個人消費不振の真の原因

日本の個人消費の不振が続いている。1990年代初頭のバブル崩壊以降、個人消費の伸び悩みがずっと継続している。その原因を探るために、まず、日本の個人消費の変化と、アメリカ・イギリス両国の個人消費の変化(実質値)を比較してみることにする。

日米英の個人消費

1990年代初頭、日・米・英は、共に不況に陥っていた。しかし、その後は、米・英の個人消費の伸び率が高まったのに対して、日本の個人消費の伸び率は、むしろ低くなった。

日本の個人消費の伸び率の低さを説明する理由として、一番よくあげられるのは、多くの日本人が「将来不安」を抱き、消費を手控えている、というものだ。しかし、この説明には難点がある。それは、日本の個人貯蓄率の低下=消費性向の上昇である。


日米英の個人貯蓄率

上記のグラフを見て分かる通り、日・米・英はいずれも個人貯蓄率は低下しているが、日本の低下が一番著しい。理由は少子高齢化である。勤労者世帯だけの貯蓄率は、ほぼ横ばいであるのだが、引退した高齢者が貯蓄を取り崩して消費に回すので、日本全体では、貯蓄率が大きく減少し、反対に消費性向が上昇しているのである。

個人消費の伸び率の低さを説明する理由として次にあげられるものは、所得の伸び率の低下である。しかし、私は、所得の伸び率の低下原因をうまく説明して、消費の伸び率の低下につなげる主張を見たことがない。なぜなら、所得の伸び率が低下する多くの原因は、米・英を中心とする先進国でも広範に発生しているので、日本だけが所得の伸び率が低下する理由にならないからである。また、所得の伸び率の低下の原因が、消費の伸び率の低下であるケースもあるからである。

私は、他の別の原因があり、その原因が、日本の所得と消費の伸び率の低下の両方の原因になっていると考えている。他の別の原因とは、先進国では20年以上という長期間、日本だけで発生している現象である。それは、資産価格の下落である。

日本のバブルの頂点の株価と、米・英のリーマンショック前のバブルの頂点の株価を100として、その時期の前後に、株価がどのように変化したかを見ることにする。


日米英の株価比較

日本と米・英の違いは、住宅バブルの前にITバブルがあったため、バブルの前の株価の動きは日本と少し異なっている。しかし、それよりももっと重要なことは、バブル崩壊後、日本の株価が下げっぱなしであったのに対して、米・英の株価は戻りの幅が非常に大きいことである。

同様な手法で、日本の1980年代のバブルとその崩壊と、1929年のアメリカの大恐慌を引き起こしたバブルとその崩壊の比較をしてみる。


日米の株価比較

バブル発生時はよく似た動きをしているが、バブル崩壊後は相違点が多い。最大の相違点は、NYダウがバブル崩壊から2年10ヶ月後に89.2%下落した後、反発が継続したのに対して、TOPIXは、バブル崩壊から22年6ヶ月もの長期間にわたって、75.9%下落し続けたことである。TOPIXは、その後若干反発はしているものの、まだバブル崩壊後のボトムを打ったかどうかさえも確認できない。

次に、同様の比較を地価(米・英の場合は住宅価格)で行い、その変化を見ることにする。


日米英の地価比較

バブルの発生過程は、日・米・英は、共に非常に似た動きを示している。しかし、バブル崩壊後は、イギリスは短期間で下げ止まり、若干の上昇傾向を示している。アメリカの住宅バブル崩壊後の下げは、日本より急であったが、直近は下げ止まりの傾向が見られる。日本は、バブル崩壊後20年以上にわたって地価はほとんど下がり続け、未だに下げ止まっていない。米・英の将来の住宅価格について正確なことは分からない。しかし、アメリカは住宅着工件数が目に見えて増え始めており、住宅価格も今後上昇傾向をたどる可能性は十分考えられる。イギリスの経済は良くないが、現在イングランド銀行が日本よりはるかに大規模な量的緩和を実施しているので、今後、住宅価格が大きく下がる可能性は低いと見ている。

こうした株価、地価の変化を通して、日・米・英の家計純資産がどのように変化したかを見ることにする。家計純資産は、家計総資産マイナス総負債であり、資産の中には、金融資産だけではなく、土地や建物などの実物資産も含まれている。


日米英の家計純資産

米・英は家計純資産がほぼ継続して増加している。リーマンショック後、家計純資産は一時急減するが、すぐに回復傾向を示している。一方、日本は、バブル崩壊後は、家計純資産が全く増えず、微減か横ばいが継続している。

日本の場合、家計は、預貯金、保険・年金の保有金額が増加しているのに対して、土地の保有金額が大幅に減少しており、株の保有金額も減少している。その結果、日本の家計純資産は、バブル崩壊後は微減か横ばいとなった。

ここで注目すべきことは、一番最初に示した日・米・英の個人消費(1990=100)のグラフと、一番最後に示した日・米・英の家計純資産(1990=100)のグラフの形状が似ていることである。(再掲)

日米英の個人消費
日米英の家計純資産


1990年以降、米・英は、家計純資産が増え続け、個人消費も、家計純資産の増加に引っ張られるように伸びている。一方、日本は、家計純資産が微減か横ばいとなっているため、個人消費も伸びようとしているのだが、家計純資産が増えないことに引っ張られ、結果として個人消費の伸びもわずかになってしまったように見える。日本と米・英の個人消費の伸び率の差の最大の原因は、家計純資産の伸び率の差である。そして、その差は、株価、地価などの資産価格が、日本だけ下落し続けていることが原因である。

このように、日本の個人消費が不振である最大の原因は、株価と地価の下落、すなわち資産価格の下落であることがわかる。日本の個人消費を増やすためには、株価と地価を引き上げる必要がある。その手法は、既に(*1)で示したように、日銀の量的緩和の強化が必要である。逆に、過去20年間、日銀が量的緩和を実施してこなかった、あるいは、量的緩和の規模が小さすぎたことが、個人消費の伸び率が非常に低かったことの原因である。日銀がこうした過去の誤りを認識し、一日も早く量的緩和のさらなる強化に踏み切ることが、何よりも求められている。

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財政政策の望ましいあり方

今まで何度かにわたって、財政政策の望ましいあり方について、分割して書いてきた。今回は、そのまとめとして書くことにする。

私の基本的は考え方は、財政政策も金融政策も有効、という立場である。しかし、現在のような政府債務が大きく積み上がっている時期に、財政政策を採用することには否定的であり、金融政策を政策の中心に置かざるをえないと考える。財政再建には、増税も必要だと思うが、リカードの中立命題(増減税のGDPへの影響度はゼロである)、非ケインズ効果(財政再建のための増税や歳出削減は、GDPを増加させる)は日本ではあてはまらず、増税は不況を招きやすいと考えている。

