日銀ウォッチャー報告(2015年6月号)(資料編)

2015年5月末現在
マネタリーベース平残の長期推移


マネタリーベース平残の推移201505(グラフ)

直近のマネタリーベース平残の推移

マネタリーベース平残の推移201505(表)

日銀のバランスシート 主要項目の残高と純増額の推移、予定純増額
日銀BSとMB(実績と予想 表)201504

貸出支援基金の推移

貸出支援基金(グラフ)201503

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日銀ウォッチャー報告(2015年5月号)(資料編)

2015年4月末現在
マネタリーベース平残の長期推移


マネタリーベース平残の推移201504(グラフ)

直近のマネタリーベース平残の推移

マネタリーベース平残の推移201504(表)

日銀のバランスシート 主要項目の残高と純増額の推移、予定純増額

日銀BSとMB(実績と予想 表)201504

貸出支援基金の推移

貸出支援基金(グラフ)201503

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日銀ウォッチャー報告(2015年4月号)(資料編)

2015年3月末現在
マネタリーベース平残の長期推移


マネタリーベース平残の推移201503(グラフ)

直近のマネタリーベース平残の推移

マネタリーベース平残の推移201503(表)

日銀のバランスシート 主要項目の残高と純増額の推移、予定純増額

日銀BSとMB(実績と予想 表)201503

貸出支援基金の推移

貸出支援基金(グラフ)201503


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日銀ウォッチャー報告(2015年3月号)(資料編)


2014年2月
マネタリーベース平残の長期推移


マネタリーベース平残の推移201502(グラフ)


直近のマネタリーベース平残

マネタリーベース平残の推移201502(表)


日銀のバランスシート 主要項目の残高と純増額の推移、予定純増額

日銀BSとMB(実績と予想 表)201502


貸出支援基金の推移

貸出支援基金(グラフ)201502

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日銀ウォッチャー報告(2015年2月号)

マネタリーベース平残の推移201502(グラフ)

2015年1月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で9.3兆円増加し、277.3兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201502(表)

1月分のデータ公表ということで、季節調整済の数値が過去に遡って改定された。上記のグラフに示したとおり、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になった。その後は、ほぼ高水準の増加率が続いている。改定前のデータでは昨年と一昨年の12月は前月比マイナスであったが、両方ともプラスに改定された。1月は、前月比+3.4%と比較的高い伸びを示した。

1月の市中資金は、14.3兆円の不足であった。そこに、国債の購入9.7兆円、短期国債の購入11.5兆円、共通担保オペの回収0.4兆円などを中心とした金融調節により、合計21.1兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、6.8兆円の資金余剰となった。この資金余剰を反映して、当座預金残高は、12月末の178.1兆円から、1月末の184.9兆円へ、6.8兆円の増加となった。この当座預金残高の変動を反映して、1月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比9.3兆円増加の277.3兆円になった。当座預金残高と季節調整済のマネタリーベース平残の増加額に差がある理由は、1月のマネタリーベースは減少しやすいという季節要因があるためである。

日銀BSとMB(実績と予想)201502

上記の表に示したように、1月末までの過去12ヶ月間に、国債の残高は63.6兆円、マネタリーベース残高は77.7兆円の増加となっている。今年の年間目標は、国債とマネタリーベースを80兆円ずつ増やすことである。今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は、355兆円である。残り11ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、1ヶ月間の平均で6.5兆円の純増が必要である。

2月の市中資金は、17.8兆円の不足となる。2月の資金供給は、国債の購入が1月並の10兆円と想定する。短期国債の購入は1月を少し下回る10兆円と想定する。共通担保オペの回収額は0.5兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しは、2月中には予定されていない。この結果、2月の資金供給は、合計で19.5兆円となる。2月のマネタリーベース末残は、「マイナス17.8兆円プラス19.5兆円」に等しい前月比1.7兆円の増加と予想する。季節調整済のマネタリーベース平残の増加額は、前月比1.7兆円を上回る金額になると予想する。

前回説明したとおり、今後輸入されるエネルギー価格がさらに大幅に下落することが確実視されている。エネルギー価格の低下は、輸入金額を減らし、貿易収支を黒字へと向かわせ、実質GDPの引き上げにつながる天の恵みとしか言いようがない。一方、日銀にとっては、消費者物価上昇率2%を、いつ、どのようにして実現させるかという難題を背負い込むことになった。私は、原油価格の低下を無視して、原油価格を除く消費者物価の引き上げを目指した方が良いと思う。原油価格は金融政策ではコントロールが難しい。不可能ではないが、無理がかかる。特に原油価格が反転上昇してきた場合、それを抑制すると、あちらこちらで無理が発生するからである。

ただ、グローバル・スタンダートの考え方では、原油価格をも含んだインフレ率をターゲットとするものが標準である。インフレ期待を使って、実質金利の引き下げをはかるという点では、消費者物価から原油価格を除くのは好ましくない。そうはいうものの、今後も原油価格が現在のような1バーレル=50ドル前後で推移する可能性はあるが、毎年50%ずつ下がることはありえない。従って、原則は全物価が対象でも、原油価格急落は一時的と見なして、一時的なものは除外するといった考え方が米英では主流だと思う。そうした柔軟なインフレターゲットが、大きな問題になることはない。

しかし、現在の日本のように、反リフレ派が多数派の場合、対応が難しくなる。加えて、最初に2年で2%と明言しているので、柔軟なインフレターゲットを実施することが許されにくいのだ。日本の場合は、インフレターゲットに原油価格を入れても、入れなくても、あいまいにしていても、反リフレ派から間違いなくたたかれる。不毛な足の引っ張り合いが、今までも続いてきたし、今後も続くであろう。

私の考え方は、先に示したとおり、原油価格除外の立場である。にもかかわらず、追加金融緩和が必要であると考えている。理由は3つある。

1番目は、現在の消費者物価上昇率が、原油を除いても2%を大きく下回っているからだ。コア消費者物価を表すグラフを下記に示す。


コア物価

コア物価は、昨年4月に消費税が引き上げられて以降、横ばいに近い。さらに、今後、原油価格低下の影響が大きくなるにつれて、コア物価には下げ圧力がかかるのである。

次に、原油だけではなく、エネルギー・食料を除いたコアコア物価を表すグラフを下記に示す。


コアコア物価

円安の影響もあり、横ばいか微増である。これは今後大きく下がることはないが、現時点では値上がり率は非常に低い。消費税増税分を除くと、2%にはるかに届いていない。

金融緩和の効果がゼロで、日本の物価がまたデフレに戻るかというと、それは間違いである。消費税を除いたベースでの国内企業物価、企業向けサービス価格を表すグラフを下記に示す。


企業・サービス物価

為替レート、原油を含めた輸入物価に動かされやすい国内企業物価は低下し続けている。一方、そうした要因が少ない企業向けサービス価格は、少しずつであるが上昇に転じている。直近12月の国内企業物価は-0.9%、企業向けサービス価格は+0.9%である。平均をとるとゼロであるが、これは偶然である。企業物価は、原油価格の下落要因を一部しか反映しておらず、今後も下げが続く。一方、企業向けサービス価格は、+0.9%から上昇率がさらに高まることになると思われる。例えば、インターネット附随サービスの価格が大きく上昇している。IT技術者に人手不足が発生しているからだ。今後も強まる人手不足は、賃金の上昇を通じてサービス価格を引き上げることになるであろう。

消費者物価は、短期では原油安で下落、中長期では賃金の上昇により上昇していくであろう。中長期では上昇するにしても、足元の上昇率はごくわずかであり、原油価格低下分を除いても2%を大きく下回っている。これは、金融緩和の不足を意味している。消費者物価という点だけを見ても、追加の金融緩和は必要なのである。

2番目は、いつも繰り返している、円安株高の実現である。それも単なる円安株高ではなく、国内投資家の資金の対外流出拡大=金融収支の黒字拡大=経常収支の黒字拡大を伴う円安、および、国内投資家の買い越しの結果としての株価上昇が必要だからである。

3番目は、国際政治的に見て、金融緩和が可能な時間があまり残されていないと考えるからである。今年に入って、世界で利下げ、マイナス金利の採用の国が増えている。そして、世界的な金利引き下げの連続が、通貨戦争へ発展の突入を警告する声も急速に高まりつつある。その中で、日本は、通貨戦争の火付け役と非難されやすい国なのである。


為替レート

アベノミクス相場が始まった2012年11月からすぐ後の、2013年1月のダボス会議で、ドイツを中心にして円安を為替操作と非難する声が高まった。英語マスコミにも、日本を通貨戦争の火付け役などと書くものも存在した。金融緩和→通貨安という現象は、世界で無数に見られる現象である。にもかかわらず、金融緩和を始める前の日本だけが叩かれるのである。そうした為替操作反対の国際世論を背景にして、2013年2月にモスクワで行われたG20財務相・中央銀行総裁会議の声明文に次の文言が入れられた。

「我々は、通貨の競争的な切り下げを回避する。我々は、競争力のために為替レートを目的とはせず、あらゆる形態の保護主義に対抗し、我々の開かれた市場を維持する。」

G20の日本語は、わかりにくい翻訳語である。従来の文言は、「通貨の競争的な切り下げを回避する」までであった。その文言のために、少なくとも日本は、円が戦後最高値を更新する以前の段階では、為替介入を実施することができなかった。このモスクワのG20では、新たに「競争力のために為替レートを目的とはせず」という文言が加えられた。この文言のために、日本は、競争力を維持するための為替介入だけではなく、金融緩和も同時に禁止されたのである。円安目的の金融緩和は禁止され、金融緩和の目的は、デフレ脱却などの国内目的のためだけにしか行うことができないようになった。

昨年秋の円安デメリット論の噴出以前は、政治家の中には、円安のおかげで企業収益が拡大した、株価は上がった、景気は回復したと、金融緩和の最大の目標と成果は円安であるかのように言いふらす人は多数存在した。しかし、黒田日銀総裁は、決して金融緩和が円安目的であるとは言っていないし、反対に金融緩和は円安を目的としていないことを繰り返し強調してきた。円安目的と言うことができないし、決して言ってはならないのである。

世界的な金融緩和の競争が、世界経済にどのような影響を及ぼすのか、完全な意見の一致はない。海外では、1930年代の大恐慌時の通貨安目的のための通貨切り下げ競争が、各国政府の意図とは別に、結果としてそれぞれの国内での大規模な金融緩和政策となり、世界恐慌からの回復に大変大きな貢献をしたという意見もある。アイケングリーンとサックスが提唱し、バーナンキ前FRB議長が広めた、金融緩和は近隣窮乏化政策ではなく、近隣富裕化政策であるという考え方である。

この考え方は、世界ではまだ少数派であろう。私の考え方とも異なる。私は、以前から、日本経済が没落した一つの要因として、日本周辺のアジア諸国がそろって実施してきた大規模介入による極端な自国通貨安政策が大元にあると指摘してきた(*1)。日本は日本周辺のアジア諸国の近隣窮乏化政策の最大の被害国であり、金融緩和を通じて今もなお続く円高・アジア通貨安を是正する必要がある。金融緩和は、日本周辺のアジア諸国の近隣窮乏化政策に対する防衛策なのである。しかし、もうすでに円高が是正されている多くの欧米の先進諸国に対しては、結果として円安が近隣窮乏化政策になってしまうと考えている。

現時点において、多数説は、依然として通貨安=近隣窮乏化政策である。世界の主流が通貨安=近隣窮乏化政策でないならば、モスクワでのG20で、「競争力のために為替レートを目的とはせず」という文言が入れられるはずがないのである。

前回詳しく説明したとおり、いくつかの前提条件が満たされた場合、今後の日本の貿易収支、経常収支は大きく改善することになるであろう。加えて、リスク回避に凝り固まった日本の国内投資家も、少しずつリスク資産へ手を伸ばそうとし始めた。ここで日銀が大規模追加金融緩和を実施し、本格的な資金の対外流出が始まれば、貿易収支、経常収支が大きく改善することを、確実に保証してくれることになる。その時、日本経済は成長力を取り戻すのである。

2014年10月の追加金融緩和は、海外から何の非難も浴びなかった。しかし、日本の貿易収支が赤字から黒字へと転換した場合、国際世論が日本を見る目が大きく変わってくるであろう。2013年1月のダボス会議でのドイツのように、日本を通貨戦争の火付け役と非難する声が強まるに違いない。ユーロ圏は量的緩和実施中なので、ドイツが声をあげるとは思わない。しかし、今度は、本格的な金利上昇=通貨高が始まるアメリカが日本を見る目が大きく変わるに違いない。元々、日本にとっての国際世論の大部分は、アメリカの対日世論なのである。通貨戦争防止という国際世論が高まり、従来の国内目的の金融政策しか認めないというものから、金融政策の目的制限が強化される可能性が高い。例えば、経常収支が黒字であり、大幅なデフレにもなっていない国の追加的な金融緩和は認められない、などのような文言が加えられる可能性が出てくる。

今後、日本の貿易収支が改善し、経常収支の黒字が拡大した場合、日本国内では、金融緩和の強化=円安=貿易収支の改善=経済成長という正しい理解が広まり、金融緩和の強化を支持する世論が高まるであろう。しかし、海外では、日本に金融緩和の強化をさせてはならないという世論が間違いなく高まる。この場合、日本の国内世論は国際世論(ほとんどがアメリカの対日世論)に勝てないのである。1ドル=70円台の超円高に対して、日本国内では、介入による円高是正の声が強かった。そのため、日本はアメリカを中心とする諸外国に円売り介入を認めてもらおうとしたが、例外的な局面しか介入は認められなかった。G20に加盟していない日本周辺のアジア諸国は、為替介入を自由に実施し、通貨を安く維持し続ける自由を保持している。日本には、そのような自由が存在しないのである。経常収支の黒字が拡大した場合、為替介入の自由の制限に加え、金融緩和の強化にも現在以上の強い制限が課される可能性が高くなる。

日本のインフレ率は原油価格の下落分を除いても2%を大きく下回っている。また、進行しつつある貿易収支、経常収支の改善を確実のものにし、日本自身の力で自国の株高を実現するためにも、追加金融緩和の実施が必要である。一方、金融緩和=近隣窮乏化政策の声は、国際的には日増しに強まっている。時間がたてば、よほどのデフレ不況か経常収支の赤字にでも陥っていなければ、国際政治的な観点から追加金融緩和ができなくなる可能性が高まる。数ヶ月後に、インフレ率が上昇しない場合、追加緩和をしても海外から何も非難を浴びないかもしれない。また、追加金融緩和なしでも、日本の貿易収支が改善し、日本経済が成長力を取り戻し、2%のインフレが実現するかもしれない。しかし、こうした楽観的な将来は、実現するかもしれないが、実現しないかもしれない。望ましくないシナリオが実現する可能性を限りなくゼロにするような政策運営をする必要がある。出口が心配ならば、インフレとバブルを防止するための増税を行い、その税収で日銀保有の国債を買入償却するという出口戦略を用意しておけばよい。日本経済が経済成長への道へ復帰することができる確率を高めるためには、一日も早く、大規模な追加金融緩和を実施することが、必要不可欠なのである。

アジア諸国の近隣窮乏化政策と日本経済の低迷(*1)


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日銀ウォッチャー報告(2015年1月号)


マネタリーベース平残の推移201501(グラフ)

2014年12月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で2.4兆円減少し、266.2兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201501(表)

上記のグラフに示したとおり、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になった。その後は、ほぼ高水準の増加率が続いている。12月は前月-0.9%とわずかな減少となった。昨年も12月だけは-2%とわずかな減少であった。12月は、季調済平残を考えることなく、目標としているマネタリーベースの年末残275兆円を重視して調整した結果である。

12月の市中資金は、8.1兆円の不足であった。そこに、国債の購入10.1兆円、短期国債の購入2.3兆円、貸出支援基金による貸し出し3.7兆円などを中心とした金融調節により、合計15.9兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、7.9兆円の資金余剰となった。この資金余剰を反映して、当座預金残高は、11月末の170.3兆円から、12月末の178.1兆円へ、7.9兆円の増加となった。この当座預金残高の変動を反映して、12月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比2.4兆円減少の266.2兆円になった。当座預金残高が増加し、季節調整済のマネタリーベース平残が減少した理由は、12月のマネタリーベースは増加しやすいという季節要因があるためである。

2014年2月18日の金融政策決定会合で決定された、新方式による貸出支援基金による貸し出しの第3回目が12月に実施された。貸出支援基金による貸し出し金額を表すグラフを下記に示す。


貸出支援基金201501

2014年12月分は、ドル特則を除く成長基盤強化支援資金供給の貸し出し増加額は、前月末比で5993億円であった。貸出増加支援資金供給の貸し出し増加額は、前月末比で3兆0236億円であった。2014年12月末のドル特則をも含む貸出支援基金全体の残高は、前月末比で3兆7183億円増加の24兆7001億円となった。2014年2月より前には、2014年末の貸出支援基金全体で、18兆円という目標を設定していたが、その金額は上回ることになった。一方、2014年2月に、貸出増加支援資金供給を2015年3月までに30兆円まで増やすことを、新しい目標として設定した。しかし、2014年12月末現在で19兆円であり、残り1回で30兆円まで増やすことは不可能であろう。

日銀BSとMB(実績と予想)201501

上記の表に示したように、昨年12月末までの過去12ヶ月間に、国債の残高は60兆円、マネタリーベース残高は74兆円の増加となっている。今年の年間目標は、国債とマネタリーベースを80兆円ずつ増やすことである。今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は、355兆円である。残り12ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、1ヶ月間の平均で6.7兆円の純増が必要である。

1月の市中資金は、14.2兆円の不足となる。1月の資金供給は、国債の購入が12月並の10兆円と想定する。短期国債の購入は8兆円と想定する。12月は2.3兆円の購入と非常に少ない金額であったが、1月は11月以前の購入金額近くに戻さないと、マネタリーベースを積み上げることはできないからだ。共通担保オペの回収額は0.5兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しは、1月中には予定されていない。この結果、1月の資金供給は、合計で17.5兆円となる。その他、1月は銀行券の回収が4.4兆円と日銀は予想している。1月末のマネタリーベース末残は、「マイナス14.2兆円プラス17.5兆円マイナス4.4兆円」に等しい前月比1.1兆円の減少と予想する。昨年1月末も1兆円の減少であった。季節調整済のマネタリーベース平残の増加額は、前月比10兆円近くの大幅増になると予想する。

前々回に(*1)、10月31日のバズーカ砲第2弾の後、証券投資を通じて、海外から怒濤のごとく資金が流入していることを指摘した。そして、資金が流出するようになるまで金融緩和を強化すべきことを改めて強調した。では、日銀の方では、その事実をどのように考えているのであろうか。そこで、12月25日に公表された11月18日-19日の金融政策決定会合の議事要旨からその部分を取り上げ、下に記す。

「為替相場をみると、円の対米ドル相場は、日米の金融政策の方向性の違いが強く意識されたことなどから、円安ドル高方向の動きとなっており、最近では 117円台で推移している。」

為替レートについての記述はこれだけである。毎回、長さは同じくらいである。しかし、実際には、もっと詳しい分析がなされているはずである。10年前までの金融政策決定会合の議事録とその資料は公開されている。そこから、10年前には毎回存在し、おそらく現在も存在している可能性の高い資料を下記に示す。


対外対内証券投資表

黒田バズーカ砲第2弾の後の数字で、11月19日時点において公表されていた数字は、11月7日までの週の数字だけであった。11月14日までの数字は、11月20日公表なので、11月19日時点においても、日銀だけには見えていたかも知れない。それらの週の数字を見ると、国内投資家の対外証券投資の金額は縮小している。一方、海外投資家の対内証券投資の金額は拡大している。すなわち、バズーカ砲第2弾の直後において、ネットで見た証券投資を通じる資金の流入金額は大幅に拡大していたのである。日本が金融緩和、アメリカが金融引き締めに動くと、普通、証券投資を通じる資金は、日本からアメリカへの流出になる。しかし、実際には、その正反対の流れが発生した。この表をより長期化してグラフ化すると、下記のようになる。

対外対内証券投資グラフ

似たグラフを何度か示してきた。しかし、私が何度か示してきたグラフでは、公社債の中に短期債を含めていた。一方、日銀が決定会合で使用していた数字は、公社債の中から短期債を除いた数字である。短期債の売買は、対外証券投資よりも、対内証券投資の方の金額が大きい。そのため、マイナスになっている資金流出の金額は、私が使用していた数字よりも、絶対値がかなり小さな数字になっている。短期債を除いた数字を使用した場合でも、アベノミクス相場の開始以降、証券投資を通じて、海外から国内へと怒濤のごとく資金が流入していることがわかる。2014年に入って、資金流出が止まっていたのであるが、バズーカ砲第2弾の直後から、再び流入金額が急拡大したのである。

バズーカ砲第2弾の直後のポートフォリオ・リバランス効果が、マイナスであったことは明らかである。にもかかわらず、議事要旨には、プラスのポートフォリオ・リバランス効果が発生したかのように書かれている。「日米の金融政策の方向性の違いが強く意識されたことなどから、円安ドル高方向の動き」という文言からは、「日本の金融緩和の強化とアメリカの金融緩和の終了により、資金のあり余った日本から、金利が上昇したアメリカへと大量に資金が流れていき、その結果、円安ドル高が進んだ」と解釈するのが普通であると思う。すなわち、プラスのポートフォリオ・リバランス効果の発生と読み取れるのである。しかし、少なくとも、11月に入ってからの証券投資を通じる資金の流れは、その正反対である。発生した効果は、第1弾の時と同様に、マイナスのポートフォリオ・リバランス効果であったのである。

証券投資以外の金融収支、誤差脱漏などを加えた場合、資金流出は拡大しているはずであり、議事要旨の内容は間違いではない。しかし、10年以上前の決定会合に毎回出ていたのは、証券投資の表が中心である。それ以外の金融収支の資料は、全部を確認したわけではないが、見たことがない。公社債の中から短期債を除いているので、その他投資のような短期で激しく変動する数字は無視しているのかもしれない。当時の日銀は、資金流出入の中心を、株と中長期債を通じる証券投資と見ていたのである。

現在、使われている資料が、どのようなものかはわからない。日銀が、証券投資を相殺する資金の流れをつかんでいる可能性は否定できない。しかし、11月19日時点で、金融収支のデータは、9月分までしか公表されていなかった。10月分の未公表のデータを、日銀はすでに保有していた可能性はある。しかし、バズーカ砲第2弾直後の11月分については、証券投資以外の金融収支のデータを、ごく一部だけは例外的に保有しているものもあったかもしれない。しかし、全部を保有していたはずがない。従って、バズーカ砲第2弾以降の資金流出入の中で見えていたデータは、大部分が証券投資のデータだけであったはずである。そして、その証券投資は資金流入金額の大幅な拡大を示していた。にもかかわらず。資金の流出が拡大しているような内容を議事要旨に書いている。過去にも似たケースがあるのだが、事実と正反対ともいえる内容を議事要旨の中に書いているのである。

量的緩和の波及経路については、現時点では、定説があるわけではない。しかし、おそらく一番有力な説は、通貨安を通じる景気刺激効果であろう。黒田総裁は、実質金利引き下げを通じる経路を最重要視していると公言している。しかし、量的緩和の目的の1つは円安誘導と言ってしまうと、G20の声明文違反になる。従って、口が裂けても、量的緩和の目的の1つが円安誘導であるとは言ってはいけないのである。看板は、実質金利引き下げでなくてはならない。黒田総裁も、量的緩和が一般論として円安を引き起こす効果があることを認めている。従って、量的緩和という政策と、円安、資金の流出入については、最も力を入れて分析しなければならない最重要の論点なのである。量的緩和を強化すれば、証券投資を通じて、海外から巨額の資金が流入してくることが、2013年に明らかになった。それと同じ現象が、バズーカ砲第2弾の直後にも、再び発生したのである。

黒田バズーカ砲が引き起こす効果、すなわち、量的緩和の強化→証券投資を通じる資金流入の大幅拡大=大量の円買い外貨売りの発生→円高ではなく円安が発生、というメカニズムを日銀が説明しているのを見たことがない。私は、証券投資を通じる大規模な資金流入の中で円安が発生するメカニズムを(*2)で説明した。本来なら、こうした分析は日銀が行い、発表しなければならない非常に重要な論点なのである。しかし、分析をするどころか、都合が悪くて見たくない事実は、発生しなかったことにしている。こうした不都合な事実とまともに向き合うことのない日銀の態度には、問題がありすぎる。

私が繰り返し主張していることは、量的緩和の強化→証券投資の黒字拡大→金融収支の黒字拡大=経常収支の黒字拡大→GDPの拡大→景気過熱→インフレとバブルの発生→大規模な増税→急激な財政再建の実現、であった。これは、実際に簡単に実現するものではない。多くの段階において、難しい問題が存在する。しかし、その中で最も大きな問題は、一番最初の段階にある。

円安発生直後から、アメリカにガツンと言われたら、円安は実現できなくなると言われていた。全くそのとおりだと思う。なぜアメリカが現在でも円安を容認しているかと言えば、円安進行にもかかわらず、貿易・サービス収支、経常収支の改善が目に見えて発生していないことが最大の要因であろう。経常収支が目に見えて改善してきたならば、アメリカは円安を許さない。アメリカだけではなく、世界の多くの国が許さない。これは同時に、金融緩和の強化も許されないことを意味する。

Jカーブ効果は発生しないと言われ続けてきた。しかし、足元では少しずつ、貿易・サービス収支と経常収支の改善が発生しつつある。今後、確実に発生する現象は、貿易・サービス収支と経常収支の改善が目に見えて進むことである。遠くない将来に、経常収支の黒字は拡大するのである。これは2年以上にわたる円安効果にプラスして、エネルギー価格の低下による輸入金額減少の効果が加わるためである。

仮に、経常収支の黒字が目に見えて拡大しつつある環境下で、大規模追加金融緩和を実施した場合には、一国繁栄型の近隣窮乏化政策と、アメリカだけではなく世界中から非難されるであろう。経常収支の黒字が目に見えて拡大しつつある環境下では、日本としては、2%のインフレ実現が目的であるとの建前を繰り返して、その時点での金融緩和を維持するのが精一杯であろう。それ以上の追加金融緩和はできないのである。金融緩和は交易条件を悪化させる自国窮乏化政策であるなどと反論したりすれば、世界中から総スカンをくらい、G7やG20から追放されるであろう。エネルギー価格の低下と、日本の国際政治上の力を考えると、追加金融緩和が可能な時間はあまり残されていない。従って、一刻も早くできるだけ大規模な追加金融緩和を実施することが、必要不可欠なのである。


リンク先記事
海外から日本へ巨額の資金流入を招いた黒田バズーカ砲の威力(*1)
海外投資家の日本株買いが円安を引き起こす理由(*2)


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日銀ウォッチャー報告(2014年12月号)

マネタリーベース平残の推移201412(グラフ)

2014年11月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で12兆円増加し、268.6兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201412(表)


上記のグラフに示したとおり、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になった。その後は、ほぼ高水準の増加率が続いている。11月は、10月に続いて前月比4%超というかなり大幅な増加率となった。

11月の市中資金は、16.4兆円の不足であった。そこに、国債の購入10.7兆円、短期国債の購入8.8兆円、共通担保オペの0.8兆円の回収などを中心とした金融調節により、合計19兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、3.6兆円の資金余剰となった。この資金余剰を反映して、当座預金残高は、10月末の167.7兆円から、11月末の170.3兆円へ、2.6兆円の増加となった。この当座預金残高の変動を反映して、11月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比12兆円増加の268.6兆円になった。当座預金残高と季節調整済のマネタリーベース平残の増加に差がある理由は、11月のマネタリーベースは減少しやすいという季節要因があるためである。


日銀BSとMB(実績と予想)201412

上記の表に示したように、今年11月末までの過去12ヶ月間に、国債の残高は56.5兆円、マネタリーベース残高は71兆円の増加となっている。年間目標は、国債とマネタリーベースを80兆円増やすことである。10月31日に決めたばかりの目標なので、年内の達成は無理である。来年の早い時期に、80兆円まで増やすことになるであろう。

今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は、275兆円である。従って、12月1ヶ月間で、マネタリーベース末残を12.3兆円増加させることが必要である。

12月の市中資金は、7.3兆円の不足となる。12月の資金供給は、国債の購入が9兆円と想定する。上記の表にあるとおり、1ヶ月間に必要な純増額3.4兆円、プラス償還予定額4.9兆円、合計8.3兆円が最低必要金額であり、それを少し上回る金額になると考える。短期国債の購入は8兆円と想定する。償還予定額が8.6兆円あるので、それを少し下回る金額と考える。共通担保オペの回収額は0.5兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しは2兆円と想定する。貸出支援基金の中の成長基盤強化支援資金供給は、残高ベースでは0.6兆円の減少になることが11月中に決まっている。貸出増加支援資金供給の金額はまだ決まっていないが、9月並の2.6兆円と想定する。そこから成長基盤強化支援資金供給の純減0.6兆円を差し引いて、貸出支援基金による貸し出しは2兆円という数字を算出した。この結果、12月の資金供給は、「9兆円+8兆円-0.5兆円+2兆円」となり、合計で18.5兆円となる。その他、12月は銀行券の発行が5.6兆円と日銀は予想している。12月末のマネタリーベース末残は、「18.5兆円+5.6兆円-7.3兆円」に等しい前月比16.8兆円の増加と予想する。マネタリーベースの年末の残高は279.5兆円となり、目標の275兆円を少し上回ると予想する。季節調整済のマネタリーベース平残の増加額は、前月比16.8兆円を大幅に下回り、前月比微増になると予想する。

黒田日銀総裁が、金融政策の最大の目標であると考えている、消費者物価の動向を示す。


CPI201412.gif

コアCPI201412

コアコアCPI201412

上記の真ん中にあるコア物価の上昇率は、このところ低下している。10月の全国コア物価の上昇率は、前年比2.9%増となり、消費税増税分を除くと、0.9%増と、1%割れになった。黒田総裁は、1%を割ることはないと断言していたのが、1%を割ってしまった。10月31日の金融緩和の強化は、こうした2%のインフレ目標への道に逆行する動きが予想以上に大きくなりそうなことがわかったため、急遽金融緩和の強化を実施したわけである。

上記には全部で6種類の物価をグラフに掲載している。生鮮食品の価格は乱高下するので、それを除いたコア物価を見るのが一番適当である。しかし、よく見ると、上記の6つのグラフの大半は、今年の半ばから下落の方向にある。これは、円安要因が消滅しつつあるからだ。9月から再び円安が進行し始めたが、今度は原油を中心とした商品価格が低下しつつある。目先の物価は、上昇(円安)と低下(商品価格低下)の2要因の綱引きになり、どちらが強くなるかはっきりしないが、どちらかに大きく動くこともなさそうである。

なお、11月の東京のコアコア物価を見ると、ストンと低下している。これは、11月になって大きく低下したわけではない。東京のコアコア指数は、4月に消費税引き上げがあった後、動かなくなった。東京のコアコア指数は、消費税増税直後の4月と11月が同じ数字である。そのため、前年比で見た場合、上昇率は低下していくのである。金融緩和を強化しなかった場合、来年4月に東京のコアコア物価上昇率はゼロになってしまう可能性が高かった。食料、エネルギーを含めた場合でも、12月以降も前年比の上昇率は低下し続けるのである。円安と商品価格の綱引きで、両者引き分けであった場合、コアも総合も、コアコアに引き続いてゼロになってしまう。このことは、10月31日の金融緩和の強化が、必然であったことを示すものである。そしてまた、私が重視する資産価格の変動まで考慮した場合には、従来の日銀の政策と同様に、Too little Too Lateであったと考える。

量的緩和の効果は、繰り返し述べているように、非常に小さい。だから、大規模に実施しなければ、意味がないのである。特にリスク回避志向が強まっている日本においては、効果が小さくなる。リフレ政策に対する批判は、「物価が上昇していない」、「物価が上昇したのにもかかわらず賃金が追いつかず、国民生活は苦しくなった」、というものが多い。一番問題だと思うのは、同じ人物が、上記の正反対の2つの現象を根拠にしてリフレ政策を批判するのである。ある時には、効果がないと批判し、ある時には、インフレが進行して国民生活が苦しくなった上、金利が急上昇し、財政が破綻する、と批判してくる。こうしたとんでもない批判にはきちんと反論しなければならないのだが、できていない。これは、黒田総裁とリフレ派の主流派の側にも弱点があるからだ。それは、きちんとした出口戦略を示すことができていないからである。

金融緩和を強化し続ければ、いずれは雇用の逼迫により、賃金が上昇してくる。この場合、賃金上昇そのものの上昇によるコストプッシュ、上昇した賃金による購買力の増加から発生するディマンドプルのインフレが発生し、やがては2%をこえてくるであろう。こうした現象が起きたときこそ消費税を増税し、超過需要と労働需要を押さえ込むべきなのである。2017年3月の消費税増税時にこのような現象が発生しているとは限らない。本当は好ましくない増税の延期であった。しかし、ここまで来てしまった以上、そうするより他に道はなかったのかもしれない。

私は、以前から書いてきたように、政府、日銀が協力して、インフレ抑制とバブル防止を目的とする増税プラン=ドッジ・ライン・バージョン2を作るべきと主張してきた(*1)(*2)。金融緩和の結果、インフレとバブルが進行した場合、金融引き締めではなく、増税を中心とする財政政策により、インフレとバブルを封じ込めるというプランである。そのプランの一環として、コア物価上昇率が2.5%をこえた場合、総理大臣が9ヶ月以内に消費税を2%引き上げなければならないことを義務づけるような法律を作っておくべきであった。その消費税増税をも含むドッジ・ライン・バージョン2を、出口戦略と財政再建の手段の一環として準備し、作成しておくのである。そうしたきっちりした財政再建への道筋が提示できていた場合、2015年9月に消費税増税を実施しなかったとしても、日本国債のCDSの保証料率が上昇したり、ムーディーズから日本国債の格下げをくらうことはなかったのである。

ドッジ・ライン・バージョン2の中身は、インフレ抑制とバブル防止を目的とする増税策であると同時に、財政再建のプランであるので、高率のインフレも金利の急上昇も財政破綻も、起こりようがない。反リフレ派から金利の急上昇、財政破綻が起こるなどという批判も封じ込めることができる。また、現在の日本においては、金融抑圧という政策は長続きしない。従って、最初から金融抑圧という政策の放棄を宣言しておけば、欠陥の多い金融抑圧という批判も封じ込めることができる。ドッジ・ライン・バージョン2を作っておけば、インフレは高進せず、税収は増加し、財政は健全化する。もちろん、ドッジ・ライン・バージョン2は簡単に作れるものではなく、いろいろ問題点を含む政策になることはわかっている。それでも、出口戦略、財政再建策としては、他の方法よりは欠点が一番小さいと考える。

Too little Too Lateであるとはいえ、黒田総裁が10月31日に踏み切った金融緩和は、円安批判が強まった環境下であったにもかからず、実施に踏み切ったことを評価したい。これからは、政府と出口戦略を話し合い、インフレ抑制とバブル防止につながるドッジ・ライン・バージョン2を作り上げながら、より大規模な追加金融緩和を実施すべきである。


リンク先記事
量的緩和の出口戦略 増税、増税、増税 ! (*1)
インフレ抑制とバブル防止を利用した財政再建策(*2)



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日銀ウォッチャー報告(2014年11月号)

マネタリーベース平残の推移201411(グラフ)

2014年10月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で11.9兆円増加し、256.6兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201411(表)

上記のグラフに示したとおり、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になった。その後は、ほぼ高水準の増加率が続いている。9月はマネタリーベースの増加率がやや低めになったが、10月の増加率は前月比4.9%増とかなり大幅なものとなった。

10月の市中資金は、12.9兆円の不足であった。そこに、国債の購入7.9兆円、短期国債の購入11.9兆円、共通担保オペの1.0兆円の回収などを中心とした金融調節により、合計19.1兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、6.2兆円の資金余剰となった。この資金余剰を反映して、当座預金残高は、9月末の161.5兆円から、10月末の167.7兆円へ、6.2兆円の増加となった。この当座預金残高の変動を反映して、10月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比11.9兆円増加の256.6兆円になった。当座預金残高と季節調整済のマネタリーベース平残の増加に差がある理由は、10月のマネタリーベースは減少しやすいという季節要因があるためである。


