ノキアの株価急上昇がもたらしたフィンランドの静かな経済危機

今年1-3月の海外投資家による日本の現物株売越額は合計5兆円であった。大幅な売越額に見えるらしく、一部の人たちは大騒ぎをしていた。しかし、海外投資家は現物の取引所内取引だけで1991年-2016年4月第3週で86兆円の買い越しである。発行市場も含めた国際収支ベースでは1991年1月-2016年2月の期間で112兆円の買い越しである。安倍政権誕生直後の2013年1月以降だけでも、12兆円と18兆円の買い越しである。日本は、日本企業の株という日本人にとって貴重な財産をバブル崩壊後一貫して国内投資家に売らせ、代わりに海外投資家に買わせてきた。アベノミクスの正体は、この日本株を海外投資家に売り渡すという大変間違った政策を大幅に拡大させたことであった。安倍首相が2013年9月25日にニューヨーク証券取引所で行った「バイ・マイ・アベノミクス」というスピーチがその証拠である。海外投資家が大株主になった時の損失については過去に何度も書いたことがある。かつて使ったことのあるグラフを1つだけ下記に示す。

フィンランドの対外債務

ギリシャ危機の深刻さを表す際に使ったグラフである。2000年頃のフィンランドでは対外純債務の対GDP比率が200%近くであった。借金で首が回らない最近のギリシャよりも2000年頃のフィンランドの方が対外純債務比率が高かったのである。これは海外投資家がノキアの株を大量に買って株価が大きく上昇したからである。海外投資家がノキアの大株主になって株価が大きく上昇した時点でフィンランド経済は終わっていたのである。ノキアがさらに成長して海外投資家に巨額の配当金を支払い続けるか、ノキアの没落とともにフィンランド経済も没落するかの2つの道しか残されていなかった。その後フィンランドがたどった道は、後者の道であった。現在の日本は2000年時点のフィンランドとは全く異なる世界最大の対外純債権保有国である。しかし、今後日本経済が成長力を取り戻した場合、海外投資家に日本株を売り続けて、海外投資家が日本株のより多くの割合を保有する大株主になっていたならば、フィンランドと似た現象が将来の日本で発生するのである。

海外投資家に対して日本株を売るという状態はすぐにでも解消させる必要がある。そのために必要な政策が金融緩和の強化である。日銀が日本国債、株式ETF、REITの保有金額を年間1000京円ずつ、合計3000京円分だけ1年間で純増させるという政策目標を発表すればよい。そうすれば、物価も国債価格も株価も地価も急激に上昇することは間違いない。日銀が額面100円の国債の買い取り価格を1万円→1億円→1兆円→1京円と引き上げ続ければ、札割れなんか起こらない。ETFもREATも日銀が購入価格を無制限に引き上げれば、無制限の設定購入が可能になる。金融政策が実質GDPを引き上げることが可能かどうかという論点では、議論は分かれる。しかし、物価、株価、地価、名目GDPなどはいくらでも引き上げることは可能なのである。実質ではなく名目ベースのものに対して、「金融政策に効果はない」、「金融政策の効果には限界がある」と言うならば、その考え方は完全に間違っている。

3000京円は話をわかりやすくするための一つの極端な例であり、金額が大きすぎる。しかし、現在の政策と3000京円の間に現実的な解が必ず存在する。それなのに日銀は金融緩和を強化しようとしない。理由は明らかである。黒田総裁は出口戦略に自信がないからである。

出口戦略は政府が全面的に引き受けるべきである。第二次世界大戦終了直後のハイパーインフレを鎮静化させたと言われることが多い「ドッジ・ライン」の「バージョン2」を早急に策定するのである。消費税増税により、日本では消費税増税のデフレ不況促進効果が非常に大きいということが明らかになった。日本経済は消費税増税だけではなく、一般的に増税に弱い。非ケインズ効果が発生するような国とは正反対なのである。この増税を中心とするデフレ不況促進政策により、金融緩和によって発生するインフレを抑制することは可能である。そして、「ドッジ・ライン・バージョン2」を策定するならば、国債発行残高ゼロも同時に目指そうではないか。

とはいっても2016年の日本の前にはバラ色の道は存在しない。イバラの道しか残されていない。それでも海外投資家による日本株買いをこのまま続けさせ、現在30%強である海外投資家による日本株保有比率がさらに上昇すると、日本のフィンランド化が少しずつ進み、イバラのトゲの痛さは必ず増す。金融緩和をやめ、経済をデフレ不況に戻せば、海外投資家とともにイバラだらけの道に引き戻されることになる。増税だけで物価や株価を抑制することは簡単ではない。痛みも必ず伴う。しかし、それ以外の政策を採用した場合と比べれば、痛みは少ないはずである。

これから先の金融緩和の強化は完全に手遅れであり、痛みは大きい。しかし、痛みが一番少ない道が金融緩和の強化の後に続く道なのである。日本をフィンランドにさせてはならない。日銀は1日も早く無制限の金融緩和の強化を実施に移すべきである。


(長文ですが、過去にはこんな記事も書いています)
外国人株主比率上昇を伴う株価上昇による損失について
 2013年末対外純資産が過去最高を更新 ドル建てでは減少
 アベノミクスがもたらした株価上昇による100兆円の損失
金融緩和による財政再建策について
 金融抑圧による財政再建 イギリスと日本
 金融抑圧による財政再建 経済財政諮問会議資料における試算
 不動産バブルの崩壊防止を通した財政再建策


