外国人投資家の日本債券買いの問題点

前回、外国人投資家の日本株買いについての問題点を指摘した。今回は、外国人投資家の日本債券買いについての問題点に言及してみたい。

まず、国際収支の中で、外国人投資家の日本債券買いの占める大きさを見るために、下記の表を示す。


日本の国際収支の主な内訳

国際収支の中で、為替変動に影響を与える規模の大きいものは、経常収支と投資収支がある。国際収支統計が現行の方式に改定された1996年から2012年11月までの年平均の経常収支は14.4兆円の黒字、投資収支は8.3兆円の赤字であった。この状態が続くと、為替の需給が均衡せず、円高に向かうはずである。そこで、表には無いが、年平均5.8兆円のマイナスの外貨準備の減少=為替介入が実施され、その結果、為替の需給が均衡し、円高の進行が阻止された。投資収支の中では、直接投資、証券投資、その他投資収支の3項目が重要な項目である。これも表には無いが、直接投資は、年平均4.7兆円の赤字であり、毎年安定した赤字が続いている。ここでは、投資収支の中の、外国人投資家の日本債券買いを中心に分析を進めることにする。その際、投資収支の中の、外国人投資家の日本株買い、日本人投資家の外国株、外国債券買い、及び、その他投資収支についても、関係があるので同時に分析を進める。そして、外国人投資家の日本債券の売買の大半が、日本国債(厳密には日本国債プラス財投債)であるため、ここでは、日本債券と日本国債を区別せず、同義として使うことにする。

上記の表を見て分かるとおり、日本人投資家は、ほぼ継続して、外国株式、外国債券を購入している。一方、外国人投資家はプラスマイナスを繰り返しているが、年平均を見ると、日本株を4.5兆円買い越し、日本債券を4.7兆円買い越している。為替への影響という点では、外国人投資家の日本株買いの影響よりも、外国人投資家の日本債券買いの影響の方が、少し大きい。それ以外に、その他投資収支と言うものがあり、年平均では1600億円とわずかな黒字である。しかし、年ごとに見ると、2007年には、24.6兆円の赤字を記録し、翌2008年には、19.6兆円の黒字を記録している。その他投資収支の中には、巨額の投機的な資金が含まれている。その他投資収支は、短期の為替相場の決定においては、最も大きな影響を及ぼす。しかし、長期の相場水準に対する影響力は無い。

次に、外国人投資家の日本国債保有額を、他の日本人投資家の日本国債保有額とを比較することにする。

国債等の保有者内訳
上記のように、外国人投資家の日本国債の保有額は、最近、急速に増えつつある。国債発行残高に占める比率は、2012年9月末時点で11%である。同時点おいて、外国人投資家のアメリカ国債の保有比率は48%である。保有比率という点に関しては、まだアメリカのように外国への依存を心配するレベルには達していない。上記のグラフの出所元である日銀の資金循環統計に加え、財務省の国際収支統計、本邦対外資産負債残高統計、日本証券業協会の公社債投資家別売買高統計も合わせて見ることにより、外国人投資家は、短期国債と、長期の中でも残存期間が比較的短い国債の保有比率が高いと推定する。日本人投資家で国債保有額を増やしているのは、少し前までは、郵便貯金を含むその他金融機関であった。直近では、保険、銀行、日銀の国債保有額が増えている。

次に、外国人投資家の日本国債の売買を、他の日本人投資家の日本国債売買と比較することにする。

国債等の保有者の売買状況
見づらい表であるが、外国人投資家の売買である黒色のマーカーの入った線の直近の動きを見ていただきたい。直近の3年間、厳密には、2010年4月-2012年9月の間の2年半であるが、この期間の日本国債の増加額に占める外国人投資家の保有増加額の割合は39%にもなる。つまり、日本は、過去2年半の間、新規国債の発行において、売却先の主体のうち39%は外国人投資家に依存していたことになる。これは相当大きな比率であると言える。ストックと言う点ではまだ心配は不要であるが、フローという点では、心配すべき状況が既に発生してしまっている。もし外国人投資家が日本国債を買わなくなったり、売り方に回ったりしたならば、日本国債の金利が上昇する可能性が発生しつつある。日本は財政赤字の金額は大きいが、国債の大部分は日本人投資家が買っているので問題は無い、と言う話は既に過去の話になってしまった可能性がある。

上記の2つのグラフは、昨年9月までのグラフであるので、財務省の統計を使って、昨年10月以降の動きを見ることにする。この間、当時の野田総理の衆議院解散発言があった11月14日を境にして、急速な円安・株高が始まったので、その変化と合わせて観察することにする。まず、外国人投資家の日本株、日本債券の売買を示す。

外国人投資家の日本株、日本債券の売買

次に、日本人投資家の外国株、外国債券の売買を示す。

日本人投資家の外国株、外国債券の売
昨年11月14日を境にして、明らかに大きく変化したのは、外国人投資家の日本株買いの金額の増加と、日本人投資家の外国株売りの金額の増加である。しかし、よく見てみると、外国人投資家の日本債券買いの金額も増加しており、日本人投資家の外国債券買いの金額は減少している。つまり、証券投資収支を4つのセクターに分けてみると、11月14日以降、全てのセクターにおいて、資金の流れが、日本国内から国外への流出方向ではなく、日本国外から国内への流入方向の金額が増えている。証券投資収支の黒字額が拡大しているのである。これは、11月14日を境にして、証券投資収支に関しては、円買い・ドル売りの金額が大きく増加していることを示している。にもかかわらず、為替は円高・ドル安の方向に向かわず、円安・ドル高の方向に向かった。その理由は、11月14日を境にして、その他投資収支を通じた投機的な資金による、大規模な円売り・ドル買いが発生したからである。昨年11月については、国際収支統計が既に発表されており、間違いないことが確定している。統計が未発表である12月以降についても同様であることは、ほぼ確実だと思われる。11月14日以降に注目されたのは、当時の安倍自民党総裁による、大胆な金融緩和、2%のインフレ目標の発言であった。安倍氏の政策が実現されると、一部の日本人投資家と多くの外国人投資家は、金融緩和が強化される結果、円の価値は下がり、外貨の価値は上がると予想したはずである。にもかかわらず、証券投資に関しては、価値の上がると思われる外貨建て資産には売りが増加し、あるいは、買いが減少し、価値が下がると思われる円建ての資産には買いが増加しているのである。外国人投資家の日本株買いに関しては、円安の不利益よりも株高の利益の方が大きいからだとの説明が可能である。それ以外の売買については、説明しづらい現象が起こり続けている。ただ、株、債券と言った商品の場合、価格変動の理由が説明しづらい状況は、しばしば発生する。一方、その他投資収支については、11月14日を境にして、投機家たちの大規模な円売り・ドル買いが発生した結果、為替が、円安・ドル高方向へ動くという説明のつく動きを示している。 