不況時に、財政政策として公共投資を拡大する政策は、有効であると考えている。しかし、公共投資の拡大は、ケインズが言うように、あくまでも一時的な誘い水としての景気対策であるべきだ。その上、政府債務の残高が巨額な時期には、景気対策として財政政策を用いることは、できるだけ避けるべきであると思う。ただでさえ巨額な政府債務をさらに増やせば、市場に財政破綻の懸念を引き起こす恐れがあるからである。また、現在は、震災復興のために、景気動向と無関係に実施されている公共投資が、実質的にケインズ的な財政政策と同じ効果をもたらし、日本経済の成長を下支えしている。このような時期に景気対策として被災地以外での公共投資を増やすことは、政府債務を増やすだけではなく、建築・土木関連分野という限定された部門で、過度の超過需要を引き起こし、局部的に歪んだインフレの発生を引き起こすことも考えられるので、望ましくない。

前回、デフレが財政赤字の主たる原因だと断定し、GDPデフレーターベースのインフレ率をプラスにすべきとの結論を導き出した。インフレとは、預貯金と確定利付き債券の保有者に対する課税であり、インフレ税と言っても良い。それでは、GDPデフレーターが、プラスになれば、インフレ税の増税となり、財政赤字は縮小していくのであろうか。残念ながら、そうはならない。マイルドインフレを通したインフレ税の導入という増税策だけで、財政再建が可能になる時期は、既に過去のものとなってしまったのである。

前回グラフで示したように、日本のGDPデフレーターは1994年がピークで、その後はほぼ一貫して低下している。従って、1990年代前半にゼロ金利と量的緩和政策だけを採用していたならば、GDPデフレーターがマイナスになることは無かったはずである。財政赤字/GDP比率は、ゼロ近辺にとどまり、プライマリーバランス/GDP比率もその少し上の水準で推移し、政府総債務/GDP比率が一方的に上昇することも無かったはずである。つまり、1990年代前半という時点であるならば、マイルドインフレの継続によるインフレ税の維持だけで、より一層の財政収支の悪化を防ぐことができたと断言できる。しかし、当時はまだ、ゼロ金利+量的緩和政策という発想は、全くといって存在しなかった。そのため、バブル崩壊後の景気対策は、ケインズ的な財政政策が中心であった。1996年まで、こうした公共投資の増加と社会保障費の増加が財政収支悪化の主因であった。それ以降、公共投資は縮小に向かい、社会保障を中心とする支出が拡大し、財政赤字の主因となっていく。

こうした財政赤字が毎年積み上がった結果、前回使用したIMFの統計によると、政府総債務/GDP比率は230%、政府純債務/GDP比率は127%と、主要先進国の中で、日本はずば抜けて多い借金を抱えてしまうこととなった。長期にわたるデフレ減税の結果、とてつもない借金の山が積み上がってしまったのである。ここまで借金の水準が高くなってしまうと、マイルドインフレは必要だが、マイルドインフレだけで借金が増えない状況を作り出すことは、不可能である。理由は(*1)で示したとおり、インフレが発生すると、名目金利も上昇して行くからである。そうなると、国債の利払い費用が膨らみ、歳出が膨張してしまう。もし、インフレだけで財政赤字を解消しようとすると、ハイパーインフレかそれに近い高率のインフレが必要になる。例えば、物価を1年間で1000兆倍にすれば、簡単に財政再建が可能となる。しかし、ハイパーインフレの世界では、財政再建が達成されても、経済自体が崩壊してしまう。限度を超えたインフレ政策を実行することは、経済に悪影響を及ぼすので、採用すべきではない。

従って、財政再建のためには、増税と歳出削減は、どうしても必要になってくる。歳出については、少子高齢化に伴う社会保障支出の自然増に加えて、今後は、高度成長期に建設された社会資本の維持・更新費用が増えていくことも予想される。従って、歳出をどれほど合理化しようとしても、歳出の伸びを減らすことはできるが、歳出自体を減らすことは、ほとんど不可能であると思われる。歳出の合理化による歳出の伸びの縮小に加えて、増税もまたやむをえない政策であろう。

私が考える一番望ましい増税のあり方は、金融政策で量的緩和を徹底的に行い、バブルを引き起こし、そのバブルが膨張し、崩壊することが絶対にないようにするために、大規模な資産課税の強化を実施することである。(*2)で述べたように、量的緩和の効果は、モノの価格の上昇よりも、先に資産価格の上昇をもたらす可能性が高い。その中で、量的緩和を継続していけば、必ず、地価、株価といった資産価格の上昇率が大きくなるはずである。この資産価格の上昇は、はっきり言って、バブルである。しかし、ここで量的緩和をやめたり、金融引き締めをはかったりすれば、景気は必ず減速する。従って、地価、株価の上昇が明らかになった時点で、金融政策ではなく、財政政策によってバブルへの発展を阻止すべきだと考える。具体的には、土地については、地価税の復活と、対象範囲の拡大、税率の引き上げであり、株については、キャピタルゲイン課税の税率引き上げである。この2つの税金の税率をきめ細やかに上昇させることにより、バブルの成長を徹底的に封じ込め、同時に税収の拡大を目指すことが可能となる。

インフレ税+キャピタルゲイン課税の強化でも税収が足りなければ、その時には、消費税の増税もやむをえないと考える。

現時点では、景気が悪化しない限り、消費税の税率が、5%→8%→10%と二段階で増税が実施されることが決定されている。しかし、消費税増税後には、不況か、経済成長率の低下が生じる可能性が高い。消費税増税の経済に与える負の効果を軽減するためにも、前提として、マイルドインフレの実現、資産価格の緩やかな上昇を実現することは、不可欠であると考える。

1997年-1999年の不況は、消費税増税の影響は小さかったという意見がよく聞かれる。不況の主因は、アジア通貨危機や、山一證券の倒産などの特殊事情が重なったためである、という考え方である。しかし、この考え方は、間違っている。1997年-1999年の不況は、内需が大きくマイナスになり、外需はプラスであった。この不況は、間違いなく、内需の落ち込みを原因とする不況であり。アジア通貨危機の影響は全くといって無かったと断言できる。1997年11月の山一證券の破綻は、社会的にはショッキングな出来事であり、心理的には大きな影響を及ぼし、貸し渋りの強化もあったはずだ。しかし、山一證券破綻による国民負担は、最終的には1000億円強の負担にしかならなかった。経済的により大きな影響を与えたのは、1998年10月の長銀破綻と12月の日債銀の破綻である。この2行に対する国民負担は、合計すると7兆円を超える規模であった。1998年末に金融危機は深化していくのであるが、1999年1月を底にして、景気は力強い回復に転じるのである。長銀、日債銀の破綻が景気にほとんど悪影響を及ぼさなかったのであるから、当然、山一證券の破綻の景気に対する悪影響は、より小さかったはずである。 このように、消費税増税の景気に対する悪影響は、ヨーロッパとは違って、日本においては、高い確率で発生することになると考えられる。リカードの中立命題や非ケインズ効果というのは、日本では成り立たないのである。