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アベノミクスがもたらした株価上昇による100兆円の損失

アベノミクスの評価は、現時点においてもさまざまである。その中で多くの人たちが認める功績は、株価を上昇させたことであろう。アベノミクスの否定論者でも、アベノミクスは株価を上昇させたこと以外にメリットは存在しないという評価を下す人は多い。株価を引き上げたことは功績であるにしても、現在の株価は上がりすぎであり、バブルであるとの批判は存在する。今回は、アベノミクスが株価上昇により巨額の損失を日本経済に与え、最近ではその累計額が100兆円にまで到達したという事実を説明する。最後に、このような巨額の損失が発生した原因として、最近、株価の需給コメントのシリーズで書いているものと同じ内容を記すことにする。

繰り返すが、アベノミクスの否定論者でも、株価を上昇させたことだけは功績として認める人が多い。一方、私は、株価上昇のプラス面、マイナス面の両方を今までに何度も書いてきた。今回はプラスの面には触れず、マイナスの面だけに触れることにする。唯一の正しい見方ではないが、一つの有力な観点から見た場合、大変大きなマイナスにもなりうる、ということを書くことにする。

そもそも、利益、損失、純資産の増加、純資産の減少というものは、会計基準によって変わるものである。民間企業でも、日本会計基準、国際会計基準、米国会計基準によって利益や純資産は異なる。利益、純資産というものは、万人の意見が利益、純資産であると一致するものは当然存在する。しかし、利益か利益でないか、純資産の増加か増加でないか、専門家の間で意見が分かれるものも当然存在する。そのため、会計基準によって利益や純資産は異なってしまう。正確性が他の会計基準より明らかに低い会計基準は、過去には使われていた。しかし、そのような会計基準は修正され、現在では使われていない。現在使われている複数の会計基準の利益、純資産の中で、どの基準が一番正しいかは、専門家の間でも一致してはいない。そもそも会計基準というものは、国や時代が異なれば、「正しい」内容が異なっても当然なのかもしれない。

より難しいのは、民間企業以外の利益、あるいは純資産である。日本という国レベルで、純資産が毎年どれだけ増加、または減少しているかについての会計基準は、事実上、一つしか存在しない。現在、日本で使われている日本の純資産に相当するものは、国民経済計算ベースでの国富(=正味資産)である。この会計基準は、いろいろと問題点が指摘されることが多い。しかし、現在、国ベースでどれだけ資産を増やした、あるいは減らしたかを認識できる統計は、国民経済計算ベースの国富しか存在しない。問題点があることは頭に入れながらも、事実上、一つしか存在しない日本の国富を表すグラフを下記に示す。


国富

国富の大半は非金融資産である。それ以外は、金融資産の一部である対外純資産だけである。国富の大半をしめる非金融資産が減少傾向を示している最大の原因は、地価の下落である。対外純資産は増加傾向にある。

国富には、対外純資産以外の金融資産が存在しない。これは、金融資産が存在すれば、必ずそれに等しい金融負債が存在していると国民経済計算では考えるからだ。この場合、株価が上昇しても、株価の時価総額の増加額に等しい金融負債が増加していると考えるのである。この考え方に基づけば、アベノミクスの結果株価が上昇しても、プラスは発生しない。株価の時価総額と同金額の金融負債が同時に増加すると考えるからだ。株式保有金額の増加額のうち海外投資家による日本株保有分については、海外投資家の資産増加と、国内部門の負債の同金額の増加が発生すると考える。これを日本から見れば、国内の負債の増加分と同金額の国内資産が増えているのではなく、同金額の対外負債の増加だけが発生していると見える。対外負債の増加であるから、対外純資産の減少、すなわち国富の減少を意味する。日本の株価が上昇すればするほど、資産は増えず、対外負債だけは増加し、対外純資産と国富は減少する。

国民経済計算は年1回公表され、最新のものは2013年度版である。非金融資産については国民経済計算が唯一の統計である。しかし、対外純資産を含む金融資産については、国民経済計算に準じるものとして、日銀の資金循環統計が存在する。これは年4回公表、最新のものは2014年版である。両者の会計基準は、主体や項目などの分類の定義に違いがあり、一致しない数字も多いが、理論的には同種のものと考えてよい。そのため、前回と同様に、国民経済計算ではなく資金循環統計の数字を使って、株価上昇による損益を計算する。なお、国民経済計算の株式は未上場株をも含めたすべての株式が対象であり、上場株だけの数字を求めることはできない。ここで使う数字は、資金循環統計における上場株だけの数字である。

2014年末における投資部門別の株式保有金額(上場株だけが対象)を表すグラフを下記に示す。


投資部門別保有金額

2014年末における最大の大株主は海外投資家であり、その金額は165兆円、全体の31%を占めていた。

次に、アベノミクス相場の開始以降、上記の株式保有金額がどれだけ増加したかを表すグラフを下記に示す。


投資部門別保有金額の増加額

アベノミクス相場の開始日は、野田前総理が衆議院解散を明言した2012年11月14日である。しかし、その日からの統計は存在しないので、代わりに2012年9月末を基準にした。保有金額にだいたいは比例しており、海外投資家による株式保有金額の増加額が95兆円と一番大きい。

次に、アベノミクス相場開始以降の投資部門別の売買状況を表すグラフを下記に示す。


投資部門別売買

このグラフの起点も、2012年9月末にした。見てわかるとおり、買いの大半は海外投資家である。2014年から公的資金が買い始めたので、信託銀行が少し買い越しになっている。最大の売り越し主体は家計、すなわち個人である。

次に上記の2つの表で示される金額の差を表す投資部門別の調整額というグラフを下記に示す。


調整額

調整額の定義は、資産の変動金額と売買金額の差である。具体的には、調整額の大部分は株価の値上がり益であり、かなり広い意味ではあるが統計上の不突合が一部に含まれている。最大の大株主である海外投資家が一番大きな株価の値上がり益を獲得している。