以上のように、現在の円安・ドル高は、もっぱら投機的な資金の動きによって支えられている。長期の為替レートに大きな影響を与える証券投資収支の赤字化は起こらず、逆に黒字額が拡大している。投機家の多いその他投資収支の大幅赤字は、長ければ3年くらいは続くと思う。しかし、5年、10年も続くことはありえない。円安・ドル高を継続させるためには、直接投資収支の赤字に加えて、証券投資収支も赤字に変える必要がある。そうした状況が発生したならば、円安・ドル高の定着による輸出拡大を通じて、日本国内における所得創出能力が高められ、新規発行の国債の最終的な販売先を、外国人投資家や日銀に頼らなくても済む元の経済構造に戻すことが可能になる。

前回、日銀の資産購入について、超長期と長期の国債に集中させるという政策により、円安と株高が発生しうることを説明した。今回は、債券投資収支の大幅な赤字化を通じて投資収支を赤字化させる対策、金融政策を考えてみる。一つの例として、貸し出しから国債購入へとオペの内容を大きく変更することがあげられる。先に記した通り、外国人投資家の日本国債のポートフォリオは、残存期間が中短期である国債の占める割合が高いと推定される。資産買入等の基金において、現在予定されている今年の国債購入額は20兆円、短期国債購入額は15兆円である。昨年末の時点で、資産買入等の基金で運用されていた貸出金は27兆円であった。また、貸出支援基金として、2014年3月までに、15兆円前後の貸し出しを増やすことを予定している。この資産買入等の基金で運用されていた27兆円の貸出金と、15兆円前後の増加が見込まれている貸出支援基金の合計42兆円を、貸し出しではなく、国債の購入に回すのである。そうすると、今年の日銀による国債購入額は62兆円、短期国債購入額は15兆円、合計77兆円を国債と短期国債の購入に回すことになる。来年度の国債の市中発行額は、2年債で34.8兆円、5年債で、32.4兆円、合計で67.2兆円である。これ以外に、残存期間が中短期の国債は、数百兆円レベルで存在する。従って、外国人投資家の好む中短期のゾーンの国債を吸収し、外国人投資家の日本国債買いを完全にブロックすることは出来ないが、買いにくくする効果は有ると思う。外国人投資家の日本国債買いの金額が減少すれば、円安がより一層進行し、結果として、外国人投資家の日本国債買いを大幅に減らしたり、売り越しに転じさせたりすることも可能だと思う。日本人投資家による外国債券買いは、ほぼ間違いなく継続するので、債券投資収支の赤字化は可能だと思う。債券投資収支の赤字額を拡大させ、株も含めた証券投資収支も赤字化が出来れば、より望ましい。直接投資収支は常に赤字であるので、投資収支全体の赤字を拡大定着させることが出来れば、安定的な円安が続き、輸出が伸び、経常収支の黒字が拡大し、定着する。

大胆な金融緩和と言う政策が成功するカギとなるのは、円安・株高という現象を、緩やかでよいから、できるだけ長期間持続させることにある。現在の円安という現象は、投機家たちの売買による結果であり、安定的に長続きする構造にはなっていない。現時点では、大胆な金融緩和と言う政策が確実に成功する仕組みは、出来上がっていないのである。円高・株安方向への転換を阻止する方法の一つに、日銀が、現在の購入資産のポートフォリオを国債中心に組み替えて、外国人投資家の日本国債購入をブロックすることを図る、という政策があることは指摘しておきたい。それでも円高・株安が止まらない場合、資産買入等の基金での国債の購入額を増やす政策をとればよい。債券投資収支を大幅な赤字に向かわせ、その状態を持続させることが、大胆な金融緩和と言う政策が成功するための必要条件なのである。

当座預金に積み上がった資金を、いかにして銀行貸出に回すのかを考えるのは、古い考え方であり、生産的ではない。大胆な金融緩和という日銀による大規模な資産購入を通して、内外の投資家のポートフォリオバランスを変化させ、円安・株高の傾向をいかにして持続させるかを考える方が、新しい考え方であり、より生産的である。円安・株高が続き、景気回復と物価上昇が起これば、その時には、銀行貸出も多少は増加しているであろう。



(上記の記事の訂正)
国際収支統計(=確報)の数字
2012年11月 
証券投資 3兆0830億円の黒字 その他投資収支 2兆7173億円の赤字
2012年12月
証券投資 3兆2935億円の赤字 その他投資収支 5兆9172億円の黒字

国際収支統計では、速報値と確報値が大きく異なることがしばしば発生する。2012年12月もそうした月であった。証券投資収支の速報値は、2027億円の黒字であったが、確報値は3兆2935億円の赤字であった。外国人投資家が大量に日本債券を売却し、日本人投資家が外国債券を購入し、円売りドル買いの需要が発生した。それに対して、投機家が円買いドル売りをぶつけ、その結果、その他投資収支は大幅な黒字となった。速報値から予想した私の読みは、外れた。