日銀BSとMB(実績と予想)201411

上記の表に示したように、今年10月末までの過去12ヶ月間に、国債の残高は54.6兆円、マネタリーベース残高は69.7兆円の増加となっている。10月31日以前の年間増加目標は、国債が50兆円、マネタリーベースは60兆円~70兆円であった。国債の増加額は少し多めであり、マネタリーベースの増加額は上限近くであった。

今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は、275兆円である。残り2ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、月間7.7兆円の純増が必要である。

11月の市中資金は、15.3兆円の不足となる。11月の資金供給は、国債の購入が8兆円と想定する。上記の表にあるとおり、1ヶ月間に必要な純増額6.3兆円プラス償還予定額1.5兆円に近い金額であるからだ。短期国債の購入は8兆円と想定する。償還予定額が7兆円あるので、その数字を少し上回る金額と想定する。共通担保オペの回収額は0.5兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しは、11月には予定されていない。この結果、11月の資金供給は、合計で15.5兆円となる。11月末のマネタリーベース末残は、「15.5兆円マイナス15.3兆円」に等しい前月比0.2兆円の増加と予想する。季節調整済のマネタリーベース平残の増加額は、前月比で0.2兆円をかなり大幅に上回る金額になると予想する。

10月31日の金融緩和の強化は、多くの人の予想外の金融緩和であった。そのため、市場では、パニック的とも思われる円安・株高が進行した。日本国内では批判の声も多いが、海外では評価する声の方が大きかったと思う。2012年2月14日に、1%のインフレゴール政策の導入を当時の白川総裁が発表した時、ブラジルのマンテガ財務相は「為替操作」と非難してきた。しかし、今回は、日銀の金融緩和が、10月31日のブラジル株式市場の急騰を引き起こした。退任直前のマンテガ氏がどう評価したかは知らない。英文メディアを通じるブラジルからの声として、日銀の金融緩和がブラジルの株価を大きく引き上げたことを評価する声がいくつか聞こえてきた。

黒田総裁が金融緩和に踏み切った最大の理由は、消費者物価上昇率の伸び悩みであろう。


コアCPI201411

上記のコア消費者物価上昇率は、明らかに上昇率を低下させている。9月の全国コア物価の上昇率は、前年比3%増であるが、消費税増税分を除くと1%増になる。黒田総裁は全国のコア物価上昇率が1%を割ることはないと明言していたが、1%以下に低下する可能性が非常に高くなっている。その根拠が、下記に示す企業物価の上昇率である。

サービス企業物価201111

上記の2つの物価は、消費税増税分を除く前年比上昇率である。日銀が作成している統計だからこそ、存在する数字なのである。消費者物価指数は、総務省が作成しているので、消費税増税の影響は約2%以外はわからない。こういう時期であるのだから、総務省も日銀に協力して、消費税増税分を除く消費者物価指数を算出すべきであろう。しかし、ここで、官庁の縦割り主義の弊害が発生する。より精度が高く、商品別の消費税を除く消費者物価の上昇率が、誰にもわからなくなってしまっている。

上記のグラフで、企業物価上昇率の下落が激しい。これは、円安の影響一巡と、原油などの国際商品市況の下落の影響が大きい。消費者物価は企業物価の変動を後追いする可能性が高いため、今後も消費者物価の上昇率に低下の圧力がかかる。従って、今後の全国の消費者物価上昇率が1%を割る可能性が高いのである。

そうかといって、日本がデフレに逆戻りしたわけでもない。上記のグラフに企業向けサービス価格の上昇率を示したが、前年比0.8%程度の上昇で横ばいである。企業向けサービス価格も円安や国際商品市況の影響を一部は受ける。外貨建ての多い外国との飛行機代、船賃や、電気代などの上昇を通して、円安や輸入エネルギー価格上昇の影響を受けるからだ。しかし、それは一部であり、多くは、賃金などの内需によるコストプッシュの影響が大きい。企業向けサービス価格から推測すると、日本の物価上昇率の実勢は、前年比0.8%かそれを少し下回る程度である。異次元緩和が開始されて1年半以上経過した。そして、日本経済はデフレからの脱却には成功しつつある。

しかし、2%のインフレ実現にはまだ時間がかかりそうである。黒田総裁が当初公言していた2年、あと半年弱の期間に2%を実現できる可能性は、非常に低くなってしまった。黒田総裁は、異次元緩和を実施した日に、「経済も金融も生き物なので、その時々の状況を見て、必要あればちゅうちょなく調整していく」と述べていた。1年半以上が経過してみると、デフレ脱却には成功したが、2年で2%の実現が非常に困難になった。それどころか逆に、1%から下向きに動く気配を見せ始めたのである。期待インフレ率も2%に届いていない。ここで動かなければ、日銀と黒田氏自身への信任にかかわると考えたのであろう。

この意味では、今回の金融緩和は、当初の方針と変わりのない金融緩和である。むしろ遅すぎなのである。ただ、黒田総裁は、腹の中を全く明かさず、直前まで、景気はいずれは順調な回復過程に復帰し、物価も今後上昇基調を強めるという従来とほとんど同じ発言を繰り返していた。そのため、10月31日の金融緩和の強化は、市場には全くの不意打ちとなり、発表直後から急速な円安株高が進行したのである。


1031金融緩和の強化

10月31日の金融緩和の内容は上記の点だけであり、シンプルな金融緩和である。量的には、2013年4月4日の異次元緩和に近い金額のようにも見える。国債の保有残高の増加額は、年間50兆円から80兆円への30兆円拡大である。ただ、先に示したとおり、10月末時点で国債の純増額は前年比55兆円であり、実質的には25兆円の増額修正になる。2013年4月4日の異次元緩和直前の3月末の国債純増額は21兆円であり、白川前総裁も資産買入等の基金で国債を20兆円純増させることを目標としていた。そのため、国債の年間の純増額は、2013年3月末21兆円→2014年10月末55兆円→2014年11月以降80兆円となる。実質的には異次元緩和とほぼ同額の25兆円の純増である。

一方、マネタリーベースの年間の純増額は、2013年3月末26兆円→2014年10月末70兆円→2014年11月以降80兆円と、異次元緩和による純増額が44兆円、今回が10兆円と規模は小さくなる。これは、白川前総裁が、国債を購入する一方、共通担保オペを中心とする短期の貸出金を大量に回収してきたため、マネタリーベースの純増額が小さくなってしまっていたからである。異次元緩和実施以降は、短期資金の回収ではなく、短期国債の購入を通して、短期資金の供給をも増やした。しかし、短期国債のマイナス金利が常態化し、これ以上、短期資金の供給を増やすことは簡単にはいかなくなった。それが、国債の純増額を表面上は30兆円、実質的には25兆円増やした一つの理由であろう。

今回の金融緩和の特徴として、金融緩和の実施日が、GPIFの資産構成変更の発表日と重なったことである。GPIFの資産構成の変更内容を下記に記す。


GPIF201406.gif

発表された内容は、短期資金を除く部分であるので、短期資金の保有額を資産全体の5%と仮定した。そして、株などの購入金額は、株価が上がれば減らし、下がれば増やさなければならない。将来の株価動向はわからないので、GPIFが公表している直近の6月末と資産価格に変更がないことを仮定し、各資産の必要売買金額を試算した。この数字は、6月末時点での必要売買金額であり、10月末時点では資産構成の変更はある程度は進行しており、資産価格も変化しているので、金額も変わっているはずである。

上記の表にあるとおり、6月末時点の国債の予想売却金額の中心値は、26兆円である。10月末時点の国債の売却予定金額は、少しは減少しているはずである。一方、実質的な日銀による国債購入金額の増加額は、25兆円である。この2つの金額が非常に近いので、GPIFと日銀は裏で話し合い、公的相場操縦を行ったという意見まで出ている。

私のGPIF資産構成変更論は、(*1)で述べたとおりである。国債を安全資産とは正反対にある全資産損失確定商品とみなし、国債を全額売却して外国証券での運用に回すべきという異端の意見である。この観点からみると、今回のGPIFの資産構成の変更は、ベストの変更ではないが、ベターな変更であると評価している。そして、GPIF保有の国債を日銀に移すべきとも主張してきた。国債という全資産損失確定商品を保有する一番ましな主体は日銀であり、金利の上昇も避けることができると考えているからである。

GPIFは、資産構成の変更にかける期間を明示していない。国債を26兆円減らすとした場合でも、期間が1年であることはないし、構成変更の開始、終了時点もわからない。これを明示した場合、高値づかみになってしまうので、当然、期間の明示などすべきではない。

私のかねてからの主張である、日銀による国債の購入を通じた機関投資家による保有資産の株式、外国証券への移動というポートフォリオ・リバランス効果の何割かが、今回はGPIFの資産保有分に関しては現実化するのである。日銀による金融緩和とGPIFの資産構成変更を足し合わせた場合と、私が常に望ましいと考えているポートフォリオ・リバランス効果とが、結果的に非常に似た内容となる。

黒田総裁とは異なり、私は、デフレの悪影響は、モノの価格の下落だけではなく、株や土地などの資産価格の下落も大きな悪影響を実体経済に与えていると考えている。加えて、日本の成長性、生産性の高い知識集約型産業の成長を促すためには、円安だけでは不十分であるにしても、円安という環境は最低限必要である。円安とそれ以上に重要な貿易・サービス収支の改善を実現させるためには、国内資金の海外への大規模な流出が不可欠である。これを実現する手段として日銀による金融緩和の強化、特に国債購入の拡大を重視してきた。この点において、10月31日の発表は、日銀とGPIFが連携プレーをする形で、円安、貿易・サービス収支の改善、株高へとつながる可能性の高い図式になる。そのため、先に述べたとおり、GPIFによる資産構成の変更と、日銀による金融緩和が同じ日に発表されたのは、偶然ではなく、裏で公的な相場操縦が行われているという主張をする人がいる。

金融緩和が実施された10月第5週の対内対外証券投資などのすでに発表された統計を見る限り、株高を実現させたのは、相変わらず海外投資家である。国内投資家の株価が上がれば売りというヒステリシス(*2)は変わっていない。また、対外証券投資は増えているが、対内証券投資の方が株式投資を中心により大きく増えており、ネットでは証券投資を通じて資金が流出しているのではなく、流入している。この状況で円安が発生するメカニズムは、銀行から短期資金が海外へと貸し出され、その資金が円のカラ売りに使われているというパターンしか考えられない。このカラ売り主体の中心は、円建て資産を250兆円以上保有する海外の機関投資家のヘッジ売りであろう。一部に投機家の資金も混ざっているであろう。

GPIFの資産構成変更計画は、10月30日のニューヨーク市場においてすでに伝わっており、少しばかり円安が進行していた。株式市場もその材料に反応して、寄り付きから堅調に推移していた。そのため、かなり以前から噂が続いていたGPIF関連のニュースは、10月31日の朝の段階で、すでに織り込み済み、材料出尽くしであったのである。GPIFを中心とする国内の公的年金も、10月31日13時44分までは、日本株や外国証券を買っていたと思われる。しかし、日銀の金融緩和の強化が発表された直後から、大量の円売り株買いが市場に殺到し、急激な円安株高が進行した。こうした注文を急激に増やしたのは、海外投資家が中心であり、国内投資家は正反対に株売りを大量に実施し、円買いも同様に実施した可能性が高い。この海外投資家の売買が急激に増加した原因は、GPIFではなく、日銀の金融緩和である。金融緩和発表後、GPIFが安い価格で外貨と株をできるだけ多く買うという一番重要な資産構成変更計画は、修正せざるをえなくなってしまったと思う。

10月31日13時44分から発生した急激な円安株高は、GPIFにとっては迷惑きわまりないものであったに違いない。GPIFは資産運用状況を年4回発表する。従って、大きく資産を動かしている期間に、GPIFが高値で資産を買ったり、安値で資産を買うことに失敗した場合、後から資産運用報告書をよく見れば、かなりの程度わかってしまうのである。資産構成の変更は、発表前から少しずつ進めていたはずであるが、発表と同じ日に日銀が予想外の金融緩和を実施したため、安値で株と外貨建て資産を大量に買うことができなくなってしまった。そして、その事実は、何ヶ月か後にわかってしまうのである。円安株高が進行していなかった7-9月期よりも、円安株高がずっと進行した10-12月期に、株や外貨建て資産をより多く買っていたことが後日にわかった場合、GPIFは下手な資産構成の変更の結果、国民の貴重な財産に損失を与えたと非難される可能性が出てくる。GPIFにとっては、日銀の予想外の金融緩和は、大変有害なものであった。構成変更の完了が同日発表であるならば、日銀の金融緩和はGPIFにとって歓迎すべきものとなる。しかし、構成変更の開始の同日発表は、GPIFにとって大きな損失以外の何ものでもありえない。

少なくとも、GPIFが日銀と安易に結託することは、絶対にありえないのである。仮に、GPIFと日銀が結託するとすれば、政府の上層部から強い圧力があった場合だけである。この場合、マスコミに情報が流れたり、GPIFの職員が内部告発をした場合、内閣と日銀を巻き込んだ大スキャンダル事件発生になることは間違いない。政府としては、株価が上がってくれるのが望ましいとしても、このような案件で、そこまで大きなリスクを取るとは考えられない。従って、公的相場操縦説は、一見もっともらしく見えても、事実ではない。

金融緩和の話に戻ると、私の立場からすると、10月31日の金融緩和を非常に高く評価しているのであるが、同時に不満も感じざるをえない。最も不満な点は、国債購入の金額が少なすぎるという点である。私は、最低でも50兆円と言ってきたので、30兆円では足りない。国債の発行残高とその保有主体を表わすグラフを下記に示す。


日銀以外の国債保有残高

上記のグラフで示したように、政府が国債発行した分以上の国債を、2013年4月以降、日銀は購入してきた。

古い日銀理論では、これこそが財政ファイナンスであり、日銀が絶対やってはならない政策である。私は、国債という全資産損失確定商品の残高がここまで巨大化した最大の原因は、日銀が財政ファイナンスを実施しなかったことであると考えている。異次元緩和を2013年4月ではなく、20年早い1993年4月に実施していたならば、ここまで、国債という毒薬の残高が増えることは、絶対にありえなかったと考えている。あまりにも手遅れであるとはいえ、国債という毒薬は、可能な限り日銀が吸収してしまうことが一番望ましい。

日銀の国債の大量購入により2014年6月末以前の過去1年間に、日銀以外の主体が保有する国債残高は、5兆円減少している。今後、国債発行金額が一定であると仮定するならば、日銀以外の主体が保有する国債残高は、5兆円プラス今回の緩和策で実際に増える金額25兆円の合計で30兆円だけ減らさざるをえなくなる。そのうち何割かはGPIFを中心とする公的年金による減少になるであろう。残りは、日銀、公的年金以外の主体である。その中心は、国内の機関投資家であるが、国債を売却した資金の何割かは、株や外国証券に振り向けざるを得ない。

30兆円では、公的年金以外の機関投資家の資金が株や外国証券に回る金額は、かなり少ない金額になると考えている。50兆→80兆円では少なすぎ、少なくとも50兆円→100兆円はほしかった。量的緩和に効果はないという意見が依然として存在している。量的緩和の効果は非常に小さいことは間違いない。今回はたまたまGPIF要因があるため、ある程度の株や外国証券への移転を見込むことができる。しかし、先に指摘したとおり、GPIFの資産構成変更がどれくらいの期間で行われるかは不明である。今回は、たまたまGPIFの資産構成変更があるため、通常の金融緩和よりも効果が大きそうであるが、どれくらい大きいかはわからない。従って、効果の見える量的緩和の金額は、少なくとも、年間100兆円以上の国債購入のような大規模な緩和である必要性が存在する。

効果の見える量的緩和が続いた場合、円安株高が安定して継続することになる。その結果としてインフレやバブルが進行すれば、それを防止するために、増加した所得や資産に対する課税をドカンと増やせばよい(*3)。インフレ、バブル防止のための増税の仕組みを作り上げることは、実際には簡単なことではない。しかし、その仕組みを作り上げることができた場合には、消費税増税の悪影響よりはるかに少ない負担ですむはずである。消費税増税の場合は、実質所得が大きく減少してしまう。インフレ、バブル防止税は、インフレとバブルによって所得や資産を増やした主体に対して、その何割かを税金として徴収するので、所得や資産の増加額が減少するだけであり、所得や資産自体の増加は続く。その場合でもいろいろと問題は発生するが、消費税の大幅増税よりは、小さなものになるはずである。インフレやバブルが進行すればするほど増税を通じた税収が急激に拡大し、財政再建が急速に進む。

こうして財政収支の黒字が拡大すれば、国債の買入消極を増やすことが可能となる。日銀が保有する長期国債をガンガン買入消却すれば、日銀が大量に保有する国債の金額を急激に減少させることが可能になる。財政再建を確たるものにするには、よりいっそうの金融緩和の強化が望ましい。2%のインフレ目標実現だけが目的なら、そこまでの金融緩和は必要ではないかもしれない。しかし、急速な財政再建を同時に実現させるためには、日銀がさらなる金融緩和の強化を実施することが、必要不可欠なのである。


リンク先記事
GPIF改革論議の問題点(*1)
株式市場のヒステリシス(*2)
インフレ抑制とバブル防止を利用した財政再建策(*3)


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日銀ウォッチャー報告(2014年10月号)

マネタリーベース平残の推移201410(グラフ)

2014年9月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で1.6兆円増加し、244.7兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201410(表)

上記のグラフに示したとおり、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になった。その後は、ほぼ高水準の伸び率が続いている。9月の季節調整済のマネタリーベース平残の増加率は、前月比1%を下回り、やや低めの伸び率となった。

9月の市中資金は、4.6兆円の不足であった。そこに、国債の購入6.1兆円、短期国債の購入5.3兆円、貸出支援基金による貸し出し3兆円、共通担保オペの0.2兆円の回収などを中心とした金融調節により、合計14.1兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、9.5兆円の資金余剰となった。この資金余剰を反映して、当座預金残高は、8月末の152.1兆円から、9月末の161.5兆円へ、9.5兆円の増加となった。この当座預金残高の増加を反映して、9月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比1.6兆円増加の244.7兆円になった。当座預金残高と季節調整済のマネタリーベース平残の増加に差がある理由は、9月のマネタリーベースは増加しやすいという季節要因があるためである。

2月18日の金融政策決定会合で決定された、新方式による貸出支援基金による貸し出しの第2回目が9月に実施されたので、その説明をすることにする。貸出支援基金による貸出金額を表すグラフを下記に示す。


貸出支援基金201410

9月分は、成長基盤強化支援資金供給の貸し出し増加額は、4077億円(ドル特則8.74億ドルを除く)であった。貸出増加支援資金供給の貸し出し増加額は、2兆5565億円となった。9月末のドル特則をも含む貸出支援基金全体の残高は、8月末比で3兆1124億円増加の20兆9763億円となった。これは、2014年末の18兆円という目標を上回る金額である。年内にあと1回、12月に貸出支援基金による貸し出し実施が予定されている。現在すでに目標を約3兆円上回っているが、12月末には、5-7兆円程度まで上回ることになりそうである。

日銀BSとMB(実績と予想)201410

通常は月末の数字を掲載しているが、今月は発表日が遅いので、9月20日時点の数字を上記の表に示した。上表から、今年9月20日までの過去1年弱の期間に、国債の残高は55兆円増加し、今年9月末までの過去1年の期間に、マネタリーベース残高は67兆円の増加となった。年間増加目標は、国債が50兆円、マネタリーベースは60兆円~70兆円である。国債の増加額は依然として少し多めであり、マネタリーベースの増加額は予定通りの金額となっている。

今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は、270兆円である。残り3ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、月間5.8兆円の純増が必要である。

10月の市中資金は、12.1兆円の不足となる。10月の資金供給は、国債の購入が、9月並の6兆円と想定する。短期国債の購入は、8月よりやや多めの8兆円と想定する。後に記すが、短期国債の金利がマイナスになっても日銀は問題なしとしているので、従来通りの短期国債の購入を実施することを想定した。共通担保オペの回収額は、9月より少し増えて0.5兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しは、10月には予定されていない。この結果、10月の資金供給は、合計で13.5兆円となる。10月末のマネタリーベース末残は、「13.5兆円マイナス12.1兆円」に等しい前月比1.4兆円の増加と予想する。季節調整済のマネタリーベース平残の増加額は、前月比で1.4兆円を上回る金額になると予想する。

最近、短期国債にマイナス金利が発生している。日銀は問題なしとしているが、私は問題ありと考えている。日銀が獲得するはずの通貨発行益が減少するからである。すでに国債は前年比55兆円(厳密には1年弱)と目標より多めの金額を購入している。年間50兆円の目標を60兆円に引き上げるべきである。その他、先に書いたとおり、貸出支援基金による貸出金額が5-7兆円程度の超過達成が確実である。準備預金の超過分に対する付利+0.1%だけで通貨発行益が減るのであるから、二重に通貨発行益を減らすことは好ましくない。短期国債購入予定額を大幅に減額し、マイナス金利の短期国債を購入することは避けるべきである。プラス金利の国債の買い増しと、プラス金利の貸出支援基金による貸し出しの方が望ましい。マイナス金利の短期国債を無理して買わなくても、マネタリーベースの年末目標額270兆円を達成することは、十分可能であるのだ。

今月号でも、過去1ヶ月間に発表された重要と思われる統計をいくつか取り上げ、その意味を説明することにする。現実の日本の景気は、消費税増税以前に日銀が予定したシナリオより悪いシナリオで動き続けている。黒田総裁のデフレ脱却予想は、8月以前は当たっていた。しかし、消費税増税による景気の悪化を楽観的に見ていたが、実際に想定以上の景気悪化が発生してしまった。今後、いずれの時点かには、景気は消費税増税前の水準に回復することは間違いない。しかし、その時期を正確に予想することは不可能であり、予想してもまぐれ当たりしか起こりえない。現時点では、黒田総裁による強気の景気の現状分析や、景気は多少遅れても回復に向かうという予想に対する信頼は、かなり失墜している状況である。

まずは、いつものように、コア消費者物価の推移のグラフを下記に示す。


コアCPI201410

上記のグラフで見た場合、直近の消費者物価上昇率は鈍化している。しかし、コアコアで見た場合、8月全国の上昇率は、7月と同じ+2.3%であり、心配する必要はない。しかし、9月東京の方には問題が発生している。コアコアが+2.1%から+2%へと少し低下しているからである。具体的には、衣類を中心とした半耐久消費財と、耐久消費財の上昇率低下が目立つ。今後、円安進行が止まった場合、エネルギー価格の上昇率はさらに低下する。この場合、東京コアの上昇率+2.6%はさらに低下する。消費税増税分を除いた場合、9月時点で+0.6%の上昇率にすぎないが、ここからまた下がりそうなのである。全国のコアも、+3.1%より下、すなわち、消費税増税分を除く消費者物価上昇率が、8月の+1.1%から、いずれ1%を下回る可能性が徐々に高まりつつある。

物価の動向を予想する場合、景気動向を見きわめる必要がある。日銀が想定するように、景気回復が早期に達成できた場合、人手不足がより深刻化し、賃金の上昇率がアップする。これは消費者物価の上昇につながる。消費税増税分を除く消費者物価上昇率が8月以降も1%を割らずに、遠くない時期に目標の2%を達成することが可能になる。

そこで景気動向なのであるが、まず、個人消費の動向に注目する。今までは、家計調査を基に分析を進めてきた。家計調査は非常に細かなデータが存在し、分析するには非常に有益な統計である。一方、家計調査は約9000世帯からの標本調査であり、その数字には無視ができないほど大きな誤差がいくつも含まれている。家計調査を利用する際には、そうした欠陥を頭に入れながら分析をする必要がある。

家計調査からみた消費税増税後の消費動向は、はっきり言って悪すぎる。そのため、販売サイドから見た統計を使って、実際の消費は、家計調査が示す数字よりかなり良いという見方も存在する。今回は、販売サイド、供給サイドの数字を使って消費動向を見ることにする。

まず、経済産業省の商業販売統計から、小売業の名目売上高、実質売上高を表すグラフを下記に示す。


小売業 名目実質 

見てわかるとおり、名目の売上高は前年を上回っており、かなり好調である。一方、実質の売上高は、かなり水準が低い。

まず、この売上高の大半は、財の売上高である。直近の8月には、名目値が+0.9%、実質値が-3.8%(季調済であり、原数値の前年比増加率とは異なる)になる。この名目と実質の差は、財だけの消費者物価上昇率が+4.9%であることが原因である。名目小売業の売上高も、消費者物価上昇率も、ともに消費税増税分を含んでいる。一方、消費者物価上昇率には上方へのバイアスが存在する。こうした欠陥があることは、昔から知られていた。ただ、東大日次物価指数の登場により、その欠陥が可視化されるようになった。しかし、東大日次物価指数は家計調査の品目の17%を占めるにすぎない。代替となるものが存在しないので、上方バイアスはあるが、一番正確なものに近い、総務省の消費者物価指数の中で使われている数字を使うことにする。

財の物価上昇率+4.9%のうち、消費税増税分は最大で+2.9%である。財の場合、消費税増税分を除いても、+2.0%強の物価上昇が発生している。8月の店舗調節後で見た売上高は、百貨店が-0.3%、スーパーが-0.1%と、ほぼ前年並みに近づいている。この数字は、消費税抜きベースであるが、前年比とあまり変わらなくなった。しかし、消費税増税以外の物価上昇を考えると、消費はまだ前年を約2%強下回る水準で動いている。ただ、先に示した消費者物価の上方バイアスを考えると、実際には+2%強ではなく、+2%弱になる可能性が高い。それでも、前年並み、ないしは、微減にまで戻っていることが確認できるのは、台数ベースでの統計が存在する自動車販売台数くらいであろう。

8月の家計調査で見た場合、財よりも、サービスの方が下落率が大きい。サービス支出を供給サイドから捉えることのできる統計として、第三次産業活動指数が存在する。このグラフを下記に示す。


第三次産業

上記のグラフは、消費を広義の対事業所向けサービスと、広義の対個人別サービスに分けている。そして対個人向けサービスを、「非選択的」と「し好的」の2種類に分けて示したものである。この数字は、サービスの数量ベースなので、名目値ではなく、実質値である。

広義の対事業所向けサービスの多くは、中間投入であり、GDPに直結しているわけではない。しかし、リーマンショック、消費税増税の両方の影響を大きく受け、直近でも水準は低い。一方、大半がGDPに直結する対個人向けは、非選択的サービス、例えば医療費などが含まれているのであるが、リーマンショックからも消費税増税からも小さな影響しか受けていない。高齢化が進む中、医療費などは増加し続けているので、着実に増加しつつある。対個人向けのし好的サービスは、例えば野球観戦サービスなどが含まれているのであるが、リーマンショック、東日本大震災、消費税増税のいずれからも大きな影響を受けている。消費税増税前は、駆け込み的なサービス支出増加があったが、その後は反動減となり、そこからごくわずかしか回復していない。例えば、ボウリング場というサービス業は、3月に大きく売り上げを伸ばし、4月に反動減が発生した。しかし、その後も減少傾向にある。駆け込みとその反動減はあったが、そこからの回復が発生していない。これは、最近の減少が、消費税増税による反動減ではなく、消費税増税による実質所得削減効果が続いていることが原因であるからだ。耐久消費財とは異なり、サービス支出は、消費税増税の影響を受けにくいと考えられてきた。確かに個人向け非選択的サービス支出は、影響を受けてはいない。しかし、個人向けし好的サービス支出は、大変大きな影響を受けている。この悪影響は、いつかはゼロになるはずであるが、ゼロになるのにまだかなりの時間がかかりそうである。

なお、この第三次産業活動の統計は、現時点で、7月分までしか公表されていない。足元の動向はわからないのであるが、7月であっても、反動減の解消は完全に終わっているはずである。それでも元に戻っていないということは、実質所得削減効果と考えるのが一番適切と考える。

上記の第三次産業は、農林水産業を除いたGDPの63%をカバーする大変大きな分野である。その次に大きな分野は、鉱工業生産であり、農林水産業を除いたGDPの18%を占める。そのグラフを下記に示す。


鉱工業生産201410

8月の鉱工業生産の不振、在庫率の急上昇は、予想を大きく上回る悪い結果であった。この鉱工業生産というのは、規模は第三次産業よりもずっと小さいのであるが、景気により敏感に反応するので、景気動向を理解するためには欠かせない統計である。9月以降は回復との予測になっているが、前月号で説明したとおり、予測は大きく下方修正されるのが最近の傾向である。8月にマイナスになった後、9月は多少のプラスに戻すであろうが、10月に再び低下する可能性が高い。

この鉱工業生産が衝撃を与えたもう一つの点は、1-3月期に駆け込み需要で大きく上昇した鉱工業生産が、4-6月期に反動減として減少したが、7-9月期にはその戻りとしてプラスに転じると期待されていた。それが7-9月期もまたマイナスになることがほぼ確実になったことである。この衝撃は大きかったと思う。鉱工業生産の減少は、単に消費の不振を表しているだけではなく、輸出や設備投資の不振をも表している可能性が高い。そのため、エコノミストによる7-9月期の実質GDP成長率予想の下方修正が始まりつつある。

このように、現時点で発表されている統計を見る限り、足元の経済は、順調な戻りを示すものは数が少なく、戻りが鈍い統計の方が圧倒的に多い。一方、ここからさらに下に行くことを示唆する統計は、ほとんど存在しない。すなわち、現時点における景気は、方向としては緩やかな回復方向を示しているのである。ただ、当初、日銀が想定していた速度より、かなり鈍い速度である。消費税増税前の水準にいずれは戻るのであるが、その時期が現時点では見えないのである。

足元では大きな変化が起こりつつある。それは円安である。そして株価も、一時はリーマンショック後の最高値を更新した。最近は、円安デメリット論が急速に広がっている。私は、(*1)(*2)で円安デメリット論に反論した。現時点では、狭義の円安メリットはまだ発生していない。対外資本流出が始まり、金融収支の黒字拡大が発生し、定義としてほぼ等しい経常収支の黒字拡大が発生し、同時に貿易・サービス収支が改善するまでは、狭義の円安メリットを享受することができないことを指摘した。これは、現在が、円安の行き過ぎではなく、円安が不十分であるため、日本全体がまだ狭義の円安メリットを享受できていないことを意味する。残念ながら、こうした考え方は、少数派である。

円安は、同時に金融収支の黒字拡大を伴っている場合には、貿易・サービス収支の改善につながり、日本経済にプラスの影響を与える。最近の対外対内証券売買の数字を見ると、金融収支の黒字拡大が発生している可能性が高くなってきた。株高は資産効果を通じて、消費やGDPにプラスの影響を与える。ただし、株価の上値を買うのは海外投資家だけという状況は、変わっていない。株式市場のヒステリシス(*3)には変化はなく、これを克服するのは容易なことではない。加えて、金融収支の黒字拡大が発生し、定義としてほぼ等しい経常収支の黒字拡大が発生し、同時に貿易・サービス収支の赤字縮小だけではなく、黒字転換までを実現するためには、現在の金融政策では十分ではない。それを実現可能にするためには、金融緩和のさらなる強化が必要である。現在、円安デメリット論が広がり、国債市場の機能不全が語られ、日銀による国債購入金額を増やすのが政治的により困難になりつつある。政治的な困難が増えたとしても、望ましい政策が、望ましくない政策に変わることはない。追加の大規模金融緩和を実施することが、必要不可欠であることに変わりのないことを強調したい。


リンク先記事
これ以上の円安は本当にメリットか(*1)
交易条件悪化論と中小企業損失論をこえた円安メリット論(*2)
株式市場のヒステリシス(*3)



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日銀ウォッチャー報告(2014年9月号)

マネタリーベース平残の推移201409(グラフ)

2014年8月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で6.8兆円増加し、243.1兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201409(表)

上記のグラフに示したとおり、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になった。その後は、ほぼ、高水準の伸び率が続いている。昨年12月に、1ヶ月間だけ前月比増加率がマイナスになったことがある。それを除けば、比較的高い伸び率が続いている。

8月の市中資金は、16.7兆円の不足であった。そこに、国債の購入6.5兆円、短期国債の購入10.5兆円、共通担保オペ0.5兆円の回収などを中心とした金融調節により、合計16.7兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、39億円という非常に少額の資金不足になった。この資金不足を反映して、当座預金残高は、7月末の152.1兆円から、8月末の152.1兆円へとほとんど変わらずであった。この当座預金残高の変動を反映して、8月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比6.8兆円増加の243.1兆円になった。

当座預金残高がほとんど変わらずで、季節調整済のマネタリーベース平残が増加した理由は、8月のマネタリーベースは大きく減少しやすいという季節要因があるためである。7月も当座預金残高が0.2兆円減少する一方、季節調整済のマネタリーベース平残は9.5兆円増加した。2ヶ月連続で同じような現象が起こったのである。

日銀BSとMB(実績と予想)201409

上記の表に示したように、今年8月末までの過去12ヶ月間に、国債の残高は55.3兆円、マネタリーベース残高は66.5兆円の増加となっている。増加額としては、減少傾向が続いている。しかし、年間増加目標は、国債が50兆円、マネタリーベースは60兆円~70兆円である。国債の増加額は依然として少し多めであり、マネタリーベースの増加額は中央値近くになった。

今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は、270兆円である。残り4ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、月間5.5兆円の純増が必要である。

9月の市中資金は、3.4兆円の小幅の不足となる。以前は、9月と言えば資金余剰の月であった。しかし、昨年から資金不足の月へと変わっている。これは、日銀が保有する市場から購入した国債、短期国債の中で、9月に償還を迎えるものが12.5兆円存在する。市場から購入した国債の償還金は、本来、市場に支払われるべき資金であった。ところが、日銀の買いオペにより、償還資金が日銀に移ることになる。その結果、市中資金の不足額が12.5兆円だけ増えることになる。そのため、日銀の国債、短期国債の購入額が増えるにつれて、市中資金が不足になる月が増え、余剰になる月が減る。実際、昨年7月以降、資金余剰の月は一度も存在していない。

9月の資金供給は、国債の購入が、8月並の6.5兆円と想定する。短期国債の購入は、8月よりやや少なめの8兆円と想定する。共通担保オペの回収額は、8月より少し増えて1兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しは、6月並の5兆円と想定する。この結果、9月の資金供給は、合計で18.5兆円となる。9月末のマネタリーベース末残は、「18.5兆円マイナス3.4兆円」に等しい前月比15.1兆円の増加と予想する。季節調整済のマネタリーベース平残の増加額は、前月比で15.1兆円より少ない金額になると予想する。

今月号でも、過去1ヶ月間に発表された重要と思われる統計をいくつか取り上げ、その意味を説明することにする。はっきり言って、日銀が以前から繰り返し主張してきた、消費税増税後の反動減からの回復というシナリオは、はずれが決定したと言ってよい。当たっていたならば、7月は順調な回復を示し、増税前の水準まで回復していなければならない。ところが、7月の統計は、増税前のかなり下を動いており、方向性もどちらかと言えば下である。しかし、当初のシナリオからは、はずれているが、景気回復が、8月以降にずれこんでいるだけであるという可能性は、依然として存在する。

まずは、いつものように、コア消費者物価の推移のグラフを下記に示す。


コアCPI201409

消費者物価については、日銀の予想シナリオに沿った動きを示している。消費税増税分を除く物価上昇の要因は、円安と賃金上昇の割合が高い。このうち円安要因がはく落し、賃金上昇を主因とするインフレへと変化しながら、来年度に消費税増税分を除く物価上昇率が2%に達するという予想を、日銀は立てている。この日銀のシナリオは、現在でも崩れていない。ただ、このシナリオが実現する条件は、今後も順調な景気回復が継続し、労働市場の逼迫から賃金上昇率が高まることが前提である。しかし、景気回復の方は、日銀のシナリオ通りには動いていない。