最初に示した国富の中の対外純資産は、フローベースでは「経常収支+資本移転等収支」の累積金額になる。一方、ストックベースではそれ以外のさまざまな資産価格の変動の影響を受ける。さまざまな資産価格の変動の中で最も寄与度が高いのは、為替レートと株価の変動分である。

日銀の資金循環統計ベースの対外純資産は、2012年9月末の277兆円から、2014年12月末の376兆円まで98兆円の増加となっている。このうち、海外投資家の日本株投資残高は、先のグラフで示したとおり95兆円、うち買越金額は20兆円、調整額、すなわち株価の値上がり益は75兆円である。海外投資家は日本の株価上昇により、75兆円前後の値上がり益を獲得した。このため、日本の株価が2012年9月と2014年末が同じであったと仮定するならば、対外純資産は376兆円より75兆円多い451兆円になっていたはずである。株価が上昇したがために、75兆円もの対外純資産と国富が減少したことを意味する。

しかし、アベノミクス開始以降の対外純資産は、株価上昇によるマイナス効果以上に円安によるプラス効果の方が大きかった。フローベースの「経常収支+資本移転等収支」の金額は小さかった。そのため、主として円安の結果として対外純資産は増加し、株価上昇によるマイナス効果は見えにくかった。

株価上昇によって海外投資家が獲得した75兆円の調整額は、2014年末の金額である。2015年に入ってからも、日本の株価は上昇している。ここで海外投資家の保有株式金額はTOPIXと同じ動きをすると仮定する。今年に入って、海外投資家は現物株を買い越しているが、残高との比率では大きな数字にならないので、ここではゼロと仮定する。この仮定に基づいて、2014年末からの海外投資家の日次の調整額累計を表すグラフを下記に示す。


海外投資家の調整額

調整額の起点である2012年9月末の株価は、2012年11月14日の株価より少し高い。従って、基準点が2012年11月14日のグラグが作成可能であったと仮定したならば、その金額は上記のグラフの金額を少し上回ることになる。それ以外の調整額についての仮定も、実際の調整額より少なく算出される仮定になっている。ただし、統計上の不突合は上下のどちらにも存在する。それでも、より正確なデータが存在すれば、上記のグラフの少し上を進んでいる可能性が高い。

少しばかりの仮定をおいて算出される累積調整額は、2015年4月22日に100兆円に到達した。この金額は、アベノミクス相場開始以降、日本の株価上昇によって失われた国富の金額にほぼ等しい。アベノミクスによる株価上昇が原因で失われた国富は、4月22日についに100兆円に到達してしまったのである。4月22日は実に悲しむべき日である。しかし、4月22日という日は、2000年4月14日以降、日経平均株価の終値が2万円台で引けた記念すべき日でもある。株価が上がってめでたし、めでたしの日でもあった。私が悲しむべきと考える日と、みんながお祝いをしている日が、同じ日になってしまった。

アベノミクス相場の開始以降の株価上昇による(上場株だけから発生した)国富の損失100兆円という数字は、多少の誤差があるとしても、ほぼ正しい金額である。ただ問題点は、国民経済計算という会計基準、その会計基準に基づいて算出された国富の金額が、正確な富の変動を本当に表しているかどうかという点である。会計基準を少し変えれば、100兆円の損失が大きく変わる可能性はありうる。会計基準に絶対的に正しいという基準は存在しない。国民経済計算という基準、中でも、ストック統計の会計基準についてはいろいろな批判が存在する。しかし、日本という国レベルで、純資産、あるいは国富が毎年どれだけ変動しているかを知るための会計基準は、事実上、一つしか存在しない。その唯一の基準とも言うべき国民経済計算という基準を使えば、アベノミクスによる株価上昇で失われた国富の累計額が、4月22日に100兆円前後に到達したという事実を動かすことはできない。株価上昇はアベノミクスの最大のメリットというのは正しくない。国民経済計算という有力な会計基準を使った場合、アベノミクスは、株価上昇の結果として日本の国富を100兆円も失わせた。アベノミクスがもたらした株価上昇の結果は、大変大きな利益ではなく、100兆円という巨額の国富の損失であったという観点が存在することは重要であり、この事実を忘れてはならない。

最後に、最近、株式需給コメントのシリーズに書いているものと同じ内容、すなわち100兆円の巨額の損失が発生してしまった原因とその対策を記すことにする。

 

政府・日銀の犯罪的な政策について

日本企業の株というものは、日本国民にとっての大変貴重な財産である。それに対して政府・日銀が過去にとってきた政策は、1989年12月29日の高値38,915円から2009年3月10日の安値7,054円まで、19年強の期間、最大で82%も日経平均株価を下落させたことである。そして、国内投資家に、株価はもう上がらないという非常に強い予想、期待、確信と、株価が戻れば売らなければならないという非常に強固な信念を抱かせてしまった。そして、1991年以降、結果として取引所という流通市場だけで92兆円、発行市場も含めた国際収支ベースでは114兆円もの日本の現物株を国内投資家が海外投資家に安値で売り渡すことになってしまった。これは犯罪的とも言えるレベルの政策である。アベノミクス相場が始まってからも、国内投資家は取引所という流通市場だけで20兆円の現物株を海外投資家に売り渡しており、犯罪的な政策は是正されていない。

ここまで来てしまった以上、完全に手遅れであり、経済をデフレ不況に戻すことなくこの問題を解決する方法はもはや存在しない。できること、可能なことは、損失のさらなる拡大をくい止めることだけである。そのためには、国内投資家が株を買い越すようになるまで金融緩和の強化を続けるしかない。2013年4月の異次元緩和は、あまりにも遅すぎであり、金額も少なすぎた。実施の翌週に、国内投資家が過去最高の金額の現物株を海外投資家に売り渡すという非常に大きなマイナス効果が現実のものになってしまった。2014年10月の第2弾の翌週も、国内投資家が海外投資家に現物先物合計で過去最高の金額を売り渡すという巨額のマイナス効果しかもたらさなかった。現在も効果がマイナスという状態が続いている。金融緩和を大幅に強化すれば、巨額の残高が存在する国債という運用先を失った国内投資家は、高値でも株を買わざるをえなくなる。この場合、国内投資家に、安く海外投資家へと売り渡した株をバブルに匹敵する高値で買い戻すように誘導することになる。実にバカバカしいことだ。しかし、これ以上海外投資家に株を売り渡せば、株価上昇と並行して増える損失がさらに拡大する。過去の政策があまりにも犯罪的すぎたので仕方がない。

