インフレの発生と所得、資産の分配の変化

デフレからインフレに転換した場合、所得や資産の分配にどのような変化が生じるかを述べたいと思う。そして、デフレ期に、資産の分配の変化が引き起こしてきた問題点についても言及する。

インフレが発生すると、貧しい人たちがより貧しくなる、と主張する人もいる。しかし、これは、全く誤った主張である。前回述べたことを繰り返すが、インフレと賃金が完全に連動することはないが、今後は、両者が連動するか、インフレ率よりも賃金の方がより大きく上昇する可能性が高くなっている。理由は、日本の生産年齢人口が減少し、労働力の新規の供給が減少しつつあるからだ。加えて、以前は生産性の爆発的とも言える上昇を実現してきた電気機械産業が、超円高を原因とする価格競争で敗北を続け、大きく破壊され、その結果、医療、介護などの生産性の上昇率が非常に低い労働集約型の産業が、日本経済の雇用の受け皿となり、経済全体の生産性の伸びが鈍化しているという要因もある。こうした日本経済の大きな構造変化の結果、不景気だというのに、失業率は下がり続け、2012年11月の完全失業率は、4.1%まで低下してしまった。今後、日本経済が順調に成長を続ける場合、日本は労働力不足社会に陥るのは確実である。11月14日から始まった株高と円安の後に、景気回復が続いたならば、次は労働力不足の結果、賃金が上昇する局面へと移らざるを得ない。賃金が上昇すれば、コストの増加からインフレが発生する。今後は、インフレと賃金の相関が高まるのである。そして、インフレ率以上に賃金が上昇し、実質賃金は上昇する可能性が高い。

デフレからインフレへと転換すると、賃金などの所得分配よりも、もっと大きな変化をもたらすものがある。それは、資産の分配の変化である。現在の日本において、資金の最大の貸し手は家計であり、資金の最大の借り手は政府である。デフレ期には、デフレを通じる実質的な債権価値の増加という形で、政府から、国債や預貯金などの確定利付き債権(現金も含む)の保有者に、資産の一部が移転する。これが、インフレになると、インフレを通じる実質的な債権価値の減少という形で、確定利付き債権の保有者から、政府に、資産の一部が移転する。デフレ期には、政府の歳入が減少しやすくなり、インフレになると政府の歳入が増加しやすくなる。デフレ期の歳入の減少こそが、確定利付き債権の保有者に対するデフレ減税であり、インフレ期の歳入の増加こそが、確定利付き債権の保有者に対するインフレ増税である。日本は十数年間に渡り、デフレ減税を続けてきたため、政府債務があまりにも巨額になるまで積み上がってしまった(*1)

インフレで確実に損をする預貯金、債券などの確定利付き債権を最も多く保有する主体が家計であるとしても、家計の中で、どのような人たちが、そうした資産を多く保有しているのであろうか。それを下記に記す。

1世帯当たりの貯蓄金額
上記のグラフは、世帯主の年齢別の貯蓄金額を、総資産金額と、総資産から、住宅ローンなどの負債、株や外債などの資産を差し引いた資産金額を示している。後者は、家計が保有する、ネットの預貯金、債券などの確定利付き債権の総額に等しい。保険は確定利付き債権とは言い切れないが、確定利付き債権に準ずるものとして、確定利付き債権に含めることにする。このグラフから見ると、確定利付き債権を多く保有する主体は、世帯主の年齢が50歳以上の家計である。若者はそうした資産を少ししか保有していないか、住宅ローンなどの借金の方が多いのである。

インフレというのは、主に50歳以上の年齢で、預貯金、債券などの確定利付き債権を多額に保有する家計に大きな打撃を与える。逆に、デフレ期には、こうした高年齢者層は、一方的にデフレの利益を享受してきたのである。

実は、バブル崩壊後、この資産家たちの確定利付き債権に対する過剰貯蓄が、消費や投資に回ることがなく、貯蓄という形で凍り付いてしまったため、日本経済は需要不足で不況が深化してしまったのである。資産家たちの確定利付き債権に対する過剰貯蓄は、失われた20年の原因の一つでもあったのだ。その巨大な不況圧力を軽減するために、政府が毎年国債を発行して、資産家たちの過剰貯蓄を吸い上げ、社会保障や公共投資などに回すことにより、不況圧力を軽減してきたのである。本来なら、この資産家たちに税金を負担してもらい、社会保障や公共投資などの財源として利用していたならば、ここまで政府債務は膨らまなかったのだ。しかし、資産を正確に把握して課税することは、技術的に困難である。その上、グローバル時代において、資産課税を強化すると、資産家の海外移住という事態を招くかもしれない。その点、インフレというのは、税務署の仕事を増やすことなく、隠れ資産も含めて、確定利付き債権に確実に税金を課することができる手段である。日本以外のほとんどの国がインフレ課税を実施しているので、資産家が海外に移住することもない。にもかかわらず、日本は十数年間にわたり、インフレ増税ではなく、デフレ減税を実施してきた。その結果が、1133兆円(2012年9月末の資金循環表の数字)もの巨額の政府債務が積み上がる大きな要因ともなった。

資産家がインフレ課税を嫌い、株や外国証券などに資金を移せば、日本経済に大変好ましい影響をもたらす。資産家が、保有資産を、確定利付き債権から、株や外国証券に大規模に移せば、間違いなく大幅な株高、円安が起こる。前回詳しく述べたように、11月14日を境にして、株高、円安が発生している。しかし、株を買い越しているのは、ほとんどが外国人投資家であり、日本の資産家たちは、逆に株を売りまくっているのである。日本の資産家の株の売り越しが、できる限り早い時期に、買い越しに転じることができれば、株価は確実に上昇トレンドが続くことになるであろう。そして、外国人投資家に株の値上がり益を献上するという、対外純資産が減少する金額を少なくすることも可能になる。(*2)。為替については、確実なことはわからないが、株と同様に、円売り外貨買いを実施している主体の多くは、外国人投資家である可能性が高い。こうした外国人投資家の円売りは、投機性が高く、なんらかの別の材料が出て、円を買い始めると、再び円高に戻ってしまうことも考えられる。日本の資産家が継続的に外国証券を購入し続けるようになれば、円安基調が崩れる可能性は減少する。外国人投資家が主導する株高、円安よりも、日本人投資家が主導する株高、円安の方が、より望ましいのである。資産家の資金が海外に流出すると国内の金利が上昇するので、こうしたキャピタル・フライトの発生は避けなければならないという意見もある。しかし、現在の日本において、キャピタル・フライトによる金利上昇の発生の可能性は、確実にゼロである。国内では、量的緩和で資金が次々と供給されており、増加分の一部が海外に流出しているわけであり、国内に資金が増えることはあっても、減ることは無いのである。インフレの発生は、金利の上昇要因であると考えるが、キャピタル・フライトが原因で金利が上昇することは、絶対に無い。