繰り返すが、私は、財政再建の一環として、ある程度の消費税増税はやむをえない、という立場であるが、消費税増税の経済に与える負の効果を軽減する政策を同時に打ち出す必要がある、と考えている。野田政権で決定された消費税増税策では、消費税増税だけが単独で実施されることになる。そのため、2014年4月の8%までの増税は、実現可能性が高いと思われるが、2015年10月の10%までの増税は、景気の悪化のために、実行できなくなる可能性が高いと考える。
1997年の時と同様の、景気後退と税収全体の落ち込みという現象に、再び襲われる可能性があることを、十分考慮に入れておかなければならない。

以上、私が望ましいと考える増税策をまとめると、(1)量的緩和の強化→マイルドインフレの実現によるインフレ税、(2)マイルドインフレの中で資産バブルの発生を防ぐ資産課税の強化(3)消費税、という順番で増税を実施していくのがベストの選択であると考える。

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デフレと財政赤字の関係

主要先進国を20ヶ国ピックアップし、IMFのHP掲載データを使用し、その財政状況の比較を行うことにする。日本を例にとると、政府の一般会計の数字ではなく、国民経済計算ベースの中央政府、地方政府、社会保障基金の合計である一般政府の数字が比較対象である。

まず、主要先進国20ヶ国の総債務の対GDP比率の変化を見ることにする。


先進国の総債務GDP比率

この指標では明らかに日本がずば抜けて借金の比率が高い。かつ増加し続けている。

ただ、日本の場合、政府は、借金も多いが、資産も多い。そこで、借金から資産を差し引いた、純債務の対GDP比率の変化を見ることにする。


先進国の純債務GDP比率

このグラフでも、日本が最悪であることには変わりは無い。ここで注意してもらいたいのは、ノルウェー、フィンランド、スウェ-デンの3ヶ国の数字である。3ヶ国の数字がマイナスであるということは、3ヶ国の政府の資産が借金を上回っているということである。特にノルウェーのこの比率はマイナス168%である。ノルウェーは、北海油田の収入を財源としたソブリン・ウェルス・ファンドを通して資金運用を行い、次世代のために貯蓄を増やしているのである。日本はこの比率がプラス
127%。日本はノルウェーと正反対に、次世代に多額の借金を残しているのである。

この借金や貯蓄の原因となった、年ごとの財政収支の対GDP比率を見ることにする。


先進国の財政収支GDP比率

日本の場合、1993年以降、ずっと赤字が継続している。2005年-2007年の景気回復期に赤字は縮小するが、リーマンショック後には、再び大幅赤字に逆戻りしてしまった。

この財政赤字の原因を探るために、国家の歳入(税金・社会保険料)の推移を見ることにする。


先進国の歳入の推移

日本だけが、バブルのピークの1991年あたりから、歳入は微減である。日本政府の一般会計だけの税収を見ると、1990年をピークにして、その後大きく減少している。国税は大きく減少しているが、社会保険料の収入が増加し、IMF定義の一般政府では、何とか微減のレベルに抑えている。それでも、日本以外の主要先進国の歳入は増加を続けており、日本だけが歳入、すなわち税金・社会保険料が増えなかったということを理解しておく必要がある。

次に歳出の推移を見ることにする。


先進国の歳出の推移

日本の歳出も、2000年頃から増加しておらず、他の主要先進国の増加とかなり異なっている。日本の歳出は、今後はともかく、2011年までは、少子高齢化の中でもあまり増えておらず、無駄もあったと思うが、他の先進国よりは、相対的に少なかったと言えるであろう。にもかかわらず、1993年以降、財政赤字が増加した主な原因は、歳出面より歳入面により大きな原因があるはずだ。

歳入に最も大きな影響を与える要因は、名目GDPである。次に名目GDPの推移を見ることにする。


先進国の名目GDPの推移

歳入のグラフと似ており、日本だけがバブル末期の1991年頃から横ばいである。こうしたグラフから、日本の財政収支の悪化の最大の原因は、主要先進国20ヶ国の中で、唯一、名目GDPが成長しなかったことにある。

名目GDP=実質GDP×GDPデフレーターである。そこで、次に実質GDPの推移を見ることにする。


先進国の実質GDPの推移

初めて日本が最悪ではないデータが出てきた。それでも、イタリアとデンマークを少し上回るだけである。

次に、GDPデフレーターの推移を見ることにする。


先進国のGDPデフレータの推移

GDPデフレーターの増加率も、日本が最低である。しかも現在の水準は、1994年のピーク時よりも、はるかに低く、グラフの始まりの1980年頃と同程度の水準である。日本が世界最大の借金大国となってしまった原因は、GDPデフレーターがピークの1994年から、ほぼ継続してして値下がりし続けてきたことにある。
1994年以降、デフレに陥らなかったと仮定すると、1994年の数値である、総債務/GDP比率は83%、純債務/GDP比率は19%から、あまり大きく変化しなかった可能性は十分考えられる。日本の借金が異常なまでに膨れ上がった原因は、日本の名目GDPが成長しなかったことが原因であるが、その先の大元の原因は、GDPデフレーターが長期間低下し続けたことが原因である。すなわち、日本政府の巨額の借金の原因の多くは、デフレにあったと言っても良いであろう。

デフレとは、主に、預貯金や確定利付債券の保有者に対する減税である。他の主要先進国が、預貯金や確定利付債券の保有者に対する増税を継続している間、日本は預貯金や確定利付債券の保有者に対する減税を継続し、結果として税収を大きく減らしてしまった。大半の他の主要先進国はデフレに陥ることがなく、名目GDPの成長率が高かったため、財政赤字は日本ほど増加することは無かった。

なお、香港と台湾は1998年以降デフレが続いているが、実質GDPの成長率が主要先進国20ヶ国の中で、非常に高く、名目GDPの成長率も主要先進国20ヶ国の中で中位にある。名目GDPの成長率が高ければ、税収も増加し、財政赤字の問題も深刻にならない。日本の場合、実質GDPの成長率は、主要先進国20ヶ国の中で下から3番目、GDPデフレーターは、主要先進国20ヶ国の中では最低であった。その結果、名目GDPの成長率が主要先進国20ヶ国の中でずば抜けて低くなってしまった。その次には、税収が大幅に落ち込み、財政赤字や借金の残高が異常なまでに膨らんでしまった。

税収を引き上げるために最も必要な政策は、GDPデフレーターで測ったデフレから脱却し、マイルドなインフレを実現することである。直近のGDPデフレーターは、前年比1.1%のマイナスである。デフレ減税はまだ続いている。日銀が量的緩和を現在よりも大幅に強化し、1日も早くGDPデフレーターをプラスの領域に持っていくことが、何よりも求められている。