次に、消費水準指数(除く住居等)と消費総合指数の動きを表すグラフを下記に示す。


消費水準・総合201409

今までは、全てを含む消費水準指数を使っていたが、変動が激しいなどの理由で、GDP統計には使われない数字を差し引いた、除く住居等の消費水準指数の数字を示した。

7月の消費水準指数は5月の底と同水準であり、悲惨なほど悪かった。これに供給サイドの数字をも考慮した消費総合指数は、7月分は未発表であるが、4月の底の水準を上回る可能性は高いが、6月から再びマイナスになる可能性が高い。つまり、7月の消費は、6月よりも悪化している可能性が高い。

次に、家計調査の数字を使って、消費を財・サービスに分けて表すグラフを下記に示す。


消費 財とサービス201409

7月の耐久消費財は、大きく回復している。しかし、これは、ノイズを含んでいる。例えば、自動車等購入の実質金額は、家計調査では、前年比+21%となっている。しかし、販売サイドの数字は、前年比マイナスである。そのため、耐久消費財は、上記のグラフほど回復していない可能性が高い。2つ前に示した消費水準指数で住居等を除く数字を使ったが、除かれているのは、住居費だけではなく、自動車等購入費も除いている。

上記のグラフから、半耐久財(衣服等)、非耐久財(食料等)、サービスも、7月は減少していることがわかる。これらは、3月以前の駆け込み需要が少なかった、もしくはなかったものである。駆け込み需要からの反動減にはなりえない。食料、サービス等の消費が7月に減少した原因は、消費税増税がもたらす所得効果、言いかえると、実質所得削減効果である。消費税増税のため、手取りの実質所得が減少し、この分消費を削減しているのである。その実質消費削減効果が横に広まって増幅され、7月になっても前月比マイナスという現象が起こっているのである。日銀は、3月以前は、この実質所得削減効果を完全に無視していた。反対に、増税により財政再建が進むという安心感から消費が増えるという、非ケインズ効果に期待していた。日本では、公共投資によるGDP引き上げの効果が大きい。つまり、ケインズ効果が大きく働く国である。従って、増税を実施したならば、非ケインズ効果ではなく、ケインズ効果が大きく働き、消費の減少を招くのである。

次に鉱工業生産の大部分を占める、製造工業の動きを示すグラフを下記に示す。


製造工業生産予測201409

鉱工業も製造工業も6月が底であり、7月は少しだけ回復した。そして、8月、9月も生産回復を予測している。しかし、グラフを見てわかるとおり、実績は予測を下回るのが普通である。そして、下方修正幅は、生産の拡大局面では少ない。しかし、生産の低下、あるいは停滞局面では、下方修正幅は大きくなる。生産予測指数は、8月+1.3%、9月+3.5%となっている。一方、7月の実績は、前月予測比で-2%、前々月予測比で-3.3%であった。8月の生産予測+1.3%は下方修正され、8月の実績はマイナスになる可能性が高い。9月は7月から見ると、+1.3%+3.5%=+4.8%というかなり高い増加が予測されている。そのため、8月比ではプラスになる可能性が高い。しかし、上記のグラフで示した43ヶ月の期間に、4.8%以上下方修正された月は、7回存在する。従って、プラスになる可能性が高いということはできるが、確実にプラスとは言い切れないのである。そして、8月、9月の下方修正が小幅にならない限り、7-9月の生産水準は、4-6月の生産水準を下回ってしまうのである。

もう一つ悪い材料を示す。それは失業率である。


失業率01409

失業率は、2009年7月の5.5%をピークにして、2014年5月の3.5%にまで低下していた。それが7月に、3.8%にまで再び上昇している。

前回、詳しく述べたとおり、日本の場合、失業率が3.5%を少し下回ったあたりから、名目賃金の上昇率は明確に加速していく。5月に3.5%にまで下がり、その後さらに下がっていけば、少なくとも名目賃金は上昇幅を拡大していたであろう。しかし、失業率3.8%の場合、名目賃金の上昇率が加速する可能性は低い。このため、6月の実質賃金上昇率-3.2%がプラスに転換するのは、かなり先のことになりそうである。1997年には、ここから名目、実質賃金がともに低下し、デフレ不況に突入した。今回、同じことが起こるとは限らないが、雇用、賃金面から正のスパイラル圧力がかかるのではなく、負のスパイラル圧力がかかる可能性は存在する。従来の日銀シナリオでは、完全雇用の達成、あるいは需給ギャップの解消が、賃金上昇圧力を生み出し、2%の物価上昇と景気回復が同時に実現するというシナリオであった。そのシナリオが崩れる可能性が高まった。

なお、この文章を書いている途中に、7月の毎月勤労統計が発表された。現金給与総額が前年比+2.6%、所定内給与が+0.7%、実質賃金が-1.4%であり、予想平均を大幅に上回る強い数字であった。ただ、他の統計と矛盾点が多く、上ブレを含む数値である可能性が高い。しかし、上ブレの大きさは、現時点ではわからない。来月以降の統計の発表を見て、改めて解説したいと思う。ただ、この統計の発表により、日銀シナリオが、遅れて実現する可能性が少し高まったのは事実である。

今まで取り上げたのは、重要ではあるが、景気回復が思わしくないことを表す統計である。しかし、ある種の統計では、消費税増税後の景気後退から順調な回復を示すものもある。それは、ソフトデータと呼ばれるものである。アンケート調査を行い、景気が良いか悪いかを答えてもらうという種類の統計である。それに対して、家計調査や鉱工業生産のような、実際の実績を示す統計は、ハードデータと呼ばれる。

日本で一番権威のあるソフトデータは、日銀短観である。1973年からデータが存在し、過去の景気動向を正確に反映している重要なソフトデータである。問題は、3ヶ月に1回しか調査が行われないので、消費税増税後では、1つしかデータが存在しない。これでは、現時点で判断を下すことは不可能である。

最近は、日本でも、政府、民間が毎月調査を行うソフトデータが増えてきた。その中で最もよく引用される景気ウォッチャー調査のグラフを下記に示す。


景気ウォッチャー調査

見てわかるように、ハードデータとは異なり、回復の角度が鋭角的である。先行き判断は、直近は反落しているが、水準は十分に高い。ハードデータの中には、このように順調に回復しているものは少ない。一方、ソフトデータの方は、景気ウォッチャー調査と同等か、それより少し弱いものが多い。

景気の急速な回復を示すハードデータは見つけにくいが、ソフトデータは、急速な回復を示しているものが多い。これは、実際の景気以上に、人々の気分、景況感は、景気後退は一時的であり、現在、あるいは近い将来に、景気は完全に回復すると考えている人が多いことを示す。景気ウォッチャー調査は14年強の歴史しかないが、この間の景気動向を比較的正確に反映してきた。ソフトデータを信じるならば、景気は、現在、あるいは、近い将来に、回復することになる。その意味で、7月までの景気回復は、日銀の想定を間違いなく大きく下回ったが、8月以降に、想定より少し遅れて力強い回復過程に戻る可能性は残されているのである。

以上、見てきたように、7月までの景気は、当初の日銀の想定を大きく下回るものとなっている。しかし、ソフトデータの好調さから、景気が少し遅れて回復する可能性は存在する。日銀がとるべき態度は、消費税増税による景気後退を、リスク要因として見なすことである。従来は、消費税増税による景気の落ち込みは、一時的であり、その後は順調に回復するものと決めつけ、リスク要因にさえ入れていなかった。ここまで来たら、消費税増税による景気の落ち込みが長引くというリスク要因があることを、明確に示すべきである。そして、そのリスクを減らすために、異次元緩和以上に回復効果が誰にも見えやすい追加金融緩和を実施し、景気が回復しない可能性を可能な限り低くすべきである。国債の購入金額を、年間50兆円から100兆円以上に引き上げる必要がある。国債でメシを食う既得権益集団は大反対するであろうが、そうした反対を押し切って実現させなければならない。

景気がこのまま回復しなければ、来年10月の消費税増税の実施は困難になる。すでに、増税延期の声は上がっている。景気回復が思わしくない場合には、増税延期の声はますます強まることは間違いない。その場合、安倍総理は、年内に来年10月消費税増税の決断を下すことができなくなる可能性が高い。異次元緩和の第2弾を実施した場合、その本物の効果が発生するまで時間がかかる。しかし、円安株高の進行により、ソフトデータはさらに大幅に上昇し、すなわち景況感は非常に良くなり、その結果、増税延期の声は減少し、安倍総理は来年10月の消費税増税の決断を下すことができるであろう。そして、来年10月までには、国内投資家の資金の海外流出額が拡大し始め、金融収支の黒字拡大と、それとほとんど定義の等しい経常収支の黒字拡大が発生する。経常収支の黒字が拡大すると、純輸出は間違いなく増加し、景気回復は確実なものとなる。可能性は低いが、景気が過熱して、インフレとバブルが進行すれば、所得、あるいは資産が拡大している人、ないしは法人が必ず存在するので、その所得や資産に対する税金をドカンと引き上げればよい。消費税増税の何倍もの税収を獲得し、一気に財政再建を進めるチャンス到来となる。正しい政策は、政府と日銀が協力して成し遂げなければならない。政府が、インフレやバブルが発生した場合には、消費税増税にさらにプラスして増税を実施して、インフレとバブルを封じ込めることを宣言すべきである。その上で、日銀が異次元緩和の第2弾を実施することが、必要不可欠なのである。



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日銀ウォッチャー報告(2014年8月号)

マネタリーベース平残の推移201408(表)

2014年7月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で9.5兆円増加し、236.3兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201408(グラフ)

上記のグラフに示したとおり、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になった。その後は、ほぼ、高水準の伸び率が続いている。昨年12月に、1ヶ月間だけ前月比増加率がマイナスになったことがある。今年7月の伸び率は前月比+4.2%であり、高めの伸び率であった。

7月の市中資金は、18兆円の不足であった。そこに、国債の購入6.5兆円、短期国債の購入12.5兆円、共通担保オペ1.4兆円の回収などを中心とした金融調節により、合計17.8兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、0.3兆円の資金不足になった。この資金不足のため、当座預金残高は、6月末の152.3兆円から、7月末の152.1兆円へと、0.3兆円減少した。この当座預金残高の減少を反映して、7月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比9.5兆円増加の236.3兆円になった。

当座預金残高が減少し、季節調整済のマネタリーベース平残が増加した理由は、7月のマネタリーベースは大きく減少しやすいという季節要因があるためである。ここまではいつもと同じ説明である。今回は、もう少し細かでテクニカルな内容の説明を付け加える。

下記の表に示したとおり、7月のマネタリーベース末残は、0.2兆円の減少であった。その中で、季節調整前のマネタリーベース平残がどう動いたかというと、上記の表に示したとおり、前月比9.9兆円もの大幅な増加となっている。季調前平残、季調済平残の増加額は近い金額であるが、末残の増加額が他の2つと全然異なっている。これは、5月、6月、7月に発生する特殊な季節要因である。この3ヶ月間で、マネタリーベース末残は18兆円増加しているが、そのうち11兆円は、国債の大量償還があった6月20日の1日で増えており、その前後を合わせた6月10日-6月27日の増加額だけで20兆円も増えている。マネタリーベースを日次で見ると、一直線で増加したのではなく、主として6月の中旬、下旬が大幅増加であり、それを除けば、ほとんど増えていない。従って、季調前平残をとると、」6月も7月もあまり変わらない増加額となり、季調済平残でも大きくは変わらない。大きく異なるのは、末残だけである。下記の表に示したとおり、末残は6月が16.8兆円の増加、7月は0.2兆円の減少になっている。

マネタリーベース末残の減少は、今年1月以来である。12月末に年越しのために紙幣需要が急増し、1月にはその紙幣が回収されるため、1月の末残も前月比1兆円の減少となっている。この前月の昨年12月は、季節調整済の平残が前月比マイナスとなった。この昨年12月から、日銀はあまり無理な資金供給をしなくなった。

しかし、昨年の7月は異なっていた。近年においては、年間の資金不足が最大になる月は、7月であることが多い。昨年の場合、7月の資金不足の金額は、18.5兆円の不足であった。そこに資金供給を18.9兆円実施し、下記の表に示したとおり、当座預金残高を0.5兆円、マネタリーベース末残を0.2兆円拡大させた。プラスの残高を維持するために、強引なくらい、大量の資金供給を実施した。市中資金は、季節要因を持ちながら、月ごとに大きく変動するものである。それに対して、昨年7月までは、マネタリーベースの増加額が、どの方向から見てもマイナスにはならないような資金供給を行い、日銀の金融緩和の強化に対する強い意志を市場に見せつけたのであった。昨年12月以降は、見方によっては、一時的なマイナスは許容するという、自然体に近い資金供給をする姿勢へと変化しているのである。

日銀BSとMB(実績と予想)201406

上記の表のように、今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は、270兆円である。残り5ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、月間5.4兆円の純増が必要である。

8月の市中資金は、15.7兆円の大幅な不足となる。8月の資金供給は、国債の購入が、7月並の6.5兆円と想定する。短期国債の購入は、7月比1兆円減の11.5兆円と想定する。共通担保オペの回収額は、0.5兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しは、8月中には実施されない。この結果、8月の資金供給は、合計で17.5兆円となる。8月末のマネタリーベース末残は、前月比1.8兆円の増加と予想する。季節調整済のマネタリーベース平残の増加額は、前月比で1.8兆円を上回る金額になると予想する。

消費税増税から4ヶ月強経過し、増税後の経済統計の発表が続いている。先月号と同様に、今年4月以降の統計から、重要と思われる統計をいくつか取り上げ、その意味を説明することにする。

まず、コア消費者物価の前年比増加率を表すグラフを示す。


コアCPI

6月全国のコア消費者物価は前年比で3.3%の上昇である。5月より0.1ポイント上昇幅が縮まった。うち消費税増税の影響は2.0%と考えられているので、消費税を除くベースで考えてみても、前年比1.3%の上昇となる。一方、7月東京のコア消費者物価は前年比で2.8%の上昇であり、6月と上昇率は変わっていない。消費税率上昇効果は5月までであり、それ以降は、横ばいか少し下落である。今後、円安効果が薄れていき、前年比上昇率が縮小していくことは、多数派の見解だと思われる。黒田総裁も同じ意見を持ちながらも、7月15日の記者会見で、「物価の見通しは・・・1%台を割るような可能性はない」と断言している。私は、黒田総裁のロジックを理解できるのであるが、それは楽観的シナリオが現実化した場合である。景気が悪くなった場合、物価上昇率も1%を下回ることは起こりえると思う。従って、物価の見通しが1%を下回ることは、リスクシナリオの一つに入れておくべきだと考える。

次に、鉱工業生産の推移を表すグラフを下記に示す。


鉱工業生産

景気動向に一番敏感な指数を1つだけ上げるとしたならば、日本では鉱工業生産指数になるであろう。6月の生産は-3.3%、出荷は-1.9%と下落幅が非常に大きかった。にもかかわらず、在庫は+1.9%、在庫率は+3.5%増加した。これは、需要の落ち込みを予想して、大幅な減産に踏み切ったにもかかわらず、予想以上に需要が落ち込み、意図せざる在庫が大きく積み上がってしまったのである。消費税増税によって一時的には大きく落ち込んだ消費だけではなく、設備投資や輸出も予想以上に悪かったからであろう。製造工業生産予測指数は7月が+2.5%、8月が+1.1%とプラスになっているが、通常レベルの下方修正は必死であり、その場合、7月、8月に生産が本格的に回復する可能性は、非常に低いと考えるべきであろう。

次に、設備投資の先行指標として知られる、「機械受注統計、船舶・電力を除く民需」を表すグラフを下記に示す。


機械受注統計

この統計は、わずか280社からのアンケート調査の結果に過ぎない。しかし、四半期で見ると、GDPの民間企業設備投資に先行して動くので、設備投資の先行きを予想するに当たっては、大変重要な統計である。ところがこの統計は、同時に大変大きな欠陥を含んだ統計でもある。この統計は毎月発表されるのであるが、月次で見た場合、非常に不規則な変動が多いからだ。今年3月は+19.1%であり、これは明らかに上ブレを含んだ数字であった。ところが、5月は-19.5%となり、今度は大きな下ブレを含んだ数字となった。しかし、5月は下ブレの数字を含むといっても、下を向いていることは間違いないと思う。先月号で、日銀短観の今年の大企業全産業の設備投資計画が、今年6月時点で前年比+7.4%と大きな数字となったことは、大変、強気の期待が持てると書いた。一方、今後、この数字の下方修正は必死であることも指摘した。5月のあまりにも悪すぎる機械受注統計は、短観での計画を立てる前の数字ではあるとはいえ、今後の下方修正幅が大きくなる可能性があることを示す。そして、短観では製造業の設備投資計画が非常に強かったのであるが、先に示した6月の鉱工業生産、在庫などの指数の大幅悪化は、製造業の設備投資計画の大幅下方修正を引き起こす可能性をさらに高めるものと考える。

生産、投資の次は、消費である。6月までの消費水準指数、5月までの消費総合指数を下記に示す。

個人消費

5月の消費総合指数はプラスになった、6月の消費水準指数もプラスであるが、5月とは異なり、かなりバランスのとれた回復であったため、6月の消費総合指数もプラスであろう。ただ同時に、5月とは異なり、消費水準指数は下ブレしていない可能性が高い。そのため、6月の消費総合指数は、5月を大きく上回る回復は考えにくい。良くて5月を少し上回り、悪ければ5月をかなり下回る回復になる可能性がある(後日追記 消費総合指数は、5月+1.5%、6月+0.7%と発表)。5月、6月と反動減から少しずつ回復してはいるが、それほど順調な回復ではないと思われる。

次に7月の東大日次物価指数プロジェクト・売上高指数(前年比)のグラフを下記に示す。


東大売上高

物価の対象が、スーパーで売られている生鮮食品を除く食品、日用品であり、消費者物価の17%しかカバーしていない。その上、売上高は、掲載され始めてからまだ日は浅く、メインの目的は消費者物価の早期把握であり、売上高の把握は副産物である。物価とは異なって、分析もなされておらず、データ間に理由のわからない矛盾があったり、東大サイドにミスがあることまで発見できたりする。そうした不完全なデータであることを認識した上で、速報性の高さを評価して引用する。

上記の数字は、日次の1ヶ月分の売上高の平均を集計したデータである。メインの目標である、日次から求められる物価指数の月次平均を単純に引き算し、実質売上高指数を算出して、合わせて掲載した。直近売上高は、6月-1.8%、7月-2.0%と、7月の方が悪化している。実は、東大の売上高指数は月次の売上高も算出しているが、6月-1.2%、7月-2.6%である。日次の1ヶ月平均と月全体の売上高は、近い数字にはなっても完全に一致しないのは当然である。今回は、日次の物価を使って実質売上高を算出ているので、日次の月平均-1.8%、-2.0%の方を使う。それでも6月よりは悪い数字になっている。スーパーの生鮮食品を除く食品、日用品だけの売上高であるが、生活必需品の売上高でもあるので、その売上高の減少率の拡大は、庶民のフトコロ事情が悪化していることの一つの根拠になりえる。

その他、7月には大手百貨店の売上高が、6月より大きく回復しており、特に7月後半は良かったようである。ただ、百貨店売上高は、昨年7月の水準が低かったので、回復方向にあるとしても、強いとまでは言えないと思う。東大売上高指数の悪化も総合して考えると、7月の個人消費の水準は、昨年よりもまだ少し低めである可能性が高い。

その他、消費税増税の影響を最も大きく受ける商品は、住宅と自動車である。6月の新設住宅着工戸数は前年比-9.5%であったが、前月比+1.3%であった。多少は回復傾向を見せているが、水準は微妙であり、高くはないが、低いとも言い切れない。新車販売台数は、前年比で6月+0.4%、7月-2.5%であった。昨年7月の水準の高さを考えると、7月も比較的高い水準であった。消費税増税による悪影響が、個人消費の中で一番大きいものは、耐久消費財なのであるが、自動車だけは消費税増税による悪影響から脱出し、ほぼ前年並みまで回復している。

自動車のように、消費税増税による実質所得削減効果を乗り越えて回復しつつあるものは、少しは存在する。しかし、その他の消費の多くは、反動減からは明らかに回復しつつあるが、実質所得削減効果をこえて実質が前年比プラスにまで戻しているものはほとんど存在しない。その他、鉱工業生産指数、機械受注統計などを見る限り、消費以外にも、設備投資、輸出が低位のまま伸び悩んでいることが見て取れる。反動減の完全解消により、景気はある程度までは回復するにしても、消費税増税分平均2%の所得削減効果を克服するほどの強い回復力は、現時点では見えていない。この効果は、数年という長期間続くことはありえないが、単なる反動減からの回復にかかる3ヶ月や半年という短期で終わる可能性も低いと思われる。日本では、非ケインズ効果(財政赤字の縮小が個人消費を増やすという効果)は発生しえないのである。

今回と1997年の消費税増税との最大の違いは、政策面である。金融政策は、当時よりもずっと大規模に緩和されている。財政政策の効果は、1年は持たないと思うが、数ヶ月は持つであろう。現在、市場において、8月の金融緩和の実施を予想する声は、ほとんど存在しない。こうした環境下で、異次元緩和第二段が実施された場合、市場に織り込まれていないため、効果が大きいのである。黒田総裁が、本当に財政再建を図りたいのであれば、ここで予想外の大規模追加緩和に踏み切るべきである。追加金融緩和が、金融収支と経常収支の黒字拡大をもたらすまでには時間がかかり、年内には無理である。しかし、予想外の金融緩和は、即効性のある効果を伴うのである。円安株高が再び進行し、市場心理が急回復する。この市場心理の急回復だけで、来年は景気がさらに良くなるであろうという期待が経済全体に広まる。安倍総理は、今年の年末に消費税10%までの引き上げを決断できるはずだ。市場心理が低迷し、同時に景気の水準が、昨年の水準を下回る状況が続けば、安倍総理は、消費税引き上げの延期を決断せざるをえなくなる可能性がある。元財務官僚として、黒田氏が本気で財政再建実現を援護射撃したいのであれば、早めの大規模追加金融緩和を決断することが、一番正しい道であると考える。



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日銀ウォッチャー報告(2014年7月号)

マネタリーベース平残の推移201406(グラフ)

2014年6月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で6.3兆円増加し、226.8兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201405(表)

上記のグラフに示したとおり、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になり、昨年11月までは高い増加率が続いていた。昨年12月に、前月比増加率はマイナスとなったが、今年1月以降は再び高水準の増加率が続いている。

6月の市中資金は、2.1兆円の不足であった。そこに、国債の購入6.9兆円、短期国債の購入6.5兆円、貸出支援基金による貸し出し5兆円などを中心とした金融調節により、合計18.2兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、16.1兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、5月末の136.3兆円から、6月末の152.3兆円へと、16.1兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、6月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比6.3兆円増加の226.8兆円になった。当座預金残高と季節調整済のマネタリーベース平残の増加に差がある理由は、6月のマネタリーベースは増加しやすいという季節要因があるためである。

2月18日の金融政策決定会合で決定された、新方式による貸出支援基金による貸し出しが6月から実施されたので、その説明をすることにする。貸出支援基金による貸し出し金額を表すグラフを下記に示す。


貸出支援基金201406

成長基盤強化支援資金供給による貸し出しが始まったのは、2010年9月、貸出増加支援資金供給による貸し出しが始まったのは2013年6月からである。旧基準で行われた3月には、成長基盤強化支援資金供給の貸し出し増加額は、マイナス1197億円(ドル特則14億ドルを除く)であり、新規貸し出しよりも償還等の金額の方が多かった。貸出増加支援資金供給の貸し出し増加額は、3兆4653億円と、かなり規模の大きな貸し出しが実施された。一方、6月分は、成長基盤強化支援資金供給の貸し出し増加額は、2066億円(ドル特則19億ドルを除く)であり、償還等よりも、新規貸し出し金額の方が多くなった。貸出増加支援資金供給の貸し出し増加額は、4兆7976億円と貸し出し金額がいっそう増加した。6月末のドル特則をも含む貸出支援基金全体の残高は、5月末比で5兆1976億円増加の17兆8639億円となった。

当初の貸し出し枠が今年の年末に18兆円であったので、6月末時点で、その金額に近い貸し出し額がすでに達成されたことになる。年内に9月と12月の2回の新規貸し出しが実施される予定なので、貸出支援基金の年末残高は18兆円を大幅にこえることは確実になった。黒田総裁は、貸出増加支援資金供給だけで、最終的には30兆円の残高目標を公言していたが、場合によっては、年内にも達成する可能性が出てきた。この場合、2014年末のマネタリーベース残高目標の270兆円を上方修正するのか、短期国債の残高などを減らして270兆円の目標を維持するのかは要注目である。

増加額が、昨年9月と12月に1.1兆円であった貸出支援基金が、条件を変えずに、貸し出し枠を拡大するだけで、今年6月の増加額が5.2兆円にまで拡大している。これは、金融政策のアナウンスメント効果である。黒田総裁が、2月18日の金融政策決定会合後の記者会見で、貸出支援基金の増加額を増やすとかなり大げさに説明したからである。その結果、今まで、貸出支援基金をあまり使用する気がなかったいくつかの銀行が、従来より大規模に利用するように変化した。これは、中央銀行の小さな政策変更が、金融機関の行動を大きく変化させ、結果として大きな効果が発生することがありうるという一つの具体的な例である。

私は「日銀ウォッチャー報告(2014年3月号)」(*1)で、貸出支援基金の枠拡大という政策変更自体は支持した。しかし、発表の仕方が、正確なものではなく、実体を大きく見せかけ、誤解を生むような表現であることを激しく批判した。アナウンスメント効果の発生を期待していたのであろうが、市場にウソを見抜かれ、日銀に対する信認を失う恐れがあるので、望ましくないという意味の文章を書いた。結果は、アナウンスメント効果の影響が予想以上に大きく、大成功であった。今までのところ、日銀が信認を失うような事態は発生していない。黒田総裁の2月18日の説明は、今でも不適切だと感じているが、結果オーライと言うしかない。


日銀BSとMB(実績と予想)201406

上記の表のように、今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は、270兆円である。残り6ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、月間4.4兆円の純増が必要である。

7月の市中資金は、16.6兆円の大幅な不足となる。7月の資金供給は、国債の購入が、6月を少し上回る7兆円と想定する。短期国債の購入は、従来の規模の上限である11.5兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しは、7月には実施されない。この結果、7月の資金供給は、合計で18.5兆円となる。7月末のマネタリーベース末残は、前月比1.9兆円の増加と予想する。季節調整済のマネタリーベース平残の増加金額は、前月比で1.9兆円を大きく上回る金額になると予想する。

消費税増税から3ヶ月強経過し、増税後の4月以降の経済統計が続々と発表されている。先月号と同様に、今年4月以降の統計から、重要と思われる統計を一部取り上げ、その意味を説明することにする。

最初に生鮮食品を除く消費者物価指数(コア)の前年比上昇率を表すグラフを下記に示す。


コアCPI

5月全国のコア消費者物価は前年比で3.4%の上昇である。うち消費税増税の影響は2.0%と考えられているので、消費税を除くベースで考えてみても、前年比1.4%の上昇となる。一方、6月東京のコア消費者物価は前年比で2.8%の上昇であり、5月と上昇率は変わっていない。黒田総裁も、6月23日の講演で、「物価上昇率は、夏場に向けて1%近辺まで縮小」という意味の発言を行い、従来とは少し異なった考え方を示した。

次に、過去1ヶ月間にいくつか発表された重要指標のうち、弱めの数字が出たものを表示する。先月に引き続いて、家計調査の消費水準指数と消費総合指数を表すグラフを下記に示す。


個人消費

消費水準指数は、家計調査の消費支出の数字から、家族構成、年齢変化などの要因を調整し、消費の実体をより正確に表すように修正を加えた数字である。それでもブレや右肩下がりの傾向は除去し切れないので、家計調査に供給サイドの統計を加えて再計算した数字が、消費総合指数である。消費総合指数を見る限り、4月の消費の落ち込みは1997年4月を上回る大きなものであった。

消費水準指数は5月もさらに低下している。ただ5月の低下は、住居費などの変動の多い項目に偏っている。これは、先に記した消費水準指数のブレである可能性がある。5月の消費総合指数は、消費水準指数とは異なり、小幅なマイナスか、小幅なプラスになる可能性が高い。しかし、同時に、4月比で大幅なプラスになる可能性も低い。消費全体では、5月のリバウンドは、全くないか、あったとしても小さなものになる可能性が高い(7月7日、5月消費総合指数発表、前月比+1.3%)

個人消費以外にも心配な統計がいくつかある。今回は住宅統計を取り上げる。新設住宅着工戸数の長期のグラフを下記に示す。


住宅着工

1997年の消費税増税の時は、1996年10月まで大きな駆け込み需要があり、その後、長期の低迷が続いていた。今回は、2013年12月まで駆け込み需要があったが、その後、今年の5月現在でも、新設住宅着工戸数は減少し続けている。今回は、水準がリーマンショック後の2009年よりもかなり高い。加えて、人口減少数が拡大しつつある。人口減という構造要因を考えた場合、ここから大きくリバウンドする可能性は低いと思う。水準調整のため、もうしばらく下落の期間が続く可能性が高い。住宅着工の増加とそれに伴う消費財購入という現象が発生するのは、今年の夏ではなく、もう少し先の将来のことになる可能性が高いと考える。

しかし、悪い統計ばかりではない。良い統計も出ている。新車販売台数の推移を表すグラフを下記に示す。


新車販売

リーマンショック後にエコカー減税などの政策が繰り返し実施されたため、変動率が大きくなっている。そうした中で、今年1月に、1月としては過去最大の新車販売台数を記録し、非常に大きな駆け込み需要が発生した。その結果、4月以降の反動減は大きくなると予想された。ところが、実際には、反動減は小さく、6月には前年比でプラスの水準にまで戻した。消費税増税による反動減が大きいものは、高価な耐久財である。1番目が住宅、2番目が自動車である。1番目の住宅は反動減が続いているが、2番目の自動車は、早くも反動減を脱した。

そしてもう一つ、先行き強気の予想を抱かせる統計が出た。日銀短観の大企業の設備投資の推移を表すグラフを下記に示す。


設備投資

青が実績値であり、赤が6月時点の予想値である。企業は、期初に設備投資計画を立てる。しかし、最初は、確実に実施する非常に控えめな数字を出す。3月短観の2014年度の設備投資計画は前年比+0.1%であった。それが、6月には上積みされるのが普通である。今年は+7.4%まで上積みされた。各年度の6月時点での計画値が上記のグラフの赤線である。この赤線の2014年の値は、リーマンショック以降で最も高い計画数字になっている。現時点では、企業は設備投資の増強を考えているのである。

しかし、例年は、期末にかけて計画を下方修正することが多い。その結果、最終的に実施された設備投資の増加額が、青線なのである。今後、+7.4%という数字は、ほぼ間違いなく下方修正される。下方修正の幅は景気動向次第であり、予想は難しい。ただ、途中経過の数字としては、リーマンショック後で最高の数字なのである。空洞化や人口減少のため、もう国内投資はあまり増えないのではないかと心配されてきた。そうした観点からすると、6月時点の+7.4%という数字は、十分強い数字である。景気の好循環を引き起こす可能性のある数字と見なすことができる。

総合すると、過去1ヶ月間に発表された景気指標は、まだら模様である。強弱のいずれにも解釈可能な数字となっているが、私は弱めの統計数字の方が多いと感じている。先月は弱めの数字を指摘した。先月の場合、反動減の数字がほとんどであり、減少の数字が非常に多かったのは当然である。5月以降は、反動減からの回復数字が続々と発表されている。そうした統計の中で、減少を続けている弱い統計、反動減が終了した強い統計も出てきたので、そうした統計を上記に示した。その他の統計は、こうした好調な統計と、不調な統計の間に位置している。私は、現時点では、少し前の順調回復という多数派の意見よりも、少し弱めの統計数字が多く出ていると考えている。6月分の統計で、すでに発表されたものの中で、自動車の販売は良かったが、百貨店売上高は不振であった。5月分の発表済みの統計を見る限り、自動車のように順調に回復している統計は少なく、百貨店売上高のように、順調とはいえない回復を示すものの方が、数としてはかなり多いように感じている。

消費税増税後の低迷から、景気が何時かは完全に回復することは間違いない。問題はその時期である。黒田総裁の6月23日の発言は、「円安の影響で上昇していた消費者物価の上昇率は、しばらく低下方向に向かう。その後、景気回復の進展とともに、人手不足が続けば、物価上昇率は再び上昇に向かい、最終的には2%の目標に到達する。」といった内容であった。このロジックは、私と黒田総裁とは、全く同じである。物価と景気の動向は、ある程度は連動するのである。景気回復が順調に進み、人手不足が深刻化すると、物価もそれに伴って必ず上昇していく。ただ、2%上昇の達成時期が、黒田総裁が考えている2015年度であるかどうかが、私には予想ができない。黒田総裁も、2015年度中に2%が実現するという確固とした根拠を述べてはいない。消費税増税後の景気回復、物価上昇の時期が早いか遅いかは、誰も正確に予想ができないのである。それだけ、経済現象は複雑であり、正しい将来の姿は、「神のみぞ知る」なのである。

私の考え方は、景気が回復しようと、回復しなかろうと、物価上昇率が2%になろうと、2%にならなかろうと、大規模な追加金融緩和が必要である、というものである。大規模な追加金融緩和で景気が過熱し、インフレとバブルが発生したならば、ドカンと増税を行い、景気を冷やして物価を引き下げるのと同時に、急激な財政再建を目指すべき、というものである。ほとんど毎回のように書いている同じ結論である。しかし、こうした考え方は、世間に全く広まってはいない。毎回読んでくださっている方には申し訳ない気がするのであるが、こうした考え方が世間に広まるまで、今後も繰り返し書き続ける予定である。


リンク先記事
日銀ウォッチャー報告(2014年3月号)(*1)



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日銀ウォッチャー報告(2014年6月号)

マネタリーベース平残の推移201405(グラフ)

2014年5月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で4.6兆円増加し、220.5兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201405(表)

上記のグラフに示したとおり、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になり、昨年11月までは高い増加率が続いていた。昨年12月に、前月比増加率はマイナスとなったが、1月-2月と再び高い増加率に戻った。3月-5月の前月比増加率は、多少低くなった。

5月の市中資金は、14.6兆円の不足であった。そこに、国債の購入6.6兆円、短期国債の購入11.5兆円、共通担保オペの回収1.3兆円などを中心とした金融調節により、合計17兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、2.5兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、4月末の133.8兆円から、5月末の136.3兆円へと、2.5兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、5月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比4.6兆円増加の220.5兆円になった。当座預金残高と季節調整済のマネタリーベース平残の増加に差がある理由は、5月のマネタリーベースは減少しやすいという季節要因があるためである。


日銀BSとMB(実績と予想)201405

上記の表のように、今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は270兆円である。残り7ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、月間6.2兆円の純増が必要である。

6月の資金需給を予想する前に、2月18日の金融政策決定会合で決定された、新方式による貸出支援基金による貸し出しが6月から実施されるので、その説明をすることにする。貸出支援基金による過去の貸し出しを表すグラフを下記に示す。

貸出支援基金

成長基盤強化支援資金供給による貸し出しが始まったのは、2010年9月、貸出増加支援資金供給による貸し出しが始まったのは2013年6月からである。今年3月には、成長基盤強化支援資金供給による新規貸し出しが、1994億円実施(ドル特則14億ドルを除く)されたのに対して、償還等の方が多かったので、成長基盤強化支援資金供給のネットの貸し出しは1197億円減少となった。6月分は新規貸し出し分が4500億円行われることがすでに決定されている。償還等の金額はわからないが、2月18日の貸し出し枠の拡大効果が、少しは現れている。

貸出増加支援資金供給の新しいスキームも6月からの開始である。しかし、3月の古いスキームでの貸し出しが、黒田総裁によるアナウンスメント効果により3.5兆円と大幅に増加した。そうした事情もあるので、6月に貸出増加支援資金供給がさらに大きく増えることはあまり考えられない。上記の2つを合計した6月の貸出支援基金によるネットの貸し出しは、3月を少し上回る4兆円と想定する。