しかし、その後は私が懸念した通りのことが続いている。詳しくは、「異次元金融緩和の効果」を参照されたい。

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外国人投資家の日本株買いと対外純資産の減少

私は、これまで何回も、量的緩和の強化、リフレ政策を訴え続けてきた。ただ、私は、現在の安倍政権下で主流となったインフレターゲット論者ではない。インフレターゲット論との間に共通点も多く、共感する点は多いのであるが、相違点もあるからだ。その一つとして、資産価格に対する考え方がある。普通のインフレターゲット論では、モノの価格を例えば2%前後に誘導することを、中央銀行の最大の任務と考える。私の場合は、モノの価格だけではなく、他のいくつかの要素も考慮しながら、金融政策を実施すべきだという立場である。他のいくつかの要素の一つとして、資産価格が上げられる。この考え方は、白川総裁の考え方と一部共通するところがある。白川総裁は、1980年代後半の時期において、末期以外は1%台かそれ以下の低いインフレ率であり、その時、土地や株といった資産価格が大幅に上昇し、バブルを招き、1990年代以降の日本の失われた20年の大きな要因になったと主張する。ここまでは共通するのであるが、この後が180度意見が異なる。日銀は、1990年以降、株、土地という資産の価格が下がるのを放置し、現在に至るまで、資産価格の下落をほとんど放置している。これは、日銀の重大な怠慢であると考える。2010年以降、日銀によるETFの買いが、日本の株価の下落幅を小さくした効果だけは認める。資産価格というのは、上がり過ぎるのはバブルであり、好ましくないが、下がり過ぎたり、下がったまま放置したりすることもまた、同時に好ましくないのである。資産価格の下落の放置が、いかに負の資産効果を通して、日本の消費回復を鈍らせたかを、(*1)で説明した。ここでは、もう一つの好ましくない現象、(*2)で指摘した外国人投資家の日本株の買い越しによる日本の株価上昇がもたらす負の効果について、もう一度説明する。

まず、現在の日本の株価の状況を、アメリカ、イギリスの株価と比較することから始める。

日本、アメリカ、イギリスの株価推移
現在の日本の株価は、アメリカ、イギリスと比べて、あまりにも低い水準が長続きしすぎている。データが入手できた1984年4月末-2012年末の29年弱の株価の推移を見ると、アメリカは上記の期間に11.2倍、イギリスは5.2倍値上がりしているが、日本はこの期間、5.6%値下がりしている。日本の場合、1990年代初頭のバブル崩壊以降、下落と低迷が長期間続いているのに対して、アメリカやイギリスは、2000年代の住宅バブル崩壊後の安値からも、大きく値を戻している。

しかし、これでも日本の株価は下げ幅が少ない方なのである。1982年以降の外国人投資家の日本株の売買状況を下記に示す。

日経平均株価と外国人投資家売買状況
基本的には、外国人投資家の買い越し金額=日本人投資家の売り越し金額である。1980年代のバブルの時期は、外国人投資家の売り越し=日本人投資家の買い越しで、株価は上昇を続けた。しかし、バブル崩壊以降は、株価が一時的に上昇している局面は、外国人投資家が大きく買い越している局面だけである。1991年-2012年の期間における外国人投資家の日本株の買い越し金額=日本人投資家の日本株の売り越し金額は、74兆円である。この間、日経平均株価は、1989年12月29日にピークの38,915円をつけ、2009年3月10日にボトムの7,054円まで81.9%値下がりし、2012年末に10,395円と73.3%下落した位置に回復しただけである。

こうした大幅な株価下落と外国人投資家の日本株の買い越しについて、記さなければならないことを三点上げてみたい。第一は、現在も株価の下げ過ぎという負のバブルが続いているという状況であり、こうした株価の低迷は是正されなければならないということだ。上記のグラフと、最初に示したグラフを合わせてみれば、明らかなことであろう。量的緩和の強化=バブル発生という意見がしばしば聞かれる。現在、考えなければならないのは、バブルの発生ではなく、負のバブルの解消の方である。アメリカ、イギリスでは、株価が既に住宅バブル崩壊前のピーク時近くまで戻しているのである。日本がバブル発生を警戒する水準に至るまでに、株価は相当大幅に上昇する必要がある。第二は、22年間に外国人投資家による74兆円の日本株の買い越しがなければ、日経平均株価は、もっと大きく下落していたはずであるということだ。日本の株価は、外国人投資家の74兆円の買い越しの結果、株価下落率が81.9%で収まったのである。外国人投資家が日本株を74兆円も買い越していなければ、株価の下落幅、下落期間はさらに大きなものとなり、株価下落が日本経済に与えた悪影響は、もっと大きなものになっていたことであろう。第三は、本来は、外国人投資家による74兆円の日本株の買い越しに依存するのではなく、バブル崩壊直後に、ゼロ金利と量的緩和を導入し、日本人投資家の日本株の売り越し金額を最小限にとどめるべきであったということだ。株価が長期間大幅に下落する中で、外国人投資家が74兆円の日本株を買い越した結果、株価が上昇した場合、対外純資産が減少するという、外国人投資家による日本株買い越しの負の効果が発生することになったのである。今となっては、その巨額の負の効果から、逃れることはできない。

一方、外国人投資家が日本株を買い越す間、日本人投資家はどのような行動をとっていたのであろうか。日本人投資家の主な主体の売買状況を下記に示す。

日経平均株価と投資部門別(除外国人)売買状況

1991年-2012年の期間における外国人投資家の74兆円の買い越しに対して、売り越しで向かったのは、個人の37兆円、自己の15兆円、生命・損害保険の13兆円、事業法人の9兆円、銀行の3兆円、投信の2兆円である。1996年に信託銀行という部門が新しく設けられ、その後、信託銀行は11兆円買い越した。個人投資家は、株価が上昇すると、必ず大量の売りをぶつけてきた。この結果が、上記の22年間に、個人投資家による37兆円という巨額の株の売り越しとなったのである。しかし、個人投資家が株式市場から資金を引き上げたのかというと、そうではない。個人投資家は、取引所という流通市場においては、37兆円も売り越しながら、新規公開、公募増資、売り出しなどの、主として株式の発行市場においては、37兆円前後の株を購入したと推定される。個人投資家の資金が株式市場から逃げ出した訳でも無いのである。自己の15兆円の売り越しというのは、CB、ワラントのつなぎ売り、取引所外取引で取得した株の取引所での売却などの特殊要因の積み上がりである。自己は、長期で見ればプラスマイナスゼロであるのだが、取引所の売買だけを見ると、特殊要因のため売り越しになりやすい。生命・損害保険、事業法人、銀行の売り越しは、持ち合い解消の売りである。ただ、事業法人は、過去10年ほどの期間では、持ち合い解消の売りよりも、自社株買いの金額の方が大きくなっている。1996年9月に新しく設けられた部門である信託銀行の11兆円の買い越しは、ほとんどが年金資金である。現在でも買い越し基調であるのだが、買い越すのは、株価の下落局面に限られ、株価の上昇局面では大幅に売り越すこともあった。なお、1996年8月以前の年金資金は、信託銀行ではなく、銀行の方に計上されていた。従って、22年間の3兆円の銀行の売り越しには、年金の買い越し金額が一部に含まれているので、実際には銀行の売り越し金額は3兆円より多く、信託銀行の買い越し金額は11兆円より大きかったはずである。