株価が2万円前後にまで戻っても、国内投資家がまだ海外投資家に大量に株を売り渡し続けているという現状は異常である。過去における政府・日銀による犯罪的な政策を容認し、現在の異常な状態を異常と思わない人が多すぎることは、大問題である。


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金融緩和に過去最高の売り越しで立ち向かう日本の株式投資家

10月31日、日銀が予想外の金融緩和の強化を実施した。それからあまり時間はたっていないが、その直後から「異常現象」が再び発生した。今までも繰り返し述べてきたように、国内投資家の株式離れが大規模に進行したのである。ただ、その大規模が、過去最高という大きな規模であった。

金融緩和の大幅な強化が実施されると、国内投資家のあり余った資金が株式市場に怒濤のごとく流れてくることが、普通の国で発生する現象である。ところが日本では、これとは正反対のことが発生するため、普通の国ではないのである。正反対のことが発生することは、予想ができたことでもある。前回の記事でも、10月31日13時44分以降の株式市場の激変について細かく説明した。しかし、11月13日公表のデータにより、その規模が過去最高であることが確認された。前回の異次元緩和直後の過去最高を、さらに大幅に上回る過去最高の株式離れが発生してしまった。今までも繰り返し書いてきた内容であるが、もう一度この国内投資家の株式離れの実状について書くことにする。

まず、長期でみた国内の取引所における海外投資家の買い越し金額から説明する。「自己」という複雑な部門があるため、厳密には一致しないのであるが、「だいたいは」という意味で、「海外投資家の買い越し金額」は、「国内投資家の売り越し金額」に一致すると仮定する。もう少し先まで説明すると、取引所の売買には、増資、売り出し、新規公開などを通じた株式購入金額が含まれていない。従って、国内投資家の実際の売り越し金額は、取引所の売り越し金額よりずっと少なく、海外投資家の買い越し金額は、取引所の買い越し金額より多い。しかし、実際に株価が決定されるのは、取引所内での売買だけである。将来は、PTS(私設取引市場)などでの取引が増加するであろう。しかし、現時点では、金額不明の海外投資家による海外での取引を除けば、日本株の取引所外取引は大きな金額ではない。そのため、株価が決定する要因を分析するに当たっては、現在の東証の取引所内取引での投資部門別売買状況を見るのが、一番確実な方法だと思われる。

東証が発表している1974年以降の海外投資家の買い越し金額=国内投資家の売り越し金額、および信託銀行、個人の現物買い越し金額を表すグラフを下記に示す。


長期売買

バブルの頃は、個人も海外も売り越しであり、買い手が存在していない。この時の最大の買い越し主体は「銀行」であった。この銀行の売買は、銀行の自己勘定で行う株の持ち合い関係の売買と、バブルに踊って普通の企業が株による資産運用をする際に使った「特金」・「ファントラ」と呼ばれる信託銀行による売買が中心であった。当時は、銀行も信託銀行も同じ「銀行」という部門に含まれていた。その後、1996年9月に信託銀行が銀行から独立して、「信託銀行」の部門で集計されることになった。

バブル崩壊後の1991年から大半の時期において、株の買い手は海外投資家であり続けた。国内投資家はバブル崩壊の痛手があまりにも大きく、大きく下がった年に少しばかりの買い越しになっただけであった。

こうした環境下で実施されたアベノミクスの第1の矢=大胆な金融緩和は、株式市場に大きな影響を及ぼした。2013年を見ればわかるように、海外投資家の買い越し金額=国内投資家の売り越し金額は、過去最高となった。大胆な金融緩和が実施されることが確実になり、実際に実施されると、日本の場合は、国内投資家が大規模に株を売り越し始めるのである。2013年1年間の海外投資家の買い越し金額=国内投資家の売り越し金額は、年間15兆円にまで膨らんでしまった。私は、この現象を「異常」と書き続けてきた。しかし、海外投資家の買い越し金額が年間で過去最高となったことを知る人はいるが、国内投資家の売り越し金額が年間で過去最高となったことを認識して、異常と考える人は少なかった。

アベノミクス相場の開始は、野田前総理が衆議院の解散を明言した2012年11月14日が起点である。それ以降の主要な投資家の売買状況を示す。なお、先物は、長期で見れば、どの主体もゼロに近づくはずであるが、期間が短い場合は、現物以上に先物の方が重要になることも多い。ここでは、現物と先物を合計した買い越し、売り越しの金額を示す。最初に、海外投資家の買い越し金額=国内投資家の売り越し金額をより詳しく表すグラフを下記に示す。