6月の市中資金は、1.9兆円の不足となる。6月の資金供給については、国債の購入が、5月と同程度の6.5兆円と想定する。短期国債の購入は、5月に大きく増えたのであるが、6月は巡航速度に近い8兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しは、先に示したとおり4兆円と想定する。共通担保オペの減少金額は2兆円になると想定する。共通担保オペから貸出支援基金に振り替えられる金額が増加すると考えるからだ。この結果、6月の資金供給は、合計で16.5兆円となる。6月末のマネタリーベース末残は、前月比14.6兆円の増加と予想する。季節調整済のマネタリーベース平残の増加金額は、前月比で14.6兆円を大きく下回り、10兆円を少し下回る程度の金額になると予想する。

黒田総裁、岩田副総裁を中心とする日銀の現執行部は、消費税増税の景気に対する悪影響はない、もしくは少ないということで意見が一致しているようだ。普通なら、消費税増税は下方リスク要因のはずである。しかし、下方リスクとして認めてしまうと、下方リスク除去のための追加金融緩和を実施しなければ、つじつまが合わなくなる。そのため、リスクは常に上下双方にあるもので、下方にだけリスクがあるとは認めるわけにはいかない。ただ、黒田総裁、岩田副総裁は、本当に心から消費税増税が下方リスクではないと考えているようである。後で示すが、この点については、政府と意見が完全に異なっている。

消費税増税から2ヶ月強経過し、消費税増税後の4月以降の経済統計が続々と発表されている。こうした今年4月以降の統計から、特に重要と思われる統計を一部取り上げ、その意味を説明することにする。

最初に生鮮食品を除く消費者物価指数(コア)の前年比上昇率を表すグラフを下記に示す。


コアCPI

4月のコア全国消費者物価は前年比で3.2%の上昇である。うち消費税増税の影響は1.7%と考えられているので、消費税を除くベースで考えてみても、前年比1.5%の上昇となる。黒田総裁は、しばらくは1%半ばの上昇が続き、労働需給の逼迫が続く中で、消費税増税の悪影響が薄れてくる今年度後半から、2%に向けて消費者物価が上昇に向かうとの予想を述べている。この4月の全国コア消費者物価上昇率を見ると、その可能性が十分高いものであるかのようにも見える。

しかし、そうした日銀のシナリオが実現するかどうか危ぶまれるような統計もいくつか発表されている。その第一としてエネルギー、食料品を除く消費者物価指数(コアコア)の前年比上昇率を表すグラフを下記に示す。


コアコアCPI

コアコア消費者物価の4月の全国は、+2.3%と比較的堅調であるが、5月東京を見ると、+1.9%であり、4月の+2.0%を下回っている。4月と5月の消費者物価(総合)前年比増加率の寄与度差でみると、エネルギー(+0.16%)、食品(+0.16%)といった上昇要因があり、これとも重なるが、消費税増税分(+0.3%)があったことも間違いない。これが5月の消費者物価(総合)を前年比3.1%、4月比で0.2%引き上げた要因である。一方、5月の消費者物価(コアコア)の方を、4月比で0.1%引き下げる結果となった。この場合、消費税増税の影響が一巡し、円安進行が止まった場合、これ以上の価格上昇のドライバーが見あたらなくなる。黒田総裁の予想は、人手不足による賃金の増加である。昔からの私の主張と同じであるが(*1)、これは、消費税増税の悪影響が小さく、今後も景気回復が順調に進んだ場合にのみ現実化する。

直近の統計では、景気の変調を訴える統計がくつか散見される。その中で一番目立ったのは、家計調査における消費の減少である。家計調査の中の消費水準指数を表すグラフを下記に示す。


消費水準指数

消費水準指数は家計消費の実質季節調整済の変化を表す。通常の季節調整の手法だと、今年の3月-4月は歪む可能性がある。しかし、その条件は1997年3-4月も同様である。従って、上記のグラフから見てわかるとおり、2014年の消費税増税に伴う駆け込み需要とその反動減は、1997年よりも大きいことを理解することができる。

消費税増税の効果が反動減だけなら、少し時間がたてば、マイナスの影響はゼロに近づくはずである。しかし、より長引きそうな効果は、消費税増税による実質所得減少の効果の方である。

同じく家計調査から、2000年1月以降の、勤労者世帯の実収入と消費の変化を表すグラフを下記に示す。


勤労者世帯収入消費

家計調査は個人消費に関する重要な基礎統計であるが、ブレが大きくて使いづらいという欠点がある。2006年6月にも実収入が大きく落ち込み、2006年7月には実質収入が10.3ポイントも跳ね上がることが実際に発生した。この時、何の事件も発生していない。その2006年6月が2000年以降の家計の実収入の最低記録であったが、2014年4月にその最低記録を下回った。2014年4月の実収入は前月比-3.7%である。消費の大幅減少の多くは反動減であり、いずれ回復する。しかし、実収入の減少を原因とする消費の減少は、そう簡単に回復するとは言えない。

家計調査による実収入の低下だけを見た場合、単なるブレの可能性を否定できない。そのため、家計調査よりはブレが小さい勤労者世帯の実収入を、事業所調査の方から見ることにする。事業所調査とは、厚生労働省が発表している毎月勤労統計のことである。毎月勤労統計から、名目賃金、実質賃金の両方を表すグラフを下記に示す。


名目実質賃金

毎月勤労統計においても、実質賃金の大幅な下落が間違いなく発生している。2014年4月の実質賃金は-3.1%と大幅なマイナスになっている。この大幅下落は、1997年4月の変動率+0.1%を大きく下回っている。ただし、4月はベアを一部しか反映していない可能性が高く、今後、ベアに加えてボーナスの上昇により、実質賃金が夏にかけて低下幅が縮まる可能性は非常に高い。しかし、-3.1%という実質賃金がプラスになるのは非常に困難であると思われる。その場合、家計調査で示される実質消費が前年比プラスの伸びを示すことも非常に困難になる。なお、雇用者数は増加しているので、実質賃金がマイナスでも雇用者報酬がプラスになる可能性はある。雇用者数の伸びも景気の動向次第である。2014年4月時点の常用雇用者数の増加率は、+1.3%である。おおざっぱに、実質賃金(4月は-3.1%)+雇用者数(4月は+1.3%)=実質雇用者報酬(4月は-1.8%)と考えることができる。この場合でもマイナス幅縮小の可能性は高い。しかし、実質雇用者報酬のプラス転化も容易なことではない。消費税増税による実質所得削減効果は、単なる反動減よりも、長い期間、続く可能性が高い。

個人消費以外にも少し心配な統計がいくつかある。その一つが鉱工業生産指数である。1997年と2014年の増税前後の鉱工業生産を表すグラフを下記に示す。


鉱工業生産指数

駆け込み需要に基づく生産は、1月の数字で代表されるように今回の方が大きい。4月以降の製造業生産予測指数は、実際の鉱工業生産の上限とも言える数字であるが、5月までの伸びは鈍い。1997年5月は輸出中心に回復したが、今回は輸出増加の気配も今のところ見られない。

4月以降の経済動向を表す統計は、多数発表されており、その中には強いもの、弱いものが入り交じっている。ただ、重要統計では、上記に示したように、弱めのものの方が多かったと感じている。

最後に、想像を絶するほど強かった統計が一つだけあった。その統計を下記に示す。


建設工事受注動態統計

大手50社による建設工事受注動態統計の政府機関発注分である。4月は前年比+316.4%と、すさまじいまでの伸び率を示した。

ただ、この統計を見る際には、いろいろと注意しなければならないことがある。まず、2014年度の公共投資の総額は、政府予想でも、名目+0.9%、実質-2.3%と高くない。民間の研究機関による予想数字は、名目実質ともにマイナスの予想が多い。その根拠は、補正予算の金額である。昨年、年初に決定された2012年度補正予算は10.2兆円、今年、年初に決定された2013年度補正予算は5.5兆円である。この補正予算の規模縮小を考えると、2014年度の公共投資は、名目で見ても前年比プラスは難しいと考えざるをえない。次に、季節調整の問題である。4月の季節調整済の数字は前年比+316.4%であるが、季節調整前の増加率は、-6.3%である。これほどまで大きな差が出る理由は、公共工事の発注は、例年なら3月に発注のピークを迎え、4月は端境月であり、公共工事の発注は3月に比べて4分の1くらいまで減少するのが普通であるからだ。しかし、今年は、安倍内閣が補正予算を気合いで前倒し発注したため、季節調整をかけた4月の数字を見ると、4倍以上に増えるように見えるのである。そして、公共工事の発注と実施には大きくズレがあるのが普通である。4月に発注を大きく前倒したとしても、人手不足などから、実際の建設工事が進むのはかなり先になることは間違いない。さらに、最近は、大手50社だけではなく、それ以外の建設会社も含めた建設工事受注動態統計も同時に発表されている。ただ、こちらの方は、推計値ベースである上、季節調整値がないという欠点もある。

こうしたさまざまな事情があるため、公共工事の受注の急増は、実際には大きな効果を上げることはできない。それでも前月比+316.4%という数字は、過去に例のない大きな数字である。この数字の重要な意味は、実際の効果よりも、安倍内閣が消費税増税による1997年型の不況の再発を絶対に繰り返さないという非常に強い意志を持っていることを確認できることである。

しかし、建設工事受注動態統計の数字の報道は、非常に少なかった。確かに、大手50社による建設工事受注動態統計は、重要性が高い唯一の統計ではない。しかし、大手50社の公共工事の受注金額が季節調整済前月比で+316.4%であり、政府がウソの数字を発表したわけでもない。上記のような解説付きで報道されるべき数字であったと思う。しかし、報道がほとんど無視したために、安倍内閣が消費税増税後の不況を絶対に防ぐために、補正予算の数字を大急ぎで具体化し、受注にまでこぎ着けた苦労の意味が大きく減少してしまった。+316.4%という数字に大きな意味はないのであるが、最大の効果は、アナウンスメント効果である。しかし、報道がほとんど取り上げなかったために、アナウンスメント効果は大きく減少してしまった。仮にこの数字が大きく報道されていたならば、安倍内閣の不況を絶対に起こさせないという姿勢がアピールされていたであろう。市場関係者からは、黒田日銀総裁による金融緩和よりも、安倍総理による公共投資に期待をする人が増えたかもしれない。黒田プットでなく安倍プットといった言葉が出てきたかもしれない。

以上のように、日銀サイドが、「消費税増税くらいで不況など起こるはずはない」と考えているのに対して、政府サイドでは、「消費税増税に伴う不況は絶対に起こさせない」という強い決意を持っていることがわかる。黒田総裁と岩田副総裁は、デフレ克服という目的のために、安倍総理が日銀に送り込んだ総裁と副総裁であった。金融政策についての意見はほとんど一致しているが、消費税増税の影響についての考え方は大きく異なっていた。黒田氏、岩田氏のどちらかの代わりに、消費税増税の悪影響を重視する浜田宏一氏あたりが日銀入りしていたならば、別の展開になっていたであろう。

消費税増税後の経済については、現時点では、あまり良いとは言えない経済指標が現れたことは確かであるが、1997年型の不況に突入すると、現時点で断言することはできない。景気後退を避けることができる可能性も十分残っているからだ。予想から逃げていることは事実である。しかし、楽観論者、悲観論者とも、薄弱な根拠で楽観論、悲観論を述べている。そして、このブログの主題は「経済解説」である。予想をすると、外れた場合だけではなく、当たった場合でも、自分の予想に都合の良いように、事実をねじ曲げて解説してしまうことが起こりがちである。予想を示さなかった場合の方が、事後的にはどのような結果が発生したとしても、より正しい解説ができると考えるからだ。仮に、6月に好調な経済指標が続々と発表された場合、1ヶ月後には、「景気後退発生の可能性が大きく減少」と書くつもりでいる。

毎回繰り返していることだが、私の考え方は政府と同じで、「消費税増税に伴う不況が発生する可能性がある以上、不況の発生は絶対に避けなければならない。」という考え方である。「不況が発生する」のではなく、「可能性がある」のである。ただ不況回避の手段が、公共投資ではなく、追加金融緩和という点が、政府とは決定的に異なる。消費税増税にデフレ不況促進効果があり、異次元緩和に景気回復と物価上昇の促進効果がある。現時点では、どちらの効果がより大きいかはわからない。一方、現在の最大の経済問題は、巨額の政府債務である。従って、増税と金融緩和の強化を同時に極限まで追求することにより、ある程度マイルドな物価上昇と経済成長、加えて急激な財政再建を同時に実現すべきだという考え方である。しかし、こうした超財政緊縮、超金融緩和の考え方を持つ仲間は非常に少なく、政治的には無力である。後は、黒田総裁に少しばかりの期待を残している。最近繰り返している、「物価目標の達成に支障がきたすようなことがあれば、当然、躊躇なく必要な金融政策の調整を行う用意はある」との言葉を、その気配が見えた時点で、素早く実行に移すことを願っている。


リンク先記事
金融緩和と賃金の上昇(*1)



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日銀ウォッチャー報告(2014年5月号)

マネタリーベース平残の推移201404(グラフ)

2014年4月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で2.8兆円増加し、215.9兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201404(表)

上記のグラフに示したとおり、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年
12月の白川体制の末期から増加基調が明確になり、昨年11月までは高い増加率が続いていた。昨年12月に、前月比増加率はマイナスとなったが、1月、2月と再び高い増加率に戻った。3月、4月の前月比増加率は、多少低くなった。

4月の市中資金は、6.7兆円の不足であった。そこに、国債の購入6.5兆円、短期国債の購入6兆円、共通担保オペの回収1.1兆円などを中心とした金融調節により、合計11.9兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、5.1兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、3月末の
128.7兆円から、4月末の133.8兆円へと、5.1兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、4月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比2.8兆円増加の215.9兆円になった。当座預金残高と季節調整済のマネタリーベース平残の増加に差がある理由は、4月のマネタリーベースは増加しやすいという季節要因があるためである。


日銀BSとMB(実績と予想)201404

上記の表のように、今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は
270兆円である。残り8ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、月間5.6兆円の純増が必要である。

5月の市中資金は、13.8兆円の不足となる。5月の資金供給については、国債の購入が、4月と同金額の6.5兆円と想定する。短期国債の購入は、4月比2兆円増加の8兆円と想定する。4月より市中資金の不足額が大きいからだ。貸出支援基金による貸し出しは、5月中には予定されていない。この結果、5月の資金供給は、2つの合計で14.5兆円となる。5月末のマネタリーベース末残は、前月比0.7兆円の増加と予想する。必要額の5.6兆円をかなり下回るが、資金余剰になりやすい6月に、マネタリーベースを大幅に増やすと考えるからだ。季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で0.7兆円を上回る金額の増加になると予想する。

従来、後半では、金融政策批判を書いてきた。しかし、今回は、「日銀ウォッチャー報告2013年度バージョン」を書くことにする。2013年度のマネタリーベースや日銀関連の統計数字の発表がほとんど終わり、分析可能となった。2013年度のマネタリーベースの増加金額は、金融政策決定会合の目標範囲内に収まっていない。それ以外の日銀の資産、負債についても、いくつかの変化が発生している。
1996年7月以降の数字が存在する「マネタリーベースと日本銀行の取引」という統計に、一部それ以外の統計からの数字も合わせて、過去と比較しながら2013年度の金融政策の内容を説明することにする。

最初に、資金過不足とその要因の表を下記に示す。


資金過不足とその要因

毎月、月初に当月の資金過不足の予想数字が発表され、その1ヶ月後に前月の資金過不足の確報値が発表される。上記の表の一番右端の数字は、その年間合計額の数字である。それと同時に、月次では省略している資金過不足の原因、すなわち銀行券要因と財政等要因、財政等要因の内訳も上記の表に示した。財政等要因の中の「国債」の部門は、現在、1ヶ月以上と国庫短期証券に分かれている。しかし、この分類に変更されたのは、短期国債が国庫短期証券という名に再編された2009年2月以降のことである。そのため、ここでは、国債をいくつかの部門に分けることなく、1部門として示すことにする。

銀行券要因の数字は、2つ後の表に示す銀行券発行高のフローの数字にマイナスの符号を付けた数字と等しい(月次合計の数字であるため、最大で3ポイントの誤差が発生)。紙幣の発行が増えることの意味は、銀行が顧客に支払う紙幣(のネットの金額)と等しい金額の紙幣を銀行が日銀から受け取ることを意味する。その代わりに、銀行の日銀に置いてある預金口座、すなわち、日銀当座預金の残高がその分減少することになる。つまり紙幣発行残高の増加=当座預金の減少要因=銀行券要因による資金不足額拡大、となる。逆に、顧客が紙幣を銀行預金に預けると、銀行はその紙幣(のネットの金額)を日銀に渡し、その金額と等しい日銀当座預金の残高が増加する。この場合は反対に、紙幣発行残高の減少=当座預金の増加要因=銀行券要因による資金余剰額拡大、と考えるのである。

2001年度-2004年度の間、国債部門のマイナス幅拡大を原因として、資金不足額が拡大している。これは、4つ後に示す表に掲載されているとおり、日銀保有の短期国債の償還が増えたからである。日銀が市中から買い入れた国債(短期国債)を保有したまま満期を迎えると、本来なら国債の満期に伴って市中に流れるはずであった国債の償還金が、日銀に流れてくることになる。これは、償還金額に等しい分だけ日銀が資金を市中から吸い上げたことと同じ結果であり、市中資金の不足が拡大すると考えるのである。異次元緩和の実施とともに、日銀は、国債だけではなく短期国債の購入額も急増させた。短期国債は残存期間が短いので、同時に償還額も急増した。そのため、2013年度の資金不足額は、2004年度の68.3兆円を大幅に上回り、111.6兆円と過去最高となった。

次に、その資金不足を埋めるために行った日銀による金融調節の表を下記に示す。


金融調節

マネタリーベース大幅増加の目標をたてているので、資金不足が拡大する中、金融調節の金額も例年より大幅に拡大するのは当然である。2013年度は、年間の市中資金の不足額は111.6兆円、金融調節が182.1兆円、当座預金残高の増加は70.5兆円、年度末の当座預金残高は128.7兆円にまで拡大した。

次に、マネタリーベースとその内訳の表を下記に示す。


マネタリーベース

マネタリーベースの定義は、日本銀行券発行高+日銀当座預金+貨幣流通高である。このうち、貨幣流通高は、主として財務省の管轄であり、日銀のバランスシートにものらない。しかし、残高、増加金額ともに小さいので、金融政策を考えるにあたっては、ほとんど無視して構わないと思う。上記の表に示したとおり、日銀券発行高が従来とあまり変わらない増加額を示し、当座預金が急激に増加した結果、2013年度のマネタリーベースの残高は急増することになった。白川体制の2011年度は、金融緩和の強化が3回発表された年であるが、年間でマネタリーベースが6.4兆円減少するようなことが実際に発生していた。2011年度と比較した場合、2013年度は大変大きく変化している。2013年度は、金融政策決定会合で、マネタリーベースの増加目標金額を、年間60兆円-70兆円と発表し続けてきた。しかし、実際の2013年度の年間マネタリーベース増加金額は
73.8兆円であった。2014年2月、3月、4月と続けて、少額ではあるが目標の超過達成になっている。

次に、日銀による国債保有のストック、フローの表を下記に示す。


国債

本来なら、前期末のストック+今期のフロー=今期末のストック、フローの合計=買入+償還等になるはずである。しかし、直近において、この式は成立しているが、2005年度以前は成立していない。これは、主として、国債の現先取引の計上方法が頻繁に変わっているからだ。しかし、最近は国債の現先取引は、政府の特別会計に対するものだけであり、その計上方法も変わっていない。2013年度の年間の国債購入金額は88兆円、償還は25.2兆円、フロー合計と年間純増金額は62.8兆円、年度末の国債保有金額は154.2兆円となっている。2013年度は、グロスの国債購入金額が大幅に増加した結果、国債の純増金額は、年間の方針である50兆円をかなり上回っていたのであった。

次に、日銀による短期国債保有のストック、フローの表を下記に示す。


短期国債

国債と同様に、現先取引の影響で、ストック、フローが2001年度以前は整合がとれていない。1998年以前は、政府発行の短期国債の大半を事実上日銀が引き受け、その後に一部を市中に売却していた。しかし1999年4月に、短期国債の発行方式は、現在の方式である公募入札制に移行した。2001年度以降は、金融調節の手段としての短期国債の買いオペの金額が増えた。その結果、先に述べたとおり、市中資金の不足額拡大の大きな要因となった。2013年度の年間の短期国債は、引受15兆円、購入91兆円、償還95.8兆円、フロー合計と年間純増金額は10.2兆円、年度末の保有金額は44.2兆円となった。

次に、貸出支援基金のストック、フローの表を下記に示す。


貸出支援基金

2012年度の貸出支援基金は、フローが572億円、それに対してストックが3兆
3570億円と大きな差がある。これは、貸出支援基金が、2010年9月に設立された成長基盤強化支援資金供給に、2012年12月に貸出増加支援資金供給を加える形で設立された基金であるからだ。そのため、2012年度の貸出支援基金のストックの金額は、成長基盤強化支援資金供給のストック金額と等しい。そしてまた、貸出支援基金の2013年度のストックは、上記の表では11.8兆円であるが、上から3番目に示した表の2014年3月末の金額は、12.7兆円であり、0.9兆円(正確には8861億円)金額が一致しない。これは、成長基盤強化支援資金供給の中にドル特則というものがあり、この枠で8861億円のドル建て資金が貸し出されているからだ。日銀が作成する統計の多くは、ドル特則を貸出支援基金に入れずに、「その他」の中にある「外国為替」の中に入れている。

次に、共通担保資金供給のストック、フローの表を下記に示す。


共通担保資金供給

かつて、日銀は、買いオペの手段として、手形買いオペを実施していた。しかし、
2006年6月に日銀は手形買いオペを全面停止し、共通担保オペ(資金供給)へと全面的に切り替えたのである。従って、共通担保オペの場合、ストックとフローの差はゼロである。

共通担保オペの残高は3年連続で減少し、2013年度末で14.1兆円である。共通担保オペについてのニュースは、連続札割れのニュースばかりである。しかし、共通担保オペの入札額がゼロになることはなく、2013年度末においても14.1兆円の残高を維持していることの方が驚きである。当座預金残高が128.7兆円、準備預金残高が119.5兆円、0.1%の金利が付く超過準備が100.5兆円も積み上がっている。近い将来、どの銀行も金余りの結果、0.1%の金利のつく日銀準備預金で資金を運用するようになるに違いないと考えていた。その場合、
0.1%の借入金利がつく共通担保オペの残高は、ゼロになるはずである。しかし、共通担保オペの残高は、ゼロではなく、2013年度末の段階で14.1兆円、
2014年4月末の段階で13.1兆円も残っている。直近でも資金が不足し、日銀から金利0.1%の資金を合計して13.1兆円も借り入れなければやっていけない銀行等の金融機関が、依然として存在するのである。

異次元緩和の開始から1年以上過ぎた現在において、マネタリーベースは日銀の目標を少し上回るスピードで増加し続けている。そして、日銀の資産、負債の構成にも少しずつ変化が生じている。しかし、報道される機会は少ないし、数少ない報道には、誤りがしばしば見受けられる。日銀のHPから直接統計にアクセスしても、統計作成の方法についてある程度の知識がなければ、簡単には理解ができない統計も多い。貸出支援基金には、統計数字が2種類存在するのである。異次元緩和に賛成、反対にかかわらず、こうした日銀をめぐる資金の流れを正確に理解した上で、意見を述べたり、批判したりすべきであろう。


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日銀ウォッチャー報告(2014年4月号)

マネタリーベース平残の推移201403(グラフ)

2014年3月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で2.2兆円増加し、213.1兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201403(表)

上記の表に示した通り、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になり、昨年11月までは高い増加率が続いていた。昨年12月に、前月比増加率はマイナスとなったが、1月、2月と再び高い増加率に戻った。3月の前月比増加率は、多少低くなった。

3月の市中資金は、1.4兆円の不足であった。そこに、国債の購入6.6兆円、短期国債の購入8兆円、貸出支援基金による貸し出し3.3兆円、共通担保オペの回収1.8兆円などを中心とした金融調節により、合計16兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、14.6兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、2月末の114兆円から、3月末の128.7兆円へと、14.6兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、3月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比2.2兆円増加の213.1兆円になった。当座預金残高と季節調整済のマネタリーベース平残の増加に大きな差がある理由は、3月のマネタリーベースは増加しやすく、特に月末の残高は増加しやすいという季節要因があるためである。

先月号で予想した3月の資金調節で大きく読み違えたのは、貸出支援基金による貸出金額であった。貸出支援基金の中で多くを占める、貸出増加を支援するための資金供給は、昨年6月が3.2兆円、9月が0.9兆円、12月が1.1兆円であった。2月18日の日銀金融政策決定会合で貸出支援基金の拡充が決定された。しかし、その適用は6月からであり、3月は旧来のスキームで実施されることになっていた。そのため、昨年9月、12月以上に貸し出しが増えることはないと考え、貸出支援基金による貸し出しは1兆円と予想していた。ところが、蓋を開けてみると、貸出支援基金のうち、貸出増加を支援するための資金供給は3.5兆円の貸し出しとなり、昨年6月を上回る過去最高の貸出金額となった。理由を考えると、貸出支援基金という固定金利0.1%、期間は最大で4年という好条件で、日銀から借り入れることができるという制度の存在の認識が、銀行の経営陣に薄かったからと思われる。2月18日の金融政策決定会合後に、貸出支援基金の拡充策が大きく報道され、貸出支援基金の存在が広く知れ渡った。その結果、従来、枠を使い切っていなかった銀行の経営陣が、貸出支援基金の利用を考えるようになり、貸し出しが増加したのであろう。先月号では、貸出支援基金についての日銀と黒田総裁によるあいまいな説明を激しく批判した。しかし、黒田総裁は、貸出支援基金の存在を銀行の経営陣が忘れていると考え、2月18日発表の金融決定会合の「当面の金融政策運営について」と会合後の記者会見で、貸出支援基金の存在を強くアピールすることを考えていたようである。


日銀BSとMB(実績と予想)201403

通常は、上記の表に、月末のバランスシート残高を示してきたが、今月は、バランスシート残高の公表が遅いので、3月20日時点のバランスシート残高を示した。上記の表のように、今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は270兆円である。残り9.3ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、月間5.4兆円の純増が必要である。

4月の市中資金は、6.9兆円の不足となる。4月の資金供給については、国債の購入が6.6兆円と想定する。購入国債の残存年限が長期化し、償還が減りつつあるので、3月と同様に、国債購入のスピードを従来より少なくすると考えるからである。短期国債の購入は、3月と同額の8兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しについては、4月は大きなものは予定されていない。この結果、4月の資金供給は、2つの合計で14.6兆円となる。4月末のマネタリーベース末残は、前月比7.7兆円の増加と予想する。必要額の5.4兆円を上回ることになる。季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で7.7兆円を上回る金額の増加になると予想する。

昨年4月4日に実施された異次元金融緩和の評価については、(*1)で詳しく説明した。その時指摘した金融緩和がもたらしている異常現象が、国際収支面に存在し続けている。今月号もその続編として、現況を伝えたいと思う。

今年1月から、国際収支関連統計が準拠するルールが、IMF国際収支マニュアル第5版から第6版へとバージョンアップされた。細かなルール改訂が多いが、特に従来の資本収支の多くが金融収支として再編された。ただ、金融収支では、従来の項目の符号が反対になり、慣れるまでは相当使いづらくなりそうである。その上、2013年以前の数字は、貿易収支、サービス収支については遡及改訂がなされた数値が発表されている。ところが、金融収支については、プラスマイナスの符号が変わっただけであり、遡及改訂がなされた数値は、現時点では発表されていない(財務省によると、遡及改訂の数値を発表するかどうかは現在検討中とのこと)。そのため、統計の連続性という意味では問題が生じる。

1月からの統計を、新ルールで見た場合の最大の変更点は、従来の証券投資の数字には貸借取引が含まれていたのに対して、新ルールでは証券投資の数字には貸借取引が含まれないことである。この改訂は、非常に大きな影響がある良い改訂である。従来は、貸借取引によって証券投資の数字が大きくブレることがあったが、2014年1月以降については、その心配をする必要がなくなる。

国際収支201403

上記の表は、「経常収支」と「誤差脱漏」だけが従来と同じ符号であり、「直接投資」、「証券投資」、「金融派生商品」、「その他投資」、「外貨準備増減」の項目は、従来と符号が反対になっている。見るだけでも頭が混乱してしまいそうである。時間をかけて慣れるしかない。

2012年11月以降、大胆な金融緩和が確実になると、海外投資家は、怒涛のごとく日本株を買い始め、国内投資家は、日本株を売り始めた。国内投資家は、日本株だけではなく、外国株をも大挙して売り始めた。その結果として、2012年11月-2014年1月の国際収支表における「証券投資」は、31.5兆円もの巨額の赤字になった。これは、大変大きな円高要因である。にもかかわらず、円高ではなく、円安方向に動いた原因の一つは、「直接投資」が継続して黒字になったことである。しかし、それ以上に大きな原因は、「金融派生商品+その他投資-誤差脱漏」の項目が大幅な黒字になった要因も大きい。この項目の黒字は、2012年11月-2014年1月に、12.9兆円にのぼっている。「金融派生商品+その他投資-誤差脱漏」の数値は、長期で見れば、ゼロに近づく。従って、遠くない将来に、少なくとも12.9兆円の赤字、すなわち、円買い外貨売りが発生することになる。これに加えて、この間、外為特会での為替先物の買いを、外国証券の買いに移し替えるという操作、すなわち、「その他投資」の黒字を「外貨準備増減」の黒字に移し返るという操作が、395億ドル、約4兆円強存在していた。この特殊要因を除けば「その他投資」の黒字は4兆円強拡大していたはずである。従って、「金融派生商品+その他投資-誤差脱漏」の黒字は実質約17兆円ということになる。この金額に相当する海外投資家による為替先物を使った円のショートポジションが存在する可能性が高い。これは、大変大きな潜在的な円高圧力が存在していることを意味する。

1月に入って、海外投資家による日本株の売買が、売り越し基調になっている。海外投資家は、代わりに短期国債を大量に購入しており、「証券投資」の赤字自体は拡大している。2月以降は、資金の流れが一方的な流入ではなくなり、「証券投資」の数字の絶対値は小さなものとなっている。

17兆円にのぼる円のショートポジションの大部分は、ヘッジファンドの投機的な売りではなく、日本の株や債券などを合計で268兆円前後(2013年末現在)保有している海外投資家の円資産に対するヘッジ売りのポジションである可能性が高い。この大量の円のショートポジションを持つ海外のヘッジャーたちが、何らかの円高要因が発生した場合、17兆円の円のショートポジションを一気に買い戻してくる可能性が存在する。この場合、急激な円高が発生する可能性を否定することができない。現在の円安は、こうした海外のヘッジャーたちが持つ円の先安予想という非常に脆弱なものに支えられているのである。仮に、急激な円高が発生した場合、株価は暴落し、消費税増税の悪影響に苦しむ日本経済は、一気に以前の超円高、株安、デフレ不況の世界へと戻ってしまう。これは最悪のシナリオであり、発生する可能性は、最大で20%であると考えている。しかし、一旦、発生してしまえば、異次元金融緩和の効果をゼロにするほど非常に大きな悪影響を及ぼす。従って、発生する可能性を限りなくゼロに近づける必要がある。そのためには、追加の大規模な金融緩和を実施し、国内の余剰資金を海外に流出させ、「証券投資」を黒字化し、累積赤字を減少させ、累積黒字にまで誘導することが一番望ましい。「証券投資」の黒字を使って、「金融派生商品+その他投資-誤差脱漏」の将来の赤字を解消するのである。

1月の国際収支を見ると、経常収支の赤字が拡大する一方、「直接投資」の黒字も拡大基調が続いている。これは、以前述べたことがある「空洞化シナリオ」の状態である。これが継続する場合、「直接投資」の黒字が拡大し、上記の「金融派生商品+その他投資-誤差脱漏」の黒字も解消されていく。しかし、「直接投資」の拡大に伴い空洞化が進行し、経常収支の赤字拡大も止まらなくなる恐れがある。これが継続した場合、超円高という最悪のシナリオの発生を避けることは可能になる。しかし、この場合の円安は、経常収支の赤字を拡大させ、GDPを縮小に向かわせる悪い円安である。最悪のシナリオではないが、2番目に悪いシナリオである。現在のところ、国際収支の動向は、この2番目に悪いシナリオの方向に向かって進みつつあるようだ。この空洞化シナリオの発生も、極力回避しなければならない。それを防ぐための対策は、円の急騰を防ぐための対策と同じである。追加の大規模な金融緩和を実施し、国内の余剰資金を海外に流出させ、「証券投資」を黒字化し、累積赤字を減少させ、累積黒字にまで誘導することが一番望ましい。その結果、「直接投資」の黒字減少、「金融派生商品+その他投資-誤差脱漏」の黒字減少、経常収支の黒字復帰と黒字拡大を達成することが可能になる。この場合、大幅な円安が発生し、「直接投資」の黒字は縮小に向かい、経常収支は黒字化し、黒字が拡大するようになる。大幅な円安の発生過程で、輸入品価格の大幅上昇という副作用が生じるが、経常収支の黒字復帰、黒字拡大が定着すれば、GDPは増え、副作用を上回ることになる。

こうした経常収支の黒字復帰、黒字拡大を目指す政策を実施する上で、一番大きな障害となるのは、外国からの「一国繁栄主義の近隣窮乏化政策」という批判である。日本は、日本周辺のアジア諸国による現在も続く近隣窮乏化政策の結果、見事に窮乏化してしまった(*2)。その窮乏化を取り戻そうとすると、「近隣窮乏化政策」の非難を逆に浴びるのである。これは、過去においても現在においても、日本が、日本周辺のアジア諸国による極端な自国通貨安誘導という近隣窮乏化政策の悪影響を認識することなく、自国が窮乏化するのを放置してきたという政策の誤りの帰結である。

大規模な追加金融緩和の実施は、日本が周辺国の富を奪って一国だけ成長をはかるという、日本にとっては良くても、諸外国にとっては悪い政策というのが、諸外国の多数派の意見である。一方、日本国内の反リフレ派は、大規模な金融緩和は、「日本の繁栄」ではなく、「日本の破綻」をもたらすと考えているようだ。これは、日本国内では多数派であっても、世界的に見れば、少数派の意見である。異次元金融緩和の第二弾は、諸外国の多数派が考えているように、少なくとも日本一国は繁栄させることを可能にする政策なのである。2012年11月から超円高の修正が始まったとたん、2013年1月のダボス会議で、日本は為替操作をしているという批判の声が巻き起こった。海外投資家が、2012年11月以降、日本株を大量に購入する一方、円のショートポジションを大量に積み上げてきたのも、金融緩和の強化が、円安と株高を通じて、日本経済の回復につながると確信しているからである。一方、現在も続く日本周辺のアジア諸国による近隣窮乏化政策に悩まされている日本としては、異次元金融緩和の第二弾の実施により、超円高・アジア通貨安の解消をはかることくらいは、最低限実現させなければならない政策目標であるはずだ。

大規模な追加金融緩和実施の最大の難点は、諸外国からの政治的な非難の声である。従って、大規模な追加金融緩和を実施しようとしても、政治的に実施が難しくなるケースが考えられる。政治力の弱い日本は、円安誘導という本音を隠し、「インフレターゲットの実現」を前面に打ち出して追加金融緩和を実施するしかない。その点、これからしばらくは、「インフレターゲットの実現」に加え、「消費税増税が景気に及ぼす悪影響を回避する」という名目で、異次元金融緩和の第二弾を実施することができる。「消費税増税の悪影響回避」という大義名分があるので、「近隣窮乏化政策」の非難を受けにくくなる。

異次元金融緩和の第二弾は日本経済を破綻させるという、諸外国ではほとんど通用しない論理で、追加金融緩和を実施しないのは、大変大きな誤りである。「日銀による追加金融緩和」は、日本経済を改善させるということは、諸外国では常識とも言える政策である。消費税増税前後の時期というのは、政治的、外交的に見た場合、異次元金融緩和の第二弾を実施する絶好のチャンスであり、決して逃してはならない時期であるはずだ。