日本の資産家が、確定利付き債権から、株などに資産を移すことのもう一つのメリットは、日本におけるリスクマネーの供給拡大にある。量的緩和無効論者の言うように、現在の日本企業に、借り入れの需要が無い、というのは正しくないしにても、借り入れの需要が少ないことは、事実だと思う。一方、大幅に不足している資金もある。それは、リスクマネーである。ベンチャー企業は言うまでもなく、大企業でも、借金を増やしたくないけれども、新株の発行により資金を調達したいというニーズは多い。現在のベンチャー市場、株式市場では、そうしたリスクマネーの供給量が決定的に不足している。リスクマネーを増やす最も効果的な方法は、株価全体を引き上げることである。株価が上昇基調に復帰したならば、上場企業に対する増資ニーズに十分答えることが可能になってくる。それに加えて、上場株よりハイリスク・ハイリターンのベンチャー市場にも資金が流れて行くのである。上場株での運用収益が安定的に高まれば、上場株での低いリターンに満足できず、リスクは高くても、より高いリターンを獲得できるベンチャー企業に投資する投資家が現れるはずであるからだ。現在、リスクマネーが決定的に不足している最大の要因は、日本株という日本人にとって一番身近なリスク資産への投資で、収益を上げることが非常に困難になっているためである。上場株で儲けられない環境下において、よりハイリスクのベンチャー企業の株で儲けようと考える投資家が少なくなるのは当然なのである。従って、リスクマネーを増やす一番効果的な方法は、日本株という身近なリスク資産で儲けることができるように、株価を緩やかでもよいから右肩上がりに誘導することなのである。すなわち、11月14日から始まった、株価上昇のトレンドを持続させることにある。

このように、資産家が、インフレが発生しても確定利付き債権を保有し続ければ、実質的な税金を負担することになる。それを嫌気して、株や外国証券に資産を移せば、持続的な株高、円安により、日本経済がより安定的な成長を実現することが可能になる。株や外国証券だけではなく、資産の移転先は土地であってもかまわない。ただ、人口が減少する環境下での不動産投資は、日本の土地全体ではなく、都会の一部の土地に集中する可能性が高い。従って、政府は、地価税の復活などの、土地の局地的なバブルの発生を防ぐ政策を、先回りして準備をしておくべきである。

日本の確定利付き債権という資産の多くは、50歳以上の資産家が保有しているが、50歳以上の人たちの資産格差は非常に大きいはずである。インフレ税のもう一つの望ましい点は、確定利付き債権という資産を保有していない人たちに税金は課せられず、資産を保有している人たちにのみに税金を課することができることである。資産より借金が多い人、保有資産がゼロの人は、税金をほとんど負担しなくてよい。高齢者で資産が無い人たちも多いが、そういう人たちの年金収入は、インフレにスライドして増加するので、インフレ税を負担をする必要が無い。インフレ税は、消費税とは正反対の、非常に累進性の高い良い税金なのである。それを逃れるために、資産家が、株や外国証券あるいは土地へと資産を移してくれれば、日本経済の成長に貢献することができるのである。日本経済が低迷する中、格差の拡大が問題となった理由の一つのは、多額の確定利付き債権を保有する資産家に対して、インフレという税金を課さずに、デフレという減税を長期間実施してきたことが一因である。そうした資産家に対して、デフレ減税から、インフレ増税へと実質的な税制を変更することは、現在の日本経済にとって、必要不可欠な政策なのである。その結果は、財政再建に役立つだけではない。消費税増税などの他の多くの増税は、日本経済の成長率を、少なくとも一時的には低下させるが、インフレ増税は、円安や資産価格の上昇を通じて、日本経済の成長率を引き上げる力を持つ。

デフレ減税からインフレ増税への転換は、「魔法の杖」でも「打ち出の小槌」でもない。諸外国と異なって、十数年間デフレ経済が継続し、インフレ継続ならば避けられたはずのいくつかの問題が、現在の日本では現実化してしまっているのである。デフレからインフレへの転換は、デフレの継続の結果発生した、いくつかの深刻な問題の一部を解決することには大変役立つ。ただそれだけのことなのである。

人気ブログランキング

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

金融緩和を先取りする株式、為替市場

12月26日に安倍新政権が誕生する予定である。現時点では、まだ新政権は発足していない。11月14日に衆議院の解散が確実になった直後から、安倍自民党総裁による、「無制限の金融緩和、2-3%のインフレターゲットの導入」などの新しい経済政策についての発言が繰り返し報道された。その後、安倍氏の発言は、「2%のインフレ率実現までの大胆な金融緩和」へと、発言の内容は若干トーンダウンした。しかし、政権発足前から、安倍氏が提唱した経済政策の効果は、既に現れている。株式、為替市場においてである。

まず、今年の10月1日から直近までの過去3ヶ月弱の間、日本の株価と円レートが諸外国と比べてどう変化したかを下記に示す。

主要国の株価推移
主要国の為替レート推移
見て分かるとおり、株式市場においては、諸外国の株価が若干の上昇にとどまる中、日本株だけが11月14日以降、大きく上昇している。為替市場においては、対円で横ばいか緩やかな上昇を示していた諸外国の為替レートが、11月14日を境にして、明らかに上昇速度を上げている。

経済においては、予想、期待という目に見えない不確実なものが重要な役割を果たすことがある。中でも、株価、為替レートというのは、特に短期の変動の場合では、予想、期待が最も重要な決定要因となる。株高、円安が進行する理由は、株式市場、為替市場の参加者たちが、安倍氏の主張するインフレターゲット政策が本当に実施された場合、株高、円安が進行すると予想しているからである。

日本には、もう一つ重要な市場が存在する。それは国債市場である。国債市場における金利の変化を下記に示す。

10年物国債の金利の推移
国債の金利については、11月14日を境にどちらかに大きく動いたということは読み取れない。私なりに解釈すると、11月14日の直後においては、安倍氏の無制限の金融緩和という政策が、金利の上昇要因になるのか、下落要因になるのか、市場参加者の間で迷いがあったのだと思う。その後、国債市場の需給改善という観点から、金利は低下に向かった。その後、大型補正予算の実施、それに伴う国債発行の増額を、国債の需給悪化という観点から嫌気され、金利は上昇に転じたと理解している。

以上のように、安倍氏の大胆な金融緩和という経済政策の実現を、市場が先取りし、株価は上昇し、円レートは下落し、金利は方向感の無い動きを示しているのである。では、市場参加者のうち、どのような人たちが株を買い、円を売却したのであろうか。円については、はっきりとは分からないが、株については、はっきりと分かる。東京証券取引所が発表する投資部門別売買状況を見ればよい。買いの主体は、外国人投資家である。外国人投資家の売買状況と株価の変化を下記に記す。

日経平均株価と外国人投資家の日本株買越金額
11月19日以降の外国人投資家の売買状況は、株価指数先物でも買い越しとなっており、実質的な買い越し金額は、上記の数字を上回る。

では、なぜ外国人投資家が日本株をこれほど買い越してくるのであろうか。一つの理由は、「リフレ派」、「インフレーターゲット派」と呼ばれる人たちが、日本国内においては、少数派であるのに対して、海外では多数派を占めると思われるからである。多くの欧米諸国では、既にインフレターゲット、インフレゴールを導入した上で、大規模な量的緩和が実施されてきた(*1)。欧米諸国からしてみれば、日本が十数年以上にも及ぶデフレ経済、株安、円高という環境の下で、物価が一定程度上昇するまで、強力な金融緩和を実施しないことの方が不思議であったのである。もう一つの理由は、20年以上も続く株安という現象の結果、日本人投資家の中に、「株価が戻れば売りであり、そうしなければ株で儲けることはできない」という強固な相場観、すなわち、株価は上昇しないというヒステリシスと呼ばれる現象が発生してしまっているからである(*2)。今回の株価の戻り局面でも、日本人投資家の大半の主体は、売り方に回っている。中でも大量に売り越しているのは個人投資家である。この「外国人投資家の買い越し、日本人投資家の売り越し」による株価上昇という現象は、過去20年あまりの間繰り返されてきた、決まりきったパターンなのである。外国人投資家の日本株買いは円買い要因であるが、外国為替市場においてはそれほど大きな取引主体ではなく、外国人投資家の日本株買いが、直ちに円高を引き起こすことは少ない。

