで財政状態を悪化させた最大の主犯は日銀であった。日銀が財政破綻につながると誤った宗教を信じた結果、日銀による国債購入を遅らせ、財政を破綻寸前にまで追い込んでしまったのである。

日銀は、いい加減にこの誤った宗教を100%放棄しなければならない。黒田体制になって、変化はあった。しかし、審議委員の話などを聞くと、これ以上の金融緩和は副作用が大きいと話すなど、現状以上の金融緩和はなんとしてでも避けたいという、白川体制の頃と全く変わっていない内容の話が多すぎる。国債をもっと買おう。ガンガン買いまくり、発行済国債を全部日銀が買い占めよう。そうすれば、地価は必ず上昇に転じる。そして地価が上昇する土地に対する税金を大きく引き上げよう。このような増税こそが、税収を増やし、財政再建を可能にしてくれるのである。モノのインフレが発生すれば、所得税を引き上げ、消費税の追加引き上げも考えても良い。

増税という財政再建策が可能になる条件は、モノや資産の価格が上昇することである。価格が上昇している間は、価格上昇率を抑制するという名目で、増税の実施が可能になり、実際に財政赤字が縮小する。そのことは、アメリカ、イギリス、スウェーデンの経験と、財政赤字を表す先に示したグラフが証明している。一方、モノや資産の価格が下落する局面での増税は、景気をいっそう悪化させるだけで税収は増えず、財政赤字をかえって拡大させてしまう。その事実は、日本の経験と、歳入と財政赤字を表す先に示したグラフが証明している。財政赤字拡大と政府債務拡大の先には、金利の急上昇という財政破綻への道しか残されていない。

あまりにも長期間、日銀が誤った宗教を信じ続けた代償は大きすぎる。代償の具体的な中身は、日本経済の老化現象という治療がほとんど不可能な病気を、10年以上前倒しで発生させたことである。今さら、金融緩和を強化しても、もはや取り戻せないものが多すぎる。それでも、少しでも多くのものを取り戻すためには、日銀が国債を大量に購入し、地価の引き上げを目指すことは、最低限必要である。それを実施した場合でも、取り戻すことができないものが多いため、日本経済の再生には不十分であるかもしれない。しかし、増税という財政再建策が可能になり、金利の急上昇による財政破綻だけは、最低限、回避することが可能になる。従来の日銀が、財政破綻を引き起こす禁じ手としてきた大規模な国債購入策こそが、財政破綻寸前に陥っている現在の日本の財政を再建へと導く唯一の政策であるのだ。

個人消費不振の真の原因(*1)
インフレ抑制とバブル防止を利用した財政再建策(*2)



人気ブログランキング

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

空回りする金融政策 効果を発揮する金融政策への転換

今年に入って、消費税増税後をにらんだ駆け込み需要により、足元の景気動向は非常に堅調である。生産はピークを超えたであろうが、販売は3月いっぱいは堅調であろう。では、昨年までの景気は、何が原因で回復し続けていたのであろうか。統計をよく観察してみると、昨年の景気回復の原動力は、明らかに財政支出の拡大が最大の貢献をしていた。金融政策の効果はどうであるかを考えると、水面下では大きな効果を発揮しているにしても、表面に現れて数値化され、誰にもわかりやすい部分での効果は、非常に限定的なものでしかない。

反リフレ派は、金融緩和に効果がないと、今でも元気に主張し続けている。現時点では、景気回復が順調に続いているので、その声が世論一般に広く受け入れられてはいない。しかし、反リフレ派が現在でもピンピンして元気でいるのには、大きな理由がある。それは、昨年までの景気回復において、金融政策の寄与度が極めて小さなものであったからだ。リフレ派は、景気回復の原因は、金融政策の結果であると主張している。この論争に関しては、私は、反リフレ派の主張により多くの真実が含まれていると考えている。昨年1年間、特に昨年後半においては、金融政策は、ごく一部しか効果を発揮していない。その根拠を、次に説明することにする。