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金融の量的緩和と円安

金融の量的緩和を強化して為替を円安に誘導すべきである、という意見を持つ人は多い。私もその中の1人である。しかし、量的緩和の強化は円安の進行につながらない、と考えている人に、説得力のある説明をするのは、かなり困難なことである。

為替レートの決定理論の1つに、マネタリーアプローチというものがある。マネタリーアプローチの考え方では、日本がアメリカよりマネーストックをより増やせば円安になり、日本がアメリカよりマネーストックをより減らせば円高になる。

この、マネタリーアプローチの考え方が、1970年代の変動相場制の下で、為替レートの決定理論として有効であるという論文を1979年に書いたのが、現日銀総裁である白川方明氏である(日銀HPに掲載)。この論文で、白川氏は、「為替レート変動はすぐれて貨幣的現象である」というマネタリーアプローチの基本命題を実証的に明らかにした、と記している。当時の白川氏は、マネタリスト強硬派か、貨幣万能主義者と思えるくらい、貨幣の経済や為替レートへの影響力を重視していたように見える。もっとも、現在の白川氏は、すっかり変身してしまったようであるが。

私は、マネタリーアプローチの考え方を支持する。しかし、為替レートの動きをマネタリーアプローチだけで説明するには無理がある、と考えている。為替レートを決定する要因は多数存在し、マネーというのは、その中の重要な要因の一つである。従って、マネーとその他いくつかの重要な要因を総合して、為替レートの決定要因として用いるべきものと考える。

現在の私の分析手法は、マネタリーアプローチより古くから存在しているフローアプローチである。国際収支表を細かく観察することにより、為替レートの分析をしている。国際収支の詳細なデータが入手可能となったため、従来よりフローアプローチの有効範囲は広まったと考えている。

現在の私の考え方では、日銀の金融政策が、国際収支の様々な項目の需給に対して、どのような影響を与えるかを考えることから始まる。


日本の国際収支の主な内訳

国際収支の項目を細かく分類すれば、非常に多岐にわたる。しかし、国際収支の項目の中で、長期的に大きな黒字、又は赤字の数値を示す項目は、経常収支、投資収支、外貨準備増減の3項目である。投資収支の中で特に重要な項目は、直接投資、証券投資である。この外に、長期的にはゼロに近いが、短期的に大きく変動する項目である「その他投資収支」がある。「その他投資収支」は大幅黒字と大幅赤字を繰り返すが、年平均をとると、わずか0.2兆円の黒字となる。「その他投資収支」に含まれる項目の数は非常に多いが、短期の資金貸借と、現先、レポを利用した資金の貸借、現預金の項目の数字が大きい。いわゆる「投機的資金」のかなりの部分は、「その他投資収支」に含まれていると考えて良いと思う。

上記の表の過去16年間の年平均の項目の数字と為替レートの関係を説明すると、次のようになる。日本は、過去16年間、経常収支の黒字で年平均15兆円の資金を稼ぎ、投資収支を通じて、8.2兆円の資金を流出してきた。しかし、これだけでは外国為替市場は均衡せず、円高圧力がかかり、その結果、6.3兆円の円売り外貨買い介入を実施し、外貨準備を増やし、その結果、外国為替市場の需給が均衡することとなった。


日本の投資収支の主な内訳

ここからさらに、投資収支の内容をより細かく分析する。投資収支は、資産サイド、すなわち日本人投資家の対外投資と、負債サイド、すなわち、外国人投資家の対内投資に分けられる。債券投資については、この他に債券発行の金額が加わるのであるが、除外しても結論は同じであるのであえて除外し、債券売買分だけの数字を掲載した。年平均で見れば、日本人投資家の対外投資は、債券投資で11.2兆円、直接投資で5.3兆円、株式投資で2.6兆円であった。一方、外国人投資家の対内投資は、債券投資が4.7兆円、株式投資が4.5兆円、直接投資が0.8兆円であった。債券投資4.7兆円のうち公的部門が5.1兆円であった。日本人投資家の資金は、直接投資、株式投資、債券投資を通じて、継続して海外に流出している。2011年はユーロ危機の影響で対外債券投資は縮小したが、2012年前半は、年率12兆円のレベルまで回復している。一方、外国人投資家の資金も、主に日本への株式投資、債券投資を通じて日本に流入している。ここで注意したいのは、外国人投資家の債券投資である。外国人投資家の債券投資の多くは、民間部門ではなく、公的部門である。普通、公的部門と言えば、政府・中央銀行の外貨準備を思い浮かべる。しかし、IMFの統計から円建て外貨準備の増加額を計算すると、年平均でわずか0.5兆円にすぎない。IMFは、通貨別外貨準備について、全体の55%を把握し、残りの45%を把握することができていない。未把握の金額を含めても、日本への外貨準備の資金流入はせいぜい年平均で1兆円くらいであろう。しかし、公的部門の対日債券投資は、年平均で5.1兆円も存在する。この差の4.1兆円の部分は、ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)、SWF以外の政府関係機関、外国の公的年金資金等であると推定される。外国人投資家の債券投資のかなりの部分を占めるSWF等の資金は、投機性の高い資金でもあると推定される。年間に大幅に買い越す年が多いが、大幅に売り越す年もある。直近はともかく、少し前までは、日本の金利は世界一低かったので、利息収入は期待できず、期待できるのは、為替差益だけであった。だから、普通の民間部門の投資資金は、主として日本株を買い、日本債券はごくわずかしか買っていない。SWF等の資金は、主に為替差益を求めて日本に流入してくる資金であり、投機性の高い資金と考えざるを得ない。2011年はユーロ危機の深化により、デフォルトリスクを避けるために、あわててユーロから日本へと資金を移動させたようである。その金額は、昨年1年間で約20兆円である。この資金が日本に流入することにより、日本円は戦後最高値を更新し、介入によって外貨準備を13.8兆円増やすことを余儀なくされた。

昨年の大震災以降、燃料輸入金額の急増と、円高による日本の国際競争力の低下により、経常黒字は大きく減少している。この状況下で日銀がより大規模な量的緩和の強化を実施したならば、これらの収支はどう変動するかを考える。とりあえず、投機的な資金は、日本人、外国人共に、円売り外貨買いに走るであろう。これは、「その他投資収支」の赤字拡大要因となる。日本人投資家の対外債券投資については、金額を増やす方向に働くはずだ。しかし、現在は、内外金利差も少なく、過去の投資分の為替評価損も大量に抱えているために、日本人投資家の対外債券投資で、すぐに増える金額は少ないと思う。次に負債サイドを見る。外国人投資家の対日株式投資は、円安・株高期待で、円の期待下落率より、株価の期待上昇率の方が高いので、増加の方向に働く。外国の政府・中央銀行の外貨準備の対日債券投資は、ほとんど変化はないであろう。SWF等の対日債券投資はどうなるか。これは、先に述べたように、為替差益を求めた投機性の高い資金であると推定される。そうであるなら、量的緩和の強化は、円の先安期待を生じ、少なくとも対日債券投資の金額は減少するはずであり、場合によっては、日本の債券を売り越すようになることも考えられる。