政権が誕生するのを先取りする形で株高、円安が進み、とりあえず順調にスタートを切るように見える安倍氏の経済政策であるが、まだ安心するのは早すぎる。実は、これと同じような現象が、今年の2月から3月にかけて発生しているのである。この時のきっかけは、日銀が前年比の消費者物価上昇率1%を目途(ゴール)にして金融緩和を強化する、との政策変更を発表した2月14日の金融政策決定会合である。今年に入ってからの日本の株価と円レートの推移を下記に示す。

日経平均株価の推移
ドル・円レートの推移
見て分かる通り、2月14日からの1ヶ月から1ヶ月半ほどの間、株価は上昇し、円レートは下落している。この時も、株を大量に買い越したのは、外国人投資家であった。しかし、その動きは長続きしなかった。原因は、日銀の金融政策に対する信頼の失墜である。2月14日の政策変更の発表後、日銀は資産買入等の基金で資産購入を進めたのであるが、資産買入等の基金の枠外で貸出金を大量に回収したため、3月のマネタリーベースは、前月比で見ても、前年同月比で見ても、マイナスへと減少してしまった。こうした日銀の発表の内容と異なる実際の政策運営に失望した投資家たちは、日本株の売り越しに転じ、株価も下落に転じてしまったのである。おそらく、外国為替市場においても、同じ様な現象が発生していたに違いない。株価の下落とほぼ並行して、円レートも円高方向に転換してしまったのである。ちょうどその頃、輸出減少、輸入増加の悪影響が顕在化し、日本経済は景気後退へと転落して行くのである。日銀は、今年の6月から、本当に資金供給を拡大したのだが、信頼が失われていたため、投資家がそうした日銀の変化に反応することはなかった。

安倍新政権は、今年の2月と同じことを繰り返してはならない。現在は、政策転換への期待から株高、円安が進行しているのである。実際の政策運営が期待以下に終われば、相場は株安、円高へと後戻りしてしまう可能性が高い。日銀は、12月20日の金融政策決定会合で追加緩和を決定した。それでもなお、日銀は、株式市場、為替市場の動きを睨みながら、追加の金融緩和をためらうことなく実施していく必要がある。そうすれば円安、株高は継続し、日本経済の回復、デフレからの脱却も確実になるはずだ。

円安、株高が起こっても、「それがどうした」と思っている人たちも多いと思う。円安、株高が進み、次にインフレが発生しても、賃金が上がらなければ意味が無い、と考える人たちは多い。まず理解すべきことは、今回の不況の大元の原因は、円高にある、ということである。リーマンショック前の1ドル107円前後の円レートが、1ドル70円代にまで上昇した。その結果、日本の貿易収支は、原発停止以外の要因で、年間10兆円ほど悪化した。この貿易収支の悪化=企業の売り上げの減少は、輸出産業全体に大きな打撃を与えた(*3)。自動車産業は生産拠点の日本から海外への移転を加速化させた。電気機械産業はより大きな打撃を受けた。エルピーダは倒産し、パナソニック、シャープも大赤字に転落し、倒産の危機まで噂されるほどまで企業経営は悪化した。これは、日本の製造業の崩壊の加速化とも言うべき現象である。従って、不況の大元の原因である円高を是正し、再び輸出の拡大へと転換させることが、日本の景気回復にとって、必要不可欠なことであるのだ。円高メリット論、円安デメリット論は、いつの時代にも存在するが、誤っていると言わざるを得ない(*4)。次に、内需の低迷、中でも個人消費の低迷の大きな原因の一つは、日本の資産価格の低迷にある(*5)。資産効果と呼ばれるように、株価が上昇すれば、個人消費全体が刺激されて増加に向かい、内需拡大へとつながるのである。輸出と内需が拡大すれば、その後に発生する現象は、賃金の上昇である。日本経済は、不景気が続いているにもかかわらず、失業率は4.2%と、他の多くの先進諸国と比較して低い。リーマンショック前の失業率のボトムは、2007年7月の3.6%であった。この時、賃金は上昇に転じようとしていたのである。それが、アメリカから吹いてきた不況の風を受けて、賃金は再び下落に転じてしまった。日本は、生産年齢人口が減少しているため、労働力の新規供給も減少している。そこで多少なりとも景気回復が起これば、失業率はより低下して人手不足が顕在化し、賃金が非常に上昇しやすい環境へと変化しているのである。株高と円安が進行すると、物価は、まず輸入品の価格が上昇し、景気回復が始まれば、しばらくして賃金の上昇と、賃金の上昇の結果としての物価水準全体の上昇が始まるのである。その結果、株を持っていない人たちの間にも、実質賃金の上昇などの形で好影響は波及してくるのである。実際には、補正予算の実施や、その後の消費税増税が控えているので、株高と円安の効果の波及過程は、より複雑なものになるであろう。

このように、株高、円安というのは、景気回復のために必要な条件である。特に、円安こそが、景気回復のために、最も重要で不可欠な条件である。円安の結果として、株高が促進される、という面もあるからだ。アメリカの場合でも、リーマンショック後のQE1、QE2と呼ばれる量的緩和政策は、株高とドル安を通じて景気を回復へと導いた(*6)。そして、現在のアメリカの財政政策は、景気刺激ではなく、財政再建の方向に動いている。財政の崖という問題は、急激な財政再建による景気悪化を回避し、緩やかなスピードで財政再建を行う手段についての政治家間の意見対立である。景気回復を一人で支え、失業者の数を減らそうと努力しているのは、バーナンキ議長の率いるFRBだけである。安倍新政権の次の重要課題は、このような政策をよく理解し、実施してくれる人物を、日銀の次期総裁、副総裁として選出することであろう。


人気ブログランキング

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

量的緩和の効果とバーナンキの背理法

ゼロ金利下での金融政策の効果、すなわち、量的緩和の効果について、以前説明したことがあるが(*1)、もう一度、改めて整理して説明する 。量的緩和の効果は、金利の変化とも密接に関係するので、前回に続いて、金利の変化についても説明を繰り返す。

量的緩和の強化をしても効果が無い、という意見は根強く存在する。最近は、その理由もかなり多様化している。一番多い説明としては、現在のように民間に資金需要の無い時期に量的緩和を強化しても、銀行の貸し出しは増えないので、効果が出るはずが無いという考え方である。その他、現状は流動性の罠の状態にあるので金融政策は効果が無いという考え方、生産年齢人口減少を原因とするデフレに対しては金融政策は効果が無いという考え方、潜在成長率が低下すると金融政策に効果が無くなるという考え方、ROE重視の経営が広まると金融政策に効果が無くなるという考え方、等々、様々な新しい説明手法や理論モデルが提示されている。そして、金融政策に効果が無いのにもかかわらず、量的緩和の強化を実施するのは、無意味であり無駄であると結論付けるのである。さらには、量的緩和の強化というのは、政府が自分の政策の失敗の責任を、日銀になすりつけているだけのケシカラン政策である、とまで言い切る人もいる。

また、上記のような理由を根拠にして、量的緩和の効果は少ない、限られている、という意見も多い。効果は少なく、限られているから、量的緩和は実施すべきではない、という意見である。量的緩和の効果は少なく、限られている、という考え方は、私と共通する考え方である。違いは、効果が少ないからといって、量的緩和を実施しないのは間違いであり、効果が少ないからこそ、大規模な量的緩和を実施しなければならないと考えている。