まずは、過去3年間の実質GDP成長率の推移を表すグラフを下記に示す。


実質GDP

2013年に入って、実質GDPはプラスの成長率が続いている。大胆な金融緩和を先取りして円安株高が発生したのが、野田前総理が衆議院の解散発言をした2012年11月14日である。そして、大胆な金融緩和が具体的なものとして現実化したのが、2013年4月4日の異次元金融緩和の開始である。2013年に入って、実質GDP成長率が大きく増加したことは事実である。しかし、2013年後半になると、実質GDP成長率は鈍化している。

次に、過去3年間の実質GDP成長率、それに寄与した公需(政府最終消費支出+公的固定資本形成+公的在庫品増加)、および、「GDP-公需」のグラフを下記に掲載する。


GDPと公需の寄与度

薄水色の棒グラフが、実質GDP成長率を表す。その右の黄緑色の棒グラフが、公需を表す。2013年に入ってから、公需はGDPに対して高水準の寄与度を示している。昨年後半に限っても、比較的高い寄与度を示している。その右の薄赤色の棒グラフが、「GDP-公需」である。昨年前半は、大幅なプラスの寄与度を維持していたが、昨年後半から、寄与度はマイナスに転落している。GDPのプラス成長、公需の大幅な増加、「GDP-公需」のマイナス成長、これが意味するところは、昨年後半のGDPの成長は、多くは公共投資という形態をとり、一部は社会保障という形態をとった政府支出、すなわち公需によって支えられた成長であるということだ。仮に、公需の増加率がゼロであった場合、実質GDP成長率は、2四半期連続のマイナス成長となり、アメリカ流の定義で言えば、景気後退が発生していたことになる。そうした景気後退の発生を食い止めることができたのは、公共投資を中心とする公需の増加があったからである。昨年後半は、公需の増加がなければ景気後退に陥っていたのであり、金融政策は目に見えるプラスの効果を少ししか発揮していないのである。

次に、なぜ「公需がなければ景気後退」という状況になったのかを、GDPを民需と外需に分けてみることにする。


内外需の寄与度

内需=民需+公需である。薄赤色の公需も含めた内需は、比較的強い増加率を維持している。しかし、黄緑色の外需が昨年後半に大幅なマイナスになり、薄水色のGDP成長率を大きく引き下げている。外需、すなわち輸出よりも輸入が大きく増加し、内需による成長を不可能にしているのである。

次に、民需を(民間最終)消費、住宅(投資)、(民間企業)設備投資に分けたグラフを下記に示す。


民需の寄与度

薄水色の民需は、前のグラフで示したとおり、堅調な推移を示している。その中で健闘しているのは、薄赤色の消費である。これは、後に示すが、資産効果の影響が大きい。黄緑色の住宅は、GDPの3%しか占めないので、健闘してはいるが、大きく寄与することはできない。しかも昨年の後半は、消費税増税前の駆け込み需要がプラスに働いている。薄橙色の設備投資であるが、これは、過去1年間、プラスを維持しているが、寄与度が小さいままである。

このように、2013年後半の景気は、外需はマイナスであり、民需の伸びは高くなく、明らかに公需によって、かろうじてプラスの成長率を維持してきたのであった。

次に広義の賃金である雇用者報酬(「賃金+企業の社会保険料負担」×雇用者数)の、少し長めの推移を表すグラフを下記に示す。


雇用者報酬

直近において、名目の雇用者報酬は増えているが、インフレ進行の結果、実質雇用者報酬は伸び悩んでいる。消費の元となる雇用者の実質報酬は、あまり増えていないのである。それにもかかわらす消費が好調な理由は、株高による資産効果の影響が大きい。以前、日本の消費は、個人の保有する資産金額が増えないので低迷が続いていることを示したことがある(*1)。直近の株高による資産効果は、過去と比較した場合でも、大きいほうである。高齢の資産家が、株価の値上がりのため、高額商品を大量に買っているようである。なお、1997年4月の消費税増税後に、雇用者報酬が大きく落ち込んだ推移は、上記のグラフで確認していただきたい。