海外買い国内売り

2012年11月14日は、11月12日から始まる週なので、起点はその週の月曜日である11月12日となる。11月12日に始まる週から、海外投資家の買い越し金額は増加し始め、大規模な買い越しは2013年末まで続く。2013年12月の最終週に、海外投資家の買いにより、日経平均株価は2013年の最高値をつけた。2014年からは海外投資家の買いが止まり、株価の上昇も止まってしまった。そして、10月31日13時44分に、日銀による金融緩和の強化が発表される。その瞬間から引けまでの1時間16分の間に、海外投資家が怒濤のごとく株を買い始め、国内投資家は反対に株を売り始めた。そうした売りと買いは11月の第1週も継続する。そして、11月第1週の海外投資家の買い越し金額=国内投資家の売り越し金額の、現物と先物を合計した金額は、2兆2263億円となり、過去最高を記録した。ちなみにそれまでの最高は、2013年4月第2週であり、金額は1.6兆円であった。この時は先物の買いは小幅であり、現物が買いの中心であった。従って現物だけの過去最高は、現在でもこの週である。この週も、2013年4月4日に異次元緩和が実施された翌週である。すでに海外投資家は、金融緩和を先取りしてかなり大量の日本株を買い越し続けていた。異次元緩和という予想以上の大胆な金融緩和の実施が発表され、それが現実のものとなると、過去最高の買い越しになり、国内投資家は過去最高の売り越しとなったのである。

この時の経験から、異次元緩和第二弾が出された場合、海外投資家の買い越し金額=国内投資家の売り越し金額が大きなものになることは、十分予想できた。しかし、再び過去最高を大幅に更新することまでは予想できなかった。

11月第1週は、いくつかの特殊要因があった週でもある。10月に入ってNY株価が下落し始め、中旬には債券が急激に買われ、株が急激に売られるといったかなり大きな変動が発生していた。NYで株が売られるのと連動して、海外の投機家たちが先物を中心に大量に日本株を売り越し、日本株に大きなショートポジションを持っていた。そのショートの手じまいの買いが少しずつ入っていた。そこに金融緩和の強化が発表され、そのショートが急激に買い戻されたのである。今回の買い越し金額が、現物よりも先物の方が多かったのは、そうしたショートの急激な買い戻しがかなり大量に含まれていたことがあったはずである。しかし、11月第1週は月曜が祝日であり、営業日は4日であった。通常の週の8割の売買だけで、前回の記録を0.6兆円も上回る買い越し金額を達成してしまったのである。そして、海外投資家が2週連続で大幅な買い越しになった記録も、従来は、異次元緩和が実施された日を含む週とその翌週である2013年4月第1週と第2週の2.5兆円が記録であった。2014年10月第5週と11月第1週は、その金額を1.1兆円上回る3兆5944億円の大記録を達成した。

こうした海外投資家による日本株買いは、海外投資家が日本の金融緩和を評価して、過去最高の買い越しになったと普通は説明される。しかし、それは半面の真理である。もう半面の真理は、国内投資家が過去最高の売り越し金額を記録したという事実である。こちらの方が、より重要な意味を持つと思われる。

この時、国内投資家はどのように動いていたのか。大きな投資部門別売買の主体である個人と信託銀行の売買状況をみる。まず、個人からみることにする。


個人買い越し

個人の売り越し金額は、ほぼ継続的に大きい。個人というのは、さきほど書いたように、発行市場などで株を買うので、流通市場ではどうしても売り越しになる。日銀の推計では、発行+流通でも売り越しになるのであるが、私は、アベノミクス相場以前の個人は、発行を加えるとトントンに近いと推計していた。ところが、アベノミクス相場開始以降は、発行市場を含めた場合でも、どう考えても大幅な売り越しである。取引所だけの個人の現先合計の売り越し累計金額は、12.3兆円となる。そのうち直近の2週間だけで1兆8392億円の売り越しである。

次に、信託銀行の売買を下記に示す。


信託買い越し

最初のグラフでも示したように、信託銀行というのは、上がれば売りであり、大きく下がれば買い、という行動をずっととってきた。昨年5月22日までのアベノミクス相場の第一段では、大幅な売り越しであった。その後は、目立った売買はなかった。変化が始まったのは今年の5月からである。従来は、決して相場の上昇局面を買うことがなかった信託銀行が、上値を買い上がるようになったのである。この傾向は、おそらく、10月31日の13時44分までは続いたようである。信託銀行の5月-10月の期間の買い越し金額は、現物が2.1兆円であるが、先物は0.4兆円の売り越しになっている。信託銀行の中身はさまざまであるが、GPIFとそれを含む公的年金、信託銀行を通じた企業の自社株買いなどがこの期間の現物買いの中心であったと推定している。先物の売りは、企業年金を中心とする昔から保有していた株のヘッジ売りであろう。それが11月第1週の信託銀行は、現物が771億円、先物が3254億円、合計で4025億円の売り越しになった。

日銀とGPIFが裏で結託して、国債を売らせ、株を買わせようとしたという観測が消えることはない。10月第5週と11月第1週の合計で、GPIFが株を買い、信託銀行が株を3兆5994億円買い越していたのであれば、その観測は正しかったかもしれない。10月31日の金融緩和とGPIFの構成資産変更の同時発表は、裏で両者が結託していたことを示す状況証拠になったはずである。しかしこの大量の買いは、信託銀行ではなかった。GPIFは、金融緩和の発表までは、少しずつ株を買っていたと思う。それが10月31日13時44分以降は、買いを停止し、様子見姿勢になった。その他の国内投資家は、すべて大挙して売り越し始めたのである。GPIFが資産構成を変更し、日本株の構成比率を引き上げることを正式決定したその日に、日銀が金融緩和を実施し、GPIFは安値で日本株を買うことに、少なくとも正式なスタート時点では、完全に失敗したのである。

日銀と裏で結託して日本の株価をつり上げようとした相手は、GPIFではなく、海外投資家であったという方が、説明がつきやすい。結果として、日銀は、海外投資家に株を買う機会を提供し、株価をつり上げ、GPIFの株買いを阻止し、日本国民の大切な資産に損害を与えたわけである。その上、海外投資家は、260兆円以上も保有する円建て資産に、円のヘッジ売りを大量にかけたため、大量の円売りドル買いが発生し、急激な円安進行も実現させた。そのため、GPIFが外国株、外国債券を安く買うことをも阻止したのである。日銀と海外投資家が、裏で結託して相場操縦を行い、日本国民の大切な資産であるGPIFが、日本株と外国証券を安く買うことを阻止し、大きな損害を与えた場合と、結果だけ見れば、同じ結果をもたらしたのである。