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日銀ウォッチャー報告(2014年3月号)

マネタリーベース平残の推移201402(グラフ)

2014年2月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で9.4兆円増加し、210.9兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201402(表)

上記の表に示した通り、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になり、昨年11月までは高い増加率が続いていた。昨年12月に、前月比増加率はマイナスとなったが、1月から再び元の増加のトレンドに戻った

2月の市中資金は、10.7兆円の不足であった。そこに、国債の購入7.1兆円、短期国債の購入8.5兆円などを中心とした金融調節により、合計14.2兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、3.5兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、1月末の110.5兆円から、2月末の114兆円へと、3.5兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、2月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比9.4兆円増加の210.9兆円になった。当座預金残高と季節調整済のマネタリーベース平残の増加に差がある理由は、2月のマネタリーベースは、減少しやすいという季節要因があるためである。


日銀BSとMB(実績と予想)201402

上記の表のように、今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は270兆円である。残り10ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、月間6.5兆円の純増が必要である。3月については、市中資金が1.1兆円の不足となる。大量の国債償還が集中する3月は、従来、市中資金は大幅な余剰の月であった。しかし、今年は、日銀保有の国債と短期国債の償還が合計で13.2兆円もあり、これが資金不足要因となるので、3月も資金不足の月へと変化した。

3月の資金供給については、国債、短期国債の購入は、昨年4月以降の平均的な購入金額である7兆円、7.5兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しは、1兆円と想定する。この結果、3月の資金供給は、3つの合計で15.5兆円となる。3月末のマネタリーベース末残は、前月比14.4兆円の大幅な増加と予想する。季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で14.4兆円を下回る金額の増加になると予想する。月間6.5兆円の純増でよいところに、3月はそれを大幅に上回る資金を供給することになる。季節調整済のマネタリーベース平残は、3月は前月比で大幅な増加となるが、4月以降に市中資金が大幅不足になる月が何度もあるので、そうした月に増加額を抑えるという資金供給を行うと予想する。

2月18日の金融政策決定会合の後、発表された「当面の金融政策運営について」の文章は、内容に大変大きな問題を含む公表文であった。100%正しい内容が、誰にも理解できない作文になっているからだ。

2月18日の金融政策決定会合の決定は、
(1) 現状維持
(2) 金融緩和の強化
の2通りの解釈が可能である。私の解釈は、(1)現状維持である。しかし、(2)金融緩和の強化とも受け取られるような表現が並んでいる。「当面の金融政策運営について」だけを読んだ人には、(2)金融緩和の強化と受け止める人が多いと思う。しかし、日銀を詳しくウォッチしてきた者としては(1)現状維持としか理解しようがない。理由は、仮にこの公表文が(2)金融緩和の強化を意味するとしたならば、日銀は、政策変更の発表の仕方にあまりにも大きな問題がありすぎるからである。その結果、消去法的に考えて、(1)現状維持しかありえない。そう解釈しても、(2)金融緩和の強化の場合よりは問題点は少ないが、依然として問題点を残している。2月18日公表の「当面の金融政策運営について」の内容には、どちらの観点から見ても、問題がありすぎるのである。

最大の問題は、「当面の金融政策運営について」の中に、必須の重要記載事項が抜け落ちているからである。そして、黒田総裁による口頭の説明も、(1)現状維持とも(2)金融緩和の強化ともとれるような、あいまいさを残した説明、あるいは、(2)金融緩和の強化であるかのようなニュアンスを含む説明をしているからである。

私の解釈は、次のようになる。「当面の金融政策運営について」の最初に、「マネタリーベースが、年間約60~70兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」と書かれている。これは昨年4月4日に決定された内容であり、その後の金融政策決定会合でも踏襲されている日銀の正式な目標である。ただ、昨年4月4日に発表された『「量的・質的金融緩和」の導入について』の中には、もっと詳しい内容が掲載されていた。その内容が、上記の表で使用している、マネタリーベース残高や、その他の資産残高の2013年末、2014年末の予想数値である。

マネタリーベース残高だけを取り上げると、
2012年末 138兆円
2013年末 200兆円
2014年末 270兆円
となる。この数値は、正式には、「見通し」、「見込み」であり、目標ではない。しかし、実際には、マネタリーベース残高を2013年末に200兆円、2014年末に270兆円までは必ず増やすという必達目標のような扱われ方をしてきたのである。そのため、マネタリーベースを2013年に62兆円増加させ、2014年に70兆円増加させるという目標を、正式には「マネタリーベースが、年間約60~70兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」と表現していると理解できるのである。

2月18日の「当面の金融政策運営について」には、「マネタリーベースが、年間約60~70兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」との毎回ある表現が使われており、同時に2014年末のマネタリーベース残高目標270兆円を変更するという表現はない。従って、2014年末のマネタリーベース残高目標は、依然として270兆円であり、政策変更はないはずである。従って、(1)現状維持と理解せざるをえない。この観点から2月18日の「貸出増加支援資金供給等の制度見直しの骨子」の内容を説明する。

現在の貸出支援基金のスキームは、2012年10月30日に決定された。しかし、そのスキームは複雑であり、それを正しく書き上げると下記のようになる。

(a)貸出支援基金  
・・・総枠 無制限、直近データを当てはめた場合の単純計算では20.5兆円
・・(b)成長基盤強化を支援するための資金供給 総枠5.5兆円
・・・(c)本則・・・・・・・3.5兆円
・・・(d)ABL特則・・・0.5兆円 
・・・(e)小口特則・・・0.5兆円
・・・(f)米ドル特則・・約1兆円
・・(g)貸出増加を支援するための資金供給 
・・・・・総枠 無制限、直近データを当てはめた場合の単純計算では15兆円

この文章の金額の前には、「総枠」という言葉がついている。これは、20.5兆円を絶対に貸し出すという意味ではなく、最大で20.5兆円貸し出す枠を作るという意味だと受け取れる。当初、総枠が20.5兆円であった(a)貸出支援基金が、2013年4月4日に異次元金融緩和を決定した際、2013年末13兆円、2014年末18兆円という形で、総枠ではなく、貸し出し目標として具体的な金額が設定されたと解釈してきた。

貸出支援基金のうち一番大きな金額を占める(g)貸出増加を支援するための資金供給による貸し出しは、昨年は6月、9月、12月と3回実施されたが、そのうち9月と12月は貸し出し予定金額を大幅に下回る金額しか、実際に貸し出すことができなかった。毎回のように発生している共通担保オペと同じように、事実上の大規模な「札割れ」現象が2回続けて発生したわけである。結果として貸出支援基金の残高は、直近において9.2兆円であり、2013年末の目標である13兆円をも大幅に下回る状態が続いている。貸出支援基金のスキームを変えなければ、2014年末の18兆円という目標達成は完全に不可能である。そのため、スキームが変更されたのである。

スキーム変更の内容は、(b)成長基盤強化を支援するための資金供給の中の(c)本則3.5兆円を、2倍の7兆円へ、(g)貸出増加を支援するための資金供給15兆円を2倍の30兆円に拡大したのである。(d)ABL特則(e)小口特則(f)米ドル特則の金額は現状維持である。従って、(a)貸出支援基金の総枠は、2倍ではなく、20.5兆円から39兆円にまで拡大したのである。黒田総裁によれば、全体では札割れが発生しても、大手銀行では枠一杯の貸し出しを使っているらしい。そのため、枠を2倍に拡大した場合、いくつかの大手銀行では貸し出しを増やすところがあるはずである。その場合、現在の9.2兆円から、2014年末の18兆円まで貸出支援基金の残高を増やすことが可能になるかもしれない。事実上の札割れ発生を回避できる可能性が高まるのである。貸出支援基金の2014年末18兆円を達成するために、総枠を大きく増やすというスキーム変更が実施されたのである。この貸出支援基金のスキーム変更は、必要なものであり、スキーム変更の検討は、事前に報道でも流れていた。そのスキーム変更を2月18日に正式に決定し、発表したのである。

先に、貸出支援基金による貸し出し増加金額を、3月は1兆円と想定する、と書いた。3月は古いスキームで貸し出しを実施するので、昨年の9月、12月並の1兆円前後しか貸し出すことができないと考えたからである。おそらく6月には貸し出し実施金額は増加するが、9月、12月は再び減少することになると予想している。2014年末の18兆円達成は、可能ではあるが、簡単ではないと考える。黒田総裁は、(g)貸出増加を支援するための資金供給の金額を、最終的には30兆円まで増やすと明言したが、その達成時期は、2014年中ではなく、かなり先のことになると考えている。

蛇足であるが、私は、貸出支援基金のスキーム自体に反対である。貸出支援基金の何割かは、住宅ローンの金利引き下げ競争に回っているようである。貸出支援基金の多くは、既存の融資の事実上の低利乗り換えに使われる可能性が高く、ベンチャー企業に対する新規融資といった、本当に必要なところに対する貸し出しに、多くの資金が貸し出されることが期待できないからである。こうした性格の資金は、18兆円でストップさせた方が良い。むしろ、資産運用のブラックホールである国債購入の金額拡大に回した方が、ベターだと考えている。

2月18日の「当面の金融政策運営について」の中には、「貸出増加を支援するための資金供給」と「成長基盤強化を支援するための資金供給」について、規模を2倍にすることが明記されている。札割れ対策の表現がないのは問題ではない。しかし、貸出支援基金とマネタリーベースの2014年末の残高の見通しないしは目標に、全く触れられていない。本来なら、この2つの数字が18兆円と270兆円であり、従来と変更なしと記載すべきであった。それならば、万人が誤解することを避けることができた。しかし、黒田総裁は、その誤解をもたらさない説明をわざと避けた。そして、貸出支援基金による貸し出し規模を増やすという文言を「当面の金融政策運営について」の中に書き入れ、黒田総裁が口頭でも似た内容の説明をした。(2)金融緩和の強化でないことをはっきり説明しないことは問題である。しかし、この「当面の金融政策運営について」で、少しばかりでも(2)金融緩和の強化をするならば、金融市場調節の操作目標と決めたマネタリーベースの変更金額が書かれていないので、政策変更を発表する文章としては、失格である。よって問題点のより小さい(1)現状維持と理解せざるをえないのである。

金融緩和の強化をしてもいないのに、金融緩和の強化を思わせる発表を重ねてきたのは、白川前総裁である。金融緩和の強化を発表し、「資産買入等の基金」を作って購入資産額を拡大すると発表しながら、「資産買入等の基金」の枠外で資金を大量に回収し、実際には金融緩和の強化を実施しなかった時期があった。日銀総裁が、誤解を招く政策を発表し、市場を欺くような言動をすることは、絶対にやってはならないことである。白川体制から黒田体制に変わって良くなった点の一つは、金融政策の目標の明確化である。目標を明確化し、わかりやすく、誤解を受ける余地の少ない金融政策を、昨年の4月4日に発表したのである。この部分は、誰もが評価しなければならない点である。しかし、2月18日発表の「当面の金融政策運営について」において、今まで明確にしてきた数値目標に、あいまいで誤解を生むような表現を加えたことは、大変大きな誤りである。白川体制への先祖帰りのような印象すら受ける。

黒田総裁は、貸出支援基金の規模を拡大すると表明し、日銀が金融緩和に積極的であるかのような印象を振りまくことにより、一種のアナウンスメント効果を狙っていたのかもしれない。黒田総裁自身は、現状の政策を変更する必要はないと考えているのに、現状維持では市場が満足しないようなので、リップサービスを加えてみたのかもしれない。しかし、市場に誤解を与えるようなリップサービスは禁じ手である。恐ろしいのは、市場が黒田総裁を信用しなくなることである。その場合、急激な円高株安が進む可能性が高まるのである。

ただ、黒田総裁の内心も少しは理解できる。消費税増税があるのにもかかわらず、景気回復と2%のインフレ実現に自信を持っていることは、多分、本当であると思う。しかし、全く自信がないと考えている点が存在する。それは、出口戦略である。黒田総裁は、昨年11月22日に、民主党の前原誠司氏の質問に対する答えで、具体的な出口戦略を語ったことがある。その内容は、通説的なものであり、特別な戦略を持ち合わせていないことが明らかになった。その後も出口戦略についての質問を何度も受けてはいるが、答えは「出口戦略を語るのは時期尚早」であるようだ。黒田総裁は、2%のインフレ実現までは大変大きな自信があるようだが、その後の出口戦略に全く自信がないのである。

通説の通りに出口政策を日銀自身が担う場合、インフレ率が2%を超えて上昇した際、ある程度の金利上昇が発生する可能性が高くなる。その場合、日銀の収益が赤字になり、最悪の場合には、債務超過に陥ってしまう可能性がゼロではない。赤字や債務超過が発生した場合、経済的な効果は別にして、政治的にはその責任を黒田総裁が負わなければならない。日銀単独で、インフレ率を2%まで引き上げ、その後、2%に維持し続けること、加えて、その政策を絶対確実に成功させることは、簡単なことではない。金融緩和をガンガン続けていけば、2%のインフレ実現は簡単である。しかし、その後の出口戦略でつまずく可能性が高くなる。黒田総裁は、通説的見解以上の出口戦略しか持ち合わせていない。従って、安易な追加金融緩和を請け負うことができないのである。

反リフレ派は、出口戦略で、金利急上昇→財政破綻の決定と、今から決めつけて、リフレ政策を攻撃している。そのようなことが起きる可能性はないが、金利がある程度上昇する可能性は高いと言わざるをえない。だから私は、出口戦略は、政府が増税をすることにより、インフレを封じ込めると宣言する必要があると、ワンパターンの内容を繰り返し書き続けているのである。金融緩和の結果として景気が過熱し、インフレ率が2%を超えて進行するような事態が仮に発生した場合、増税→景気回復とインフレ率上昇の頭打ち→金利上昇は発生せず→財政赤字の縮小、が一番安全な出口戦略であると考えている。こうした出口戦略を日銀ではなく、政府の方が考えて提案し、経済成長と財政再建の両立をはかる戦略として打ち出す必要がある。政府がこうした出口戦略を打ち出せば、行きすぎた金融緩和は、財政再建の加速化につながることになる。黒田総裁は、財政再建を大義名分にして、金融緩和の強化を打ち出し続けることが可能となる。怠慢なのは、日銀ではなく、政府の方かもしれない。

黒田総裁は、出口戦略について大きな悩みを抱えているのである。私が提案している出口戦略にもいろいろと問題があることは承知している。ただ、日銀だけが出口戦略を担うよりは、よりましであろうと考えている。もっとよい出口戦略が他にあるかもしれない。より良い具体的な出口戦略を提案し、黒田総裁を支援することは、リフレ派全員の責任であるのかもしれない。


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日銀ウォッチャー報告(2014年2月号)

マネタリーベース平残の推移201401(グラフ)

2014年1月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で9.3兆円増加し、201.4兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201401(表)

上記の表に示した通り、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になり、昨年11月までは高い増加率が続いていた。昨年12月に、前月比増加率はマイナスとなったが、1月には再び元の増加のトレンドに戻った。

1月の市中資金は、14.7兆円の不足であった。そこに、国債の購入7.1兆円、短期国債の購入11.5兆円などを中心とした金融調節により、合計18.1兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、3.4兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、12月末の107兆円から、1月末の110.5兆円へと、3.4兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、1月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比9.3兆円増加の201.4兆円になった。当座預金残高と季節調整済のマネタリーベース平残の増加に大きな差がある理由は、1月のマネタリーベースは、大幅に減少するという季節要因があるためである。

日銀は、1月の季節調整済のマネタリーベース平残は順調に増やしたが、12月はマイナスであった。市中資金は、昨年7月に大幅不足となり、通常の金融調節ならマネタリーベースは前月比マイナスになってもおかしくなかった。しかし、その時は、大量の資金供給により、季節調整前の末残も、季節調整済の平残も、前月比マイナスになることを避けた。日銀は強力な金融緩和をやり抜くという強い決意を、7月の時には感じられた。しかし、日銀は、12月はやや少なめの資金供給を行い、最低限の目標である2013年末のマネタリーベース200兆円という目標だけを達成し、季節調整済のマネタリーベース平残が前月比マイナスになることを容認した。そこから、2014年末のマネタリーベース残高の目標は絶対に達成するが、安定的にマネタリーベースを増やすとか、目標を上回る金額まで増やす意図は全く存在しないというメッセージが伝わってくる。ただ、7月と12月の政策の変化から、黒田総裁の異次元金融緩和に対する自信を超えた慢心が少しあるように感じられ、不安を抱かせる。


日銀BSとMB(実績と予想)201401

上記の表のように、今年の年末のマネタリーベースの予定残高は270兆円である。残り11ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、月間6.3兆円の純増が必要である。2月については、市中資金が10.2兆円の不足となる。国債の購入については7兆円と想定する。短期国債の購入については、昨年4月以降の平均的な購入金額である7.5兆円の購入と想定する。貸出支援基金による大きな貸し出しは2月には実施されない。この結果、2月の資金供給は、長期国債と短期国債の購入で14.5兆円となる。2月末のマネタリーベース末残は、前月比4.3兆円前後の増加になると予想する。季節調整済のマネタリーベース平残は、4.3兆円を少し下回る金額の増加になると予想する。

昨年4月4日に実施された異次元金融緩和の評価については、(*1)で詳しく説明した。その時指摘した、金融緩和がもたらしている異常現象が国際収支面に存在し続けており、同時に、この文章を書いている目の前で、円高株安が進行中なので、今月号も似た内容を書いて、結論を強調させてもらうことにする。昨年11月までの国際収支表の問題部分を下記に掲載する。

国際収支201401

2012年11月以降、大胆な金融緩和が確実になると、海外投資家は、怒涛のごとく日本株を買い始め、国内投資家は、日本株を売り始めた。国内投資家は、日本株だけではなく、外国株や外国債券をも大挙して売り始めた。その結果として、2012年11月-2013年11月の国際収支表における証券投資収支は、26.6兆円もの巨額の黒字になった。これは、大変大きな円高要因である。にもかかわらず、円高ではなく、円安方向に動いた最大の原因は、「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目が大幅な赤字になったからである。この3項目の赤字は、2012年11月末-2013年11月末に、13.5兆円にのぼっている。「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目の合計は、長期で見れば、ゼロに近づく。従って、遠くない将来に、少なくとも13.5兆円の黒字、すなわち、円買い外貨売りが発生することになる。これは、大変大きな潜在的な円高圧力が存在していることを意味する。

11月の証券投資収支は、国内投資家の対外中長期債投資が3.2兆円もの赤字になったが、海外投資家の日本株投資が2.2兆円の黒字になるなどして、証券投資収支全体では、700億円の小幅の黒字となった。また、経常収支と直接投資収支の赤字を相殺する「その他投資」が1.3兆円の黒字になっている。この中では、海外投資家の短期借り入れが4.3兆円の黒字、すなわち借金返済があったことが特に目立った。

12月の証券投資収支は、月次の速報ベースでは、2.3兆円の黒字であり、週次の速報ベースでは、1月第1-3週の収支は、5兆円の黒字となっている。12月以降も証券投資収支の黒字と「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目の赤字額合計は、拡大し続けている可能性が高い。

証券投資を通じて、大量の資金が流入してくる環境下で円安になる原因として、為替ディーラーたちがしばしば出してくる、ヘッジファンドの投機的な円のカラ売りが大量にたまっているという説を、前月号で否定した。その他に、株式市場関係者がよく言及する説として、海外投資家が日本株を買う際、円安株高期待で買うのであるから、購入資金の大部分に円売りヘッジが付いているからという考え方が存在する。

この考え方も、一部だけ正しいが、大部分が間違っている。海外投資家が日本株を買う際、一般的に言って、為替ヘッジ率は低い。理由は、海外投資家の運用のベンチマークが、円建ての日経平均ではなく、ドル建て、または外貨建ての日経平均であるからだ。パッシブ系のファンドの場合、ヘッジ比率は大半がゼロに近いはずである。アクティブ系のファンドも、通常はヘッジ比率は低いはずである。しかし、円安株高予想から日本株を購入する際、通常よりはヘッジ比率が高まるが、100%ヘッジするファンドマネージャーは、いたとしても、ごくわずかであるはずだ。

この説の決定的な間違いは、海外投資家がヘッジ比率を決める際、新規投資の分だけに対するヘッジ比率を考えることは100%ありえないということだ。海外投資家がヘッジ比率を考える際、新規に買う日本株だけではなく、昔から保有している円貨建て資産をも含む、全ての円貨建て資産に対するヘッジ比率を考えるのである。海外投資家が保有している日本株、日本債券の総資産額は、昨年9月末の時点で、245兆円であり、その大半は円貨建て資産である。海外投資家の円貨建て資産に対するヘッジ比率は一般的には低い。しかし、それは245兆円弱の円貨建て資産に対するヘッジ比率が低いのである。海外投資家の円貨建て資産に対するヘッジ比率が、2012年11月時点で仮に10%であったとする。彼らの円安期待が強くなれば、245兆円弱の円貨建て資産のヘッジ比率が10%増加して20%にまで上昇する可能性がある。その場合、2012年11月から現在までに24兆円前後の円売り外貨買いが発生し、円ショートのポジションが全部で48兆円存在することになる。そのうち、遠くない将来解消されるショートポジションが、24兆円存在していることになる。なんらかの原因で、海外投資家の予想が、円安から円高に変わった場合、24兆円の円ショートポジションの解消=円買いドル売りが発生するのである。

一部の反リフレ派は、ヘッジファンドによる投機による円のカラ売りや、海外投資家が日本株買いの際、同時に作った円のヘッジ売りのポジションが大量に存在し、その反対売買が発生した場合、超円高が再燃すると警告する人が存在する。私とは、為替売買が発生する原因が異なるのであるが、遠くない将来に、大量の円買い外貨売りが発生するという点では、完全に意見が一致している。

問題は、黒田日銀総裁も、リフレ派の主流派もこうした危険性をほとんど認識していないことである。2012年11月-2013年11月の間に、証券投資収支が26.6兆円の黒字になったにもかかわらず、円高ではなく、円安になったという事実から目をそらしている。現在までの金融緩和の最大の景気回復経路である、円安が発生している構造を解明せずに、景気が回復した、インフレ率が上昇したと喜んでいるだけであるからだ。2012年11月から発生した円安株高と景気回復に浮かれ過ぎて、足元の危険性を見失ってしまっている。

現在の景気回復は、海外投資家の円安期待という非常に不安定なものに支えられていることは間違いない。黒田総裁の2%インフレ実現に向けての意思は強く、必要があれば、今後も追加金融緩和の実施もためらわないであろうという海外投資家の黒田総裁に対する強い信頼感があるからこそ、円安が継続し、現在も景気回復が続いているのである。こうした強固な円安期待が形成された理由の一つは、昨年4月4日の異次元金融緩和が、大半の海外投資家が予想していた以上に大規模な金融緩和政策であったからであろう。しかし、異次元金融緩和は、国内投資家が、無リスク資産からリスク資産へと資金を移動させることには完全に失敗し、反対に、大量のリスク資産から無リスク資産へと資金を移動させるという意図とは正反対の結果をもたらした。

黒田総裁は、現状においても、先行きにおいても、強気の経済見通しを維持し、異次元金融緩和だけで消費税増税を乗り越え、2%までのインフレ実現も可能であると考えているようである。一方、現在すでに、海外投資家は、追加金融緩和を多少は期待しているようである。この乖離が大きく広まり、海外投資家の黒田総裁の金融緩和に対する姿勢への信頼が崩れた場合どうなるのであろうか。ミスター・クロダはもうこれ以上金融緩和を強化しない、日本の投資家は、相変わらず外国証券を買わない、その場合、円安は続かない、それならば円のショートポジションを保有するのは危険である、と考え方が変わるであろう。その場合、大量の円買いが円買いを呼び起こし、急激な円高が再燃することになる。1ドル=80円、日経平均株価9000円までの円高株安が発生し、デフレ不況が再び到来し、異次元金融緩和は無意味なものとなってしまうであろう。急激な円高が本格的に始まると、海外投資家の黒田総裁に対する失われた信頼を取り戻すことはできなくなり、その後に追加金融緩和を実施しても、効果は少なく、円高進行を止めることができなくなるのである。

本日2月4日の為替レートは、1ドル=101円近辺、前日比約1円の円高ドル安、日経平均株価は14008円、前日比610円安。急激な円高株安の進行である。私は、超円高の再燃という悪夢のシナリオの発生確率は20%と前から言い続けている。理論的にはその確率は変わってはいないと思う。しかし、目の前で急激な円高株安が進行すると、心理的には超円高の再燃という恐怖感を抑えることができなくなるのである、

海外投資家の円安株高期待のような不安定なものに日本経済を依存させることは望ましくない。いくら経済がグロバール化しているとは言え、直接的な日本経済に対する悪影響がゼロに近い一部の新興国の問題が、円高株安を通じて日本経済に揺さぶりをかけてくる。海外で少しばかりの悪材料が出ると、円が急上昇し、株価が急落する構造は、日本の円安株高が、海外投資家だけではなく、彼らの円安株高期待という不安定なものに依存しすぎている証拠である。海外投資家の円安株高期待というのは、目に見えるブレーク・イーブン・インフレ率よりも、はるかに大きく日本経済を動かしているのである。にもかかわらず、目に見えないので、ほとんど無視されている。日本経済が、海外投資家の円安株高期待のような不安定なものに依存する構造を改めなければならない。国内投資家のあり余った資金を安定的に海外に流出させ、円安が安定的に推移するような構造に変えなければならない。その結果として、株高と景気回復が安定的に続くことが可能となる強固で自律的な構造を作り出さなければならない。

そうした景気回復が安定的に持続する強固で自律的な構造を作り出すためには、異次元金融緩和の第二弾の実施が不可欠である。日銀が国債を大量に買い越すことにより、国債金利はより低下し、国債の流動性も大きく低下する。その結果、従来、日本の国債に投資してきた多くの国内投資家は、不本意ながらも外債などのリスク資産を買わざるを得なくなる。日銀が国債購入金額の大幅な拡大を発表したならば、多くの国内投資家は、そうした政策を激しく非難することは間違いない。しかし、これが実現して初めて、日本のあり余る資金を吸収してきた国債市場から資金が流出し、外債などのリスク資産へと資金は流出していく。その結果、円安は安定的に推移し、超円高再燃のリスクは、限りなくゼロに近づく。なお、国内投資家の株に対する拒否症は外債よりはるかに強い(*2)。国内投資家が株の上値を買うようにさせるためには、異次元金融緩和の強化をあと数回実施する必要がある。それでも異次元金融緩和の第二弾があった場合、国内投資家による株の売り越し金額を減少させる効果はあると思う。

異次元金融緩和の第二弾を実施することにより、その効果が現れ、インフレやバブルが発生し始めれば、金融引き締めではなく、増税によりインフレやバブルを封じ込めるべきである。消費税増税が予定されており、そのような望ましいシナリオが実現する可能性は非常に低いと思うが、インフレやバブルが発生し始めれば、増税による財政再建が可能になる絶好のチャンス到来となる。従って、政府は、インフレやバブルが進行し始めた場合に、増税によって封じ込めると宣言すべきである(*3)。出口戦略を日銀に押しつけている限り、日銀は追加金融緩和を実施しにくい。インフレとバブルの抑制の責任を、日銀ではなく政府が負うと宣言すれば、日銀は行きすぎた金融緩和を全く心配する必要がなくなり、異次元金融緩和を何弾でも追加して打ち出すことが容易になる。

現在の日本経済は、ささやかなものかもしれないが、一応、繁栄への道を進んでいる。しかし、その道は崖っぷちを進む道である。油断すれば崖から簡単に落ちてしまう非常に危うい道である。早く崖っぷちの道から離れ、平原の中を通る安全な繁栄への道へと向きを変えなければならない。出口戦略の責任を政府が負うことを宣言し、日銀が早急に異次元金融緩和の第二弾を実施することこそが、日本経済の成長と、もう一つの難問である財政の再建という課題を同時に解決することが可能になる繁栄への道なのである。


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日銀ウォッチャー報告(2014年1月号)

マネタリーベース平残の推移2013012(グラフ)

2013年12月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で5兆円減少し、187.6兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201312(表)

上記の表に示した通り、季節調整済のマネタリーベース平残は、昨年2月の白川体制の末期から増加率が加速し、昨年11月までは高い増加率が続いていた。ところが、昨年12月に、季節調整済の前月比増加率はマイナスとなった。季節調整済のマネタリーベース平残が前月比でマイナスになったのは、2012年11月以来のことであり、2.6%もの大幅なマイナスになったのは、2011年12月以来のことであった。

12月の市中資金は、6.6兆円の不足であった。そこに、国債の購入5.7兆円、短期国債の購入3兆円、共通担保オペによる貸し出し1.6兆円、貸出支援基金による貸し出し1兆円などを中心とした金融調節により、合計11.3兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、4.7兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、11月末の102.4兆円から、12月末の107兆円へと、4.7兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、12月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比5兆円減少の187.6兆円になった。当座預金残高が前月比で増加したのにもかかわらず、季節調整済のマネタリーベース平残が前月比で減少した理由は、12月のマネタリーベースは、大幅に増加するという季節要因があるためである。

下記の表に示す通り、12月のマネタリーベース末残は201.8兆円であり、目標の200兆円を上回った。前月号では、昨年4月から11月までの金融調節を見て、日銀が季節調整済のマネタリーベース平残を前月比でマイナスにすることはなく、国債と短期国債の購入を増やし、12月のマネタリーベース末残を、207兆円-215兆円にまで増やしてくると予想した。日銀の金融緩和に対する強い姿勢について市場から疑問が持たれ、円高株安が進んでしまうことを避けると考えたからである。しかし、その予想は見事に外れた。12月も円安株高が続いているので、結果オーライであるが、私は、市場に対する日銀の金融緩和への信任を維持するためには、季節調整済での前月比マイナスという金融調節は、望ましくなかったと考える。


日銀BSとMB(実績と予想)201312

上記の表のように、今年の年末のマネタリーベースの予定残高は270兆円である。残り12ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、月間5.7兆円の純増が必要である。1月については、市中資金が13兆円の不足となる。国債については、7兆円の購入と想定する。短期国債は償還が7.3兆円あるので、購入金額は7.5兆円と想定する。貸出支援基金による大きな貸し出しは1月には実施されない。この結果、1月の資金供給は、長期国債と短期国債の購入で14.5兆円となる。1月末のマネタリーベース末残は、前月比1.5兆円前後の増加になると予想する。月間5.7兆円の増加目標には届かないが、12月の金融調節を考慮すると、資金不足が大きい月には無理をして増やさず、資金不足が小さい月に大きく増やすと考えざるをえないのである。季節調整済の平残に直した場合、前月比2兆円以上の増加になると予想する。

昨年4月4日に実施された異次元金融緩和の評価については、(*1)で詳しく説明した。その時指摘した、金融緩和がもたらしている異常現象が、国際収支面に存在し続けているので、今月号でも引き続き説明する。昨年10月までの国際収支表の問題部分を下記に掲載する。

国際収支201310

2012年11月以降、大胆な金融緩和が確実になると、海外投資家は、怒涛のごとく日本株を買い始め、国内投資家は、日本株を売り始めた。国内投資家は、日本株だけではなく、外国株や外国債券をも大挙して売り始めた。その結果として、昨年11月-今年10月の国際収支表における証券投資収支は、26.5兆円もの巨額の黒字になった。これは、大変大きな円高要因である。にもかかわらず、円高ではなく、円安方向に動いた最大の原因は、「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目が大幅な赤字になったからである。この3項目の赤字は、昨年11月末-今年10月末に、14.6兆円にのぼっている。「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目の合計は、長期で見れば、ゼロに近づく。従って、今後、少なくとも、14.6兆円の黒字、すなわち、円買い外貨売りが発生することになる。これは、大変大きな円高圧力になることは間違いない。

10月の証券投資収支は、7.3兆円の黒字であった。その内訳は、海外投資家が日本株を3.5兆円、日本債券を3.3兆円購入した要因が大きい。一方、10月は、「その他投資」で6.2兆円の赤字が発生している。一番目立った項目は、国内の金融機関などが短期の貸し出しを5.6兆円実施したことである。こうした取引の中で、ドル円の売買がぶつかり、結果としてドル円レートは9月末の98.8円から、10月末の98.5円まで、0.3円の円高が進行することになった。

11月の証券投資収支は、月次の速報ベースでは、1.3兆円の黒字であり、週次の速報ベースでは、12月第1-3週の収支は、3.5兆円の黒字となっている。11月以降も証券投資収支の黒字と「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目の赤字額合計は、拡大し続けている可能性が高い。

為替レートというものは、事後的に見た場合、変動の要因をよく理解できるものもある。しかし、事後的に見ても、よくわからない変動をすることが多々存在する。私が問題であると思うことは、よくわからない為替変動があると、為替ディーラーや為替ストラテジストたちは、ヘッジファンドの投機的な売買と決めつける傾向があることだ。よくわからない為替変動をヘッジファンドの売買と説明した場合、その説明を明確な根拠をあげて否定することができないことが多い。しかし、よくわからない為替変動の原因が、ヘッジファンドの売買であるという証拠を、誰も示すことができないのである。「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の赤字の大元の原因が、ヘッジファンドの売買が原因であるかどうかは、本当のところは誰にもわからない。ただ私は、一部はヘッジファンドの売買であることを否定しないが、大半がヘッジファンドの売買であるとは思えないのである。ヘッジファンドが数ヶ月以上の長期間、大量に円のショートポジションを持ち続けるとは考えられないからだ。ヘッジファンドのキャリートレードという見方も多いが、現在の米ドルの短期金利は、円の短期金利をほんの少し上回るだけである。加えて、短期で借りるならば、円ではなく、マイナスの金利が常態化しているスイスフランを借りた方が有利である。従って、円キャリーのポジションが大きく積み上がっているとは考えられないのである。

私は、「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目の赤字の大元の大部分は、海外投資家が保有する円貨建て資産に対するヘッジ売りであると書いてきた。海外投資家は、昨年9月末時点において、日本の株や債券などの証券を245兆円保有している。そのほとんどを占める円貨建て資産に対するヘッジ比率がゼロであることは、100%ありえない。具体的なヘッジ比率はわからないが、海外投資家が円の先安予想を持ち、全体で保有する円貨建て資産に対するヘッジ比率を10%引き上げた場合、24.5兆円の円売り外貨買いが発生する。このヘッジ売りは、年金や投信などの証券投資よりは期間が短く、ヘッジファンドなどの取引よりも期間が長い、中期的な取引が多いと思う。もちろん1日で解消される取引も、10年以上継続する取引もあるであろう。しかし、平均をとれば、数ヶ月-2年程度の取引が多いと思う。こうした円のショートポジションが、現在、数十兆円レベルで存在していることは間違いない。海外投資家の円レートの先行き予想が、円安から円高に変化した場合、こうした円のショートポジションの中から、簡単に10兆円レベルの円買い・外貨売りの売買が発生するのである。

このような海外投資家の日本の円貨建て資産をヘッジする取引は、常に発生している。こうしたヘッジ目的の取引は、短期で見た場合、ヘッジファンドやその他もろもろの投機家たちの売買よりは、金額が小さい。従って、短期の為替レートは、投機家たちの売買で決定されることになる。しかし、中期の為替レートは、経常収支、直接投資、証券投資、ヘッジ取引などに伴う売買で決定される。さらに長期の為替レートになると、ヘッジ取引が抜け落ちて、経常収支、直接投資、証券投資などに伴う売買で決定される。このように、為替レートの決定要因はいくつもあるのであるが、為替ディーラーや為替ストラテジストが解説すると、よくわからない為替変動をもたらす要因は、ほとんどすべてがヘッジファンドの投機的な取引であることになってしなう。

一部の為替ディーラー、為替ストラテジスト、反リフレ派の中には、現在、ヘッジファンドなどの投機的な円のショートポジションが巨大に蓄積されつつあり、その投機家たちが円の買い戻しを始めた場合、超円高が再発すると警告する人たちが存在している。こうした意見は、私の意見とは、ヘッジ対投機という異なる部分があるが、結論部分で、大量の円買いが遠くない将来に発生するという点では一致している。