次に、インフレ率の変動を、GDPデフレーターで見ることにする。


GDPデフレーターの推移

GDPデフレーター上昇率が、消費者物価上昇率より低めに出ることは、昔から変わっていない。日銀の物価目標は、消費者物価で前年比2%上昇である。しかし、異次元金融緩和を実施する際、必要なマネタリーベースの金額を算出するために、マッカラムルールの式に使用したGDPデフレーターの値は、1%(実質GDP成長率=+2%、名目GDP成長率=+3%)であったはずである。日銀は、GDPデフレーターの目標を1%と置いているのである。GDPデフレーターは、国内物価だけの上昇率を示すものであり、輸入物価の上昇分は差し引かれる。

GDPデフレーターは、野田前総理の解散発言があった2012年10-12月期には-0.7%であったが、2013年10-12月期は-0.3%になっている。デフレの幅は縮小しているが、依然としてマイナスである。消費者物価上昇率が、1%を超えて上昇しているにもかかわらず、GDPデフレーターがマイナスである理由は、昨年末までのインフレの全てが、国内生産品の値上がりではなく、輸入品の値上がりに依存したインフレであることの証拠である。消費者物価は日銀の予想通りに順調に上昇しているが、その大元の原因は、円安を通じる輸入インフレであった。4月以降は、賃金上昇の明確化と消費税増税の結果、GDPデフレーターも2%以上の上昇に転じるであろう。しかし、円安が進行しないかぎり、輸入インフレの分は、値上がり幅が低下してしまう。消費税増税分を除く消費者物価の上昇率は、賃金上昇率+輸入物価上昇率に近くなる。4月以降は、円安進行がなければ、賃金上昇率は上昇しても、輸入物価上昇率は低下するので、その合計が、大きく上昇する可能性は低いと言わざるをえない。

以上、見てきたとおり、現在の日銀の金融政策は、目に見える効果については、一部しか発揮できていない。景気回復への寄与度の中で目立つ点は、株高を原因とする消費の拡大である。しかし、これは、株価が継続して上昇し続けないかぎり、その勢いは失われてしまう。物価の上昇も、金融緩和が原因であるが、円安が進行したからこそ可能であった輸入インフレである。輸入インフレは、円安進行が止まれば、消えてしまう。

ここで重要な点は、金融緩和の効果が、「見える形では」現れていないということである。見えないところでは多大な効果を上げている。私は、金融緩和の結果としての円安株高が、景気回復に非常に大きく寄与してきたと繰り返し書いてきた。異次元金融緩和を実施しなかった場合と比較すると、実質GDP成長率を大きく引き上げたことは間違いない。異次元金融緩和が実施されなかった場合、日本経済の供給サイドは超円高によって今よりもはるかに弱体化し、日本経済はどうしようもないほど没落してしまっていた可能性が高い。

例えば、シャープという会社は、今のところすぐに倒産するような状況には置かれていない。理由の一つは、円安の直接的な影響により、営業利益が拡大したからである。もう一つの理由は、円安の結果として株高が発生したため、約1400億円にも及ぶ増資が可能となったからである。2012年11月以降も、円高株安が続いていたならば、シャープは間違いなく、倒産か外資系企業に買収されていたであろう。そして今頃は、ソニーとパナソニックのどちらが先にシャープ化するかで大騒ぎになっていたはずである。しかし、2012年11月以降の円安株高により、シャープ、ソニー、パナソニックは、倒産という現象からは、かなり遠くなっている。円高により回復不能の大打撃を受けた部分は、現在でも回復してはいない。それでも、倒産の可能性が大きく低下したことは、金融緩和とその結果として生じた円安株高の大変大きな効果である。しかし、この話は、「仮に円高株安が継続していたならば、日本経済は、より大きく弱体化していたはずだ」というタラレバのつく話である。従って、理論的、科学的には正しいのであるが、普通の人たちに対する説得力が大きいとは言えない。金融緩和の大きな効果であっても、「目に見える効果」ではないのである。