なぜ国内投資家は、二度にわたる金融緩和という大きなポジティブ・サプライズが発生すると、過去最高の売り越しを記録するのであろうか。それは私が繰り返し指摘している日本の投資家のヒステリシス(*1)という重い病気である。少し前にも示した、世界の主要国の1980年以降の株価の推移を表すグラフを下記に示す。


世界株価

日本以外の国の株価はすべて右肩上がりであり、長い目でみると大幅に上昇している。日本は上昇率が最下位であり、直近が270となっている。1989年12月ピークが617であるので、依然としてピークの半分以下である。

下げ相場という環境下で、株で儲けようとすると、上がったところで必ず売らなければ儲からない。そうした戻り売りが不可欠な投資戦略になってから、もう20年以上過ぎている。株の売買で生き残ろうとした場合、プロであろうがアマであろうが、「上がったところは絶対に買わないで売る」ということを基本戦略にしなければ、生き残れないのである。仮に上値を買うにしても、長期に持ち続けることなく、反対売買を早めにすることも習慣にしなければならない。20年以上続く上がらない相場の中で、こうした基本的な投資戦略を曲げない人しか、株で儲けることができなくなった。景気も企業業績も関係なく行動するのである。結果としては、景気が回復し、企業業績が良くなると、海外投資家が買い越してくるので、国内投資家の売り越し金額は常に拡大する。そのため、追加金融緩和というポジティブ・サプライズが出て、海外投資家が大量に買い越し始めると、国内投資家は、必ず反射的に大量に売り向かうのである。そのため、異次元緩和を2度実施すると、2度とも国内投資家は過去最高の売り越しになったのである。しかし、そうした行動パターンが、国内投資家に完全にしみついているため、海外投資家の買いが止まってしまうと、株価は下落してしまい、本当に株価は上がらなくなってしまうのである。

加えて、大規模な金融緩和を実施すると、国内投資家が株を大量に売るにもかかわらず株価が上昇するため、日銀がバブルを引き起こしたという正反対の批判が出るのである。日本は重い低血圧症にかかっているのに、日本人の大半は高血圧症になることしか心配していない。この株式市場のヒステリシスという病気を治すことは、非常に難しい。さらにやっかいな問題は、正しい病気と正反対の病気にかかろうとしていると、多くの日本人が誤解していることである。

一方、海外投資家からみればどうなるであろうか。上記のグラフを見てわかるとおり、世界の株の中で日本の株が断トツに安い。その状態がバブル崩壊後、ずっと続いている。グローバルに株を運用している投資家にとって、テクニカルで見て一番買いやすい株は、断トツで日本株であろう。超がいくつもつくほど出遅れているからだ。インドやスウェーデンの株を買うのは、テクニカルでは買いにくい。一方、ファンダメンタルズについては、MSCIのPERを使うと、インド>スウェーデン>日本であり、日本はバリエーション的に見ても割安なのである。そうした国で、予想外の金融緩和が実施されると、買い戻しも当然あるが、それ以外に、何も考えずにとりあえず日本株を買う投資家が、海外には多数存在しているのである。

1番株価が上昇しているインドは、長くインフレが続いており、真似をしてはいけない。一方、2番目のスウェーデンは、日本が真似をすべき点が多い国であると考えている。現在のスウェーデンは小幅のデフレが進行している。デフレ防止のために、中央銀行であるリクスバンクは、10月28日に金利を引き下げてゼロ金利政策を採用した。以前、7月3日の0.25%への利下げを「考えられない選択肢」と評価した。しかし、その次は、10月28日のゼロ金利への引き下げであった。日本人の大半がバブルと考えるはずの高い株価水準を実現させている環境下で、スウェーデンは追加の金融緩和を実施したのである。

残念ながら、日本は大変異常な国になってしまっている。これは、中央銀行が年間80兆円の国債を買うという異常に規模の大きな金融緩和を実施している国であるからではない。中央銀行が年間80兆円の国債を買うと決定すると、国内投資家はいっせいに株を売り始めるという国であるからだ。金融緩和の実施と同じ日に、正式に株の資産構成比率を増やすことを決定し、株を買わなければならないはずのGPIFですら、株を買おうとしない。日銀と結託して株価の相場操縦を行っている相手が、GPIFではなく海外投資家であるように見えてしまう国なのである。日本は、まず日本がこうした異常な国になってしまっているという認識を広げる必要がある。


投資部門別株式保有主体

上記のグラフも、前々回で使用したものと同じグラフであるが、日本の投資家がヒステリシスにかかっている間、日本の最大の大株主は海外投資家になってしまった。ここから先の道は2つしかない。1つは、日本経済が、再び長期不況に転落し、海外投資家とともに苦しい目にあい続ける道である。もう1つは、経済成長率の引き上げに成功し、株価が上がっても、日本株という対外負債の金額が急上昇し、世界最大の対外純資産を大きく減らしてしまう上に、毎年、多額の配当金を海外投資家に支払わなければならないという道である。この2つの不都合な道の選択しか、もはや道は残されていないのである。

どちらも不都合であるが、私は後者の方が多少は望ましい道だと考えている。海外投資家が保有する日本株を、できるだけ多く買い戻すことに成功したならば、対外純資産の減少という痛みを緩和することが可能になるからだ。そのためには、国内投資家がヒステリシスという重い病気、バブルと正反対の病気にかかっているということを、早めに認識する必要がある。そして年間80兆円の国債購入は多すぎるのではなく、少なすぎると理解しなければならない。株価が諸外国に比べて超低水準であるにもかかわらず、上がるとひたすら売り始めるという現在の国内投資家の行動パターンを正反対にしなければならない。そのため、株を売った場合の資金の行き先をなくすことが必要である。株を売った資金の最後の行き先、その多くは日本国債であった。860兆円もの残高がある日本国債が、日本の資産市場のブラックホールのようなものとなり、資金を吸い込んできたのである。