以前、(*3)において、量的緩和の強化があった場合、外国人投資家だけが日本株を買い越し、日本の株価は上昇すると指摘した。(*4)において、日本人投資家の相場観の中に、株価は上がらない=戻り売りでなければ儲からないという信仰=ヒステリシスが発生しているため、日本人投資家の買い越しで株価が上昇することが大変困難になっている構造を説明した。そして、(*2)において、外国人投資家による大量の日本株の買い越しが続いた後で日本の株価が上昇すると、日本の対外純資産が減少するという、負の効果があることを指摘した。ただ、(*2)の中の結論部分では、間違ったことを書いてしまった。量的緩和が強化されると、外国人投資家が日本株を買い越すことによる日本の株価上昇の負の効果=対外純資産の減少を、日本人投資家が外国株を買い越すことによる外国の株価の上昇という正の効果=対外純資産の増加で相殺すべきであると書いたことである。日本人投資家は、2012年に入って、外国株の売買は若干の売り越し基調を続けていたが、2012年11月14日以降、日本の株価が上昇すると同時に、日本株だけではなく、外国株も同様に売り越し基調を強めてしまった。こうした状況が続くと、日本の株価上昇が続く限り、日本の対外純資産は減少し続けることになる。

その構造を改めて説明するため、投資部門別の株式保有金額を下記に示す。

投資部門別の株式保有金額
上記のように、2012年3月末の外国人投資家の日本株保有金額は、81兆円であった。これは、日本の対外資産負債という観点で見れば、日本は外国に対して81兆円の負債を保有している、ということなのである。2012年3月末の日経平均株価は、10,083円であった。現在の外国人投資家による日本株の買い越しが続いて日本の株価が上昇し続け、仮に日経平均株価が2012年3月末の2倍の20,166円まで戻すと、外国人の日本株保有を通じた対外負債金額は162兆円以上に増加し、少なくとも81兆円の対外純資産が減少してしまうのである。3倍の30,249円まで戻せば、少なくとも162兆円の対外純資産が減少してしまう。日本の株価が上昇すると、日本の富は海外に流出し、対外純資産は減少し続けることになる。(*5)で指摘したように、円安になると日本の対外純資産は増加するのであるが、これは、あくまで円換算の対外純資産の増加であり、ドル建ての対外純資産には、変化がない。一方、日本の株価上昇の結果として失われる対外純資産は、ドル建てでも円建てでも失われることになる。外国人投資家からすれば、22年間日本株を買い続けて、損ばかりしていたのだが、ようやく大きな利益の出る水準まで日本の株価が上がってきた、という感覚であろう。こうした日本の株価上昇が、日本の対外純資産の減少につながるという事実に、もっと注意を払うべきだったと思う。

ここまで来てしまった以上、日本の株価上昇による対外純資産の減少額をゼロにする対策は無い。しかし、対外純資産の減少額を少なくする方法、金融政策は存在する。ただ、金融政策というものは、株価上昇の結果として起こる対外純資産の減少を減らすことだけを目的とするものではない。従って、下記のような政策を実施すべきということではなく、株価上昇を原因とする対外純資産の減少の金額を減らす方法を考えるならば、下記のような政策を実施するという選択肢があるということを述べることにする。

その前に、現在実施されている金融政策の実態について、少しばかり説明する。現在の政策では、日銀は、年間21.6兆円の長期国債を購入しているが、その購入時の平均残存期間は、2011年度において3.3年(日銀調査論文より)であった。資産買入等の基金では、残存期間が1年以上3年以下の国債を、2013年中に20兆円購入することになっている。なぜそんなに残存期間の短い国債しか購入しないのであろうか。理由は、主として出口戦略を考えてのことであると思われる。インフレが発生した時、国債の購入を停止すれば、日銀のバランスシート、あるいはマネタリーベースは、国債の償還によって急激に減少する。何もしなくても、金融引き締めが可能になるのである。日銀が財政ファイナンスをしているという批判を避けることも、一つの理由であるだろう。しかし、イギリスの量的緩和政策では、最初から国債の買いオペの対象は、購入時において残存期間3年以上の国債に限っており、購入時の国債の平均残存期間は軽く10年を越えていた。アメリカの量的緩和政策では、当初は残存期間の短い国債も購入していたが、オペレーション・ツイストにより、残存期間3年以下の国債を売却し、残存期間6年以上の国債に乗り換えている。出口戦略というのは、売りオペや償還の外に、準備預金率の引き上げ、超過準備に対する付利の引き上げなど、他にもいくつかの手段が存在する。出口戦略を考えることは必要であるが、考えすぎると、効果の上がる政策を採用できなくなる。

対外純資産の減少を少なくする方法は、外国人投資家ではなく、日本人投資家が日本株を買い越すことにより、日本の株価が上昇する環境を作り出すことである。日本証券業協会の統計によれば、昨年11月までの1年間の15年物-40年物の長期国債の残高は、発行27兆、償還3兆円で、24兆円増加している。同じ期間に、10年物国債の残高は、発行32兆円、償還21兆円で、10兆円増加している(四捨五入で1兆円の誤差発生)。こうした環境があるので、日銀が残存期間の長い国債の買いオペの金額を増やせば良いのである。年間21.6兆円の長期国債の購入は、残存期間11年以上のものに限り、20兆円の資産買入等の基金の国債購入は、残存期間6年以上の国債に限ると変更するのである。こうなると、従来、超長期、長期の国債を最も大量に購入してきた生保、信託銀行(主体は年金)にとっては、購入する国債が無くなるか、利回りが大幅に低下してしまい、他の資産を購入せざるを得ないように追い込まれる。長期国債の替わりになる資産は、日本株と外国債券が中心にならざるを得ない。そうなると、生保、信託銀行は、少なくとも、それぞれ年間数兆円レベルで日本株と外債を買い越さざるをえなくなる。この結果、外国人投資家主導では無く、日本人投資家主導の株高、円安が引き起こされる。外国人投資家は日本株の売り方に回り、その結果、日本の対外純資産減少の金額は縮小することになる。あくまでも縮小であり、ゼロにするという政策は存在しない。もう一つ付け加えると、日本の対外純資産減少の金額を最小限にする政策は、次の政策である。日銀が、今年購入予定である長期国債21.6兆円と、資産買入等の基金の34兆円、合計約56兆円の資産購入を、すべてETF購入に回す、という政策である。これは、中央銀行がリスク資産を大量保有することになり、採用不可能であるが、理論的には一番シンプルな政策である。