ここでは、量的緩和の強化に効果が無い、すなわち効果がゼロであると言う立場の人たちに、問うてみたい。量的緩和の強化の効果がゼロであるならば、量的緩和の強化は無意味な政策にはならない。現在、日本が直面している経済問題はデフレだけではない。より大きな問題は、GDPの230%(IMF公表の数値)にも膨れ上がった政府債務の縮小、すなわち財政再建である。このあまりにも巨額すぎる政府債務の問題をどうやって解決すればよいのか。これこそ非常に難しい問題である。しかし、量的緩和の強化に効果が無い、という考えを持つならば、1100兆円にのぼる政府債務を全額日銀が買い取り、日銀は買い取った全ての政府債務を償却すべし、と主張すべきである。現在の日本が直面している経済問題は、「デフレ+巨額の政府債務」なのである。これが「デフレ」だけの問題になるのであれば、大変好ましい政策であるはずだ。量的緩和無効論の立場の人たちは、デフレ対策ではなく、財政再建手段として、国債を含むあらゆる政府債務の日銀買い入れと償却を主張すべきである。デフレが続いたとしても、政府債務をゼロにすることができるならば、その政策は無意味どころか、大変意義のある政策であるはずだ。

普通は、この議論をもう少し先まで進めるのである。量的緩和が無効であるならば、日銀が政府債務を全額買い取り、償却し、税金を廃止して無税国家にしてしまえばよい。無税国家の実現など可能であるはずはない。だから、日銀が国債の買い入れを進めていくうちに、いずれかの時点でインフレが発生するはずだ、という理論展開である。こうした系統の考え方は、一般的には、「バーナンキの背理法」と呼ばれている。ただ、バーナンキの背理法にまで踏み込むと、バーナンキの背理法の否定論者から、あまり生産的とはいえない反論が来ることが予想されるので、そこまで議論を進めなかった。

岩石理論とも呼ばれる考え方がある。リフレ論者の一部が、バーナンキの背理法を否定する一部の人たちの考え方を「岩石理論」と名付けているらしい。岩石理論派の人たちは、量的緩和の強化は、効果が無いか、ハイパーインフレが起きるかのどちらかであり、適度なインフレが起こることはありえない、という理論を展開する。岩石理論派の人たちは、上記の日銀による政府債務の全額買い取りと償却の考えに対しても反論してくるであろう。その例として、次のような論理を展開する。日銀が国債の買いオペを増やしても、しばらくは効果はゼロである。しかし、日銀が国債を買い進めていくうちに、市場心理がインフレを警戒し始め、ある限界点を越えると、市場参加者のインフレ期待が急上昇し、誰も国債を保有しようと思わなくなる。そうすると国債金利は急上昇し、政府の国債発行は不可能になる。国債は日銀引受にならざるをえなくなり、国債の日銀引受をきっかけに、急激なインフレが発生し、このハイパーインフレの結果、日本経済は大打撃を受ける、というものである。こうした説明は、インフレ期待が少しずつ高まるという現象は起こらず、インフレ期待がしばらくはゼロで、ある限界点を越えると急激に上昇する、という考え方をとる。しかし、なぜゼロであったインフレ期待が、ある限界点を越えると、急激に上昇するのかの説得力のある説明が出来ていない。仮に、インフレ期待が急激に高まるとすれば、国債の買いオペが原因ではなく、財政破綻のリスクが顕在化した時であろう。バーナンキの背理法を乗り越えるためには、このような無理のある論理を展開せざるを得ないという感じがする。上記のような岩石理論の考え方は、説得力のある理論であるとは考えられない。

日銀は、今年の2月から、中長期的な物価安定の目途として、前年比1%の消費者物価上昇率を実現することを目指すようになり、量的緩和無効論とは、少し離れた立場にある。しかし、そうした日銀においても、白川総裁が、岩石理論と全く同じ考え方を表明している。白川総裁が繰り返し強調する言葉は、「非連続的」という言葉である。特に、非連続的に金利が上昇する、という言葉だ。白川総裁が使う非連続な金利上昇の原因は、多くは国債や通貨に対する信任の喪失、すなわち財政破綻が原因である。しかし、国債の大量の買いオペ(=財政ファイナンス)が原因で、非連続に金利が上昇する、との発言もある。その例として、2011年3月2日の衆議院財務金融委員会での発言が上げられる。ここで長々と続く白川総裁の答弁は、一部に混乱があるのだが、内容を整理して白川総裁の考え方を短くまとめると、次のようになる。国債買いオペの大幅増額→インフレ期待が非連続的に上昇→金利が非連続的に上昇→急激なインフレの発生、というものである。これは、岩石理論と全く同じインフレ発生メカニズムである。従って、インフレ期待が非連続的に上昇する理由が抜け落ちている。白川総裁も日銀も、財政ファイナンス(=国債の大量の買いオペ)が金利の非連続的な上昇を引き起こす明確な理論モデルを構築できていない。バーナンキの背理法を乗り越えるためには、「非連続的」のような現象を、説得力のある形で理論モデルに組み込む必要があるのだが、日銀もまた、岩石理論派と同様に、そうした理論の構築に失敗しているのである。

日銀が、財政ファイナンス(=日銀による国債引受)という政策の結果、ハイパーインフレが起こるとして例にあげるのは、昭和初期の高橋財政である。高橋是清が日銀の国債引受を開始し、その約13年後に日本においてハイパーインフレが発生した。それ故に、白川総裁や日銀関係のエコノミストは、高橋財政に批判的である。そこから、日銀による国債引受の恒常化がハイパーインフレをもたらす、という教訓を導き出すことができる。しかし、国債の大量の買いオペ(=財政ファイナンス)が、金利の非連続的な上昇をもたらす、という教訓を引き出すことは不可能である。高橋財政から終戦後のハイパーインフレ発生の間に、金利の非連続的な上昇といった現象は発生していないのである。第一次大戦後のドイツ、少し前のジンバブエ、あるいはそれ以外のハイパーインフレの発生で、金利の非連続的な上昇の後、ハイパーインフレに突入した、という記録を見たことが無い。過去の歴史の教訓から、「国債の大量の買いオペ(=財政ファイナンス)が、金利の非連続的な上昇をもたらす」という命題を証明することはできない。国債の大量の買いオペ(=財政ファイナンス)が、金利の非連続的な上昇をもたらすという命題は、理論的にも経験的にも証明されていないのである。

前年比1%の消費者物価上昇率を実現するとは表明しながらも、日銀の金融緩和が不足する最大の理由は、財政破綻を原因とする非連続的な金利上昇が発生するという正しい根拠に基づく不安と、国債の買いオペの増額(=財政ファイナンス)の場合でも非連続的な金利上昇が発生するという誤った根拠に基づく不安とが重なり合い、結果として大胆な金融緩和の実施に踏み切れないからである。財政破綻の不安が無く、非連続的な金利上昇など100%起こりえなかった1990年代の前半に、ゼロ金利導入と国債の大規模な買いオペ(=財政ファイナンス)を実施しなかった政策の誤りのつけが、今だに形を変えて継続しているのである。リーマンショック後、国債の大規模な買いオペ(=財政ファイナンス)を実施したイギリスやアメリカでも、金利の非連続的な上昇などは発生していない。

日本のリフレ派でも、現在のような状況では、国債の買いオペの増額(=財政ファイナンス)を主張しても、インフレが高進してきた場合、国債の買いオペ(=財政ファイナンス)の停止や金融引き締めに反対する者は、ほとんどいないはずだ。リフレ派の中での多数派であるインフレターゲット論者の場合、高率のインフレ、ハイパーインフレは、デフレと同様に許されざる政策なのである。非連続的な金利の上昇が発生しない場合、インフレを抑制することは、それほど困難なことではない。