昨年10月以降進行している円安も、海外投資家の日本株、日本債券買いという円高要因と同時に進行している。円安進行開始からあまり時間がたっていないので、10月以降の円売りの主体については、ヘッジファンドか、円貨建て資産を保有するヘッジャーかを区別することはできない。しかし、投機であろうと、ヘッジであろうと、そう遠くない時期に反対売買が発生することは、間違いない。大半のリフレ派は、現在存在する潜在的な円高リスクに気付いていないようである。

円安は輸出企業を潤わせ、円安の結果として生じる株高は、株を保有する個人から企業、金融機関までも潤わせる。異次元金融緩和で最も効果のある景気刺激ルートは、円安なのである。円安が続く限り、日本経済は安泰であるが、円が再び反転上昇に転じれば、日本経済は再びデフレ不況の世界に戻ってしまう可能性が高い。

日銀がマネタリーベースを増やし続ける限り円安が続く、という考え方は間違っている。先に書いたように、為替売買の主体は様々であり、その目的も様々である。従って、為替レートは、ある時期にはマネタリーベースによって決定されるが、ある時期には内外金利差や経常収支によって決定されたりする。マネタリーベースが為替レートに大きな影響を与える時期が存在するのは間違いないが、常に影響を与えることができるとは限らないのである。現在、円のショートポジションを持つヘッジャーたちが、日銀の金融緩和に不足を感じ、円高予想を持ち始めたならば、円のショートポジション解消により急激な円高が発生することがありうる。急激な円高が一度発生してしまえば、その後にマネタリーベースを増やしても、円安には戻らない可能性が高い。海外のヘッジャーたちが持つ、日銀が円安を継続させるために十分な量的緩和を続けるであろうという確信、日銀に対する信任を、一度失ってしまえば、その信任を簡単に取り戻すことはできないからである。従って、海外のヘッジャーたちが持つ円安予想、日銀に対する信任を失うような可能性のある行動を、日銀は避ける必要がある。そのため、昨年12月のような、季節調整済マネタリーベース平残の前月比マイナスという実績を作ることは、望ましくないのである。

アメリカがテーパリングの時期に入り、日米金利差の拡大見通しが現在の円安の原因になっているという意見も、ある程度は正しいと思う。「ある程度」がついている理由は、昨年5月22日にバーナンキFRB議長が議会証言でテーパリングを示唆すると、その翌日から為替レートは、いっそうの円安ではなく、円高へと急反転したからである。為替レートというものは、「金利差」や「マネタリーベース」に正しく反応してくれることもあるが、正しい反応と正反対の反応を示すこともよくあるからだ。「日米金利差拡大」、「FRBを上回る日銀のマネタリーベースの拡大」が円安につながる可能性は十分に考えられるが、「絶対に」と言うことはできない。正反対、すなわち円高につながる可能性も、少なからず存在するのである。

私の目から見れば、現在のリフレ派の主流派は、あまりにも慢心しすぎていると思われる。昨年1年間の円安株高、景気の回復を見て、反リフレ派に対する勝利宣言をする人も増えてきた。しかし、マネタリーベースの拡大→円安→景気回復のメカニズムは、現在の日本では、非常に脆弱なのである。たとえ消費税増税がなかったとしても、景気後退のリスクは存在するのである。この点は、反リフレ派の批判の方に、より多くの真理が含まれているケースが多い。この脆弱なメカニズムを強固なものにするためには、日本国内の過剰と思われる資金が、対外証券投資を通じて、安定的に海外に流出するメカニズムを確立させなければならない。2012年11月-2013年10月の証券投資収支は、26.5兆円もの巨額の黒字となっている。これは、現在の量的緩和のポートフォリオ・リバランス効果が大幅なマイナスであることを意味する。ポートフォリオ・リバランス効果が発生していないとか、少ししか発生していないという見方は、誤りである。日銀の量的緩和は、国内投資家の保有資産に対しては、大幅なマイナスのポートフォリオ・リバランス効果しか発生させていないのである。

現在の政策の延長線上で、異次元金融緩和のストック効果により、プラスのポートフォリオ・リバランス効果が発生する可能性は存在する。来年度の国債発行残高の増加額が、今年度を大幅に下回ることになりそうであるからだ。それ以外にも、経常収支の黒字が拡大せず、直接投資収支の赤字が拡大し続けるというシナリオもありうる。このシナリオは、日本の産業の空洞化現象がいっそう進行し、輸出主導の景気回復を伴わない悪い円安が続くことを意味するので、避けなければならないシナリオである。そして、海外のヘッジャーたちによる円のショートポジションの大規模な解消により、遠くない将来に、超円高が再発する可能性を否定することはできない。リスクシナリオは、限りなくゼロに近くすべきであろう。

失われた20年の間、日本の余剰資金が流れ込み、安定的に繁栄し続けてきたのは、日本の国債市場であった。この国債市場が、日本の余剰資金をブラックホールのように吸い込み、日本株、外国証券などのリスク資産に資金が回りにくい構造が続き、円高株安の大元の原因となってきた。私は、その構造を、ゼロ金利下で発生する一種のクラウディングアウトであると考えている。この場合、クラウディングアウトされるのは、設備投資ではなく、日本株や外国証券などのリスク資産に対する投資である。この構造を打破するためには、日銀が国債を大量に購入し、従来の日本国債に対する投資家が、日本国債を買えないようにする必要がある。最近、よく使われる言葉で言うと、「国債市場の機能不全」を発生させることが必要なのである。国債市場が機能不全に陥った場合、現在、国債を購入している国内投資家は、日本国債を購入しにくくなり、外国証券や日本株などを購入するしか道はなくなる。その時、量的緩和が国内投資家の保有資産に対してもたらすポートフォリオ・リバランス効果が、大幅なマイナスからプラスへと転換する。そして、国内投資家の資金が、安定的に海外へと流出する仕組みが確立され、安定的な円安と景気回復の持続が保障されるようになる。現在のところ、異次元金融緩和は、昨年4月4日の開始直後の時期を除いて、「国債市場の機能不全」を引き起こすことに成功していない。

しかし、実際に「国債市場の機能不全」を引き起こすことは、日本国債に対する国内投資家が持つ日本国債購入という既得権益を破壊することになる。加えて、「国債市場の機能不全」が発生すると、債券ストラテジストの存在意義をも否定することになる。債券ストラテジストは、日本国内で日銀の行動を最もよく観察しており、日銀との関係も深いエリート集団である。異次元金融緩和のさらなる強化は、こうした国内の抵抗勢力から政治的な反発を間違いなく受ける。「国債市場の機能不全」は、日本経済の再生のために必要な政策である。しかし、債券ストラテジストたちが、「国債市場の機能不全」は、日本経済全体を機能不全に導く、とんでもない政策だと、誤っているが、賛同の得やすい論理を使って非難してくるのが目に見えている。国債の大規模追加購入という異次元金融緩和のさらなる強化を実施するためには、反リフレ派だけではなく、こうした国内の抵抗勢力の政治的な反対圧力をも排除する必要がある。これは、実際に簡単なことではない。リフレ派の主流派の多くが現状に満足し、さらなる追加金融緩和を主張しないのは、正しい姿勢だとは思えない。リフレ派は、様々な方向から飛んでくる、国債の大規模追加購入という追加金融緩和反対の声を、正確な理由をあげて論理的に反論し、排除するようにならなければならない。その結果として初めて、日銀の異次元金融緩和の大幅な強化が正当化され、実際に実施されるようになる可能性が高まるのである。


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日銀ウォッチャー報告(2013年12月号)

マネタリーベース平残の推移2013012(グラフ)

2013年11月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比で8.7兆円増加し、過去最高の192.5兆円となった。

マネタリーベース平残の推移201312(表)

上記の表に示した通り、季節調整後のマネタリーベース平残は、今年2月の白川体制の末期から増加率が加速し、4月に黒田体制に移行してからも、高水準の増加速度が続いていた。10月は若干減速したが、11月には再び加速した。最初に示したグラフを見てわかる通り、9月以降は、マネタリーベース平残が、対前年比で見ても、オイルショック時の1973年11月に記録した43%を上回り、終戦直後の混乱期を除けば、過去最高の増加率を記録している。

11月の市中資金は、15.3兆円の不足であった。そこに、国債の購入8.4兆円、短期国債の購入8.0兆円などを中心とした金融調節により、合計16.6兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、1.3兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、10月末の101兆円から、11月末の102.4兆円へと、1.4兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、11月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比8.7兆円増加の192.5兆円になった。当座預金残高増加額と季節調整後のマネタリーベース平残の増加額に差がある理由は、11月のマネタリーベースは、増加しにくいという季節要因があるためである。


日銀BSとMB(実績と予想)201312

上記の表のように、今年の年末のマネタリーベ-スの予定残高は200兆円である。残り1ヶ月間で増やすので、マネタリーベ-ス末残は、月間8.4兆円の純増が必要である。12月については、市中資金が4.7兆円の不足となる。国債については、残高が目標を超えているので、償還分に等しい4.1兆円だけ購入すると仮定する。短期国債は償還が6.5兆円あるので、全額ロールオーバーすると仮定する。貸出支援基金の残高は少し増えるであろうが、その分、貸出金(共通担保オペ)などを含むその他の項目が減少し、この2項目の合計はゼロと仮定する。従って、前者の2項目のオペだけの合計で10.6兆円の資金供給となる。その他、今まで無視してきた紙幣の増加が4.9兆円見込まれる。この場合、12月のマネタリーベースの末残は、10.8兆円の増加(10.6兆円+4.9兆円ー4.7兆円)となり、12月の末残は、202.4兆円(191.6兆円+10.8兆円)になる。しかし、12月は、季節的にマネタリーベース末残が跳ね上がる月である。この仮定計算の場合では、12月の季節調整後のマネタリーベース平残を計算すると、11月比でマイナスになってしまう。12月の季節調整後のマネタリーベース平残を、11月比でプラスにするためには、少なくとも、12月の末残は、207兆円程度は必要である。さらに目標を、季節調整後のマネタリーベース平残で200兆円を目指すならば、12月の末残は、215兆円程度は必要である。従って、日銀は、先に示した仮定計算より、国債か短期国債を買い増して、12月末のマネタリーベース末残を、207兆円-215兆円くらいにまで引き上げてくると予想する。

4月4日の異次元金融緩和の評価については、(*1)で詳しく説明した。そこで指摘した金融緩和がもたらした異常現象が、国際収支面に存在し続けているので、今月号でも説明することにする。

昨年11月以降、景気回復が続いているが、その最大の原動力は、円安の実現であった。12月2日に、黒田日銀総裁は、「金融緩和の波及経路の中で、最も重要なルートは、実質金利の引き下げ」、と発言しているが、これは完全に正しい発言である。日銀総裁が円安誘導を目指して金融緩和を実施していると発言したならば、G20声明文違反となり、世界中から非難され、日銀は円高に戻すために金融緩和の縮小を強要されるかもしれない。従って、看板は実質金利の引き下げ、本音は円安の実現、という態度を日銀総裁は取り続けなければならない。今後も、金融緩和の結果としての景気回復を継続させるためには、最低限、現在の円安を維持することが必要である。より一層の円安が実現できるのならば、より望ましい。ところが、国際収支表の中には、一層の円安ではなく、将来の円高を示唆する数値が並んでいるのである。9月までの国際収支表の問題部分を下記に掲載する。

国際収支201312

昨年11月以降、大胆な金融緩和が確実になると、海外投資家は怒涛のごとく、日本株を買い始め、国内の投資家は、日本株を売り始めた。国内投資家は、日本株だけではなく、外国株や外国債券をも大挙して売り始めた。その結果として、昨年11月-今年9月の国際収支表における証券投資収支は19.1兆円もの巨額の黒字になり、大変大きな円高要因となった。にもかかわらず、円高ではなく、円安方向に動いた最大の原因は、「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目が大幅な赤字になったからである。この3項目の赤字は、昨年11月末-今年8月末には14.5兆円にのぼっていた。それが、昨年11月末-今年9月末には、8.3兆円にまで減少している。ただし、政府の外為特会が、為替先物の買いを外国証券などの他の商品に乗り換えるという作業を行っている。この金額は、今年4月末-今年9月末に350億ドルに上り、その結果、約3.5兆円の資金が、「その他投資」の赤字から、「外貨準備増減」の赤字に振り替わった。この特殊要因を考慮した場合、「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目の赤字額合計は、11.8兆円になる。「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目の合計は、長期で見れば、ゼロに近付く。従って、今後、少なくとも、8.3兆円-11.8兆円の黒字、すなわち、円買い外貨売りが発生することになる。これは、大きな円高圧力になることは間違いない。

9月の証券投資収支は、5.3兆円もの大幅な赤字であった。その内訳は、海外投資家が日本株・日本債券を3.4兆円売却したことと、国内投資家が長期債の貸借取引を使って、2.1兆円の資金を流出させたことの影響が大きい。国内投資家は、外国株、外国債券を依然として売り越している。一方、9月は、「その他投資」で6.4兆円もの大幅な黒字が発生している。非常に細かく分かれた項目の中で、一番目立った項目は、海外投資家が銀行からの短期の借り入れを4.9兆円返済したことであった。こうした取引の中で、ドル円の売買がぶつかり、結果としてドル円レートは8月末の98.4円から、9月末の97.8円まで、ほんのわずかな円高が進行することとなった。

10月の証券投資収支は、月次の速報ベースでは、3.5兆円の黒字であり、週次の速報ベースでは、11月第1-3週の収支は、0.7兆円の黒字となっている。(*2)で指摘した通り、国際収支表の数値は、単月ベースで見ると、かなりの誤差が含まれていると考えられ、数値が蓄積した長期で見た場合、その誤差は縮小すると考えられる。従って、毎月の数字に一喜一憂してはならないが、9月末に8.3兆円-11.8兆円にまで減少した「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目の赤字額合計は、直近では再び拡大している可能性が高い。異次元金融緩和は、海外投資家の保有資産に対しては、大幅なプラスのポートフォリオ・リバランス効果を及ぼしてきたが、国内投資家の保有資産に対しては、依然として大幅なマイナスのポートフォリオ・リバランス効果しか及ぼしていない。昨年11月-今年9月の証券投資収支が、19.1兆円もの黒字であることが、その証拠である。国内投資家の保有資産に対するポートフォリオ・リバランス効果が安定的にプラスになり、国内の余剰資金が海外へ安定的に流出するようにならなければ、安定的な円安を維持することができない。「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目の累積赤字が、黒字に転換する際、急激な円高が発生する可能性を否定することができない。

10月8日以降、円安がジリジリと進行している。この後、速報値ベースで見て特徴的なことは、11月に入ってからの海外投資家による日本株買い越しの拡大ぶりである。11月第1-3週の期間に2兆円強も日本株を買い越している。この海外投資家の日本株買いこそが、日経平均株価が、年初来高値を更新した最大の原動力であった。このパターンは、過去23年間不変のパターンである。ただ、国内投資家は、11月第1-3週の間に、2.1兆円の外国債券を買い越しており、この現象は、昨年11月-今年5月と比較すると、少し変化が生じてきている。それでも速報値ベースの証券投資収支は、10月と、11月の最初の3週間は黒字である。黒字であるのにもかかわらず、円高ではなく、円安が進行しているのは、「その他投資」、「金融派生商品」、「誤差脱漏」の3項目の合計が再び赤字となっている可能性が高い。急激な円高が発生する可能性は8月末から9月末にかけて少し減少したが、10月末、11月第3週と時間がたつにつれて、再び高まっていると考えられる。私の直観で、直近においてでも、1ドル=80円といった急激な円高が発生する可能性が20%くらいの確率で存在すると考えている。急激な円高が発生する可能性は高くはないが、仮に発生した場合、株価の暴落を引き起こし、景気は一気に後退へと向かう。異次元金融緩和は無意味な政策と評価される。そのようなことは絶対に避けなければならない。

7-9月期のGDP統計は、成長率が前期比+0.5%と減速しながらも成長し続けていた。しかし、寄与率を見ると、公共投資で+0.4%、在庫投資で+0.4%であり、この2つの寄与率を差し引くと-0.3%というマイナス成長であった。7-9月期も経済成長は続いていたが、もっぱら財政政策が効果を発揮しており、金融政策の寄与率は、ゼロかマイナスであった。金融緩和否定論者が、この結果を見て大喜びしていた。日銀もリフレ派の主流派もこの現状を素直に受け止めるべきである。現在進行中の円安がさらに進んだ場合、個人消費、設備投資、純輸出などの伸びは、再び回復するであろう。ただ、最近の円安は、日銀のさらなる金融緩和を一部織り込みつつあるようである。その場合、金融政策の現状維持を続けただけでも、円安期待が裏返しとなり、将来、円高が再燃する。最悪の場合、超円高に戻ってしまう。現在の金融緩和は、実験ではない。スイスや香港で、急激なインフレが発生しないことが証明済みの政策である(*3の後半を参照)。異次元金融緩和だけで、国内投資家の保有資産に対するポートフォリオ・リバランス効果を、現在の大幅なマイナスから、プラスの領域まで転換させることは困難である。すなわち、現在のマネタリーベースの増加額は、円安を維持、もしくは誘発して、経済成長率を引き上げるために必要な金額を大幅に下回っている。マッカラム・ルール(2年で物価を2%上昇させるのに必要なマネタリーベースの金額を算出する元になった理論)に従っていても、金融緩和がこれ以上の景気回復に役立つことはできないのである。現在進行中の円安も、長続きするような形での円安ではない。国内投資家の資金を安定的に海外へ流出させ、円安を維持、拡大させることが何よりも必要である。日銀は一刻も早く、大規模な追加金融緩和に踏み切るべきである。


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日銀ウォッチャー報告(2013年11月号)

マネタリーベース平残の推移2013011(グラフ)

2013年10月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比で2.3兆円増加し、過去最高の183.8兆円となった。

マネタリーベース平残の推移201311(表)

上記の表に示した通り、季節調整後のマネタリーベース平残は、今年2月の白川体制の末期から増加率が加速し、4月に黒田体制に移行してからも、高水準の増加速度が続いていた。最初に示したグラフを見てわかる通り、9月は、マネタリーベース平残が対前年比で見ても、オイルショック時の1973年11月に記録した43%を上回り、終戦直後の混乱期を除けば、過去最高の増加率となった。その9月と比較すると、10月のマネタリーベース平残の前月比、前年比の増加率は、若干鈍化することになった。

10月の市中資金は、10.9兆円の不足であった。10月としては過去最高の不足額である。これは、日銀が市中から購入した国債や短期国債が満期を迎えると、資金不足が拡大するという仕組みになっているので、当然の結果である。そこに、国債の購入7.6兆円、短期国債の購入7.5兆円、貸出金(共通担保オペ)回収の1兆円などを中心とした金融調節により、合計14.5兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、3.7兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、9月末の97.4兆円から、10月末の101兆円へと、3.7兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、10月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比2.3兆円増加の183.8兆円になった。当座預金残高増加額と季節調整後のマネタリーベース平残の増加額に差がある理由は、10月のマネタリーベースは増加しやすいという季節要因があるためである。


日銀BSとMB(実績) 201311

日銀BSとMB(予定) 201311


上記の表のように、今年の年末のマネタリーベ-スの予定残高は、200兆円であり、残り2ヶ月間、等金額で増やすと仮定した場合、マネタリーベ-ス残高は、月間5.1兆円の純増が必要である。3月末-10月末のマネタリーベース純増額平均が月間6.3兆円であったので、今後は、マネタリーベース純増の速度を、少し引き下げても良いことになる。

11月については、市中資金が15兆円の不足となる。11月の資金不足額としては、過去最高の金額である。マネタリーベースの末残を月間で5.1兆円増やす場合、20.1兆円の資金供給が必要である。ただ、12月は資金不足の金額が大幅に減少するはずなので、11月中の資金供給は、17.5兆円程度に抑えると予想する。この場合、11月のグロスの国債購入金額は7.5兆円、短期国債の購入金額は10兆円となる。同様に大幅な資金不足となった7月は、短期国債の購入額と貸出金(共通担保オペ)の残高を増加させた。しかし、11月は、7月当時よりも、当座預金残高の水準が高くなっており、これ以上、貸出金の残高を増やすことは不可能である。季節調整後のマネタリーベースの前月比増加額をプラスに維持するためには、短期国債の購入を増やすしかない。11月のマネタリーベース末残は、前月比で2.5兆円の増加、季節調整後のマネタリーベ-ス平残も同じくらいの増加となり、過去最高を更新するであろう。

4月4日の異次元金融緩和の評価については、(*1)で詳しく説明した。それでも、現状の金融政策に対してあまりにも危機感を感じ続けているので、ほとんど似た内容を繰り返し書かせてもらうことにする。異次元金融緩和の効果が現れたのは、異次元金融緩和の開始より5ヶ月前の昨年11月14日からであり、その効果は、今年5月22日に円安・株高がピークを打つとともに、一旦、終了した。その後の異次元金融緩和の効果は非常に小さく、足元の経済成長は、主としてアベノミクスの第2の矢である公共投資に支えられている。今年度いっぱいは、消費税増税前の駆け込み需要の発生により、堅調な成長が持続する可能性がある。しかし、それらは、金融政策とは無関係の経済成長である。一方、現在の金融政策を継続した場合、超円高・ドル安の再発で、5月22日以前の大きな成果が台無しになってしまう可能性を否定することができない。従って、追加の大規模な金融緩和が必要不可欠である。その理由を説明するために、国際収支の表を下記に示す。

国際収支201311

アベノミクスの最大の成果は、円安の実現である。反リフレ派の中でも、円安実現だけは成果として評価してよいと言う人も現れてきた。昨年11月以前の不況の最大の原因は超円高であり、超円高の是正こそが、景気回復、経済成長実現のために、最低限必要な条件であった。為替レートは、昨年11月14日から今年の5月22日まで円安が続き、その後、円安は一服している。円安の結果として発生した株高の動きも、景気回復へのセンチメントをもたらしただけではなく、実際の消費支出をも拡大させた。しかし、円安の基盤は脆弱であり、超円高の再発の可能性を否定することができない。昨年11月以降の円安を主導した主体は、「直接投資」、「金融派生商品」、「その他投資」、「誤差脱漏」のセクターから流出した資金であった。このうち、「直接投資」は、半永久的に赤字が続く可能性がある。一方、「金融派生商品」、「その他投資」、「誤差脱漏」の3項目は、中長期で見た場合、その合計はゼロに近い数字になる。昨年11月-今年8月の期間、この3項目で14.5兆円の赤字を記録している。この赤字は、長期間継続することはありえない。遠くない将来、この3項目で14.5兆円の黒字、すなわち外貨買い円売りが出ることは、間違いない。

なお、「外貨準備増減」も赤字が続いているが、これには特別な理由がある。今年4月末の時点で、外国為替特別会計は、為替の先物の買いポジションを700億ドル保有していた。その後、8月末までにそのポジションを420億ドルにまで縮小し、280億ドル分売却した。この280億ドルは、外貨建証券に投資されたと推測するが、金利上昇、債券価格低下の時期に重なり、外貨建証券の保有残高が減少しているので、正確なことはわからない。それ以上に重要ことは、為替先物のポジションは、外貨準備の中に含まれないことである。為替先物の買いポジションが閉じられ、外国証券のような資産を保有するようになると、「外貨準備増減」の赤字は、その分拡大する。為替先物の買いポジションが他の資産に振り替えられた結果、外貨準備増減の赤字幅が280億ドル、約2.8兆円拡大し、代わりに、「その他投資」の赤字幅が、約2.8兆円縮小したのである。従って、この特別な操作がなければ、昨年11月-今年8月の外貨準備増減は2兆円の赤字ではなく、0.8兆円の黒字であり、「その他投資」の黒字も5.3兆円ではなく、8.1兆円であったはずであるのだ。昨年11月-今年8月の「金融派生商品」、「その他投資」、「誤差脱漏」の3項目の赤字合計金額は、14.5兆円ではなく、17.3兆円であったのである。従って、遠くない将来、必ず発生する円買い外貨売りの金額は、おそらく17.3兆円であろう。14.5兆円という数字は、その他の様々な特殊要因が発生した可能性を考慮に入れた、非常に保守的に見積もった数字である。

最悪のシナリオは、この14.5兆円の円買いの一部の発生が円高を引き起こし、円高の進行が14.5兆円かそれ以上の円買いをスパイラル的に発生させ、超円高が再発する、というものである。1ヶ月前には、最悪のシナリオの発生確率を、直観で20%と書いた。このようなリスクが生じる大元の原因は、昨年11月-今年8月に、「証券投資」の項目で24.4兆円もの黒字が発生したことにある。これは、昨年11月に、無制限の金融緩和、大胆な金融緩和が実施されると予想されると、日本の国内投資家は、先を争って、日本株や外国株、外国債券を怒涛のごとく売り始めたからである。中央銀行が金融緩和を実施するとの予想が確実になれば、無リスク資産から株や外国証券などへのリスク資産へ資金を移動させるのが、普通の投資家の行動である。ところが、国内投資家は、それとは180度正反対の行動を取ったのである。日銀の大胆な金融緩和の予想が確実となった結果、日本のリスク資産、すなわち日本株を、国内投資家は大規模に売却し、反対に日本株を買い向かったのは、海外投資家だけであった。加えて、国内投資家は、外国株、外国債券も大量に売却するようになった。その場合、普通は、日本株の買い、外国証券の売りの需要に基づく円買い・外貨売りが発生し、円高が進行しなければならない。しかし、上記のように、「直接投資」と「金融派生商品」、「その他投資」、「誤差脱漏」のセクターで大量の円売り・外貨買いが発生し、円レートは、結果として円安方向に動いたのである。「直接投資」を除く3項目の円売り・ドル買いの大元の主体は、短期筋の投機でもなく、長期筋の投資でもない、普通はあまり使われない言葉である中期筋と言った表現が適切な、海外投資家の保有円資産に対するヘッジ売りだと考えている。しかし、そうした流れは、今年の5月22日に一旦終了した。その後は、「証券投資」の黒字も、ほぼなくなった。「直接投資」の赤字は続いているが、「金融派生商品」、「その他投資」、「誤差脱漏」の3収支の合計は黒字に変化している。現在は、円高進行が止まっているが、5月22日以前の円安の効果がより顕在化して「経常収支」の黒字額が拡大し、「直接投資」の赤字額に近づいた場合、「金融派生商品」、「その他投資」、「誤差脱漏」の3収支の黒字は、円高方向に為替レートを動かすことになる。

日銀の黒田総裁は、金融緩和の結果としてのポートフォリオ・リバランス効果は、少しずつ現れていると述べている。理由として、銀行の資産が、国債から国内での貸し出しや外貨建ての貸し出し、株式投資へと少しずつ移転し始めていることをあげている。一方、生保や年金などの国内の機関投資家が、株や外債を買う動きを見せないので、ポートフォリオ・リバランス効果は発生していないという意見も多い。しかし、実際に発生したのは、ごくわずかなプラスのポートフォリオ・リバランス効果と、巨額のマイナスのポートフォリオ・リバランス効果である。昨年11月-今年8月の「証券投資」が、24兆円もの過去に例のない巨額の黒字を計上していることが、その証拠である。プラスのポートフォリオ・リバランス効果の大半は、海外投資家のポートフォリオに対してであり、国内投資家のポートフォリオ・リバランス効果の合計は、大幅なマイナスであるのだ。国内投資家のポートフォリオ・リバランス効果がより拡大し、「証券投資」が安定的に赤字になり、円売り・外貨買いが継続するようにならなければ、安定的な円安を維持することはできない。それが発生する前に、「金融派生商品」、「その他投資」、「誤差脱漏」の14.5兆円の累積赤字が、大幅な黒字に転換し始めれば、超円高が再発してしまう。

現在の日本は、今年のノーベル経済学賞を受賞したファーマ教授が、理論展開の前に当然の前提として置いたポートフォリオのハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターンという前提が全く成立しない世界である。そして、シラー教授のバブル理論と正反対の大規模な負のバブルの長期継続拡大という現象が発生している。ファーマ教授やシラー教授の理論は、アメリカを中心とする海外では成立し、現状分析に役立つ理論であるかもしれない。しかし、その理論は、日本では全く成立しない。そうした恐ろしい現実を一部だけ覆い隠しているのが、海外投資家の大規模な日本株買い、日本円売りなのである。

国内投資家は、過去20年以上に及ぶ資産デフレと円高の結果、リスクに対してあまりにも敏感になりすぎ、リスク資産の価格が少し戻ると、過去最高の速度でリスク資産を売るという行動を起こすように変化してしまった。リスク資産に、過去に例のないような大収縮が発生しているのだ。金融緩和の強化が予想され、実施された過去10ヶ月間に、24兆円ものリスク資産を売って無リスク資産に乗り換えるというという現象は、世界史上で一度も発生したことのない異常な現象だと思う。過去20年以上続いた資産デフレと円高継続の間に、日本人の行動パターンが異常をきたしてしまったと考えるしかない。金融緩和の強化が、24兆円ものリスク資産を売りまくるという異常な現象を発生させたという事実は、国際収支統計を見れば、非常に明確に見てとれる。にもかかわらず、その現象を異常だと認識する人があまりにも少なすぎる。指摘されるのは、ポートフォリオ・リバランス効果がゼロであるとか、金融緩和の継続が、バブルを発生させるという警戒感ばかりである。

リフレ派の主流派は、国際収支統計を、もう一度よく見るべきである。国内投資家が24兆円もの日本株、外国証券を売却する中で、円安・株高が発生し、今年の5月22日以前に、潜在成長率を大きく上回る経済成長が実現できたという事実を正確に認識するべきである。5月22日以降は、金融緩和の効果は小さくなってしまった。にもかかわらず、いずれ効果がまた現れるであろうと待ちの姿勢をとることは、超円高の再発を引き起こす可能性が残る危険な政策である。効果が小さいという点では、むしろ、反リフレ派の現状分析の方が正しい面がある。効果が小さ過ぎるのにもかかわらず、そのうち効果が現れるであろうと言ったまま、政策を変更しない。大変残念なことであるが、黒田総裁とその周辺のリフレ派たちは、以前の白川総裁時代の主流派のようになってしまったように見える。

日銀は、マッカラム・ルール(2年で2%のインフレ率を実現するために必要なマネタリーベースの金額を算出する根拠となった理論)を捨て去る必要がある。そして、金融緩和の強化が予想されて以来、10ヶ月間に24兆円ものマイナスのポートフォリオ・リバランス効果が発生するという従来の経済学では説明のできない行動パターンを取り続ける主体へと、日本人の行動パターンが大きく変化してしまったことを理解することが必要である。これは、経済学というよりは、心理学の世界である。そして、その異常な行動を、正常化させるためには、どのような政策が必要かを考えなければならない。現在の日本で、行きすぎたインフレが発生するとすれば、輸入する資源、食糧価格が高騰したり、海外投資家の円売りの結果、円安が継続する時期くらいであろう。生産年齢人口の減少=人出不足の深刻化=賃金の上昇は、今後、構造的なインフレ圧力となるが、今すぐに発生することではない。バブルが起こるのも、海外投資家が継続して日本の資産を買い続ける時期くらいである。現在の日本では、行きすぎた金融緩和策が、日本人の行動を変化させ、その結果として、行きすぎたインフレやバブルへと発展する可能性が非常に低くなっている。一番最初のグラフで示した、マネタリーベースの対前年比上昇率が43%という従来の記録を作った1973年11月時点の日本人と、現在の日本人は、全く異なる行動パターンをとるように大きく変化したというのが、歴史を詳細に分析した結果、導き出すことのできる結論である。終戦直後のハイパーインフレ、1970年代の狂乱インフレ、1980年代後半の資産バブルを2度と再現させてはならないという強固な意志を持った日銀が、過去20年以上、必要とされる金融緩和の実施を避け続けてきた。異次元金融緩和は、20年前に実施されるべき政策であった。その結果、日本人の行動パターンは、世界の多くの人たちの行動パターンの平均から、大きく乖離した異常とも言えるパターンへと変化してしまった。日本人の行動パターンを元に戻し、正常化させるためには、「証券投資」の項目が、大幅な黒字ではなく、安定的な赤字となり、国内投資家の資金が海外に流出し、円安・株高が継続することが必要である。そのためには、追加の大規模な金融緩和策が、必要不可欠な政策なのである。


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日銀ウォッチャー報告(2013年10月号)

マネタリーベース平残の推移2013009(グラフ)

2013年9月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比で7.8兆円増加し、過去最高の181.5兆円となった。

マネタリーベース平残の推移201308(表)

最初に示したグラフを見て分かる通り、 一昨年3月の大震災の直後、季節調整後のマネタリーベース平残は、一旦、急増した。その後しばらく横ばいを続けていたが、上記の表で示した通り、昨年の春頃から再び増加傾向となった。今年2月の白川体制の末期から増加率は加速し、4月に黒田体制に移行してからも、高水準の増加速度が続いている。

9月の市中資金は、3.6兆円の不足であった。そこに、国債の購入7.3兆円、短期国債の購入7.0兆円、貸出金(共通担保オペ)回収の2.4兆円などを中心とした金融調節により、合計12.4兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、8.8兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、8月末の88.6兆円から、9月末の97.4兆円と、8.8兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、9月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比7.8兆円増加の181.5兆円になった。当座預金残高増加額と季節調整後のマネタリーベース平残の増加額に差がある理由は、9月のマネタリーベースは増加しやすいという季節要因があるためである。

なお、6月に実施された貸出支援基金は3.2兆円であった。そのため、先月号では、9月の貸出支援基金の増加額を3兆円と予想していた。実際には0.9兆円であり、予想を2.1兆円下回ってしまった。金利0.1%、期間3年というのは、相当優遇された貸し出しであると思っていたが、それですら札割れとなった。


日銀BSとMB(実績) 201310

日銀BSとMB(予定) 201310

従来は、上記の表に、月末のバランスシート残高を示してきたが、今月は、バランスシート残高の公表が遅いので、9月20日時点のバランスシート残高を示した。上記の表のように、今年の年末のマネタリーベ-スの予定残高は、200兆円であり、残り3.3ヶ月間、等金額で増やすと仮定した場合、マネタリーベ-ス残高は、月間6.9兆円の純増が必要である。4月1日-9月20日のマネタリーベース純増額平均が月間7.2兆円であったので、今後は、マネタリーベース純増の速度を、引き下げていく必要がある。

10月については、市中資金が9.7兆円の不足となる。10月のグロスの国債購入金額は、7兆円と想定する。短期国債の償還が6兆円あるため、これをすべてロールオーバーすると仮定する。10月は、貸出支援基金による貸し出しは行われない。この資金調節だけで、10月の資金供給は、13兆円となる。10月の市中資金は、9.7兆円の不足なので、9月のマネタリーベース末残は、前月比で3.3兆円の増加になる。月間に必要なマネタリーベース純増額は6.9兆円なので、少なすぎるように感じる。従って、短期国債の購入金額を1兆円増やし、7兆円購入すると想定する。その結果、10月のマネタリーベース末残は、前月比4.3兆円の増加と予想する。10月のマネタリーベースの末残、季節調整後のマネタリーベ-ス平残は、ともに過去最高の金額になることは間違いない。

10月1日に、消費税の3%増税と、あわせて5兆円(厳密には6兆円)の経済対策を実施することが決定された。5兆円は、大体、消費税増税の2%分の金額であるので、2014年度の実質増税は、消費税1%分になる。消費税増税3%だけでは、経済に対する打撃が大きすぎるので、とりあえず1%分の増税にとどめるという判断は、妥当なものであったと思う。(*1)で詳しく説明した通り、1997年に実施された消費税増税は、他の増税と合わせて、景気を後退へと導いた。安倍総理が、その時の経験から、正しい教訓を学んだことは評価したいと思う。しかし、それに伴う経済対策の中に、金融政策が含まれていなかったことは、大変残念であった。