2012年11月以降の円安進行の結果、貿易赤字は拡大している。因果関係としては、円安にもかかわらず、貿易赤字が拡大していることを(*2)で説明した。経済現象は複雑である。いくつかの現象の間の相関関係を見つけ出すことは難しいことではない。しかし、因果関係を正確に説明することは、簡単ではないことも多い。特に、相関関係がない場合に、因果関係が存在することを、万人に対して説得力のある形で説明することは非常に難しい。そのため、経済学者、エコノミストの間で、経済に対する見方が大きく分かれてしまうのである。意見が分かれるだけではなく、誰もが、万人に対して説得力のある正しい説明ができないことが多いのである。2012月11月以降に円安→輸出拡大・輸入縮小→貿易収支の赤字縮小・黒字への転換→実質GDP成長率の拡大、という現象が発生していたと仮定する。それならば、円安が貿易黒字を拡大させ、実質GDPの拡大につながったという、わかりやすくて説得力のある説明が可能になる。この場合、反リフレ派は、白旗を揚げるしかなかったであろう。

しかし、実際には、円安発生の後、貿易赤字は拡大し、実質GDP成長率を引き下げたのである。また、「円安にもかかわらず、貿易赤字が拡大」という私の説明は、私個人の考え方であり、リフレ派の中でも、説明の仕方はバラバラである。「貿易赤字は時間がたてば縮小する」、「貿易赤字の拡大は騒ぐほどの大きな問題ではない」、「貿易赤字の拡大を問題視するのは、重商主義的な考え方であり、誤りである」。こうしたリフレ派のバラバラな意見が広まると、普通の人が聞いた場合、「円安が貿易赤字を拡大させ、実質GDP成長率を引き下げている」という反リフレ派による、正しくはなくともシンプルな因果関係の主張が、より広く正しいと世論一般に受け入れられる余地が生じてくるのである。

景気回復が継続するかぎりにおいては、世論一般のリフレ政策に対する支持率が下がることはないと思う。結果よければ、すべてよし、なのである。しかし、目前において、消費税増税という大変大きな不確実性のある政策が実施に移される。仮に、ここでつまずき、景気回復に変調をきたすようになれば、普通の人たちの、リフレ政策、リフレ理論全体に対する信用も同時に大きく失われてしまう可能性が高くなる。消費税増税は以前から決定されていた話である。反消費税増税のリフレ派も多い。しかし、リフレ派の最高のリーダーである、黒田日銀総裁、岩田副総裁は、消費税増税の積極推進派であり、消費税増税が、リフレ政策に害を及ぼすほどの大きな悪影響をもたらすことはないと、繰り返し主張している。私自身は、消費税増税の景気に対する悪影響を非常に大きく評価しながらも、消費税増税自体には賛成するという、非常に理解を得られにくい少数派の立場に位置している。このような場合、原因が消費税増税であろうと、なかろうと、景気回復が思わしくなくなってくると、反リフレ派からの批判は間違いなく強まる。「リフレ派が主張していた円安株高の後、景気回復が続くことはなかった」、「円安になっても輸出は減少し、景気の足を引っ張っている」、「従来の景気回復は財政政策の結果であり、リフレ政策の結果ではなかった」、「リフレ政策という壮大な社会実験は完全に失敗した」、という様々な批判が、正誤とは無関係に、普通の人たちに対して強い説得力を持つことになるのである。

「現在の景気回復に対して、異次元金融緩和は、少なくとも、目に見える形では、効果を少ししか発揮していない、景気回復は、主として財政政策のおかげである。」という事実を、リフレ派は認めるべきである。金融政策の効果が現れるまで2年必要であるとよく言われるが、2年というのは最長である。株高による資産効果は、株高開始直後から始まっており、株高が続かなければ、時間がたつうちに消えてしまう。実質金利の低下の効果が発揮されるまでは、2年近くかかるであろう。ただ私の意見では、実質金利の低下という伝統的な金融政策の効果は小さい。「金融政策は馬を川に連れていくことはできるが、馬に水を飲ませることはできない」という伝統的な考え方は、全く誤った考え方であるが、実質金利低下の効果に対する反論に限った場合、かなりの程度の真理を含むと考えている。