何度も書いているように、私は、財政破綻を原因とする非連続的な金利上昇、金利の急上昇は、起こりえると考えている。それどころか、現在の政策の延長線上においては、金利の急上昇が起こる可能性が非常に高いと考えている。その可能性を引き下げる手段として、国債の大量の買いオペ(=財政ファイナンス)も一つの有力な手段であるので、財政ファイナンス(=国債の大量の買いオペ)を実施してでも、金利の急上昇が起こる可能性を引き下げなければならないと考えている。

歴史は進歩している。現在のヨーロッパ諸国の不況の大きな原因の一つは、リーマンショック後に実施されたケインズ的な財政政策により膨らんだ財政赤字の削減にある。欧米諸国では、政府から独立した中央銀行が、自ら進んで、財政再建の結果として生ずる不況の圧力を、国債の購入(=財政ファイナンス)という手法を使って和らげようとしている。日本とは事情が異なり単純には比較できないが、ECBは、スペイン政府に対して、「国債は無制限に買う(=財政ファイナンスの実施)。ただし、その条件は財政再建の約束を守ることである。」と圧力をかけている。不胎化という制限があるので、本当は無制限に国債を購入する訳ではない。しかし、ECBのドラギ総裁や、加盟国の中央銀行総裁を含むECB理事会のメンバーたちの間に、「中央銀行は財政ファイナンス(=国債の大量購入)という協力をするので、スペイン政府は財政再建に断固として取り組んでもらいたい。」という強い意図があったことは間違いない。財政ファイナンス(=国債の大量の買いオペ)を出来るだけ避けたいという信念を持つ日銀とは、明らかに異なっている。日銀のように、財政ファイナンス(=国債の大量の買いオペ)を避けたがる中央銀行は、先進国では少数派になってしまっているのである。

量的緩和無効論を信じるならば、1100兆円にのぼる政府債務を、日銀が全額買い取って償却するという財政再建策の実施を訴えかけるべきである。岩石理論派も日銀も、国債の大量の買いオペ(=財政ファイナンス)が金利の非連続的な上昇をもたらすという説得力のある理論モデルを提示できず、バーナンキの背理法を乗り越えることに失敗している。そしてまた、過去の歴史の中から、国債の大量の買いオペ(=財政ファイナンス)が金利の非連続的な上昇をもたらした事実を見つけることにも失敗している。

私は、ゼロ金利下でも、日銀が量的緩和を大規模に実施すれば、物価や経済に対して影響を与える力があるという意味で、金融政策は有効であると考えている。日銀による大規模な量的緩和を通じて、マイルドなインフレの実現は可能である。そして、その政策は、景気を回復へと導く力も保持((*2)(*3)を参照)していると考えている。

人気ブログランキング

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

金融緩和と金利上昇、ハイパーインフレ

日銀が一層の金融緩和の強化を実施した場合、金利はどのように変化するか。その変化について、以前に説明したことがある(*1)(*2)。今回は、少し角度を変え、金利の上昇の原因と結果についてもう一度整理する。

ゼロ金利下での金融緩和の強化、すなわち量的緩和を強化した場合、将来金利は上昇する、という意見はよく聞かれる。私も同様な意見を持っている。金利は下落するという意見もあるが、今回は省略し、金利の上昇にだけ焦点を絞る。

量的緩和の強化が金利の上昇を引き起こすとの意見が多数派であるとしても、その原因については、いろいろ意見が分かれる。私なりに金利上昇の原因を整理し、有力と考えられる3つの考え方について説明する。

(1)インフレ期待の発生によるもの
インフレ期待の発生は、金利を上昇させる原因となる。国債の実質価値がインフレによって毀損されるので、投資家が以前と同じ価格ならば、国債を保有しなくなると考えられるからだ。現在の状況で、量的緩和が強化され、現在から将来にかけて、インフレ率が2%上昇すると仮定する。その場合、金利はどう動くのであろうか。一つの有力な考え方は、インフレ率が2%上昇すると予想されたならば、名目金利は直ちに2%上昇する、という考え方であり、フィッシャー効果と呼ばれている。ただ、量的緩和の強化が将来のインフレ発生を先取りして金利が上昇するという現象は、直近の日本においても、過去数年間のアメリカやイギリスにおいても発生していない。例えば、11月14日に衆議院解散が確実となり、安倍自民党総裁が、2-3%のインフレタ-ゲットの導入や、無制限の金融緩和という考えを改めて強調するようになった。それに影響されて、明らかに株価は上昇し、円相場は下落した。一方、国債価格は若干ではあるが上昇し、金利は低下したのである。リーマンショック後、アメリカやイギリスで大規模な量的緩和が実施されたが、金利は、アメリカのQE1、GE2、QE3、イギリスのQE1では、横ばいか若干の上昇であり、イギリスのQE2では大幅な下落になった(*3)(*4)。これは、量的緩和が強化されても、すぐに金利が上昇するとは限らないことを示している。では、永遠に金利が上昇しないことがありうるであろうか。将来、インフレ率の2%上昇が現実化した場合、現在と同じ金利の水準が続くとすれば、実質金利は大幅なマイナスになる。大幅なマイナスの実質金利が長期間続くことは考えにくい。従って、いずれ、金利は上昇に向かうと考える。ただ、その時期、幅、経路を正しく予想することは不可能である。上昇幅については、2%のインフレ率の上昇であるならば、最大で2%であり、それ以上の上昇があったとしても一時的な現象であると思う。今年7月に、2%の金利上昇が発生した場合、銀行の保有する国債の評価損が13.3兆円にのぼるという試算を日銀が発表している。これは、最悪に近いシナリオの1つであるが、銀行にとって、VARショックをはるかに上回る大変大きな損失である。しかし、仮に、2%の幅での金利上昇が発生したとしても、その損失は一時的なものである。嵐が過ぎ去った後には、利ザヤが拡大し、銀行の収益力は強化されるのである。私は、実質金利の大幅マイナスはないものの、実質金利の水準自体は低下に向かうと予想しているので、名目金利の上昇幅は2%を下回り、銀行の損失も、13.3兆円をかなり下回ると考えている。

(2)財政破綻懸念によるもの
国債金利は、財政破綻の懸念の可能性を織り込み始めるとると、相当大幅な金利の上昇、あるいは急上昇が発生すると考えられる。国債の元本や利子の支払いが不可能との予想が広がると、国債を誰も保有したいとは思わなくなる。国債は投げ売りされ、金利は急上昇に向かう。新規の国債発行は不可能になり、国債発行は日銀引受にならざるを得ない。そうなると、物価は急上昇し始め、最後はハイパーインフレに至るであろう。現在のように、政府債務がGDPの230%(IMF発表の数字)もあり、かつ、その比率が上昇する状況が続けば、将来、ハイパーインフレが発生する可能性は100%だと断言できる。ただ、何時起きるかについては、明日なのか、30年後であるのか、誰にもわからない。ハイパーインフレ突入を回避するための現時点の対策が、消費者物価の前年比1%の上昇と、消費税の増税である。しかし、この政策は成功するのであろうか。