繰り返すが、上記のような政策は、株価上昇の結果として起こる対外純資産の減少を減らすことだけを目的とした政策であり、そっくりそのまま採用すべき政策であると言うつもりはない。しかし、日本の株価上昇に伴って、対外純資産が減少するという負の効果を認識するとしたら、残存期間の短い国債を大量に購入し、マネタリーベースを増やし、2%のインフレが起これば満足、という考え方だけでは、必ずしも十分ではないということがわかるはずである。外国人投資家による日本株の買い越しの結果、日本の株価が大きく上昇すると、日本人が、長期間、汗水流して溜め込んだ270兆円前後の対外純資産が、数十兆円単位で減少するという、実に馬鹿らしい現象が起こるのである。この現象を多くの人たちが認識すれば、インフレターゲットだけでは不十分であり、買いオペ対象の国債の残存期間の長期化などの政策も、同時に採用することが必要であることが理解されるようになると思う。

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日本の製造業 困難な再生への道

前々回(*1)、日本の電気機械産業が、実質的には急激な成長を遂げていることを示し、その成長を維持するための具体的政策として、「円安誘導」を提示した。今回は、ミクロ的な視点から、日本の製造業、電気機械産業が直面する、「円安誘導」だけでは解決しきれない問題点を指摘する。

まず、主要先進国における鉱工業生産指数の推移を見る。

OECD鉱工業生産
上記のグラフは、OECDのHPに掲載されている20ヶ国の鉱工業生産指数の推移を示したものである。全部で30ヶ国のデータがあるのだが、30ヶ国のグラフ表示は、数が多すぎるので、主要と思われる20ヶ国を選んで作成した。そのOECDには、アジアからは、日本と韓国しか加盟していない。日本のライバルでもある韓国の伸びは著しい。日本は、20ヶ国中14位である。日本より下の国は、経済危機に陥っている南欧諸国が多い。東アジアは「世界の工場」と呼ばれるが、日本は東アジアにありながら、欧米の先進国と同等かそれ以上に、製造業が衰退しつつある。

次に、日本の鉱工業生産の業種別の推移を見る。経済産業省が公表している日本の鉱工業生産指数は、17の業種に分類される(鉱業を除く)。その17業種の指数の推移を見ることにする。

日本の鉱工業生産 業種別

前回、内閣府の国民経済計算確報を用い、電気機械産業の実質GDPが爆発的に増加していることを示した。国民経済計算確報の電気機械産業に相当する業種は、電気機械工業、情報通信機械工業、電子部品・デバイス工業の3業種が近い。電子部品・デバイス工業はそれなりに伸びており、17業種のトップに位置する。情報通信機械工業は下落が著しく、17業種中、下落率がトップである。電気機械工業は17業種中の中位にあり、伸び率も微減である。鉱工業生産指数統計から見ると、電気機械産業が爆発的な伸びを示していることは読み取れない。統計の作成者である経済産業省のHPを見る限りでは、性能の向上を価格の低下、生産量の増加につなげる処理が、一部しか実施されていないからだと推測される。私の直感であるが、半導体や電子部品の微細加工に伴う性能の向上が、ほとんど反映されていないように感じられる。そしてまた、IT革命の中で、情報通信機械工業の衰退ぶりが著しいことが理解できる。

国民経済計算確報の電気機械産業に相当する電気機械工業、情報通信機械工業、電子部品・デバイス工業をさらにさかのぼって品目別に見ると、105品目になる。それを全部示すことはできないので、その中から、なじみのある製品を20品目を選んでグラフ化すると、下記のようになる。

日本の鉱工業生産 電機三業種 品目別
伸び率トップは、太陽電池モジュールである。国内需要は急拡大しているが、中国などからの安い輸入製品がシェアを拡大しつつある。この分野は、後で示す情報通信機械の製造とは異なり、絶えず技術革新が進行しているため、円高是正が進めば、競争力が再び強化されることが期待できる。2番目の発光ダイオード、すなわちLEDは、少し前までは、日本製品が世界のトップシェアを維持していた。現在は、サムスンなどの韓国メーカーに急激に追い上げられている。これも円高が是正されれば、再び競争力が強化されることは間違いない。半導体は種類によって伸び率が違う。伸び率の一番大きいメモリは、エルピーダのDRAMが思い浮かぶが、実際には、東芝のNANDフラッシュの占める割合が圧倒的に大きい。直近の伸びは、アップル特需だと思う。鉱工業生産指数の統計上のCCDには、CMOSが含まれている。「電子の目」であり、デジカメなどの基幹部品であるが、これはソニーのCMOS生産拡大の影響が大きい。CMOSは、日本に残されている半導体の中で、最も競争力を維持している分野であると言える。ロジックとマイコンは衰退への道を歩んでいる。そして、最も衰退している品目は、ビデオカメラ、液晶テレビ、携帯電話といった、情報通信機械工業に属する製品である。

いつも強調しているように、私はこうした日本の製造業の衰退の最大の原因は、円高、特にアジア諸国の通貨に対する超円高であると考えている(*2)。では、超円高が解消された場合、製造業の生産はすぐに回復するであろうか。実際に回復するためには、いくつもの大きな困難が伴う。その理由を三点に分けて説明する。