経常収支は、低水準の黒字で不変と仮定する。現時点において、日銀が大規模な量的緩和の強化を実施した場合、国際収支の主要項目はどのように変化するかをまとめると、
日本人投資家の対外債券投資・・・若干赤字が増加
外国人投資家の対日株式投資・・・黒字が増加
外国人投資家の対日債券投資・・・黒字が大幅縮小か、赤字に転落
「その他投資収支」・・・・・・・・・・・・・大幅な赤字になる

これらを全部合計すると、投資収支は赤字拡大となる。国際収支が均衡するためには、円安が進んで、経常収支の黒字が拡大するまで円安が続くことになる。

経常収支が、円安の結果、黒字の水準が上昇したと仮定する。その中で、日銀が量的緩和をさらに強化した場合どうなるか。投機性の高いSWF等の資金は、日本の債券の売り越しを増やし、外国人投資家の対日債券投資は大幅な赤字に転落するであろう。日銀が量的緩和をさらに強化した場合、国際収支の主要項目がどのように変化するかをまとめると、
日本人投資家の対外債券投資・・・若干赤字が増加
外国人投資家の対日株式投資・・・黒字が増加
外国人投資家の対日債券投資・・・赤字が大幅に増加
「その他投資収支」・・・・・・・・・・・・・大幅な赤字が継続

これらを全部合計すると、投資収支は、やはり赤字拡大となる。国際収支が均衡するためには、円安が進んで、経常収支の黒字がさらに拡大するまで円安が続くことになる。

経常収支が、円安の結果、黒字の水準がさらに上昇したと仮定する。それでも手を緩めることなく、日銀が量的緩和を強化し続ければどうなるか。投機的な資金である、「その他投資収支」、SWF等が中心の外国人投資家の対日債券投資は、十分円建て資産を売ったので、赤字拡大ではなく、むしろ、赤字縮小の方向に動くと思う。外国人投資家の対日株式投資も、日本株を十分に買ってしまい、買い越し金額が減少すると思う。一方、量的緩和の強化の継続が明らかになり、実際に円安が定着すれば、外為法改正後30年以上、為替差損ばかり被り、対外債券投資をできるだけ避け続けてきた日本人投資家が、円安期待を持つようになり、対外債券投資を拡大し始めることが考えられる。日銀が量的緩和を強化し続けた場合、国際収支の主要項目がどのように変化するかをまとめると、
日本人投資家の対外債券投資・・・赤字が大幅に増加
外国人投資家の対日株式投資・・・黒字が縮小
外国人投資家の対日債券投資・・・赤字が縮小
「その他投資収支」・・・・・・・・・・・・・赤字が縮小

これらを全部合計すると、投資収支は、やはり赤字拡大となる。国際収支が均衡するためには、さらに円安が進んで、経常収支の黒字がより拡大するまで円安が続くことになる。

このように、日銀が量的緩和の強化を継続し続ければ、まずは、「その他投資収支」に含まれる投機的な資金、外国人投資家の中のSWF等の投機性の高い債券投資で、まず資金流出が始まる。それが継続すれば、いずれ日本人投資家の対外債券投資の増加を通じて海外への資金流出が増加し、円安がもたらされ、経常収支の黒字が拡大していくことになる。

もっとも、外国為替市場では、様々な心理的要因が働き、資金が流出入する。量的緩和の拡大で円安になっても、それを一時的なものと予想する投資家は、必ず存在する。こうした「円安は一時的」と考える投資家が、まとまって円買いを始めると、「その他投資収支」が大幅な黒字になり、円高がぶり返すことも十分考えられる。このような時には、円高期待を打ち消し、円安期待を持続させるために、政治的外交的な摩擦を覚悟して、財務省は大量の円売り外貨買い介入に踏み切り、円安の定着をはかるべきだ。こうした日銀の量的緩和の強化の継続を中心にして、財務省の介入を一部加え、内外の投資家が円安期待を持ち続ければ、中長期的な円安傾向が本当に実現するということは、十分考えられる話である。

上記に示したのは、日銀の量的緩和の強化が継続された場合、起こりうる有力なシナリオの1つである。相場の世界は想定外の出来事が頻繁に発生する世界である。ここでは、ユーロの無秩序的な崩壊といったシナリオは、可能性はあるが、低いということで、想定外に置くことにする。想定内のシナリオだけならば、上記のシナリオかそれに近い円安のシナリオがいくつか描け、円高継続、又は、相場の膠着不変のシナリオを考えるのは難しいのではないかと思われる。日銀の量的緩和の強化が継続し、補完的に財務省による為替介入を組み合わせれば、円安誘導を実現させることは、十分に可能であると考える。

こうした円安が進行している時の実体経済の動きは、
円安による輸出の拡大
→個人・法人の所得の増加
→個人・法人の貯蓄の拡大とマネーストックの増加
→個人・法人の過剰貯蓄の海外流出拡大
→円安・高水準の経常黒字の定着
→実質GDPの増加
という現象が背後で発生する可能性が高い。

このように、日銀による大規模な量的緩和の継続により、円安誘導が可能になれば、円安→輸出拡大→実質GDPの増加、が実現することになる。量的緩和は、前回述べた資産効果と並んで、経済成長を実現させる重要なルートとなる。日銀は、1日も早く、資産高、円安をもたらす、大規模かつ継続的な量的緩和政策の実施を開始すべきである。

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

金融の量的緩和と資産効果

金融の量的緩和政策が、デフレ脱却やインフレ率の上昇に有効であることは、主として(*1)において、それを補完する内容を(*2)で説明してきた。

それでは、量的緩和で実質GDPを増加させることは可能なのか。単にインフレ率が上昇するだけで、実質GDPが全く上昇しないのであれば、デフレ脱却とマイルドなインフレが実現できたとしても、無意味ではないのか、という疑問が生じる。これは、経済学的には、貨幣は中立的か、非中立的かという、大変難しい問題であり、意見の分かれる論点である。

私の考えは、1990年代-2010年代の日本という場所と時代を限定すれば、貨幣は非中立的であり、量的緩和の強化は、実質GDPをも増加させると考えている。

貨幣の中立性についての経済学的な論争をする場合、(*3)で説明したように、実質金利が不変であるか、低下するかというのが一つの大きな論点である。私の立場は、(*3)で説明した通り、実質金利は低下する、という立場である。実質金利が低下すると、設備投資が刺激され、実質GDPも上昇する。この効果はあるとは思うが、非常に小さな効果だと思う。後日、実証分析をした場合、明らかに効果があったと認められるほどの大きな効果にはならないと思う。