異次元金融緩和が開始されて1年近くたつのに、予想通りの成果が現れていないのである。しかし、目に見えにくいところでは効果を発揮しているので、リフレ政策そのものが間違っているのではない。リフレ政策の規模が小さすぎることが大きな原因なのである。

消費税増税があろうとなかろうと、現在の金融緩和の規模は小さすぎる。2012年11月-2014年2月の16ヶ月間に、証券売買だけで31兆円もの巨額の資金が国外から国内へと流入している。普通、異次元金融緩和のような大規模な金融緩和を実施した場合、資金が国内に31兆円も流入することが起こるはずがない。起こるとすれば、31兆円の国外への資金流出のほうである。金融緩和を強化すると、インフレ期待が発生し、金利が急上昇すると警告する人が無数に存在した。しかし、実際に発生していることは、その正反対の動きなのである。現在の日本国内の投資家は、大規模な金融緩和が実施に移され、インフレが進行しても、資金をリスク資産から無リスク資産へと大規模に移動させ、インフレによる資産の目減りの方を積極的に選択しているのである。年率2%程度のインフレによる無クリス資産の目減りの金額は、過去に被ったリスク資産に対する投資での大損よりも、はるかに金額が少ないことが一つの原因である。過去20数年間続いた資産デフレの結果、日本国内の投資家は、リスクを極端に回避する行動をとるようになった。その結果、多くの日本人は、従来の経済学の常識では考えられないような行動をとるように変化してしまったのである。

従来の経済学の常識が通用しない日本においては、従来の経済学の常識通りの経済政策では効果が上がらない。日銀が年間ネットで50兆円の国債を購入し、マネタリーベースを年間60兆円~70兆円増やすという政策は、常識的に考えたならば、十分すぎる金融緩和である。だが、現在の日本では、その常識は通用しない。少なくとも、日銀がネットで年間100兆円、200兆円、あるいはそれ以上の規模で国債購入を続けなければ、目に見える成果が上がらないという特殊な経済構造へと、現在の日本経済は変化してしまっているのである。日銀はそうした日本経済の特殊な構造への変化を理解し、大規模な追加緩和を一刻も早く実施しなければならない。インフレが進行すれば、追加増税によるインフレ抑制と財政再建を強力に進めれば良い。その結果、金融政策の効果が、「目に見える効果」、「万人を納得させることのできる効果」へと変化し、リフレ政策の正しさが証明されるのである。

個人消費不振の真の原因(*1)
貿易収支の黒字復帰 可能であり必要な政策(*2)

人気ブログランキング

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

全記事表示リンク
目次のページを表示

株式関連 株 コメント一覧

  • 投資部門別 現物先物 時系列表

  • 投資部門別売買状況 時系列グラフ

  • 8月第2週 株 コメント

  • 8月第1週 株 コメント

  • 7月第4週 株 コメント

  • 7月第3週 株 コメント

  • 7月第2週 株 コメント

  • 7月第1週 株 コメント

  • 6月第4週 株 コメント

  • 6月第3週 株 コメント

  • 6月第2週 株 コメント

  • 6月第1週 株 コメント

  • 5月第5週 株 コメント

  • 5月第4週 株 コメント

  • 5月第3週 株 コメント

  • 5月第2週 株 コメント

  • 5月第1週 株 コメント

  • 4月第4週 株 コメント

  • 4月第3週 株 コメント

  • 2016年 年間 株 コメント

  • 投資部門別売買状況アノマリー

  • 日本株 株式分布状況調査

  • 日銀資金循環統計 株 長期グラフ

  • 日銀資金循環統計 株 コメント

  • 株式先物投資部門別売買状況

  • 大手証券 先物建玉推移 グラフ

  • 海外投資家の株式買い越し金額

  • 世界の株価 国別 長期推移

  • 世界の住宅用不動産価格

  • 長期の実質実質為替レート

  • 最新記事
    カテゴリ
    最新コメント
    Twitterを表示
    経済指標が意味するところを解説
    FC2カウンター
    最新トラックバック
    検索フォーム
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR
    RSSリンクの表示
    Web Analytics