第一に、工業生産能力が、一旦、破壊されたならば、再生が困難になるというヒステリシスと呼ばれる現象が発生するからである。以前、株式市場のヒステリシスという表題で、日本の株価が上昇しにくい構造になっていることを説明した(*3)。ヒステリシスとは、1980年代のヨーロッパ諸国の高失業率の定着を説明するために使われるようになった言葉である。一旦、社会に高失業率が定着してしまうと、容易には失業率が下がらなくなることがありうる。例えば、労働者が、一旦、解雇されてしまって、長い間、失業状態にあった場合、それまで蓄積してきた技能を失い、再び元の職業に戻ろうとしても、元の職業に戻って働くことができなくなくなる可能性がある。こうした労働力全体の劣化現象が起こると、完全雇用失業率まで失業率は下がらず、長期にわたって高い失業率が続いてしまうかもしれない。1980年代のヨーロッパ諸国では、インフレ率の水準にかかわりなく、高失業率が定着する傾向が見られ、この現象は「ヒステリシス」と呼ばれることになった。こうしたヒステリシスという現象は、失業問題や株式市場だけではなく、企業や国家が保持する工業生産能力についても同様な現象が発生すると考えられる。超円高が原因で、企業が倒産するか、ある種の製品の製造から完全撤退する場合を考える。倒産か、リストラという名の企業の工場閉鎖、人員解雇、製造からの完全撤退が相次ぎ、その結果として、鉱工業生産指数が大きく低下し、外国からの輸入品に全面的に置き換えられたとする。そこで為替レートが大きく円安方向に戻った場合、どうなるであろうか。円安に戻ったからといって、日本企業が、以前製造を放棄した製品の生産を再び開始することができるであろうか。実際問題として、生産を再開することは、非常に困難か、不可能かのどちらかであろう。こうした再生困難な製造業の劣化現象は、一種のヒステリシスであることは間違いない。こうしたヒステリシスが発生した後となってから学ばなければならないことは、再び円高に戻して、今以上に製造業を破壊することだけは避けなければならない、ということである。

第二に、情報通信機械に属する製品の製造の困難さである。冷蔵庫などの白物家電は、国や地域ごとにニーズが違い、市場が分断されているのであるが、情報通信機械の場合、市場の分断が比較的少ない。従って、製造コストの安い地域で集中的に生産し、世界中で販売することが有利な製品が多い。上記のグラフで示されている通り、携帯電話やビデオカメラの生産は、長期低落傾向にあり、液晶テレビの生産は、急激に低下している。この分野では、主として台湾系のEMS(電気機械製品組み立ての受託企業)による中国生産が拡大しており、日本企業が国内製造で勝つことが難しくなりつつある。円安が定着したとしても、衰退のスピードを遅らせることはできるが、衰退そのものを止めることは難しい。競争相手が韓国や台湾ならば、購買力平価ベースの一人当たりGDPが日本とほとんど差が無いため、完全に円高が是正されたならば、日本製の製品の競争力は回復する。しかし、中国や東南アジアの多くの国の場合、円高是正が終わった場合でも、経済の発展段階の差から、賃金の格差は依然として残る。情報通信機械の製造は、付加価値が小さいため、台湾系のEMSの中国工場に、全面的に製造委託を進めても問題は無い、という考え方もある。しかし、中長期的に見れば、中国や東南アジアでは、賃金も通貨価値も上昇し、輸入品が割高になることは、十分に考えられる。先に示したとおり、一旦、製造から撤退した製品を、再び日本国内で製造することは、容易なことではない。日本企業も、日本国内で上位機種を作る工場を残したり、中国や東南アジアに自社の工場を作って製造を維持するなどの対抗策をとっている企業もある。生産コストの問題を考えると、現在の日本の大手電機が手がける情報通信機械の多くは、自社では開発と販売にほぼ特化し、生産は一部を除けば海外のEMSを利用する、という現状路線を拡大する道を進まざるをえないように思われる。この問題も、政府が政策を使って解決することが難しい問題である。あるとすれば、再び円高に戻して、海外生産への移転スピードを加速させることを防ぐことと、ロボット産業の研究開発を政府が積極的に支援し、諸外国に先駆けて、製品組み立ての無人工場の実現時期を早めることくらいであろう。

第三に、いくつかの業種で、日本企業が規模に関する収穫逓増の利益を失ってしまったことである。クルーグマンの新貿易理論によれば、一度、収穫定増の利益を失うと、自由貿易の仕組みの中では、永久に比較優位を取り戻すことが出来なくなる。その先は、撤退か倒産しか残らないかもしれない。収穫逓増の利益を失った業種の代表的な例は、半導体産業である。日本の半導体産業は、まだ残存しているが、円安が進行したとしても、過去の栄光を取り戻すことは非常に困難である。再先端の半導体製造工場を建設するためには、数千億円レベルの投資資金が必要である。日本には、メモリ分野では、東芝やエルピーダが最先端レベルの工場を保有している。しかし、ロジック分野では、台湾のTSMCが最先端の技術を使った巨大な工場を保有しているのに対して、日本にはそのような工場が存在しない。現在の日本の半導体企業には、そうしたロジック系の先端製品の製造工場を建設する資金力が、決定的に不足している。円安が進行しても、そうした資金の壁を乗り越えることは、非常に困難である。TSMCは、台湾政府が継続的に実施してきた台湾ドル安誘導政策の結果、継続的に利益を上げ、その蓄積で巨額の資金の必要な工場を次々と建設し、黒字を拡大することに成功した。韓国のサムスン電子による巨大な半導体工場の建設についても同様なことが言える。しかし、日本が、かつての台湾、韓国のように、購買力平価で見て、対台湾ドル、対韓国ウォンに対して、円の価値を50%前後安い水準に長期間維持するような政策を取ることは不可能である(*4)