金融政策と言うものは、基本的に、すべての物価を等しく上昇させたり、下落させたりするものではない。量的緩和についても同様であり、全く物価が上昇しないものもあれば、一部の物価だけが大きく上昇するということが、たびたび発生するはずである。この問題を提起して、マネタリズムの経済理論を批判したことで有名なのは、ハイエクである。私は、逆に、現在の日本においては、一部の偏った物価上昇が発生することこそが、量的緩和が正当化される根拠になると考えている。

量的緩和が強化された場合、価格が真っ先に上昇するのは、モノの価格ではなく、資産の価格であると考える。中でも、①大都市の土地、②株、の2つが有力であろう。土地や株の価格が上昇することにより実質GDPの成長率が高まることは、資産効果と呼ばれている。1980年代後半の日本、2000年代半ばのアメリカの実質GDPの成長率が比較的高かった理由の1つは、資産効果のためである。

資産効果に頼り過ぎた経済成長は、バブルである。そして、バブル崩壊後には、大変大きな苦痛を味わうことを強いられる。しかし経済成長に見合った適度な資産価格の上昇は、バブルではなく、むしろ必要であり、望ましいものである。

日本経済はデフレと言われるが、モノの価格の下落率はそれほど大きなものではなかった。しかし、資産価格の下落率は非常に大きなものであった。公示地価全国全用途平均で見ると、1991年のバブルのピークから、2012年まで57.4%下落しており、未だに下げ止まっていない。株価も、TOPIXで見ると、1989年12月18日に2884.8のピークをつけた後、2012年の6月4日に695.51のボトムまで75.9%下落した後、若干反発し、直近は751.84とピークから73.9%下落した位置にある。アメリカの場合、ケース・シラー指数(20都市)で見ると、住宅価格は、2006年4月に206.64のピークをつけた後、2012年1月に136.42のボトムまで34%下落したが、その後若干上昇して、直近は139.93とピークから32.3%下落した位置にある。株価は、S&P500で見ると、2007年10月9日に1565.15のピークをつけた後、2009年3月9日に676.53のボトムまで
56.8%下落したが、直近は1402.22とピークから10.4%の下落のところまで戻している。ちなみに、1929年大恐慌の時、NYダウは、1929年9月3日に381.17のピークをつけた後、1932年7月8日に41.22のボトムまで89.2%下落したが、23年後の1952年9月3日には277.15とピークから27.3%の下落のところまで戻している。23年後というのは、日本の株価がピークをつけてから、23年近くにもなるので、それとの比較のためである。1990年代初頭の日本のバブル崩壊後の場合、地価、株価の下落率が、2006年以降のアメリカよりもはるかに大きく、かつ、地価は未だに底を打たず、株価も底を打ったと確信できる状態ではない。また、バブル崩壊後の日本の株価の下落率は、1929年大恐慌のアメリカほど大きく下げなかったものの、下げの期間は、はるかに長く、戻りも全然鈍い状況にある。日本の場合、当初の問題は、資産バブルの崩壊と、そこから発生する銀行の不良債権問題だけであった。その後、円高による産業の空洞化や、少子高齢化などの問題がジワジワ進行し、経済成長率の低下につながった。それでも、土地、株の資産デフレが非常に長引き、現在に至るまで、ほとんど解決されていないことが、失われた20年の大きな原因の一つであったことは間違いない。従って、金融政策を使って、地価、株価の下げを食い止め、上昇基調に戻そうとする政策は、次のバブルを産む悪しき政策ではなく、正しくかつ必要な政策なのである。

日銀が本当に量的緩和を強化すると確信できるような政策を発表した時、真っ先に動くのは、日本人投資家ではなく、外国人投資家である。外国人投資家は、日銀が量的緩和を強化すると確信を持てば、大都市の土地と株を買い始める。外国人投資家の多くは、量的緩和の強化は、当然、大都市の地価と株価の上昇をもたらすと考えているから、真っ先にそういう行動を取るのである。株の場合は、東証から、毎週、投資主体別売買動向が発表されているので、誰が買い、誰が売った結果として、株価が変動したかがわかる。今年に入って外国人投資家は、日本株を買い越し気味で、株価も上昇基調であった。2月14日に日銀が1%のインフレゴールを導入すると発表するとすぐ、外国人投資家は日本株の買いを拡大し、2月13日-3月16日の間に、日本株の買い越し金額を7895億円まで増やし、株価上昇の原動力となった。大都市の土地のことは分からないが、その代理変数とも言うべき東証REAT指数の動きを見ると、2月と3月は、外国人投資家の大幅な買い越しにより、東証REAT指数は上昇した。

これと似た現象は、2003年-2007年の量的緩和→景気回復期にも、より大規模な形で起こっていた。2003年-2007年の間に株価は大幅に上昇したが、この時、外国人投資家は合計37兆円も日本株を買い越し、日本の株価大幅上昇の最大の原動力となった。この時、日本人投資家は、日本株を37兆円売り越していたのである。土地については、株のような統計が無いので推測になってしまうが、おそらく外国人投資家は、1990年代末頃から少しずつ日本の大都市の土地を買い始めたと思う。2000年代に入ると、外国人投資家だけではなく、日本人投資家もそれに便乗し、2008年の始めくらいまで大都市の土地を買い上がったはずである。その結果が、2006年-2008年に大都市の土地の一部で発生したミニバブルである。しかし、この時も、土地の売り手の多くは日本人であったと推定されるので、結局は、大都市の土地についても、株と同様に、外国人の買い越し=日本人の売り越し、という図式になっていたと推定される。

日銀の量的緩和の強化→日本人の保有金融資産の一部が土地、株に移動→地価、株価の上昇→日本人の保有資産額のさらなる増加→個人消費の増加、となるのが本来の資産効果である。日本の2000年代半ばの地価、株価の上昇は、外国人投資家が買いを主導し、日本人投資家が土地や株を大量に売り越す中で発生したのである。今後、日銀が量的緩和を強化した場合、大都市の地価、株価は上昇するであろう。その時も、やはり外国人投資家の買いが上げを主導することになるだろう。ただ、従来は、欧米系の外国人投資家が主体であったが、次回は、資金力が豊富な中国、香港、シンガポールなどのアジア系の外国人投資家の割合が相当高まると思う。その結果、大都市の地価や株価がバブル状態に近づいた場合、日銀が金融を引き締めるべきではない。その代わりに、政府が大都市の土地に地価税を復活させ、その後は税率を断続的に引き上げるべきである。株もキャピタルゲイン課税の税率を断続的に引き上げるべきだと思う。これは、(*4)の最後にも書いたことであるが、金融政策は、バブルを誘発するほど強力に緩和し、バブルの防止を、もっぱら増税で実施し、税収を大きく増やしながら、バブルの抑制と財政再建をはかるべきだ、というのが私の考え方である。