これまでの日本は、景気対策を、金融政策ではなく、財政政策に頼り過ぎてきた。財政政策は、金融政策よりも効果が大きいが、借金の増加という大変大きな副作用がある。金融政策を景気対策として使う場合、効果が少ないので、大規模に実施する必要がある。そして、その副作用は、インフレとバブルである。過去20年あまりの日本経済は、インフレとバブルに無縁であっただけではなく、デフレと負のバブルが長続きしすぎていた。従って、過去20年間の景気対策の際に、金融政策を中心にした景気対策を実施してきたならば、デフレ不況にも、巨額の政府債務にも悩まされることはなかったのである。今回の消費税増税も、財政再建が目的なのであるから、その悪影響を相殺するため、国債を新規に発行したり、税金の使い残しと予想以上の税収増加分を、借金返済に回さずに景気対策として使うのは、国債発行残高の増加につながり、財政再建という本来の趣旨に反する。従って、今回もまた、景気対策としては、金融政策を中心とすべきであった。

貨幣は中立的か非中立的か、という議論が昔から行われている。中立的とは、マネーストックの増加は、物価の上昇を引き起こすが、実質GDPの上昇は引き起こさないという考え方である。一方、非中立的とは、マネーストックの増加が、物価だけではなく、実質GDPの上昇をも引き起こすという考え方である。どちらが正しいかがすぐに決着するよう簡単な問題ではない。しかし、リフレ論者の多くは、貨幣の非中立性の立場を取る人たちであるはずだ。リフレ政策により、インフレ率を上昇させると同時に、実質GDPの上昇も実現可能であると考えるから、リフレを叫ぶのである。消費税を増税すると、増税による実質所得と実質消費の減少を引き起こす。この結果、需給ギャップが拡大し、消費税増税分を除く物価の上昇率の低下を引き起こし、同時に不況圧力を発生させる。来年4月の消費税増税が、1997年に起こった不況と同じタイプの不況を引き起こす可能性を、完全に否定することができない。その景気対策としては、財政、金融の両政策があるのだが、リフレ派が主導権を握った今回こそ、金融政策が中心になることを期待していた。しかし、今回もまた、金融政策ではなく、財政政策となってしまった。

日銀の黒田総裁の考え方は、消費税増税が不況を引き起こす圧力は小さいという、伝統的な財務省の考え方であり、私が(*1)で大反論を加えた考え方である。従って、消費税増税を強く支持したが、自ら金融緩和の強化を打ち出すことはなかった。黒田総裁の考え方も理解できるが、5兆円規模の経済対策が噂に上った時点で、経済対策の規模は2.5兆円にとどめ、残りは金融緩和の強化で対応する、というような提案をしてほしかった。

より理解できないのは、内閣官房参与の浜田氏と本田氏の考え方である。両氏の考え方は、私の考え方と近い。消費税増税の悪影響を大きく捉え、同時に貨幣の非中立性を支持する考え方の持ち主である。しかし、両氏とも、消費税の3%増税プラス金融緩和の強化ではなく、消費税の段階的増税を訴えた。結果としてこの考え方の代替となる政策が、10月1日の経済対策という形で実現することになった。

消費税増税が引き起こす不況圧力については、リフレ派の中でも、「小」から「大」まで、様々な意見が存在するであろう。私は「大」に近いのであるが、浜田氏や本田氏以外にも「大」に近い考え方を持っていた人はいたと思う。しかし、消費税増税対策で、金融緩和の強化を主張する声が小さかった理由が、どうも理解できない。

量的緩和の大きな問題点の一つは、マネタリーベースの増加が、実際に物価やGDPをどれほど増やすのか、はっきりわからないことである。しかし、一つだけ理論が存在する。マッカラム・ルールという理論である。一部のリフレ論者には、大変人気がある理論である。日銀の岩田副総裁は、異次元金融緩和の決定の際、2年で2%のインフレ率を実現するのに必要なマネタリーベースの金額を、マッカラム・ルールを使って計算したと述べている。

私は、マッカラム・ルールのように、マネタリーベースと名目GDP成長率、あるいはインフレ率との間に安定的な関係があるとはとても思えないので、マッカラム・ルールを使いたいとは思わない。その代わりに理論ではなく経験を使って判断をしている。(*2)で説明したように、スイスと香港では、日本よりはるかに大規模の実質的な量的緩和政策が実施されている。(*2)では、対GDP比で巨大なバランスシートのグラフを示したが、今回はマネタリーベースの増加率(前年比)のグラフを示す。


スイス、香港、日本のMB

スイスと香港のルールは、自国の通貨高の進行を食い止めることである。自国通貨に買いが入れば、無制限に通貨を発行し、発行した通貨を売却し、結果としてマネタリーベースを増やしてきたのである。それ以外のルールは存在しない。そして、香港の場合、マネタリーベースの増加率は、ピ-ク時で前年比146%増であり、その後に5%のインフレが発生した。スイスの場合、マネタリーベースの増加率は、ピ-ク時で前年比307%増であった。その後は、デフレが、ようやくゼロインフレになった程度である。日本のようにマネタリーベースを2年間に96%、前年比に直すと40%増加させるというルールを作る余裕はなったのである。香港やスイスの経験からすると、異次元金融緩和よりはるかに大規模な金融緩和を行っても、インフレ率は、高くて5%、下手をすればデフレの継続である。

日本では、消費税増税という、デフレ不況の圧力がある政策が実施される中で、マネタリーベースを増やすため、消費税増税分を除くインフレ率が、香港のように5%にまで跳ね上がる可能性は低い。円安進行が止まれば、日本もスイスのように、デフレかゼロインフレが続く可能性は残る。邪推かもしれないが、岩田副総裁を中心とするリフレ派の主流派は、マッカラム・ルールに縛られて、それ以上、量的緩和を拡大させることができないのではないだろうか。消費税増税に対する景気対策に、マッカラム・ルールを超える量的緩和を実施した場合、制御不可能なインフレが発生することを恐れているのではないだろうか。スイスや香港の経験からすると、そのようなインフレは発生しないのである。仮に、岩田副総裁、浜田、本田内閣参与を中心とするリフレ派の主流派が、スイスや香港の経験を知らずに、マッカラム・ルールに縛られていたとしたならば、残念なことである。巨額の富と所得を獲得しているスイスと香港の大規模な量的緩和政策を、是非参考にしてもらいたい。

関連記事
1997年の景気後退と消費税増税、アジア通貨危機、山一證券破綻(*1)
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日銀ウォッチャー報告(2013年9月号)

マネタリーベース平残の推移2013008(グラフ)

2013年8月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比で4.8兆円増加し、過去最高の173.7兆円となった。

マネタリーベース平残の推移201308(表)

最初に示したグラフを見て分かる通り、 一昨年3月の大震災の直後、季節調整後のマネタリーベース平残は、一旦、急増した。その後しばらく横ばいを続けていたが、上記の表で示した通り、昨年の春頃から再び増加傾向となった。今年2月の白川体制の末期から増加率は加速し、4月に黒田体制に移行してからも、高水準の増加速度が続いている。

8月の市中資金は、12.3兆円の不足であった。そこに、国債の購入6.8兆円、短期国債の購入7.5兆円、貸出金(共通担保オペ)1.1兆円を中心とした金融調節により、合計15.8兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、3.4兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、7月末の85.2兆円から、8月末の88.6兆円と、3.4兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、8月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比4.8兆円増加の173.7兆円になった。当座預金残高増加額と季節調整後のマネタリーベース平残の増加額に差がある理由は、8月のマネタリーベースは減少しやすいという季節要因があるからである。


20130903 日銀BSとMB(実績)(修正後) 201308

日銀BSとMB(予定) 201308

上記の表のように、今年の年末のマネタリーベ-スの予定残高は、200兆円であり、残り4ヶ月間、等金額で増やすと仮定した場合、マネタリーベ-ス残高は、月間5.8兆円の純増が必要である。4-8月のマネタリーベース純増額平均が月間6.2兆円であったので、今後は、マネタリーベース純増の速度を、若干下げていく必要がある。

9月については、市中資金が2.8兆円の小幅な不足となる。9月は、国債の償還が集中する月であり、従来は、資金余剰になりやすい月であった。今年は、9月に、日銀保有の国債が4.2兆円、短期国債が5.1兆円償還を迎える。日銀が市場から買い取った国債、短期国債が償還を迎えると、その金額だけ市中資金が不足する要因となる。日銀の国債、短期国債保有金額が増加し続けているので、今年の9月は、市中資金が不足になった。月々の市中資金の不足金額は、今後も着実に増加していくことになる。

9月のグロスの国債購入金額は、6.5兆円とやや少なめを想定する。短期国債の償還が5.1兆円あるため、これをすべてロールオーバーすると仮定する。9月は、貸出支援基金の貸出があり、年内貸出の6兆円の半分に当たる、3兆円の貸出があると想定する。この資金調節だけで、9月の資金供給は、国債購入で6.5兆円、短期国債購入で5.1兆円、貸出支援基金の貸出で3兆円、合計14.6兆円となる。9月の市中資金は、2.8兆円の不足なので、9月のマネタリーベース末残は、前月比で11.8兆円の大幅増加になる。月間に必要なマネタリーベース純増額は5.8兆円なので、少し多すぎるように感じる。従って、短期国債のロール
オーバー金額を少し減らして、11.8兆円マイナスアルファの増加と予想する。9月のマネタリーベースの末残、季節調整後のマネタリーベ-ス平残は、ともに過去最高の金額になることは間違いない。9月のマネタリーベ-スの末残ベースでの前月比増加金額は、6月の14兆円増加に次ぐ大幅な増加となりそうである。これは、外部環境に変化がないと仮定した場合、長期金利に引き下げの圧力がかかりやすいことを意味する。

FRBのバーナンキ議長が、5月22日の議会証言で、「労働市場の見通しが実質的かつ持続的に改善すれば、FOMCは資産買い入れペースを緩やかに縮小していく。」と、量的緩和縮小の可能性を示唆する証言を行った。この証言に最も大きく反応したのは、日経平均株価であり、翌5月23日の途中から暴落となった。今年に入ってからの日経平均株価とドル・円レートの動きを示すグラフを下記に示す。


株価と為替

為替市場においても、円が買われ、インド・ルピー、インドネシア・ルピア、ブラジル・レアル、トルコ・リラなどの新興国の通貨が一斉に下落し始めた。5月22日が、円安株高が、一旦、終了した日であり、新興国の通貨の下落、経済の混乱が始まった日である。ただ、私は、円高株安への転換と、新興国通貨の下落の間に、因果関係はないと思う。新興国通貨の下落の原因は、バーナンキ証言であろう。また、バーナンキ証言は、本来なら、米国金利上昇、日米金利差拡大をもたらし、円安要因になる。しかし、一直線に進行していた円安株高は、いずれかの時期に調整局面を迎えることは必至であった。円安株高が調整局面にいつ入ってもおかしくない時に、バーナンキ証言が出たのである。バーナンキ証言は、円高株安への転換の原因ではなく、きっかけであったと考える。

株価と為替は、ほとんど似た動きを続けている。ただ、因果関係としては、円安→株高であり、円安の方がより重要である。円安株高が止まると、早速、景気のセンチメントが悪化し始めた。景気ウォッチャー調査、消費動向調査といった、景気が良いのか、悪いのかを1000人以上の人たちから聞き取るアンケート調査に基づく指標は、昨年末から今年5月まで急激に上昇していたが、5月をピークにして若干の低下を示している。円安株高というのは、景気の気、すなわち気分を良くする効果は、大変大きいようだ。

そうした環境下で、一つだけ変わった動きをしているものがある。それは、日本の長期金利である。今年に入ってからの日本の長期金利を、他の先進諸国の長期金利の動きと合わせて下記に示す。


国債金利

結果として、日本の株価の暴落につながった5月22日のバーナンキ証言は、本来一番影響が大きいはずのアメリカの長期金利に対しては、何の影響も与えていない。アメリカの長期金利のボトムは、バーナンキ証言より3週間早い5月1日である。英、独、仏の長期金利は5月2日にボトムを打っている。それから直近に至るまで、米、英で1.2%、仏で0.8%、独で0.7%前後、金利は上昇している。新興国経済にも大きな混乱をもたらした5月22日のバーナンキ証言をほとんど無視しながら、金利は上昇し続けている。欧米の債券ディーラー・債券投資家にとっては、5月以降の経済指標が重要であり、バーナンキ議長が何を言うのかは、その前から予想し、相場に織り込んでしまっていたようである。

そうした中で、日本の国債だけが、5月22日のバーナンキ証言以降、金利の緩やかな低下に転じている。アメリカの金利が上昇し始めると、英独仏のように、日本の金利にも上昇圧力がかかるのが普通である。

こうした格差が発生する最大の原因は、日本の金融政策、異次元金融緩和であろう。国債が売られても、日銀の継続的な国債購入が金利上昇を防いできた。先月号で、4-6月に、メガバンク3行が、国債、短期国債を大量に売却していた事実を指摘した。日証協の公社債投資家別売買高という統計を見ると、7月もメガバンク3行の売りは継続している。メガバンク3行は、4月4日に異次元金融緩和が始まると同時に、金利上昇、債券価格低下を予想し、早めに国債残高を減らすための売りを出したようである。7月以降も、方向は売りであるが、以前のようにあせらずに、もっぱら金利低下、債券価格上昇の局面で売りを出すように変化したようである。メガバンク3行は、当初は、VARショック(2003年に起きた債券価格の暴落)の再来を恐れていたが、現在は、すぐに債券価格が急落するとは考えていないようである。

私は、以前から、2%のインフレ率が実現した時、実質金利(名目金利-CPI上昇率)が低下する中で、名目金利は上昇すると書いてきた。現在、低下基調にある名目金利は、いずれは上昇に転じることは間違いないと思う。仮に、金利が長期間上昇しない場合、いずれかの時期に起こる金利の急上昇を警戒する必要がある。基本的には、金利は低い方が良いのであるが、下がりすぎは良くない。日銀は、長期金利をある程度コントロールすることができるので、インフレ率や景気の動向を見ながら、長期金利が、下がり過ぎないように、また、上がり過ぎないように、国債オペを利用して、コントロールして行くことになると思う。

金融政策は、金利だけではなく、ポートフォリオ・リバランス効果を働かせ、円安株高を再発させる役割もある。しばらく待てば、資産購入の累積効果で、円安株高が再発する可能性は、ありうる。しかし、再発しない可能性もある。私は、再発しない可能性をゼロにするため、金融緩和をさらに強化することがあっても良いと考えている。黒田総裁は、現時点ではその考えは全くないようだ。その代わりに、市場の動きをよく見ながら、金融緩和の必要性が高まった時には、素早く決断し、行動してもらいたい。



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日銀ウォッチャー報告(2013年8月号)

マネタリーベース平残の推移2013008(グラフ)

2013年7月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比で4.4兆円増加し、過去最高の168.9兆円となった。

マネタリーベース平残の推移201308(表)

最初に示したグラフを見て分かる通り、 一昨年3月の大震災の際、季節調整後のマネタリーベース平残は、一旦、急増した。その後しばらく横ばいを続けていたが、上記の表で示した通り、昨年の春頃から再び増加傾向となった。今年2月の白川体制の終わり頃から増加率は加速し、4月に黒田体制に移行してからも、急速な増加が続いている。

7月の市中資金は、18.5兆円の不足であった。そこに、国債の購入7.9兆円、短期国債の購入9兆円、貸出金(共通担保オペ)1.8兆円を中心とした金融調節により、合計18.9兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、0.5兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、6月末の84.7兆円から、7月末の85.2兆円と、0.5兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、7月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比4.4兆円増加の168.9兆円になった。当座預金残高増加額と季節調整後のマネタリーベース平残の増加額に差がある最大の理由は、6月のマネタリーベースは月末にかけて急増したため、7月の平残の増加のゲタが、大きかったためである。

前月号に書いた通り、7月は市中資金の不足金額が大きく、通常のオペレーションであれば、7月のマネタリーベース末残は、前月末比でマイナスになるところであった。しかし、日銀は、主として短期国債を大量に購入することにより、7月のマネタリーベースの末残が、前月末比で0.2兆円増加(下記の表を参照)になるところまで、資金供給を増やした。これは、黒田体制下においては、日銀は強力な金融緩和を維持し続けるという強い意志の現れである。上記の表で示したように、白川体制下では、昨年2月に金融緩和の強化を発表した後、季節調整前のマネタリーベース平残が、3月、4月と連続して前年比でマイナスになり、市場に失望と不信感をもたらした。黒田総裁は、そういうところでは気を抜くことなく、金融緩和の強化を続けている。


日銀BSとMB(実績) 201308

上記の表のように、4-7月の平均で、日銀のバランスシート残高は、8.1兆円の純増、マネタリーベース残高は、6.8兆円の純増となっている。しかし、7月の場合、バランスシート残高9.7兆円の純増に対して、マネタリーベース残高0.2兆円の純増と9.5兆円もの差があった。7月の場合、負債サイドにあって、「その他」に含まれる日銀の国の特別会計に対する売現先の残高が、9.4兆円増加した要因が一番大きい。前月号では、6月中に売現先の残高が10.3兆円減少したことを指摘したが、7月はその正反対の動きがあったのである。売現先の残高は、短期で見ると大きく変動するが、長期で見た場合、その変動金額の平均はゼロ近辺になるので、バランスシート残高とマネタリーベース残高は、ほぼ並行して増加するようになる。

日銀BSとMB(予定) 201308

上記の表のように、今年の年末のマネタリーベ-スの予定残高は、200兆円であり、残り5ヶ月間、等金額で増やすと仮定した場合、マネタリーベ-ス残高は、月間5.4兆円の純増で済むことになる。前月号では、4.5兆円の純増で済むと書いた。しかし、7月にマネタリーベース残高が0.2兆円しか増えなかったので、残り5ヶ月間に必要なマネタリーベース純増額平均は、拡大することになった。それでも4-7月のマネタリーベース純増額平均が6.8兆円なので、8-12月の月間の純増額平均としては、過去よりも減少することになる。

8月については、市中資金が12兆円の大幅な不足となる。昨年8月は、5.7兆円の資金不足であった。以前にも書いたことがあるが、日銀が市中から買い取った国債、短期国債が償還を迎えると、市中資金の不足要因となる。従って、今後は、市中資金の不足金額の増加と、日銀保有の国債、短期国債の償還金額が並行する形で増加していくことになる。

8月のグロスの国債購入金額は、7兆円と仮定する。短期国債の償還が5.9兆円あるので、これをすべてロールオーバーすると仮定する。貸出支援基金による資金供給は、8月には実施されない。この資金調節だけで、8月の資金供給は、国債購入で7兆円、短期国債購入で5.9兆円、合計12.9兆円となる。そして、8月のマネタリーベース末残は、前月比で0.9兆円の増加となる。先に示した通り、年末までの等金額の純増を仮定した場合、8月のマネタリーベース末残の必要増加額は、5.4兆円である。0.9兆円の増加というのは、少なすぎる。従って、これに加えて、短期国債購入を中心にプラスアルファの資金が供給されることが想定される。その場合、8月のマネタリーベースの末残は、前月比0.9兆円プラスアルファの増加となる。8月の季節調整後のマネタリーベース平残の前月比をとると、その増加額は末残の増加額を上回る可能性が高い。8月についても、季節調整後のマネタリーベース平残が過去最高を更新することは、間違いない。

7月末に発表された今年4-6月期の銀行の決算資料から、この期間にメガバンク上位三行は、国債と短期国債の合計保有残高を24.1兆円減らし、現金預け金の残高を21.1兆円増やし、国内の貸出金残高をほとんど横ばいに維持していたことがわかった。今年4-6月期に、日銀は、国債の保有残高を19兆円、短期国債の保有残高を3.7兆円、合計で保有残高を22.7兆円増やしていた。要するに、日銀が異次元金融緩和の導入により、国債と短期国債の購入金額を大幅に増やしたのであるが、メガバンク三行が、それ以上に国債と短期国債を実質的に売り越し、結果として国債の需給バランスが悪化し、金利の上昇を招くことになったのである。そして、メガバンク三行は、6月末の時点では、国債、短期国債の売却代金を、貸し出しに回さず、主として日銀の当座預金に積み上げている。こうした数字を見ると、今年4月4日の異次元金融緩和による伝統的な意味でのポートフォリオ・リバランス効果、すなわち量的緩和の強化が銀行貸し出しを増やすという効果は、6月末まではゼロであったことがわかる。

しかし、伝統的な意味でのポートフォリオ・リバランス効果が、永遠にゼロであることは、絶対にありえない。日銀は、来年末までに、国債保有残高を、あと73兆円増やす予定である。それでも伝統的な意味でのポートフォリオ・リバランス効果がゼロになる可能性は残る。その場合は、次に、日銀が発行された国債を全額買い取ることを目標にすればよいのである。日銀が、国債の全額買い取りを目指して、買い取り金額を増やしていけば、いずれかの時点で貸し出しが増え始め、インフレ率も上昇し始めることは間違いない(バーナンキの背理法、(*1)を参照)。

また、昨年11月以降、国内投資家は、日本株や外国株、外国債券などのリスク資産を売りまくっている。日銀の資産購入により、機関投資家のポートフォリオをリスク資産へと向かわせ、景気回復を図るという、新しい意味でのポートフォリオ・リバランス効果もまた、ゼロどころか、大幅なマイナスなのである(*2)

一方、昨年11月以降、海外投資家が過去最高のペースで日本株を買い越している。また、統計上は明らかではないが、海外投資家は、日本円を大量にカラ売りしている可能性が高い。その結果として生じる円安株高の効果のみが、日本の輸出産業の収益力回復と消費センチメントの改善をもたらし、現在の景気回復の最大の原動力となっている。日銀の量的緩和の強化が、直接日銀の量的緩和の影響を受けない海外投資家の予想を変化させ、海外投資家のポートフォリオの構成を変化させている。つまり、日銀が予期しなかった別の意味でのポートフォリオ・リバランス効果が発生し、円安株高を引き起こし、日本に景気回復と物価の上昇をもたらしているのである。

しかし、その円安株高の効果も、株価が高値をつけた5月22日で一巡した可能性はある。ただ、日銀の資産購入は、フローレベルの効果は一巡したかもしれないが、ストックレベルでは、その効果は、今後、いっそう拡大する余地を残している。国内投資家が、日本株や外国株、外国債券を売りまくるというマイナスのポートフォリオ・リバランス効果の、マイナス幅が減少する可能性は非常に高いと思う。国内投資家が大量に円を買い、株を売るという環境下での円安株高から、国内投資家の大量の円買い、株売りが減少する、あるいは止まるという環境下で、円安株高が再燃する可能性は、十分考えられると思う。伝統的な意味でのポート
フォリオ・リバランス効果よりも、こちらの方が先に現実化する可能性が高い。

私自身は、よりいっそうの円安誘導を目指す量的緩和の強化があっても良いと考えているが(*3)、完全な少数派であろう。消費税増税が実施されるまでの今年度中は、景気回復が継続する可能性が高い。今年度の終わり頃から、人手不足の深刻化により、賃金上昇が広まり、輸入インフレに加え、賃金インフレも始まるであろう。今年度中に、金融政策に大きな変更がある可能性は、極めて低い。経済が難局を迎え、日銀の真価が確かめられるのは、来年4月におそらく実施される消費税の増税以降のことになるであろう。

関連記事
量的緩和の効果とバーナンキの背理法(*1)
量的緩和がもたらすマイナスのポートフォリオ・リバランス効果(*2)
生産性上昇の方法 キャピタルフライトによる円安誘導(*3)






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日銀ウォッチャー報告(2013年7月号)

マネタリーベース平残の推移2013007(グラフ)

2013年6月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比で7.5兆円増加し、過去最高の164.5兆円となった。

マネタリーベース平残の推移201307(表)

上記の表で示した通り、昨年2月14日に金融緩和の強化が発表され、その翌月である昨年3月以降の季節調整後のマネタリーベース平残の推移を見ると、ほぼ継続して増加し続けている。最初に示したグラフを見て分かる通り、そのトレンドは、直近では、ますます強くなっている。今年2月の白川体制の終わり頃からマネタリーベースの伸び率は加速し始め、4月に黒田体制に移行してから、その伸び率はさらに加速度を増している。

6月の市中資金は、3.9兆円の余剰であった。そこに、国債の購入7.7兆円、短期国債の購入4兆円、貸出支援基金による3.2兆円の資金供給、貸出金(共通担保オペ)の6.1兆円の回収などを中心とした金調調節により、合計9.1兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、13兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、5月末の71.7兆円から、6月末の84.7兆円と、13兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、6月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比7.5兆円増加の164.5兆円になった。当座預金残高増加額と季節調整後のマネタリーベース平残の増加額に差がある理由は、6月のマネタリーベースは、月末にかけて急増したため、末残は大幅増加であっても、平残に直すとそれほど大きく増加しなかったからである。


日銀BSとMB(実績) 201307

上記の表のように、4-6月の平均で、日銀のバランスシート残高は、7.6兆円の純増、マネタリーベース残高は、9兆円の純増となっている。バランスシート残高の純増額とマネタリーベース残高の純増額には、かなりの差が存在する。6月の場合、バランスシート残高2.8兆円の純増に対して、マネタリーベース残高14兆円の純増と12.2兆円もの差があった。6月の場合、負債サイドにあって、「その他」に含まれる日銀の国の特別会計に対する10.3兆円の売現先が終了した要因が一番大きい。ただ、長期的に見た場合、売現先の残高の変動金額の平均はゼロ近辺になるので、バランスシート残高とマネタリーベース残高は、ほぼ並行して増加するようになる。

日銀BSとMB(予定) 201307

上記の表のように、今年の年末のマネタリーベ-スの予定残高は、200兆円であり、残り6ヶ月間、等金額で増やすと仮定した場合、マネタリーベ-ス残高は、月間4.5兆円の純増で済むことになる。この金額を見る限り、4-6月のマネタリーベ-ス純増額平均が9兆円というのは、かなり多めであったと言えるであろう。

7月については、市中資金が18.3兆円の大幅な不足である。7月のグロスの国債購入金額は、7.5兆円と仮定する。短期国債の償還が7.6兆円あるので、これをすべてロールオーバーすると仮定する。貸出支援基金による資金供給は、7月には実施されない。7月の資金供給は、国債で7.5兆円、短期国債で7.6兆円、合計15.1兆円となる。7月のマネタリーベース末残は前月比で3.2兆円の減少となる。そして、7月の季節調整後のマネタリーベース平残の前月比をとると、減少額は3.2兆円を上回る可能性が高い。マネタリーベースは、4-6月の末残の平均で、月に9兆円ずつ増加してきた。そして、マネタリーベースが、7月にいきなり前月比で純減になったならば、長期金利が跳ね上がる可能性が出てくる。おそらく日銀は、国債、短期国債、貸出金による資金供給の金額を、上記の金額より増やすことにより、季節調整後のマネタリーベース平残の前月比をプラスの領域まで強引にもっていくであろう。その場合でも、7月のマネタリーベースを4-6月のように大幅な増加にもっていくことは難しい。7月の長期金利は、何らかの上昇要因が発生すると、日銀のオペにもかかわらず、上昇しやすい環境になる。この点は、要警戒であり、日銀にとっても試練の月となるであろう。

昨年11月14日以降、ほぼ一直線で円安・株高が進行していた。しかし、株価は5月22日、為替は5月23日をピークにして、一転して急激な円高・ドル安が進行することになった。この急激な円高・ドル安の進行を阻止するために、6月11日の金融政策決定会合において、共通担保オペ(貸出金)の期限を、現在の最長1年から最長2年にまで延ばすことを決定するであろうという予想が市場で広まっていた。だが、市場の期待に反して、6月11日の金融政策決定会合はゼロ回答となり、市場に失望を与えた。

私は、6月11日の金融政策決定会合でのゼロ回答の判断は、正しかったと思う。株価や為替レートが、経済にとって好ましくない方向へと、大きなトレンドを描いているならば、金融政策を変更して、そのトレンドの修正をはかる必要がある。しかし、5月22日から6月11日までのわずか20日間の株価や為替レートを見て、円高・ドル安へのトレンド転換が発生したと判断するには、時間があまりにも短すぎる。半年強の間、大した押し目もなく円安・株高が進行してきたことの方がむしろ異常であり、大幅な円安・株高の反動としての大きめの調整局面が訪れることは、健全な相場変動の証拠であると言える。5月22日以降も、同じ速度で円安・株高が進行していたならば、今頃、円安・株高バブル論が沸き起こっていたと思う。金融政策は、株価や為替レートの大きなトレンドを観察する必要があるが、短期的な変動に振り回されることは、望ましくない。株価や為替レートというのは、変動することが通常の姿であるので、小さなトレンドに振り回されて、金融政策をいちいち変更していけば、経済は間違いなく不安定化する。金融政策は、経済の変動が望ましくない方向に向かっていたり、株価や為替レートの大きなトレンドが望ましくない方向に向かっていた場合には、政策変更をためらうことなく実施することが必要である。しかし、20日間という短期間の株価と為替レートの動きに、金融政策が振り回されなかったことは、正解であったと思う。

問題があったとすれば、6月11日の金融政策決定会合後に行われた黒田総裁の記者会見でのメッセージの発し方である。決定会合後の記者会見では、貸出支援基金による資金供給のアピールが弱すぎた。特に、質疑応答の部分では、質問の順に、「1年超の共通担保オペの導入について議論したが、結論として必要ではないということになった」といった内容の発言をし、その後に、「金利0.1%、期間3年の貸出支援基金による資金供給を実施する」といった内容の発言をしている。そのため、6月12日の日本経済新聞朝刊では、市場の期待の高かった「1年超の共通担保オペの導入は必要ではないと判断した」という部分が大きく取り上げられ、貸出支援基金による資金供給の扱いが非常に小さかった。債券市場の関係者はともかく、株式、為替市場の関係者の間に、貸出支援基金による資金供給がほとんど伝わっていなかったように思われる。そのため、株式、為替市場の関係者、特にハト派に変身した日銀に対して、あまりにも高い期待を抱き過ぎていた外国人投資家の失望は大きかったように思われる。黒田総裁は、最初に、「6月18日に、日本版LTROに相当する金利0.1%、期間3年の貸出支援基金による約3兆円の規模の資金供給を実施する。この貸出支援基金による資金供給があるので、共通担保オペの長期化は、今回は見送ることにした。」といった感じの発言をした方が良かったと思う。上記の発言は、過激な発言の一つの例であり、最適な発言であるとは思わない。ただ、株式、為替市場の関係者に、貸出支援基金による資金供給を幅広く伝えるためには、「共通担保オペの長期化は、今回は見送る」ではなく、「金利0.1%、期間3年の貸出支援基金による資金供給を約3兆円の規模で実施する」の方をより前面に出した発言の方が望ましかったと思う。そのように発言していたならば、6月12日の日本経済新聞朝刊の見出しは、「貸出支援基金による資金供給を約3兆円の規模で実施」となり、記事の中で、「共通担保オペの長期化は、今回は見送られた」となっていたかもしれない。このように報道されていたならば、株式、為替市場の関係者による金融政策についての受け止め方も、大きく変わっていたと思う。6月12日の日本経済新聞朝刊では、貸出支援基金による資金供給については、完全なベタ記事扱いであった。黒田総裁の発言を要約した日本経済新聞の記者にも大きな問題があったと思われる。しかし、より大きな問題は、6月11日の記者会見における黒田総裁の市場に対するメッセージの発し方、すなわち市場との対話が失敗であったと考える。

アメリカでも6月19日のFOMC後の記者会見で、バーナンキ議長が、予想以上にはっきりした出口戦略への道筋を語り、その後、株価が急落した。すると、他のFOMCのメンバーたちが、FOMCの決定について、よりハト派寄りの発言を繰り返し行ったため、株式市場は落ち着きを取り戻した。

中央銀行の総裁は、政策決定の中身が重要であることは当然であるが、メッセージの発し方も、同様に重要である。黒田総裁には、今後は、より適切な表現でメッセージを発すること、すなわち市場との対話能力を磨いてもらいたいと思う。


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日銀ウォッチャー報告(2013年6月号)

マネタリーベース平残の推移2013006(グラフ)

2013年5月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比で10.9兆円増加し、過去最高の157兆円となった。

マネタリーベース平残の推移201306(表)

上記の表で示した通り、昨年2月14日に金融緩和の強化が発表され、その翌月である昨年3月以降の季節調整後のマネタリーベース平残の推移を見ると、ほぼ継続して増加し続けている。最初に示したグラフを見て分かる通り、そのトレンドは、直近では、ますます強くなっている。今年2月の白川体制の終わり頃からマネタリーベースの伸び率は加速し始め、4月に黒田体制に移行してから、その伸び率はさらに加速度を増している。

5月の市中資金は、13.4兆円の不足であった。そこに、国債の購入8.7兆円、短期国債の購入9.5兆円などを中心とした金調調節により、合計18.9兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、5.5兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、4月末の66.2兆円から、5月末の71.7兆円と、5.5兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、4月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比10.9兆円増加の157兆円になった。当座預金残高増加額と季節調整後のマネタリーベース平残の増加額に差がある理由は、5月のマネタリーベースは減少しやすいという季節要因があるためである。


日銀BSとMB(実績) 201306

上記の表のように、日銀のバランスシートの残高は、4月に10.4兆円の純増、5月に9.6兆円の純増となっている。なお、5月のバランスシート残高9.6兆円の純増に対して、マネタリーベース残高3.9兆円の純増と5.7兆円の差がある理由は、季節要因ではなく、日銀が国の特別会計に対して、5.9兆円の売現先をした要因が大きい。売現先の5月末残高は、21.1兆円。売現先の残高は、だいたい10兆円-30兆円くらいの範囲で上下するので、売現先が、長期的にバランスシート残高とマネタリーベース残高を乖離させる要因にはならない。

日銀BSとMB(予定) 201306

上記の表のように、今年の年末のバランスシートの予定残高は、220兆円であり、残り7ヶ月間、等金額で増やすと仮定した場合、バランスシート残高は、月間5.1兆円の純増で済むことになる。この金額を見る限り、4月と5月の10兆円前後のバランスシート残高の純増は、かなり多めであったと言えるであろう。

6月のマネタリーベースを予想するに当たって、事前に分かっている重要な点をあげると、①6月の市中資金は、4.6兆円の余剰、②6月に満期償還を迎える日銀保有債券が、国債で3.8兆円、短期国債で5.7兆円、③日銀は、国債をグロスで月間7兆円強購入、④年内に9.3兆円、3回に分けて行うことが予定されている貸出支援基金による貸し出しが、6月に実施、の4点を上げることができる。この中で、④の貸出支援基金が6月にどれだけ増えるかが、全く見当がつかない。従って、今月は、6月のマネタリーベースの具体的な増加額の予想は行わない。ただ、市中資金の4.6兆円の余剰金額を大幅に上回ると断言することはできる。プラスアルファがどれだけ増えるかは、長期金利の動向次第であろう。長期金利が上昇速度を速めた場合、多めに資金を供給し、そうでなければ、資金供給量は少なめになるであろう。6月の季節調整後のマネタリーベース平残の前月比は、4.6兆円の市中資金の余剰金額を大幅に上回る増加額になり、過去最高を更新することは間違いない。

黒田総裁は、4月4日の異次元金融緩和により、債券のイールドカーブ全体を下方に移動させることを狙っていた。しかし、イールドカーブ全体の下方移動は、異次元金融緩和の発表の直後だけであった。異次元金融緩和がデフレ不況の最中に突然発表されていたならば、ある程度の期間、イールドカーブの下方移動を継続させることができたと思う。しかし、昨年の11月14日に野田前総理が衆議院の解散を表明し、当時の安倍自民党総裁が主張していた「無制限の金融緩和」が現実化する可能性が高くなった。その翌日から、円安・株高の急速な進行が始まった。その後、景気回復が現実化し、今年1-3月期の実質GDPの前期比成長率は、年率で3.5%と高い伸び率を示した。景気回復が継続すれば、インフレ率も高まることが期待される。その場合、インフレを嫌気して、長期金利に上昇圧力が高まることになる。4月4日に異次元金融緩和が発表された直後の債券市場は、国債買いオペ金額の増額による債券需給の改善と、インフレ発生を嫌気する債券の売却増加の、どちらが大きいかが判断がつかなかったのだと思う。しかし、日が経つにつれて、インフレ発生による金利上昇の圧力がより高いことが、市場の多数派の意見になったのだと思う。今後、景気回復が続く限り、長期金利に上昇圧力がかかり続けることになる。加えて、日本より早く出口戦略が開始されるはずのアメリカの長期金利上昇からも、上昇圧力を受けることになる。この場合、日銀は、国債買いオペの金額を増やしたりすることにより、金利の跳ね上がりを防ぐことになるであろう。しかし、金利の一時的な跳ね上がりを防ぐことができても、中長期的な金利上昇を止めることはできない。金融政策は、長期金利をある程度はコントロールすることができるが、100%コントロールすることはできない。