現在、黒田総裁を中心とするリフレ派の主流派は、モノのインフレ期待を高めようと躍起になっている。しかし、モノに対する低いインフレ期待よりも、もっと重症の「株価は上がらない期待」というヒシテリシスも同時に治療する必要がある。そのためには、860兆円にのぼる国債というブラックーホールをなくしてしまうことが一番望ましい。日銀が短期間で860兆円の国債全額を購入するべきだ、とまでは言わない。しかし、国債を全額購入するくらいの気合いをこめた量的緩和を実施しなければ、株式市場がヒステリシスから抜け出すことはできない。日本が過去20年以上にわたって築き上げてきた、ヒステリシスという大きな負の財産を処理しなければならないということを、十分認識することが必要である。日銀が海外投資家と結託して株価を操縦しているように、客観的には見える政策を行ってはならないのである。国内投資家と結託して株価を操作しているように、客観的には見えるような政策が必要なのである。そのためには。年間80兆円の国債購入は全く不十分な政策であり、現在とは何次元も異なる金融緩和策が必要なのである。

日銀は、860兆円の残高がある国債を短期間で全て買う、それは為替レートを動かすことが目的ではなく、株式市場のヒステリシスという国内の重い病気の治療が目的であることを、世界に向けて宣言する必要がある。専門家の意見は分かれるものの、教科書には第二次世界大戦終了直後のハイパーインフレを鎮静化させたと書かれている、ドッジ・ラインのバージョン2.0を政府が作成する必要がある。大規模な国債の購入による金融抑圧は、現在の日本では持続不可能であり、いずれはインフレとバブルが進行し始める。政府は、インフレ・バブル防止税を導入することにより、進行するインフレとバブルを封じ込めるべきである。また、政府は、インフレ・バブル防止税の収入を使って、日銀保有の国債をできるだけ多く買い入れて償却し、日銀が出口政策を気にすることなく、金融緩和一本に集中できるような環境を作り出さなければならない。そして、日銀は、860兆円の国債をすべて買い占めるくらいの気合いを入れて、国債購入金額を無制限に拡大させる必要があるのだ。


リンク先記事
株式市場のヒステリシス(*1)


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株価によって決定される国の税収

税GDP株

日本では、財政赤字が毎年累積し、金利の急上昇、財政破綻の懸念を生み出している。財政赤字拡大の原因の一つに、税収の低迷があることは間違いない。そして、税収は、一般的には、名目GDPによって決定されると言われている。しかし、過去30年弱の日本を見た場合、国の一般会計の税収は、名目GDPよりも、日経平均株価の方がはるかに連動性が高い。相関係数で見ると、株価と税収は0.84、名目GDPと税収は、0.28である。この相関係数を見たならば、税収を増やすためには、株価を引き上げる政策をとることが一番重要であることがわかる。

上記のグラフを見る際、注意しておくべき点がある。株価は、1990年の場合、年初、すなわち1990年1月5日の株価を使っている。それに対して、GDPと税収は、1990年度1年間のものを使っている。すなわち、GDPと税収は、期間は原則として同じであるが、株価は、少し先行した株価を使っている。イメージとしては、株価はGDPや税収よりも先行するから、と考えても良いと思う。また、株価が経済分析に用いられる場合、たいていは、株価指数の前年比変動率が使われる。上記のグラフで使ったのは、日経平均という株価指数そのものである。そして、株価、税収、GDPはいずれも1985年度または1985年の年初を100としている。しかし、GDPと税収は目盛りが左軸であり、株価だけが目盛りが右軸である。これが意味するところは、株価は税収と似た動きをするが、その変動率は、税収よりも株価の方が大きいということである。株価だけ縮尺を変えた方が、見た目での相関関係が高くなる。同じ縮尺の場合、相関係数は同じでも、見た目での相関関係がわかりにくくなる。一方、GDPと税収は、動きが少ししか一致しないので、縮尺を変えても同じである。

次に指摘しておきたいのは、株価と税収の相関関係が高かったのは、日本の一般会計の税収と、日本の日経平均株価の相関関係だけであることだ。IMFの統計で主要先進国の一般政府ベースでの歳入と株価の関係を調べてみたが、他の主要先進国では、歳入は、株価よりも、名目GDPの方に高い相関関係を示していた。そして、同じことが、日本についてもあてはまる。日本の一般政府の歳入が名目GDPとの相関関係が高い理由は、名目GDPと連動性の高い社会保険料が、継続して引き上げられており、結果として一般政府の歳入全体が、名目GDPの動きに近くなったからだと思われる。ただ、日本の場合、一般政府のグロス債務の残高の大半は、国の借金である。そして、地方政府はネットの債務を持つが、年金資産が蓄積されている社会保障基金は、巨額のネットの資産を保有している。従って、IMFの一般政府の債務残高をネットで見た場合、一般会計の国債発行残高を大きく下回ることになる。財政赤字や政府債務の問題を、他国との比較ではなく、日本国内の問題として考える場合、広義の一般政府ではなく、より狭義の一般会計を分析することにも、重要な意味があると考える。

ちなみに、2014年度予算では、一般会計だけの国債の発行額は、年間41兆円である。一方、2014年6月末時点で、国の普通国債発行残高は753兆円、国の借金の総額は1039兆円である。この他にも、国の国債発行残高や借金の残高を表す数字は、複数存在する。財務省の役人が操作をしていると批判されることもあるが、最大の原因は、国の会計制度が非常に複雑であるからだ。最初に、財政赤字拡大の原因の一つに、税収の低迷があると書いた。しかし、私は、税収の低迷は、原因の一つというよりも、最大の原因であると考えている。