消費者物価上昇率とGDPデフレーター上昇率の差
上記のように、税収に密接に関係するGDPデフレーター上昇率は、消費者物価上昇率を平均して1%強下回っている。これは、エネルギー等の輸入品の価格が上昇し続けているという要因が一番大きい。過去10年間については、GDPデフレーター上昇率は、消費者物価上昇率を平均1.3%下回っている。つまり、消費者物価上昇率が前年比1%を達成できたとしても、GDPデフレーター上昇率は、-0.3%前後にとどまる可能性が高いのである。過去10年間の実質GDP成長率は平均して年0.7%にすきない。GDPデフレーターの上昇率が-0.3%であれば、名目GDP成長率も0.4%近辺にとどまってしまう。ここまで低い名目成長率では、税収はごくわずかしか増えない。また、名目成長率が、国債金利よりも低いままだと、税収の伸びよりも、国債の利子支払いの金額の伸びの方が増えてしまい、財政再建には役立たなくなるのだ。
一般会計の税収の推移
次は消費税増税の効果である。上記に示した通り、一般会計の1996年度の消費税増税前の税収は、52.1兆円、今年度の税収見込みは42.3兆円である。デフレ下での消費税増税の結果、税収は大幅に減少したのである。これがどういうことを意味するのか。消費者物価上昇率が前年比1%の状態、すなわちGDPデフレーターがマイナスで、名目GDP成長率が非常に低い状態で消費税を増税すると、一般会計の税収は増えない可能性が高い。少子高齢化による社会保障費や、バラマキではない必要な公共設備の老朽化対策や地震対策などの公共事業費は、今後もある程度増やさざるを得ない。その結果、歳入が増えない中、毎年発行される国債の金額は増加し、政府債務の対GDP比率は上昇し続ける。すると、時期はわからないが、財政破綻懸念から金利は急上昇し、ハイパーインフレに突入する可能性が極めて高いのである。

(3)財政ファイナンスによるもの
財政ファイナンスが行われれば金利は上昇に転じる、という意見を繰り返し表明しているのは、日銀である。私は、この考え方については否定的である。日銀はすでに国債を90兆円近く、市場から購入している。これは財政ファイナンスなのであろうか。現在が財政ファイナンスで無いとしたならば、日銀が幾ら以上の国債を購入すれば、財政ファイナンスになるのであろうか。そもそも、「歳出が増えて、国債をいくら発行しても、日銀が国債購入を増やせば、何も問題は起こらない」と考えて、政治家や財務省が、歳出と国債の発行を増やすという行動を過去に取ってきたようには、全然見えない。日銀の国債購入金額とは全く無関係に、政治家や財務省は、国債や政府債務の残高を天文学的数値にまで積み上げてしまったのである。私は、巨額の政府債務が積み上がった原因として、社会保障費の増加や公共事業のバラマキは二番目以下であると考える。第一の原因は、歳入の減少であり、その大元の原因は、GDPデフレーターで測ったデフレであると考えている(*5に詳しく詳述)。この立場からすると、日銀による財政ファイナンス開始の時期があまりにも遅く、規模も小さすぎたことが、政府債務が恐ろしく膨張した最大の原因であるのだ。1990年代初頭のバブル崩壊直後に、ゼロ金利と大規模な国債の買いオペ=財政ファイナンスを実施していれば、デフレに陥らず、税収は増加し、政府債務の対GDP比率も上昇することはなかった。その結果、財政破綻が危惧される現在のような状況には、決してならなかったはずである。政府債務増大の最大の原因は、デフレという預貯金や確定利付き債券の保有者に対する減税を継続的に実施しすぎたことにある。このデフレ減税による税収の減少こそが、政府債務増大の最大の原因であると考える。白川総裁は、日銀の国債の買いオペを、市場が財政ファイナンスであると認識するようになったら、金利は急上昇し始める、と述べている。私は、この場合の金利の急上昇の原因は、財政ファイナンスが原因ではなく、(2)の財政破綻を懸念した金利の急上昇であると考える。1990年代初頭のように、財政破綻の懸念が全く無かった時期に、日銀が国債を大量に購入し、市場参加者の多くが、国債の買いオペが財政ファイナンスにあたると考えたとしても、財政ファイナンスを原因とする金利の急上昇は決して起こらなかったと考える。このことは、リーマンショック後のイギリスの巨額の財政ファイナンスや、それに次ぐアメリかの大規模資産購入の結果を見れば明らかである(*4)(*3)。財政ファイナンスを実施すると、金利が急上昇するのではない。過去の日銀による財政ファイナンスがあまりにも不足していたために、税収の減少と政府債務の巨額の積み上がりが発生し、日銀が国債を買う買わないにかかわらず、財政破綻懸念から金利が急上昇する可能性が、現在、発生してしまっているのである。

その他にも、量的緩和を強化すれば、金利の急上昇や、金利の急上昇の結果としてのハイパーインフレが発生する、と主張する経済学者やエコノミストは存在する。こうした考え方の多くも、量的緩和の強化だけでハイパーインフレが発生する、という論法になっていない。量的緩和の強化+巨額の政府債務が、結果としてハイパーインフレを引き起こす、という論法になっている。つまり、ハイパーインフレの真の原因は、量的緩和の強化ではなく、巨額の政府債務の方なのである。何度も繰り返すが、政府債務の対GDP比率が日本よりずっと低いアメリカやイギリスでは、大規模な量的緩和にもかかわらず、金利の急上昇も、その懸念も、全く発生していない。量的緩和の強化が、単独で金利の急上昇やハイパーインフレを引き起こすことはありえない。一方、財政破綻が真近になれば、量的緩和の実施の有無にかかわらず、金利は急上昇し始めるのである。

量的緩和の強化は、インフレ増税となり、税収の増加にもつながる。その意味では、量的緩和の強化は、財政再建にも役立つ政策である。現在の財政金融政策を続ければ、財政破綻懸念から、将来、何時かは金利の急上昇、ハイパーインフレが発生する可能性が高い。インフレだけで財政再建を成し遂げるべきである、などと言うつもりは毛頭無い。しかし、金利の急上昇、ハイパーインフ突入の可能性を引き下げるためにも、量的緩和の強化、大胆な金融緩和という政策は、むしろ必要とされる政策だと考える。

人気ブログランキング

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

パナソニックの将来 買収か再生か

リカードの比較生産費説からは、パナソニックの競争力が、トヨタやファナックを下回る状況で円高が進行した場合、パナソニックが大赤字に転落することは宿命であることを、前回説明した。リカードの比較生産費説には、まだその続きがある。日本が比較劣位にある電気機械産業を捨て去り、比較優位にある輸送機械産業や一般機械産業に特化した方が、日本はより豊かな国になることができる、ということである。つまり、パナソニックのような競争力の無い電気機械産業は早めに潰してしまい、トヨタやファナックのような競争力のある産業に特化した方が、日本はより豊かになれる、というものである。

しかし、この後半部分は、必ずしも正しくない。リカードが比較生産費説を唱えた約20年後、ドイツのフリードリヒ・リストが早くも指摘したように、リカードの比較生産費説は静態的な理論であるという点で、限界のある理論である。企業や産業の成長性などの動態的な要素を考慮すれば、現在比較優位にある産業だけに特化することが、必ずしも将来の望ましい姿と一致するとは限らない。現在において、電気機械産業は、技術革新の速度が速く、同時に、成長性も高い産業である。日本がそのような電気機械産業を見捨てることは、中長期的な経済成長を考えた場合、望ましいとは思えない。