もう一つ考えられる株価上昇の重要なメリットは、ベンチャー企業投資へのリスクマネーの供給を増やすことである。現在、日本の金融機関などの投融資主体は、国債の購入や、優良企業への貸し出しなどの資金供給意欲は大きい。しかし、上場企業や、特にベンチャー企業への株式方式での投資意欲は慢性的に不足している。一方、資金の需要面から見ると、優良企業の新規借り入れ需要は少ないが、上場企業や、特にベンチャー企業の株式方式での資金需要は旺盛である。ここに大きな資金需給のミスマッチが発生しているのである。量的緩和を強化して、株価上昇が継続すれば、上場企業や、特にベンチャー企業への株式方式での投資意欲も高まることが予想される。資金のミスマッチを解消し、リスクマネーの供給が増加すれば、経済成長につなげることができるはずだ。

こうして日銀が量的緩和を強化した場合、通常の発生ルートとはかなり異なるルートでもって、資産価格が上昇するであろう。資産価格の上昇は、個人消費の増加を招き、やがては企業の設備投資の増加を引き起こす。大都市の地価や株価の上昇による資産効果で、日本の実質GDPの成長率を引き上げることは十分可能だと思う。合わせて、ベンチャー企業へのリスクマネーの供給の増加も、日本の実質GDPの成長率の引き上げにつながるはずだ。

以上、量的緩和の強化が資産効果を通して実質GDPの上昇につながる、貨幣の非中立という現象は、現在の日本では、十分起こりうる現象であると思われる。資産効果=バブルという思い込みを捨て、日銀は思い切った量的緩和の強化を早急に実施すべきである。

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白川理論、日銀理論、岩石理論

日銀と白川総裁の金融緩和についての考え方を整理してみたいと思う。

第一に、日銀は速水総裁と福井総裁の間、金融の量的緩和政策を実施してきた。しかし、白川総裁になって、量的緩和を目標とした政策は実施されていない。今まで何回か、金融の量的緩和について書いてきた。その中では、現在、日銀が量的緩和政策を実施しているかのごとく書いてきた。しかし、その表現は、本当は間違った表現なのである。正しくは、「主として、長めの金利の低下をはかる政策を実施してきた。」と表現すべきであった。

2009年12月に固定金利0.1%、期間3ヶ月の共通担保資金供給オペを導入して以来、日銀は、金融緩和の強化を何度も発表している。この時の公表文の中には、「日本銀行は、きわめて低い金利でやや長めの資金を十分潤沢に供給することにより、現在の強力な金融緩和を一段と浸透させ、短期金融市場における長めの金利のさらなる低下を促すことが、現在、金融面から景気回復を支援する最も効果的な手段であると判断した。」と書かれている。ここでは、長めの資金供給は、それ自体が目的ではなく、本当の目的は、長めの金利のさらなる低下を促すことである、というのが日銀の真意であると説明している。2010年10月に「包括的な金融緩和政策」の実施を開始し、「資産買入等の基金」を創設した際も、「金融緩和を一段と強力に推進するために、長めの市場金利の低下と各種リスク・プレミアムの縮小を促していくこととした。」という表現が公表文にある。ここでも同様に、「長めの市場金利の低下と各種リスク・プレミアムの縮小を促していく」ことが、日銀の真意であると説明している。その後、何度も「資産買入等の基金」の総額は増やされているが、その際も、「金融緩和の強化」という表現に統一されている。そして、今年5月24日の衆議院の特別委員会で、白川総裁は、「ゼロ金利下では日銀が大量に資金を供給しても、資金はそのまま当座預金に預けられる、のれんに腕押しの状況になっているため、量では金融緩和の度合いは測れない。」と明言している。白川総裁は、福井総裁の時代から、量的緩和政策に対して批判的な立場を取っており、著書「現代の金融政策」の中で、「景気・物価に対する刺激という点で中心的な効果は時間軸効果であり、量の拡大はほとんど効果を発揮しなかった。」と記している。資金の量の拡大は意味が無い、という考え方を依然として保持しているようである。

こうした白川総裁の考え方は、以前説明した銀行学派の考え方(*1の第4段落以下)と共通点が多い。ただ、日銀内部には、かっての速水氏、福井氏のように、量的緩和の効果を認める考え方もあるはずである。従って、この考え方は、「白川理論」と呼ぶべきではないかと考える。

もう一つ重要な日銀の考え方の特徴は、「財政ファイナンス」を極端に嫌うことである。この考え方は、白川総裁だけではなく、日銀という組織のほぼ全体に染み付いている考え方だと思われるので、これこそ「日銀理論」と呼ぶべき考え方だと思う。2001年3月に、日銀が長期国債の買いオペを通じて金融の量的緩和を実施することを決定した際に、財政ファイナンスと受け止められないようにすることへの歯止めとして、銀行券ルール(長期国債の保有金額は、銀行券発行残高の範囲にする)を制定している。白川総裁も、「中央銀行が財政のファイナンスを目的として国債を買っていると市場に受け止められると、金利が急上昇してしまう」という内容の発言を繰り返し行っている。一度、財政ファイナンスを始めれば、政治家の圧力により、際限のない財政ファイナンスを強いられ、最後にはハイパーインフレへとつながることを、極端に警戒している。

この日銀の考え方は、昭和初期の世界恐慌の時に日銀が実施した政策に対する強烈な反省から生まれているようだ。1931年12月ー1936年2月の間、大蔵大臣であった高橋是清は、日銀の国債引受を実施し、低金利で調達した資金を財源に、公共投資と軍事費を拡大した。この政策によって、日本は他の先進国に先がけて恐慌から回復し、経済成長への軌道に乗ることが可能になった。しかし、インフレの発生を心配し、軍事費抑制の予算を組もうとした高橋是清は、軍の反発にあい、1936年の二・二六事件で暗殺される。次に大蔵大臣に就任した馬場鍈一以降の財政は、軍の要請により、大型の予算が組まれ、財源はもっぱら日銀の国債引受に依存することになる。その後インフレは進行するものの、統制経済が強化される中で、かろうじて抑えられていたが、第二次大戦の終戦後には、ハイパーインフレへと発展してしまう。日銀引受を伴うケインズ的な拡張予算を組んだ高橋財政は、日本を恐慌からいち早く立ち直らせたとして、世界的にも高く評価されている。そして、馬場財政以降の赤字財政には大きな問題があった、というのが通説的見解だと思う。ところが、日銀関係の人物が高橋財政を評価する場合、同じように高く評価するのであるが、何時も一言多い評価をする。第二次大戦の終戦後のハイパーインフレの元をたどれば、高橋財政に行き着く。もし、高橋是清が国債の日銀引受を実施していなければ、終戦後のハイパーインフレは起こらなかったのではないか、高橋是清が国債の日銀引受を実施したことが、間違いの始まりであったのではないか、ということを示唆するのである。そうした評価姿勢には、政治の圧力に屈して、財政ファイナンスを実施すれば、最後には、必ずハイパーインフレにたどり着く、との思考形式が垣間見れ、財政ファイナンスだけは絶対に避けなければならない、という価値観が見えてくるのである。白川総裁も、今年4月21日にワシントンで、「財政赤字の拡大が続き、(略)、中央銀行は国債担保の流動性供給、あるいは国債買い入れを通じて、最終的に際限のない流動性供給に追い込まれる可能性があります。それによる膨大な通貨供給の帰結は、歴史の教えにしたがえば制御不能なインフレです。投資家や国民はそうした歴史を知っているために、どこかの時点で、言わばレジームの変化を予想し、国債や通貨への信認が非連続的に変化すると、制御不能なインフレのプロセスが始まります。」と発言している。超高齢の日本人の多くは、ハイパーインフレを経験しているはずだが、その痛みの記憶はほとんど残っていないと思う。超高齢の日本人でハイパーインフレの被害を受けた人は、当時、多額の金融資産を保有していたほんの一握りの富裕層だけである。それ以外の大半の超高齢の日本人には、ハイパーインフレよりも、戦争中、死に直面した恐怖感や、終戦後の食料不足、飢えの感覚の方がはるかに強烈な体験であったはずだ。しかし、ハイパーインフレに対する恐怖感は、日銀の多くの行員の心には、深く刻まれているようだ。