1980年代、日本企業の半導体が世界を席巻していた頃、第二次大戦後の市場原理主義の元祖とも言えるレーガン政権は、主としてDRAM生産のマイクロンを守るために、日本は半導体をダンピング輸出していると決め付け、日米半導体協定を日本に無理やり締結させたことがある。韓国もまた、経営危機に陥ったハイニックス半導体を、政府系金融機関を使った出資、融資を実施した後、再建に成功している。TSMCに次ぐ半導体のファウンドリー(組み立て)世界第2位のグローバルファウンドリーズは、UAEの政府系金融機関の完全子会社である。それ以外に、自動車産業では、アメリカではオバマ政権が、巨額の資金投入と政府の介入によって、GMを再生させた例もある。このように、産業再生のため、政府が介入する例は、過去にも世界で見られるし、最近の日本においても、たびたび実施されている。しかし、現在の日本の雰囲気は、政府による産業の救済に対して、批判的な意見が多くなっている感じがする。産業の重要性、将来性を考慮することはなく、現在の収益力のみを考え、競争に敗れるような非効率な企業は潰すべきだ、政府が救済しても成功するとは限らないので、税金の無駄使いになるようなことは避けるべきだ、という考え方である。加えて、経済産業省による最近の半導体産業の育成政策が失敗続きであったことも影響している。昨年12月、ルネサスエレクトロニクスのマイコン事業を維持するため、産業革新機構が出資金として1383億円投入することが決定された。しかし、評判はあまり良くない。経済産業省は、次に、ルネサスエレクトロニクス、富士通、パナソニックのシステムLSI(=ロジックの一種)部門を統合する計画を進めている。システムLSIは、最大顧客であった日本の大手電機メーカーの製造部門が弱体化したため、需要が大きく減少している。三社のシステムLSI工場では、スマホ向けCPUなど、需要が多く、利益率も高い先端製品を作る能力が無い。生産力に見合った需要を獲得することは、相当な困難が伴うことが予想される。そのため、ファブレス化(設計特化)という噂も流れている。

私は、政府が民間企業の救済に乗り出すことは、最小限にとどめるべきだとは考えている。しかし、以前は、産業界のコメと呼ばれていたし、将来は産業界の穀物になる可能性の高い半導体産業の重要性、将来性を考えると、レーガン政権下のアメリカ政府などと同様に、政府が産業の救済に乗り出すことがあっても良いと考える。先に記したように、情報通信機械の製造の分野では、日本企業がいかに努力しても、国内製造の多くが、いずれは途上国へ移転してしまうことを避けることができない。だからこそ、半導体のようなキーデバイスこそは、日本に残すべきだと考える。日本にまだある程度の技術が残されている間に、官民合同で半導体再生プロジェクトを作り、日本の半導体産業の再生戦略を立てるべきだと考える。必要とあれば、数千億円かそれ以上の公的資金を、出資や融資の形でつぎ込むことがあっていい。今年度の補正予算では、3.1兆円の資金が、「成長による富の創出」という名目で、補助金、出資、融資などの形で使われることになっている。iPS細胞から、農業、建設業まで多様な分野へ資金が投下される。こうした資金の中に、日本の半導体再生プロジェクトへの出資、融資があってもおかしくないと思う。経済産業省が主導する現在の政策は、再生政策と言うよりも、破綻防止、延命政策である。延命はできても、その後、再びジリ貧になり、エルピーダの二の舞になる可能性がある。日本の半導体産業を本当に再生させるためには、設備投資や、最先端レベルの研究開発投資のために、より多額の資金が必要である。中途半端な延命策よりも、より大規模な半導体再生プロジェクトを打ち出す方が、帰って失敗するリスクが小さくなると思う。失敗するリスクはあるが、成功したならば、投下資金以上の資金が戻って来るのである。iPS細胞の研究開発に投入する10年間で1100億円の補助金とは、性質が異なる。経済産業省だけではなく、政治家がその重要性を理解し、リスクもとって、国民にも説明してから、資金投入を実施するべきだと思う。繰り返すが、私は半導体産業を特別に重要な産業と考えているから、政府の手によってでも再生させるべきだと考えているのである。円高是正というアジア諸国との競争上の不平等条件を平等化した後は、負け組みの企業や衰退産業を、安易に政府が救済することはあってはならないと考えている。

以上のように、円安進行により日本の製造業は崩壊への道から脱することができるのであるが、円安だけで、アジア周辺諸国に対して競争力を取り戻すことは容易な事ではない。しかし、円高が再び進行すれば、日本の製造業の崩壊が再発するので、今後も円安傾向を維持していくことは不可欠である。アメリカでは、一期目のオバマ政権の間に、製造業の復活、輸出倍増計画を立てて、製造業に対する補助や融資などの産業政策が進められた。製造業は途上国に任せ、日本は脱工業化で成長すべきという考えは広まっている。しかし、脱工業化社会は、現時点ではまだ夢の世界である。アップルのような企業が、次々と現在の日本に誕生して成長していく可能性は、残念ながらゼロに近い。正しい方法は、夢を実現させる努力をしながらも、夢が実現するまでは、現在の製造業を拡大発展させていくことである。製造業を破壊しながら、夢の実現に向かって突き進むことは、大変大きな間違いである。困難ではあるものの、円高で大きく傷付いた製造業の生産基盤を復興していくことは、現在の日本にとって、大変重要な成長戦略であると考える。

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日本の産業構造の変化と成長戦略

昨年12月に2011年度の国民経済計算確報の一部が公表された。そのデータを使って、日本の産業構造の変化と必要な成長戦略について述べることにする。

国民経済計算確報の中に経済活動別国内総生産という統計がある。その統計では、2001年-2011年の産業別のGDPを30業種に分けて表示している。ここでは、主として、就業者数が多い13業種(GDP総額も含む)を取り上げ、その推移を見ることにする。

まずは、2001年の数値を100とした、主要13業種の産業別就業者数の推移を下記に示す。

主な産業別就業者数の推移.
2011年の就業者合計の数値は98.8なので、就業者合計は2001年との比較で、若干減少している。これは、失業者が増えたからではなく、生産年齢人口の減少を背景とした労働力人口の減少の結果である。上位は、輸送用機械、不動産、金融・保険である。輸送用機械、その中の多くを占める自動車産業の就業者数が増加していることは、大変好ましい。しかし、2位、3位に、不動産と金融・保険が来ているのは、あまり好ましいことではない。理由は、自動車と違って、不動産、金融・保険は基幹産業とは言えないからだ。自動車が拡大すると、それに伴って、不動産、金融・保険などの産業も、付随して必ず拡大する。一方、どんなに立派な不動産、金融・保険といった産業が存在しても、自動車のような別の産業が付随して拡大することはない。その結果、現在、立派な不動産、金融・保険といった産業があったとしても、いずれは死滅してしまう可能性があるからだ。一方、下位には、電気機械、建設、農林水産業が来ている。電気機械、農林水産業は基幹産業である。こうした基幹産業への就業者数が減少していることは、日本経済が順調とは言えない成長過程を歩んでいることの一つの証拠である。後ほど詳述するが、現在、イノベーションが最も活発に行われている電気機械の就業者数が、農林水産業以上に減少しているのは、悲しむべき事実である。