電気機械産業では、技術革新が速く、生産性の向上も速い。その結果として、製品価格が暴落し、コモディティ化という現象がたびたび起こる。アナリストは、コモディティ化するような製品に日本企業は手を出してはいけないと主張する。一方、エコノミストは、経済成長の原動力は生産性の向上なので、日本経済の生産性を高めていくことは不可欠であると説く。エコノミストの言うことに従えば、日本企業はコモディティ化する製品をたくさん作る方が、生産性の向上につながるので、より望ましいことになる。どちらが正しいのか。私は、エコノミストの意見の方が正しいと考えている。コモディティ化しても、将来の成長性が見込める限り、できるだけ頑張って作り続ける方が望ましい。しかし、コモディティ化の結果、赤字を継続して産み出す製品を、民間企業が作り続けることは、実際問題として不可能である。従って、コモディティ化しても赤字にならないような環境を、日本政府が作ってあげる必要がある。たとえ、コモディティ化したとしても、日本企業が黒字を維持できるのであれば、全く問題はないはずだ。

電気機械産業は、生産性の向上が速く、成長性があるだけではない。同時に、輸送機械や一般機械などの他の業界に対する影響度が高い産業でもある。電気機械産業の競争力喪失は、現在競争力を持つ輸送機械産業や一般機械産業の将来の競争力に悪影響を与える。長期的に見た場合、ガソリンで動く自動車はなくなり、電気自動車か燃料電池自動車が、自動車の大半を占めることになる可能性が高い。仮に、将来は、電気自動車だけの時代になると仮定する。電気自動車の心臓部は、大型リチウムイオン電池である。現在、日本製の電気自動車向けの大型リチウムイオン電池は、100%がメイド・イン・ジャパンである。では、携帯電話・タブレット・ノートパソコン向けの小型リチウムイオン電池はどうであろうか。現在のところ、小型リチウムイオン電池は、日本、中国、韓国の3ヶ国で生産されている。ところが、日本のリチウムイオン電池製造大手のパナソニックとソニーは、小型リチウムイオン電池製造工場を主に中国に移転する計画を立てている。ソニーは、リチウムイオン電池製造からの撤退の報道も流れた。となると、数年後には、メイド・イン・ジャパンの小型リチウムイオン電池は無くなる可能性が高い。そうなるのであれば、自動車向け大型リチウムイオン電池も、小型リチウムイオン電池を追いかけるように、メイド・イン・ジャパンの製品では無くなってしまう可能性は、十分考えられる。将来は、日本企業の製品であっても、メイド・イン・チャイナの電気自動車が、日本国内の道路にあふれる可能性を否定することはできない。ロボットについては、将来の技術革新の方向性が見えるような状況ではなく、確度の高い予想はできない。しかし、ロボットもまた、パソコンのように、米系企業のMPUと米系企業のOSで動くようになり、ロボット自体の製造は、中国に移転してしまうということは、一つの可能性としては、十分に起こりうることである。将来、ロボットがMPUとOSを主体にして動くようになる時代が来たとしても、MPUやOSを日本が作り続けることができる可能性を、現時点で放棄してはならないと思う。

このような将来の様々な可能性を考えると、日本が、現在、電気機械産業を放棄するということは、将来にわたって多額の経済的利益を失うことになる可能性が高い。逆に、将来の成長が見込まれるからこそ、韓国、台湾、中国もまた国を上げて電気機械産業の育成に力を入れているのである。しかし、後ほど述べる不平等な条件を残したままで、貿易を自由に任せれば、多くのメイド・イン・ジャパンの電気機械製品は、日本国内において比較劣位に位置するので、円高が進行すると、アジア3ヶ国の製品に対して価格競争力が劣るようになり、競争力そのものも失ってしまうのである。この詳しい内容は、前回説明した通りである。

電気機械産業の競争力を、日本国内における比較優位、比較劣位ではなく、直接、アジア3ヶ国の電気機械産業の競争力と比較した場合、日本がアジア3ヶ国の企業に勝てない原因は、主に3つあると考える。

第一に、日本の電気機械産業は、規模に関する収穫逓増の利益を失ったことである。サムスンの巨大な液晶テレビ製造工場、TSMCの巨大な半導体製造工場、台湾系中国企業のフォックスコンの巨大なスマートフォン製造工場、こうした巨額の資金が必要な大工場を建てることは、弱体化した現在のパナソニックなどの日本の電気機械のメーカーには不可能である。昔は、日本がアジア3ヶ国よりも、規模の経済性を獲得していた。それをひっくり返したのは、アジア3ヶ国の自国通貨安誘導政策による低賃金を武器とした価格競争力と設備投資の累積である。アジア3ヶ国が持つ通貨安、低賃金という武器を、現在および近い将来の日本が持つことは不可能である。

第二に、アジア3ヶ国の中には、発展途上にあるため、日本とは賃金の大きな格差が存在する国もある。ただ、日本と賃金の大きな格差がある国は、東南アジアにはまだ多く存在するが、韓国、台湾、中国のアジア3ヶ国の中では、中国だけである。賃金の安い発展途上国が先進国から技術を学び、輸出競争力をつけて成長していくことを、阻止することはできないし、すべきでもない。

第三に、アジア3ヶ国の自国通貨安誘導政策による結果としての、低賃金と低価格製品の製造能力の獲得である。これはアジア3ヶ国の中で、韓国、台湾の賃金と製品価格が安い最大の理由である。中国と東南アジアの多くの国も同じ政策を実施している。私は、この部分については日本政府が関与し、格差を埋める努力をすべきものと考える。製品のコモディティ化で、真っ先に日本企業が赤字化する大きな要因でもあるからだ。

これだけではなく、最近のパナソニックなどの日本の電気機械のメーカーは、技術力も販売力も失いつつある。しかし、これは、近い将来、為替レートなどの環境が変わるのであれば、再び追い付くことは可能であると思う。ただ、一旦失われた製造能力を再び取り戻すことは、容易なことではないと考える。

日本国内での意見の相違は、主として第三で指摘した為替レートにあると思われる。パナソニックの製品に、どんなに競争力があったとしても、円高が無限に進行すれば、いずれは競争力を失う。現在、競争力があるサムスンの液晶テレビも、TSMCのCPUも、フォックスコンのスマートフォンも、ウォン高、台湾ドル高、人民元高が無限に進行すれば、いずれ必ず競争力を失う。問題は、現在の円やアジア3ヶ国の通貨の市場で決定されている為替レートが、適正値であるかどうかに依存する。エコノミストの中でも、現在は円高ではない、と考えている人は多い。そういうエコノミストたちから見れば、競争で負けたのは、日本企業が競争力を失ったことが原因であり、そういう非効率な企業を、安易に政府が救済したり、あるいは為替レートを動かしたりして保護することは、市場原理から見て望ましくない、と考えているようである。私の為替レートに対する認識は、現在の円レートは高すぎる、という認識である。理由は、購買力平価で見た場合、円レートは、米ドルよりも高く、世界の中でも、日本と貿易量の少ない北欧諸国やスイスに次いで高い(*1)。日本と貿易量の多いアジア諸国の通貨に対して、円は大幅に割高である(*2)。その結果、長期の実質実効為替レートで見ると、円は他の世界の国々よりダントツに割高である(*3)。その原因は、主としてアジア諸国の政府・中央銀行による介入が原因である(*4)。従って、少なくとも、多くのアジア諸国とは、為替レートという競争の前提条件に、あまりにも大きな格差がありすぎて、平等な条件での競争ではない。可能な限りの手段を使って、現在よりも円安アジア通貨高に誘導し、競争条件を平等にすることが必要であり、同時に正当化できると考える。