日銀の外で、量的緩和に強く反対する人たちの有力な考え方にも少し触れてみたいと思う。日銀が国債の購入を増やすなど、量的緩和を強化した場合、その結果は、効果がゼロか、ハイパーインフレが発生するかどちらかであり、適度のインフレが発生することは有り得ない、という考え方である。こうした考えを持つ人は多いが、その根拠となる理論構成は、あまりはっきりしていない。私は、説得力のある理論構成に、まだ出会ったことはない。

上記のような考え方を、「岩石理論」と呼ぶ人がいるようだ。岩を押しても全く動かないが、一旦、動き始めると、崖から急に転がる様に落ちて行き、止めることができない状況になるのと似ているかららしい。

白川総裁の考え方は、この「岩石理論」に近いと感じられる。白川総裁は、先に記した5月24日には、「ゼロ金利下では日銀が大量に資金を供給しても、資金はそのまま当座預金に預けられる、のれんに腕押しの状況になっているため、量では金融緩和の度合いは測れない。」と発言しているから、量的緩和の効果はゼロである。しかし、4月21日には、「中央銀行は国債担保の流動性供給、あるいは国債買い入れを通じて、最終的に際限のない流動性供給に追い込まれる可能性があります。それによる膨大な通貨供給の帰結は、歴史の教えにしたがえば制御不能なインフレです。」と発言しているから、資金を大量に供給した場合は、ハイパーインフレになるのである。そして、財政ファイナンスという政策が、量的緩和の効果をゼロからハイパーインフレへと非連続的に転換させる、決定的に重要な政策である、と考えているようだ。

私は、普通の国家においては、強力な量的緩和や、財政ファイナンスが、ハイパーインフレを引き起こすことは無いと考えている。現在、イギリスでは、中央銀行が、大規模な資産購入プログラムを実施している。購入枠の上限額は、昨年10月に2000億ポンドから2750億ポンドに引き上げられ、今年2月に3250億ポンド、7月に3750億ポンドへと引き上げられている。そして、購入資産のほとんどは、国債である。GDP比で11%、日本で言えば53兆円ほど国債購入枠を拡大し、約1年間で、枠一杯まで国債を購入するのだ。日本の場合、日銀は長期国債を毎年21.6兆円購入しているが、償還分を差し引けば、直近の年間純増額は、約5兆円である。この外に、資産買入等の基金で国債の購入を増やしているので、その分も含めると、国債の直近の年間純増額は約17兆円である。イギリスは、インフレ率がターゲットの2%を上回るにもかかわらず、ユーロ危機の波及による景気後退とインフレ圧力の低下を予想して、現在の日本を大幅に上回る大規模な量的緩和を実施している。大量に国債を購入する中で、長期金利もインフレ率もグングン下がっている。しかし、景気後退を防ぐほどの大きな効果は、今のところ出ていない。イギリスのマスコミの中で、この政策をマネタイゼーション(=財政ファイナンス)と表現し、支持する記事を何度も読んだことがある。ハイパーインフレをもたらすという意見もあるようだが、ごく少数であるようだ。アメリカでも、近い将来、QE3が始まると予想するエコノミストは多い。QE3が実施されると、金利の急上昇やハイパーインフレが起こるという意見は、やはり少数であろう。アメリカのQE3に反対する声としては、効果が無い、ドルの価値が下がる、石油の価格が上がる、(金利上昇を伴わない)インフレが再燃する、等の声なら聞こえてくる。

しかし、現在の日本は、米英と置かれている状況が違う。政府の総債務の対GDP比率が234%(政府債務の総残高は、日銀の資金循環表の数値を使用)という巨額の借金を抱え、さらにこの借金を減らしていく道筋が見えない。このような状況が続くのならば、明日か数十年後かわからないが、必ず金利の急上昇が起きる。そうすると、政府は国債を発行できなくなるので、日銀引受に頼るしかない。その結果はハイパーインフレである、と考えている。その内容は、以前(*2)、詳しく書いている。ハイパーインフレの原因が、多くの日銀関係者の場合は、財政ファイナンスであるのに対して、私の場合は、近い将来起こるかもしれない財政破綻であるのだ。

私の立場からすると、日銀が1990年代初頭のバブル崩壊直後に、素早くゼロ金利と大規模な量的緩和を実施していれば、金利の急上昇やハイパーインフレなど絶対に起こらず、日本経済は、成長路線へと復帰できたはずだと考える。「失われた20年」のようなひどい状況に陥らなかったはずだ。この間、日銀はバブルの再燃を恐れたり、「ゼロ金利は異常」という考えを持ち続けたりした。バブル崩壊から10年も経ってから、財政ファイナンスによる金利上昇を恐れて、現在のイギリス、少し前のアメリカが実施している量的緩和より、小規模の量的緩和の実施を開始した。日本経済は、資産価格の大幅な下落と、モノの価格の小幅な下落が続き、さらに低成長が続いたため、税収が大きく減少してしまった。その上、景気対策として、何度も多額の財政出動が実施された。その結果、現在は、将来の財政破綻の可能性を気にせざるをえなくなるほどの、巨額の借金を抱え込むことになった。財政ファインンスを避けるために、小規模の量的緩和、あるいは、小規模の資金供給しか実施してこなかったことが、かえって財政破綻、ハイパーインフレが起こる可能性を高めてしまったと考える。

以前(*2の最後)述べた結論を、もう一度繰り返させていただく。金利急上昇のリスクはあるが、現時点では、そのリスクはまだ小さい。従って、日銀は、一刻も早く米英を見習い、大規模な量的緩和を実施すべきである。

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