5月22日をピークにして、円安・株高から、円高・株安へと相場は急に反転した。この反転の原因が、22日のバーナンキFRB議長の議会証言に加え、長期金利の上昇にもあったことは間違いない。しかし、円高・株安が続いている間は、長期金利の上昇も一休みする状態となっている。昨年11月14日以降、猛烈な勢いで、日本株、外国株、外国債券を買い越してきたのではなく、売り越してきた個人から機関までの日本人投資家も、円高・株安がある程度進めば、あり余るキャッシュを、日本株、外国株、外国債券に投じることになると思う。これは、円安・株高要因である。直近発表されたマクロ経済の統計をみる限りでは、力強い景気回復は続いている。もうしばらく、長期金利、株価、為替レートは上下の動きが激しい状態が続くであろう。私は、今年度中は、円安、株高、長期金利のゆるやかな上昇のトレンドと共に、景気の回復傾向が続くと見ている。現時点で、円安・株高から円高・株安のトレンドに切り替わったかどうかを判断するのには、早すぎる。このトレンド転換、すなわち異次元金融緩和の成否を見極めるためには、おそらく数ヶ月の時間が必要であろう。




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日銀ウォッチャー報告(2013年5月号)

マネタリーベース平残の推移2013005(グラフ)

2013年4月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比で7.1兆円増加し、過去最高の146兆円となった。

マネタリーベース平残の推移201305(表)

上記の表で示した通り、昨年2月14日に金融緩和の強化が発表され、その翌月である昨年3月以降の季節調整後のマネタリーベース平残の推移を見ると、ほぼ継続して増加し続けている。最初に示したグラフを見て分かる通り、直近については、増加額が加速化している。4月については、異次元の金融緩和の実施が開始され、日銀が大量に資金を供給した結果である。

4月の市中資金は、8.3兆円の不足であった。そこに、長期国債の購入7.1兆円、短期国債の購入7.5兆円などを中心とした金調調節により、合計16.4兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、8.1兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、3月末の58.1兆円から、4月末の66.2兆円と、8.1兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、4月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比7.1兆円増加の146兆円になった。当座預金残高増加額と季節調整後のマネタリーベース平残の増加額に差がある理由は、4月のマネタリーベースは増加しやすいという季節要因があるためである。


日銀BSとMB 201305

4月4日の金融政策決定会合で、異次元の金融緩和の実施ということで、長期国債を中心とする購入資産、操作目標としてのマネタリーベースの残高を大幅に増加させることが決定された。その明細をまとめた表が上記に示した表である。4月末から12月末までの8ヶ月間に、バランスシートで45.3兆円、マネタリーベースで44.7兆円の増加が予定されている。その大半を占めるのは、長期国債の41.9兆円の増加である。その次に、貸出支援基金の増加額が大きい。しかし、そのイメージとしては、その他に含まれる短期国債や貸出金で供給されている資金が、貸出支援基金に振り替えられるという感じである。振替分を除いた貸出支援基金の増加額は、年内に1.5兆円となり、それほど大きな金額にはならない。また、ETFやJ-REATなどのリスク資産の購入金額も増やし、質的にも緩和という形になっている。

5月については、市中資金が13.4兆円の大幅な不足である。日銀による5月の長期国債購入金額は、7.5兆円とアナウンスされている。5月の長期国債償還金額は、0.4兆円であり、純増ベースでは7.1兆円となる。貸出支援基金を通じた貸し出しは、5月中には実施されない。バランスシートの予定増加金額は、年内に45.3兆円、単純に8等分すると、月平均の増加額は5.7兆円で足りることになる。毎月等金額の純増を仮定すると、長期国債以外の資産は全く購入せずに、1.4兆円減らす必要がある。短期国債の償還が6.2兆円あるので、この分のロールオーバー金額を1.4兆円減らすと仮定し、4月中の短期国債の購入が4.8兆円になると想定する。この結果、5月の資金供給は、長期国債と短期国債の購入で12.3兆円となる。5月末のマネタリーベース末残は、前月比1.1兆円の減少となる。この1.1兆円の減少というのは、いくつかの仮定を設けて機械的に算出した数値である。黒田執行部の量的緩和への決意が強いことを考えると、5月のマネタリーベース末残を、前月末比でマイナスにするとは考えにくく、プラスに持っていく可能性が高いと思う。ただ、5月のマネタリーベースの末残が、4月のように前月比で大幅な増加になる可能性は低いと思う。なお、5月は季節的にマネタリーベースが減少しやすい月であるので、季節調整後のマネタリベース平残は、間違いなく増加する。

4月4日の異次元金融緩和は、大方の予想を大幅に上回る大規模なものであった。株式、為替関係のストラテジストの評価は高く、当然のことながら、円安株高が進行した。一方、債券関係のストラテジストの評価は、それほど高くない。異次元金融緩和の発表後、国債価格は乱高下し、国債市場が機能不全に陥っているとの評価がよく聞かれた。しかし、債券ストラテジストたちが、国債市場が機能不全になっていると批判するということは、異次元金融緩和が正解であった根拠の一つであると考える。従来は、投資家の資金が、直接、あるいは、銀行預金を通じて、国債市場に流れ込み、政府支出を通じて投資家に戻るという資金の循環構造が構築されていた。そして、その資金循環構造から外に出る資金の量が、あまりにも少なすぎたことが、日本経済の停滞を招いた大きな原因だと考えるからだ。そしてまた、従来の資金循環構造は、安定しているように見えても、持続不可能という致命的な欠陥を持つ。デフレと低金利、そして巨額の国債の新規発行が毎年継続し、国債の発行残高が増え続ける以上、いつの時点か、財政破綻懸念から、金利の急上昇へと向かうのは避けられない。持続不可能な資金循環構造は、一刻も早く破壊する必要がある。消費税増税などにより財政再建を図れば良いという反論は、当然ありうる。しかし、1997年に消費税が増税されて以来、現在までの一般会計の税収を見ると、約10兆円減少している。従来の金融政策を継続し、そこに消費税などを増税し、その結果として税収が再び減った場合、どうなるか。その時こそ、財政破綻の恐怖から、投資家の国債離れが起こり、従来型の資金循環構造が破綻し、金利の急上昇へと突入する。国債の発行は不可能になり、国家財政は破綻する。財政破綻を避けるために、国債の日銀引受を行った場合、ハイパーインフレが発生し、今度は日本経済が破綻する。金融緩和は、金利の急上昇につながるという意見もあるが、金利の急上昇へと進む道は、従来型の金融政策のまさにその延長戦上にあるのである。金利の急上昇を避けるために最低限必要な条件は、債券市場の機能不全を引き起こしてでも、従来型の資金循環構造をぶち壊すことである。そして、ある程度の物価上昇が続き、増税の結果、税収が増大する経済をつくることである。その第一歩として、4月4日の異次元金融緩和は、高く評価できると思う。多くの投資家が、国債市場は機能不全と見て、国債投資を外債投資に振り向ければ、円安になる。国債投資を株や土地への投資に振り向ければ、株価、地価は上昇する。円安資産高がある程度継続すれば、景気は間違いなく回復し、デフレからの脱却も可能になる。その時に行われる増税は、税収を増やし、ここで初めて金利の急上昇の発生を回避できる条件が生まれる。4月4日の異次元金融緩和の結果、物価上昇率はプラスに転じるであろうが、2年後に2%の物価上昇が可能かどうかまでは分からない。同時に、金融政策だけで、世の中がバラ色になることもありえない。少子高齢化、人口減少、巨額の政府債務という条件に変化はないので、将来は、依然として茨の道しかありえない。少し油断すれば、再び金利の急上昇へと通じる道に舞い戻ってしまう危険性は、常に存在する。20年前に異次元金融緩和が実施されていたならば、茨の道や危険性のある経済にはならなかったはずだ。それでも、金利の急上昇に確実に突入して行く道から、金利の急上昇が回避可能な道へと、4月4日を境にしてコースが変わったことだけは、間違いない。



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日銀ウォッチャー報告(2013年4月号)

2013年3月の季節調整後のマネタリーベース平残は、2013年2月比で6.2兆円増加し、過去最高の138.9兆円になった。

マネタリーベース平残の推移

昨年2月14日に、金融緩和の強化が発表され、その翌月である昨年3月から今年3月までの季節調整後のマネタリーベース平残の推移を見ると、日銀は、ほぼ順調にマネタリーベースの残高を積み上げている。

3月については、市中資金が6.3兆円の余剰のところに、長期国債買いオペと資産買入等の基金の8兆円の資産購入により、金融調節後の市中資金は、14.3兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、2月末の43.9兆円から、3月末の58.1兆円と、14.3兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、2月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比6.2兆円増加の138.9兆円となった。当座預金残高増加額と季節調整後のマネタリーベース平残の増加額に大きな差がある理由は、3月のマネタリーベースの増加の大半は、3月下旬に集中しており、その結果、平残にしてみると、それほど大きな増加にはならないからである。

下記の表に示したとおり、3月の資産買入等の基金の増加額は、2月の増加額2.6兆円を若干下回っている。これは、貸出金の供給で、1月と同様に札割れが頻発し、貸出金残高を維持すること出来なかったからである。その代わりに、国債と短期国債の購入金額を増やした結果、月間の基金の増加額は、前月号で予想した増加額を下回ったものの、2.2兆円の増加となった。現在のような高水準の当座預金残高が、さらに増加する環境下では、現行方式の貸出金の残高を維持することは不可能である。今後の金融政策の変更時に、貸出金の供給方式なり、供給金額に、大きな変更が加えられることは間違いない。

3月のマネタリーベース平残の季節調整後の前月比増加率4.6%という数値は、2012年の年初からの前月比の推移を見ても、増加率が最大である。これは、3月というのは、季節的に、市中資金が大幅な余剰の月であるからだ。昨年3月のマネタリーベース平残の伸び率は、前年比マイナスであり、前月比でもわずかなプラスであった。従来は、昨年3月のように、余剰資金を貸出金の回収などを通じて減らすという操作が実施されたこともあるからだ。今年の3月は、従来と異なり、大幅な余剰資金があるにもかかわらず、資産買入等の基金を使って、資金供給を増やし続けた。結果として、3月のマネタリーベース平残の季節調整後の前月比増加率は、4.6%という大きな数値となった。


資産買入等の基金 月次購入資産の内訳

4月中に金融政策の変更が決定される可能性が高い。しかし、その内容が現時点では予想できないので、金融政策に変化がないと仮定した場合の予想を述べることにする。

4月の市中資金は、6.6兆円の不足となる。6月の資産買入等の基金の予定残高85.5兆円を達成するためには、4月に資産買入等の基金で残高を4.4兆円増加させる必要がある。4月の資金調節では、資産買入等の基金で4.4兆円の資産購入を実施し、資産買入等の基金の国債、短期国債の償還分に当たる5兆円をロールオーバーし、資産買入等の基金以外で長期国債を1.8兆円購入し、合計11.2兆円の資産購入と予想する。マネタリーベースの4月末残を3月末残と比較すると、4.6兆円の増加になりそうだ。4月の季節調整後のマネタリーベース平残も、3月比で増加し、過去最高を更新すると予想する。

5月の市中資金は、季節的には大幅不足となる。5月のマネタリーベースの末残は、4月末残との比較では、ほぼ横ばいと予想する。5月の季節調整後のマネタリーベース平残も、4月との比較では、ほぼ横ばいと予想する。

このように、白川前総裁下で決定された金融緩和路線をそのまま実行するだけで、季節調整後のマネタリーベース平残は、4月も過去最高を更新し、大幅な資金不足になる5月も大きく減少することはない。この調子で、12月まで予定通りに資金供給を続けると、少なくとも年内は、マネタリーベースの金額だけを見るならば、かなりの速度で増加することが既に確定している。

加えて、4月3日、4日の金融政策決定会合で、何らかの追加の金融緩和策が打ち出されることは間違いない。しかし、市場は、昨年の11月14日から、大規模な追加金融緩和策が打ち出されることを、既に織り込んでいる。実際の追加緩和策とそれに対する市場の反応を予想することは難しい。ただ、金融政策決定会合は、4月5日以降、年内だけであと10回開催されることが決まっている。日銀に期待したいことは、仮に、4月4日に打ち出された政策が、市場の期待を満たさず、円高株安が進行した場合でも、次回以降の会合で、追加緩和を実施する姿勢を見せることである。日銀は、インフレ率が2%になるまでは、追加緩和のカードをいくらでも切り続けることが出来る。市場が、日銀に対して、今後も追加緩和のカードを切ってくるとの雰囲気を感じたならば、いずれは円安株高への方向に相場は反転するであろう。金融政策に素早く反応する市場の動きを睨みながら、金融緩和のアクセルを踏む強さをコントロールすることこそが、市場との対話を行うという意味であると考えている。

黒田総裁、岩田副総裁は、2年後に2%のインフレ実現を公言している。私は、そう発言すること自体は問題ないが、2年での実現にこだわる必要は全く無いと考える。重要なことは、円相場を円安方向へ、株価、地価などの資産価格を値上がり方向へ、できるだけ長期間、動かし続けることであると考えるからだ。金融政策の波及経路は、マネタリーベースの増加→銀行貸出の増加→GDPの増加というルートよりも、円安→輸出の増加→GDPの増加、あるいは、株価・地価の上昇→消費、投資の増加→GDPの増加というルートの方により明確に現れる。現在の金融政策に必要なことは、日銀が、十分な金融緩和を続け、円安や株価・地価の上昇を通じて、必ず景気回復と物価上昇を実現するぞという雰囲気、あるいは期待というものを作り上げることである。「期待に働きかける」という最近よく使われる言葉は、「予想インフレ率を引き上げる」という意味として使われることが多い。私は若干違って、「日銀が金融緩和の強化を通して景気回復と物価上昇を実現する強い意志を持っていることを、市場関係者や多くの人々に理解させること」であると考えている。白川前総裁は、それより前の総裁より、金融緩和を大幅に強化したのであるが、いくつかの失敗を犯したことが問題であった。その失敗の一つが、「日銀だけの力では、デフレ脱却を実現することは出来ない」と繰り返し発言したことである。日銀は金融緩和の強化と言っているものの、デフレ脱却が確実に実現できるまで、金融緩和を強化し続けるかどうかわからない、むしろ、現在のデフレ状態が長続きするかもしれない、といった期待を市場関係者に抱かせてしまったことは、大きな失敗であった。期待という要素は、為替レートや株価の形成要因としては、決定的に重要な要素である。この結果が、円高株安の継続であり、デフレ経済の継続であった。白川前総裁は、デフレ脱却期待、景気回復期待というものを形成させることに、完全に失敗したのである。逆説的なことであるが、2%のインフレ実現は、2年後でない方が良いと考えている。2年後に2%インフレが実現できなくても、円安、株価・地価の上昇を通じて景気回復が継続し、緩やかながらも賃金と物価が上昇し、多くの国民に景気回復の実感を持たせることができれば良いのである。その場合、2年後に2%の公約が達成できなくても、日銀を非難する声は大きくならないと思う。2%のインフレが2年後に実現してしまうと、インフレ率がさらに上昇することがないように、資金を回収し、金利を引き上げるという出口戦略を実行に移す必要がある。その場合、それ以上の円安、株価・地価の上昇を持続させる手段が無くなってしまう。景気回復局面が終わってしまうかもしれない。金融緩和の雰囲気と景気回復が、たった2年で終わるとするならば、それはもったいない。できるかぎり長期間、景気回復期が続くことの方が望ましい。ただ、金融政策は普通、効果が現れるまで、2年近い時間が必要であると考えられている。2年後に実現できないなら、永久に実現できない、あるいは実現させる気が無いと市場が予想してしまうかもしれない。そうなると、金融緩和の効果が薄れてしまう。従って、方便として、2年後に2%のインフレ実現を公言することがあっても良いと思う。黒田総裁、岩田副総裁の真意はわからないが、私は、2%のインフレ実現はもっと先である方が望ましいと考えている。

このように、好き勝手な意見を述べることだけなら簡単なことであるが、実際に金融政策を実施する側に立てば、簡単なことではないであろう。1年後にほぼ確実に実施される消費税率の引き上げだけをとっても、それが景気やインフレ率にどの程度の影響を及ぼすか、誰も正確に予想できない。その上、将来には、様々な「想定外」の事件が必ず発生するのである。それでも、「日銀だけではできない」と責任回避のような発言を続ける総裁よりも、「日銀があらゆる手段を使って実現する」と責任を取る覚悟を持つ発言をする総裁の方が、経済により好ましい影響を及ぼすものと考える。



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日銀ウォッチャー報告(2013年3月号)

2013年2月の季節調整後のマネタリーベース平残は、2013年1月比で4兆円増加し、過去最高の132.8兆円になった。  
                                        (日銀HPより)

マネタリーベース平残の推移

昨年3月から今年2月までの季節調整後のマネタリーベース平残の推移を見ると、日銀は、ほぼ順調にマネタリーベースを積み上げている。

2月については、市中資金が8.7兆円の不足のところに、長期国債買いオペと資産買入等の基金の8.9兆円の資産購入により、金融調節後の市中資金は、0.1兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、1月末の43.7兆円から、2月末の43.9兆円と、0.2兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、2月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比4兆円増加の132.8兆円となった。当座預金残高増加額と季節調整後のマネタリーベース平残の増加額に大きな差がある理由は、2月は季節的にマネタリーベースが大きく減りやすい月であるのにもかかわらず、当座預金残高は少額ながらも増加したからである。

3月の市中資金は、6.4兆円の余剰となる。3月の資金調節では、資産買入等の基金で3.9兆円の資産購入を実施し、資産買入等の基金の国債、短期国債の償還分に当たる3.7兆円をロールオーバーし、資産買入等の基金以外で長期国債を1.8兆円購入し、合計9.4兆円の資産購入と予想する。マネタリーベースの3月末残を2月末残と比較すると、15.8兆円の大幅増加になりそうだ。3月の季節調整後のマネタリーベース平残も、2月比で大幅に増加し、過去最高を更新すると予想する。

4月の市中資金は、季節的には小幅の不足となる。4月のマネタリーベースの末残は、3月の末残より増加と予想する。4月の季節調整後のマネタリーベース平残も、3月から増加となり、過去最高を更新すると予想する。

2月の季節調整後のマネタリーベース平残が過去最高を更新したとはいえ、2月の日銀の資金供給には、疑問を抱かせる点があった。  
                                        (日銀HPより)

資産買入等の基金 月次購入資産の内訳

資産買入等の基金の1月の純増額は、0.3兆円と非常に少なかった。しかしこれは、貸出金の供給で札割れが続発し、資金供給ができなかったことが原因である。それに対して2月の基金の月間の純増額は、2.6兆円である。前月号(*1)で予想した基金の残高の純増額は3.6兆円であった。毎月3.6兆円の純増が5ヶ月間続けば、6月末の基金の残高は、予定の85.5兆円になるという計算であった。その予想より、実際の純増額は1兆円少なかった。内訳でいうと、国債の購入金額が1兆円少なかった。2月の場合は、1月と違って、購入可能である国債を、わざと購入しなかったのである。その結果、基金の保有する国債の前月比の純増額は0.6兆円と、2011年12月以来の低水準となった。

日銀保有の国債の純増額は既に頭打ちになっている。上記の表は前月比の純増額であるが、今度は、やや長い目で見た日銀保有国債の前年比での純増額のグラフを下記に示す。


日銀保有国債 前年比純増額

日銀保有国債の2月の前年比純増額は、22.9兆円、うち資産買入等の基金で22.1兆円、基金以外で0.8兆円となっている。基金以外で毎年21.6兆円の国債を購入しているのであるが、償還が過去1年間に20.8兆円にまで増加したため、基金以外の国債の前年比純増額は1兆円を下回る金額にまで減少してしまった。そうした環境下で、基金で購入する国債の金額も減らしているのである。日銀保有国債の純増額がプラスを維持するかぎり、金融緩和が続いているのであるが、金融緩和の強化は頭打ちになっている。

こうした資金供給のやり方を見ると、白川総裁の本心は、国債の購入額を増やしたくないと考えていると、勘ぐらざるをえない。デフレ脱却に向けての決意が乏しく、制御不能なインフレなどを極度に恐れているとしか考えられない。次期日銀総裁に、白川総裁に近い考え方を持った人物が就任するならば、マネタリーベースはだらだらと増えるかもしれないが、デフレはあと5年以上続き、量的緩和は無意味と結論付けられることになるかもしれない。

市場は、消化試合の局面に入った白川総裁のやり方を完全に無視するようになっている。関心は、次期日銀総裁に就任するであろうと思われる黒田氏の発言のみに注意を向けている。本日の黒田氏の国会での所信聴取では、「総裁に選任されたならば、市場とのコミュニケーションを通じてデフレ脱却に向けてやれることは何でもやる姿勢を明確に打ち出したい。」と発言している。白川総裁は昨年の4月21日に、「中央銀行は国債担保の流動性供給、あるいは国債買い入れを通じて、最終的に際限のない流動性供給に追い込まれる可能性があります。それによる膨大な通貨供給の帰結は、歴史の教えにしたがえば制御不能なインフレです。」と発言している。まさに、レジームチェンジである。

先に3月の季節調整後のマネタリーベースが、2月比で大幅に増加することを示した。しかし、白川総裁の任期である3月19日まではほとんど増加せず、その後、月末にかけて急激に増加するのである。3月21日から3月末にかけて10兆円以上の資金が、国債の償還などを通して政府から市中に資金が流れ込むためである。当座預金残高で見ると、3月19日までの残高は40兆円台の半ばであるが、月末にかけて過去最高の残高を突き抜け、そのまま50兆円台の後半にまで跳ね上がることが、ほぼ間違いなく決まっている。加えて、4月の3日、4日の最初の金融政策決定会合で追加緩和策を打ち出せば、市場にかなりのインパクトを与えることが期待できる。次期総裁の就任時の環境は、大変恵まれたものとなっている。市場との対話を繰り返しながら、2%の物価上昇を是非実現してもらいたい。次期総裁が正式に黒田氏に決定され、黒田氏が日銀内部を掌握するならば、そうした期待を十分に抱くことができるであろう。



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日銀ウォッチャー報告(2013年2月号)

2013年1月の季節調整後のマネタリーベース平残は、2012年12月比で0.7兆円増加し、過去最高の128.8兆円になった。  
                                        (日銀HPより)

マネタリーベース平残の推移

1月分のデータ公表ということで、季節調整後の数値が過去に遡って改訂された。日銀は、昨年2月に、消費者物価上昇率の前年比+1%を目指すという中長期的な物価安定の目途を設定し、資産買入等の基金の金額を10兆円増額した。そして、基金で資産購入を進めたが、基金の枠外で貸出金を大量回収した。従来の季節調整後のマネタリーベースでは、昨年3月は、2月比で減少し、季節調整後のマネタリーベースが着実に増えるのは昨年6月以降であった。今回の改訂で、昨年2月以降、季節調整後のマネタリーベースは、着実に増えていることが明らかになった。季節調整前の数値は変化がないので、前年が震災という特殊要因があったにせよ、昨年3月、4月の季節調整前のマネタリーベースが、前年比でマイナスであることには変わりは無い。昨年6月以降も、季節調整後のマネタリーベースは、ほぼ着実に増加を続け、今年1月には、過去最高の金額となった。

1月については、市中資金が7.9兆円の不足のところに、長期国債買いオペと資産買入等の基金の4.3兆円の資産購入により、金融調節後の市中資金は、3.6兆円の資金不足になった。この資金不足のため、当座預金残高は、12月末の47.2兆円から、1月末の43.7兆円と、3.5兆円減少した。この当座預金残高の変化を反映して、1月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比0.7兆円増加の128.8兆円となった。当座預金残高が3.5兆円減少し、季節調整後のマネタリーベース平残が0.7兆円増加した理由は、1月はマネタリーベースが減るという季節性があるのにもかかわらず、例年ほどマネタリーベースが減少しなかったからである。もう一つ、昨年12月のマネタリーベース末残が大きく、その結果、今年1月のゲタが大きかったことも影響している。

2013年1月号(*1)で、1月の季節調整前のマネタリーベース末残が前月比で増加する理由として、日銀が7.4兆円の資金供給をすることを予想した。しかし、実際には、1月の日銀の資金供給は、4.3兆円にとどまり、予想を3.1兆円下回った。資産買入等の基金残高は、1月の月間に、0.3兆円しか増えなかった。理由は、0.1%の固定金利方式・共通担保資金供給オペレーションという名の貸出金の供給が、札割れ続出で、資金供給が出来なかったからである。日銀は札割れを予想して、多めの資金供給を実施しようとしたが、回数で13回、金額で6.5兆円もの札割れが発生し、資金供給の目標に達しなかった。その結果、横ばいを維持する予定であった資産買入等の基金の貸出金は、残高が3.6兆円も減少してしまったのである。1月の季節調整後のマネタリーベースの増加額が0.7兆円と少なかった理由は、技術的な要因で、資金供給が出来なかったからである。当座預金の1月末の残高は43.7兆円である。この残高は、現在予定されている資金供給が続いて行けば、50兆円、60兆円と増えていくのである。こうした環境下で、0.1%の固定金利の貸出金で資金供給を続けることは不可能である。資金供給の方式を、現在の0.1%の固定金利方式から、以前実施されていた金利入札方式に改めるか、25兆円の貸出金の多くを、短期国債に変更するなどの方式に、政策変更が行われることになるであろう。

なお、昨年1年間の市中資金は43兆円の不足であった。一昨年は17兆円の不足であったので、不足額は大幅な拡大となった。しかし、今年の市中資金の不足は43兆円をさらに大幅に上回るのである。理由は、資産買入等の基金で購入した国債、短期国債の償還が急増するからである。市中から購入した国債、短期国債を、市中に売却するのであるならば、事前の市中資金の過不足に何の影響も与えない。しかし、市中から購入した国債、短期国債の償還金を、日銀が政府から受け取ってしまうと、その金額に等しい金額が、市中から日銀への資金移動となり、市中資金の不足額の増加につながるのである。従って、今年の市中資金の不足金額は、43兆円を大幅に上回ることは間違いない。一方、資産買入等の基金で購入する国債、短期国債は、償還が続出する結果、購入金額が昨年より大幅に増加することも間違いない。

資産買入等の基金の残高と資産の内訳

2月の市中資金は、7.7兆円の不足となる。2月の資金調節では、資産買入等の基金で3.6兆円の資産購入を実施し、資産買入等の基金の国債、短期国債の償還分に当たる4.5兆円をロールオーバーし、資産買入等の基金以外で長期国債を1.8兆円購入し、合計9.9兆円の資産購入と予想する。マネタリーベースの2月末残を1月末残と比較すると、2.2兆円の増加になりそうだ。2月の季節調整後のマネタリーベース平残も、1月比で増加し、過去最高を更新すると予想する。

3月の市中資金は、季節的には大幅余剰になる。3月のマネタリーベースの末残は、2月の末残より大幅な増加と予想する。3月の季節調整後のマネタリーベース平残も、2月から大幅な増加となり、過去最高を大幅に更新すると予想する。

1月22日の日銀の金融政策決定会合では、2%というインフレ目標が設定されたが、金融政策については、2014年に10兆円の緩和の強化だけが決定され、2013年中の政策変更は無かった。市場の反応は、1日~2日は円高株安方向に動いたが、その後は、再び円安株高方向に動いた。市場としては、2013年ではなく、2014年からの金融緩和の強化に失望して、一旦は、円高株安の方向に動いた。しかし、2%というインフレ目標が決定されたわけだから、日銀としては、今後も断続して金融緩和の強化を実施することにならざるを得ないと判断する人が増加し、しばらくして円安株高のトレンドに戻った、というのが私の解釈である。

こうした解釈が正しいならば、現状レベルの金融緩和に、市場関係者は満足していないということになる。現状は、1年前の金融緩和よりも、レベルは上がっているのではあるが、市場が満足するレベルには達していないことになる。現状の金融政策を維持し続けた場合、いずれ市場は失望し、再び円高株安方向に向かう可能性が高い。そうなれば、2%のインフレ目標も、景気回復も、実現することが困難になってしまう。日銀は、株価や為替レートを横目に見ながら、もう一段の金融緩和の強化を実施することが求められる。

同時に、速すぎる円安も望ましいとは言えない。円安は、進行すればするほど、日本全体にとっての利益は大きい。しかし、速すぎる円安は、国内の所得分配を大きく歪めてしまう。日本全体としては、円安がメリットであっても、輸入に大きく依存する企業にとっては、円安など損害以外の何者でもない。輸入依存の企業が、円安という環境に、ある程度適応できるくらいの時間をかけた円安が一番望ましい。同時に、急激な円安が進行した場合、既に発生している日本の金融緩和政策は近隣窮乏化政策だという諸外国の非難も大きくなることであろう。従来の日本こそが、周辺のアジア諸国の近隣窮乏化政策の最大の被害者であった(*2)。しかし、そのような主張をするよりも、デフレ脱却、欧米諸国と同じ2%のインフレ目標の達成を表に出す方が、政治的には有利だと思う。速すぎる円安より、長期間、持続可能な緩やかな円安の方が好ましいのである。

現在の環境が変化することなく、金融緩和だけが強化されたと仮定すれば、今後、円安株高だけではなく、都会の地価の上昇、景気の回復、インフレ率の上昇、金利の上昇などの現象が進行して行く可能性が高い。しかし、現実にはそんな単純に物事は変化しない。消費税増税もあるし、それ以外にも様々な想定外の事態が発生することがありうる。それでも、結果として、円安株高から金利の上昇まで、できるだけ長期間、緩やかに進行するような金融政策を実行できる人が、次期日銀総裁になってもらいたいものである。



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日銀ウォッチャー報告(2013年1月号)

2012年12月の季節調整後のマネタリーベース平残は、11月比で3.5兆円増加し、129.9兆円と過去最高の金額になった。   
                                        (日銀HPより)

マネタリーベース平残の推移

上記の季節調整後のマネタリーベースの推移を見ると、大震災のあった2011年3月にマネタリーベースは急増し、一旦、2011年4月にピークをつけた。その後、マネタリーベースは減少傾向であった。日銀は、昨年2月に、消費者物価上昇率の前年比+1%を目指すという中長期的な物価安定の目途を設定し、資産買入等の基金の金額を10兆円増額した。そして、基金で資産購入を進めたが、下記の表に示すように、昨年3月に基金の枠外で貸出金を8.4兆円回収するなどした結果、昨年5月までは、季節調整後のマネタリベースはほとんど増加しなかった。しかし、昨年6月以降、基金の枠外での貸出金の回収は一巡し、基金で資産購入を続けた結果、季節調整後のマネタリーベースはほぼ順調に増加し、昨年12月には過去最高の金額まで増加した。

資産買入等の基金 月次購入資産の内訳

昨年12月については、市中資金が1.2兆円の余剰のところに、長期国債買いオペと資産買入等の基金の6.4兆円の資産購入により、金融調節後の市中資金は、7.6兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、11月末の39.7兆円から、12月末の47.2兆円と、7.5兆円増加した。この当座預金残高の変化を反映して、12月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比3.5兆円増加の129.9兆円となった。当座預金残高とマネタリーベースの増加に差がある最大の理由は、12月は毎月マネタリーベースが増えるという季節性があるため、季節調節をかけると、増加額が縮小するからである。

資産買入等の基金の資産購入額の総額は、今年の6月末には、85.5兆円、12月末には、101兆円まで増額されることが決定されている。基金の年間の資産購入額は、昨年が25兆円に対し、今年の前半で、18.4兆円、年間では34兆円まで増加する。そこから今年前半の月次の資産購入額の平均を計算すると、上記の表のように、月3.1兆円となる。主な内訳は、国債が1.6兆円、短期国債が1.7兆円である。短期国債の購入額は大幅に増加するが、国債の購入額は昨年よりも若干減少する。また、昨年の8月、9月には、3.1兆円以上の資産購入を実施しているので、基金の資産購入額は増加するにしても、大幅に増加すると言うほどではではない。この外に、6月から貸出支援基金による資金供給が始まるが、この基金による増加額は、現時点では予想しきれない。

1月の市中資金は、7兆円の不足となる。1月の資金調節では、資産買入等の基金で3.1兆円の資産購入を実施し、資産買入等の基金の国債、短期国債の償還分に当たる2.5兆円をロールオーバーし、資産買入等の基金以外で長期国債を1.8兆円購入し、合計7.4兆円の資産購入と予想する。マネタリーベースの1月末残を昨年12月末残と比較すると、0.4兆円前後の増加になりそうだ。季節性を考慮すると、1月の季節調整後のマネタリーベース平残は、12月比で増加し、再び過去最高値を更新すると予想する。

2月の市中資金は、季節的には大幅不足になる。2月のマネタリーベースの末残は、1月の末残より減少と予想する。しかし、2月の季節性を考えると、2月の季節調整後のマネタリーベース平残は、1月から横ばいか増加と予想する。

先にも示したとおり、現在の日銀の金融政策は、中長期的な物価安定の目途として、消費者物価上昇率の前年比+1%を目指すというものである。これに対して、安倍総理は、日銀との間にアコードを締結し、その中で、消費者物価上昇率の前年比+2%のインフレターゲットを設けることを要求している。その要求への対応策が、1月21日、22日の金融政策決定会合で話し合われる。通常ならば、内閣が日銀にこのような要求をした場合、中央銀行の独立性の侵害だと、内閣側が袋叩きに合うはずである。しかし、今回に関しては、安倍総理の要求は、衆議院総選挙における公約であり、民意の審判を受けたものであるため、世論もマスコミも、内閣の要求を批判することはあまりない。白川総裁と日銀内部の人たちにとっては、屈辱的な決定をせざるを得ないところまで追い込まれている。しかし、白川総裁がいかなる判断をしようとも、最終的には、日銀総裁の人事や、日銀法改正という手段を使って、近い将来、安倍総理は+2%というインフレターゲットを日銀に設定させることになるであろう。

従来、私は、現状の日銀の金融政策では、2014年、ないしは、2015年の消費者物価上昇率の前年比+1%目標を実現することは不可能と書いてきた。しかし、状況がここまで変化すると、2014年、ないしは、2015年の消費者物価上昇率の前年比+2%が実現する可能性は高くなったと言わざるをえない。金融緩和の効果の波及過程として、円安と資産高が必要と主張してきが、昨年の11月14日以降、急速に円安が進行し、株価は上昇し続けている。安倍総理の金融政策に対する批判は多いが、市場は、安倍総理の政策が、円安、株高をもたらすと予想し、既にそれを織り込み始めている。現在の金融政策を維持したままで、消費者物価が前年比+2%まで上昇する可能性は低いと思うが、市場を睨みながら日銀が追加緩和を実施していけば、最終的には2%程度の消費者物価上昇率は実現するであろう。

とは行っても、実現への道が簡単であるとは言えない。補正予算や2013年度本予算で国債が増発されたならば、金利上昇がどの程度になるか、警戒しなければならない。消費税増税が延期されたならば、やはり金利上昇を警戒しなければならない。私のような、財政緊縮・金融緩和派にとっては、積極財政の結果としての金利上昇は、最大の懸念材料である。消費税増税が実施された場合には、来年4月以降の景気の落ち込みがどの程度になるかを考える必要があるし、アメリカやEUの政治混乱の経済への影響、日中関係の動向、そのほかにも、心配しなければならない要因は山のように存在する。マクロ経済で予想を難しくする要因は何時でも沢山ある。そうした中で、日本の金融政策が、正しい方向に動き始めたことだけは、歓迎したいと思う。



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