次に、主要13業種の産業別名目GDPの推移を下記に示す。

主な産業別名目GDPの推移
上位3業種は不動産、卸売・小売、政府サービスである。これらはいずれも基幹産業ではない。特に政府サービスというのは、多くが税金によって維持されている寄生産業である。政府サービスだけが肥大化した経済は、税金が重くなり、経済全体の衰退にもつながりかねない。下位3業種は、農林水産業、電気機械、建設であり、下位の二つに基幹産業が位置している。これは就業者数とほとんど同じ構図であり、好ましい姿ではない。なお、2011年に電気機械が大きく落ち込んでいる原因は、私は円高だと考えている。一方、輸送用機械が落ち込んでいる原因は、東日本大震災の影響で、部品供給が滞ったことである。

次に、主要13業種の産業別実質GDPの推移を下記に示す。

主な産業別実質GDPの推移
名目GDPの推移とは全く異なる風景が見えてくる。他産業を大幅に引き離してダントツで一位を占めるのは、電気機械である。大きく引き離されての2位は輸送用機械であり、3位にそうした産業を包括する製造業が来る。一方、下位3業種は建設、金融・保険、農林水産業である。電気機械がダントツの一位となっている理由は、実際の生産性が大幅に上昇しているからである。もう一つの理由は、同じ電気機械の製品であったとしても、従来よりも性能が大幅に向上しているからである。10年前のコメと現在のコメとでは、品質にほとんど差は無い。自動車の性能も、10年間に、多少燃費が良くなったくらいで、それほどの性能の向上は見られない。しかし、パソコンや携帯電話は、10年前のパソコン、携帯電話よりも、飛躍的に進歩したものへと変化をとげている。統計上は、こうした性能の向上を、価格の低下と捉えているので、実質GDPの大幅な上昇につながるのである。こうした生産性の大幅上昇、性能の飛躍的な向上、すなわち、イノベーションの進化は、現在の日本においては、電気機械に集中しているのである。いわゆるIT産業、デジタル家電産業、電子部品産業などでは、イノベーションの速度が速く、結果として電気機械の実質GDPの大幅な上昇につながっている。

次に、主要13業種の産業別GDPデフレーターの推移を下記に示す。

主な産業別GDPデフレーターの推移
実質GDPの上昇とは正反対で、電気機械のデフレーター下落が著しい。次いで、製造業、輸送用機械の順に下落幅が大きい。一方、デフレーター推移の上位は、建設、卸売・小売、食料品製造である。

以上のように、2001年-2011年の日本において、最も生産性が上昇し、実質GDPの上昇につながった産業は、電気機械である。しかし、デフレーターの大幅下落を背景に、電気機械の産業別の名目GDPは減少し、就業者数も同様に減少し続けている。

現在の日本では、構造改革、規制緩和、貿易自由化などの政策により、成長力強化を図るべきだと考えているエコノミストは多い。そうした政策には、規制や補助金などに守られて、従来、生産性があまり上昇して来なかった分野に、競争という原理を導入し、経済全体の生産性、成長力を高めようとする意図がある。経済全体の生産性の上昇に向けて構造改革という政策を動員すること自体は正しい。では、こうした構造改革が実施されれば、日本経済の成長率は上昇するのであろうか。答えは明らかにノーである。多くの産業では、生産性を上昇させ、成長を実現することは、それほど容易なことではないからだ。実質GDPが大幅に上昇してきた電気機械産業の衰退が続けば、構造改革の結果、他のいくつかの産業の生産性が上昇したとしても、日本経済の実質GDP成長率は、マイナスに転落してしまう可能性が高い。

より重要で効果的な政策は、現在、生産性の上昇の著しい産業を、今まで以上に拡大させることである。最もイノベーションが盛んで、生産性の上昇と成長が見込まれる電気機械産業の就業者数と名目GDPを、縮小ではなく、拡大させていかなければ、日本経済の本物の成長はありえない。電気機械産業が弱体化した大きな原因の一つは超円高である。超円高の継続のため、今や日本の電気機械産業の何割かは、死亡か、死亡寸前と思われるくらい大きな打撃を受けている。多少の円安が来ても、立ち直れるかどうか怪しい企業も存在する。現在の日本に最も必要な政策は、円高を是正し、死にかけている電気機械メーカーをとりあえず蘇生させ、アジアやアメリカのライバル企業との競争に打ち勝てるような基盤を再び取り戻すことである。もはや手遅れの部門もあるが、まだ再生可能な部門も残っている。いつも繰り返しているように、アジアの周辺諸国は、自国の通貨を安く誘導し、自国の輸出産業の競争力の向上を図っている(*1)。経済の発展段階の差としての賃金格差はあきらめるしかないが、自国通貨安誘導政策の結果としての賃金格差は、一刻も早く是正する必要がある。電気機械産業は、成長性が見込まれるために、どの国も競争力の向上に熱心である。その結果としてのアジア諸国の低価格攻勢に、何割かの日本の電気機械メーカーは打ち勝つことができず、工場の海外移転、生産からの撤退など、際限の無いリストラを継続するように追い込まれてきた。それでも黒字を維持できず、倒産してしまったり、倒産寸前の危機に直面する企業も増えている。自国通貨安誘導政策というのは、はっきり言えば、近隣窮乏化政策である。アジア周辺の諸国の中で、日本の近隣窮乏化政策の規模が小さく、円だけが突出して高くなり、その結果、成長するアジアの中で、日本だけが唯一窮乏化する国になっているというのが現実の姿なのである。現在起こっている円安では、全く不十分である。1ドル何円が適正レートかという問いは無意味であり、1円でも安くなればより望ましいことは間違いない。現在も競争力を維持している電気機械メーカーに加えて、円安の進行と定着の結果、死にかけている日本の電気機械メーカーが生き返り、アジアやアメリカの企業との競争に互角以上に戦えるようになって、初めて日本経済の現実の成長率、潜在成長率は高まるのである。円安誘導を前面に押し出す金融緩和策は、世界中での通貨切り下げ競争を招きかねないので好ましくない。従来の日本のように、やられっぱなしでも黙っている国は少ないのだ。だから、表に出す政策は、デフレ脱却でなければならない。しかし、本当の意味において、現在の日本にとって最も重要な成長戦略は、円安誘導政策でなければならない。


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