通貨の価値が平等であるかどうかの尺度の一つは、IMF、世銀、OECDが発表している購買力平価である。日本と生活水準が変わらないか、より豊かになった国、例えば台湾ドル、韓国ウォンは対円での購買力平価で、最終的には等価になるまで、格差是正の努力をするべきである。中国人民元は、まだ貧しい国であるので、途上国ディスカウントがあっても良い。2011年の時点でのIMFの購買力平価で見た対円のレートで、台湾ドルは60%安く、中国人民元は51%安く、韓国ウォンは46%も安い。韓国、台湾は、購買力平価ベースの1人当たりのGDPは日本と大きく変わらない。そうであるならば、購買力平価で見た通貨価値は、等価であっても不思議ではなく、むしろ等価であるべきなのである。人民元については、中国は、まだ発展途上国であるので、バラッサ・サミュエルソン効果(*5の最終段落を参照)により、通貨価値は、購買力平価よりある程度安くなるのもやむを得ない。ある程度は安くなるのは当然としても、51%安というのは、少し安すぎる。IMFの購買力平価で見た人民元は、対米ドルで35%安い。一つの目途として、対円でも35%くらいの格差なら認めても良いかもしれない。こうした、購買力平価ターゲットのような考え方が、すぐに世界で受け入れる可能性は無い。しかし、問題提起くらいはすべきであると考える。

現在の政府・日銀は、競争の前提条件である為替レートの水準を、可能な限り平等化する努力を全く行っていない。さらに、それ以前に、政府・日銀は、購買力平価や長期の実質実効為替レートなどの客観的な指標から見て、円高が行き過ぎているという事実の認識を全く持っていないようである。11月に行われたG20財務相・中央銀行総裁会議で、城島財務大臣は、「経済のファンダメンタルズが強固でないにもかかわらず円高が続いていており、復興に取り組んでいる日本経済に大きな下振れリスクをもたらしている」と、従来の財務大臣と同じような内容の発言をしている。この発言だけで、「現状の円レートは、高すぎるので是正したい」と、諸外国を説得できるはすがない。長期の実質実効為替レート(*3)や購買力平価(*1)(*2)などの客観的な指標を示し、円の割高な実体を世界にアピールすべきなのである。そうすることによって、介入にせよ、金融緩和の強化にせよ、円高是正策を打ち出すことに対して、国際的な反発が起こることを封じ込めることが可能になるはずである。

こうしたことを頭に入れた上で、パナソニック、あるいはシャープに起こりうる将来のシナリオを予想してみる。

(1)会社更生法→破産
(2)自力再建
(3)産業革新機構による支援
(4)日本の企業再生ファンドによる買収
(5)日本の製造業による買収
(6)外国の企業再生ファンドによる買収
(7)外国の製造業による買収
(8)財務省・日銀の円安誘導の結果としての自力再建

私が一番高い可能性があると考えるシナリオは、(7)の外国の製造業による買収、である。シャープの場合は、鴻海精密による吸収合併になる可能性が高い。パナソニックがこのまま赤字を出し続ければ、パナソニックの技術の獲得を目指して、アジア系の電機メーカーが買収に乗り出してくる可能性は高いと考える。パナソニックやシャープの技術を使って日本の国内工場で生産しても損ばかり出るかもしれない。しかし、パナソニックやシャープの技術を、中国、韓国、台湾の工場で使えば、利益の出るものが沢山あるはずだ。パナソニックが赤字を出し続けて存続不可能になった場合、そうした技術を求めて、買収を仕掛けてくるアジア系の電機メーカーが出現する可能性は高いと思う。買収して、必要な技術者を韓国、中国、台湾に連れて行き、新工場を作れば利益が出るのである。不用になった従業員の解雇や工場の閉鎖は、時間をかけて段階的に実施すれば、日本も文句を言いにくくなる。

(2)は、パナソニックについては可能性がまだ残されていると考えられるが、シャープについては可能性がかなり低くなってしまったと考える。(3)と(6)は、ルネサスエレクトロニクスで行われようとしている方式である。ルネサステクノロジーと日本電気エレクトロニクスが合併した結果、ルネサスエレクトロニクスは、人員が多すぎるというリストラの余地の大きい会社である。パナソニック、シャープにはそのような経営上の無駄が多いとは思えないので、可能性は低いと思う。同様な理由で(4)(5)の可能性も低い。そして⑦の可能性が高いかぎり、(1)に至ることは無いと思う。

(8)の財務省・日銀の円安誘導の結果としての自力再建は、円安誘導が可能であるならば、十分考えられるシナリオである。リーマンショックの前の1ドル=107円まで円安になれば、パナソニックとシャープは必ず立ち直るはずだ。実際には、すぐにそこまで円安になる可能性は低いと思う。今より円安が進行すればするほど、自力で再建できる可能性は高くなる。現在のパナソニックとシャープは、規模に関する収穫逓増の利益を喪失してしまっているが、時間をかけて少しずつ取り戻すしかない。

私が一番望ましい方法と考える手法は、(8)の財務省・日銀の円安誘導の結果としての自力再建である。具体的な手法は、(*6)で記した通りである。しかし、財務省・日銀が動かないとすれば、(7)の外国、特にアジア系の製造業による買収となる可能性が一番高い。パナソニックの半導体部門とシャープの再建に関しては、経済産業省が動いているようであるが、財務省・日銀がシャープやパナソニックなどの個別の企業のことを考えている気配は感じられない。国民世論でも、パナソニックやシャープの大赤字に関しては、経営陣が無能と切り捨て、円高は単なる言い訳とする声は多い。現在、日本からアジアへの技術流出が大きな問題として取り上げられることが増えている。パナソニック、シャープの2社が大赤字になるだけではなく、仮にアジア系の製造業による買収になれば、日本からアジアへどれほど多くの技術が流出するか、その結果、雇用の喪失以外に、将来にわたって、日本がとれほど大きな経済的損失を被るかを、真剣に考えている人が多いとは思えない。現在の日本経済の低迷の最大の原因は円高であり、その円高によって、パナソニック、シャープのような大企業が倒産寸前にまで追い込まれていること、そしてその結果、日本が将来にわたって、大変大きな経済的利益を失う可能性があるという事実を、1人でも多くの人達に理解してもらいたいと考える。


人気ブログランキング

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

全記事表示リンク
目次のページを表示

株式関連 株 コメント一覧

  • 投資部門別 現物先物 時系列表

  • 投資部門別売買状況 時系列グラフ

  • 8月第2週 株 コメント

  • 8月第1週 株 コメント

  • 7月第4週 株 コメント

  • 7月第3週 株 コメント

  • 7月第2週 株 コメント

  • 7月第1週 株 コメント

  • 6月第4週 株 コメント

  • 6月第3週 株 コメント

  • 6月第2週 株 コメント

  • 6月第1週 株 コメント

  • 5月第5週 株 コメント

  • 5月第4週 株 コメント

  • 5月第3週 株 コメント

  • 5月第2週 株 コメント

  • 5月第1週 株 コメント

  • 4月第4週 株 コメント

  • 4月第3週 株 コメント

  • 2016年 年間 株 コメント

  • 投資部門別売買状況アノマリー

  • 日本株 株式分布状況調査

  • 日銀資金循環統計 株 長期グラフ

  • 日銀資金循環統計 株 コメント

  • 株式先物投資部門別売買状況

  • 大手証券 先物建玉推移 グラフ

  • 海外投資家の株式買い越し金額

  • 世界の株価 国別 長期推移

  • 世界の住宅用不動産価格

  • 長期の実質実質為替レート

  • 最新記事
    カテゴリ
    最新コメント
    Twitterを表示
    経済指標が意味するところを解説
    FC2カウンター
    最新トラックバック
    検索フォーム
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR
    RSSリンクの表示
    Web Analytics