株価と税収に相関関係があることは間違いない。では、因果関係はどうであろうか。まず、税収→株価の因果関係を考える。増税を実施した場合、株価は、おそらく下がるであろう。増税により、景気がより悪くなるからだ。逆に減税をすれば、景気は良くなり、株価は上がるであろう。税収と株価の間に因果関係があるとすれば、負の相関関係として現れるはずである。しかし、実際は、正の相関関係が発生している。一方、景気が自律的に回復した場合、税収が増えると株価も上昇する。しかし、これは、税収→株価の因果関係ではなく、景気回復→税収、株価という因果関係である。従って、税収→株価の因果関係はないと考えるべきである。

次に、株価→税収の因果関係を考える。株価が上がると、個人や法人のキャピタルゲインが増加し、それに対する税収は増加する。従って、株価→税収の因果関係は存在するはずである。ただ、問題は、株価が税収を増やすという因果関係があることは間違いないにしても、株価が税収全体を決定するほどの、大きな因果関係があるか、という点である。つまり、株価が上昇すると、税収は増えるにしろ、数多く存在する税の中で、所得税、法人税の一部しか増やさない。財務省も資産価格の下落を原因として発生した税収の減収額とその累計額を算出しているが、それほど大きな数字にはならない。株価が税収全体を決めるという言い方は、大げさな表現であるようにも見える。

日本の一般会計の税収は、国の経済活動の集合体であるフローのGDPと、ストックの代表である地価、株価の双方により決定される。普通の国の場合、長期で見れば、ストック価格は右肩上がりなので、株価は上がる一方である。税収は株価とともに上昇するが、株価ほど大きく変動しない。従って株価と税収の相関関係は低くなり、税収と名目GDPの相関関係の方がより高くなる。日本の場合、長年、ストック価格が右肩下がりであった。ストック価格低下による税収減と名目GDPとの相関関係は、非常に小さなものとなるはずである。ラグなども考慮すると、マイナスになってもおかしくない。資産デフレの時代には、名目GDPと税収の相関関係は低下するのである。株価は、地価と同様にストック価格の代表である。しかし、株価は、フローのGDPの変化を先取りして動くものでもある。つまり、株価は、重要なストック価格の一部門であるだけではなく、日本の経済活動のフローであるGDPを先取りして反映するものである。加えて、株価は、もう一つ重要なストック価格である地価の動きをも、ある程度先取りして反映する。結果として、1985年以降の株価と税収は、高い相関性を持つことになった。この高い相関関係は、偶然ではなく、現在の日本のような税制と、資産デフレとが重なった場合、必然的に発生する現象なのである。株価と税収の高い相関関係は、ストック価格の右肩上がりが定着するまで続くことになるであろう。株価と地価は、ピークを大きく下回っている。株価と地価がピークをこえるまでは、株価と税収は高い相関関係を持ち続けることになるであろう。つまり、現時点で、税収を増やす最も効果的な政策は、株価を引き上げるための政策である。

現在の株価対策は、質的緩和という名で日銀がETFを買うこと、NISAを設けて、個人投資家の資金を株式市場に呼び込むこと、である。私は、このうちNISAという制度には反対である。発想自体が全くおかしいと考えている。巨額の政府債務を抱える現在の日本に必要な政策は、減税ではなく、増税なのである。その上、日本の株価は、NISAの拡充であろうが、キャピタルゲイン課税の全面廃止であろうが、その程度の政策では、株価が上がれば必ず売るという株式市場のヒステリシス(*1)を打ち破って、株価を上昇させることはできないのである。加えて、こうした株価一本に絞った政策は、たとえ成功しても、税収が伸びることは間違いないが、大きくは伸びない可能性が残る。税を株価対策として使う場合、後で述べるように、株価上昇抑制のための増税策に限るべきである。

株価を一番簡単に上昇させるための政策は、みんなが知っている。それは、金融を徹底的に緩和して、バブルを引き起こすことである。金融緩和の強化、すなわち、日銀が国債購入金額をガンガン増やしても、物価は上がらないという人は、現在でも一定程度存在する。しかし、バブルを引き起こさないと考える人は、少数派だと思う。金融緩和、すなわち日銀が国債購入金額をガンガン増やし続けた場合、必ずバブルが発生する。すなわち株価は大きく上昇するのである。そして、株価が上昇するだけではなく、後に景気回復が発生し、税収の増加に必ずつながるのである。2012年11月以降、金融緩和とその予想が発生すると、株価が著しく上昇し始めた。金融緩和を大規模に実施すると、あふれた金が株式市場に流入し、株価が上昇すると考える人は多いと思う。

しかし、異次元緩和は、そうした現象とは正反対の現象を引き起こした。異次元緩和とその予想は、国内投資家が保有する株を大挙して売らせ、銀行預金等に資金を移動させたのであった。株式市場に流れ込んできた資金は、異次元緩和で創造される信用とは全く無関係の、海外投資家の資金が16.3兆円も流れ込んできただけであった。2012年11月-2013年12月に起こった株価上昇は、国内の余剰資金が株式市場に流れ込む「バブル」という現象ではない。適切な表現が思い浮かばないが、バブルとは正反対の、株式市場から国内投資家の資金が大挙して逃げ出すという、「負のバブル」とも表現できる現象であった。2014年に入ってからは、大きな資金移動は止まっている。1990年代以降、日銀は、金融緩和を繰り返してきたが、国内投資家の資金は、株式市場から流出し続け、負のバブルを形成してきた。これは、金融緩和の規模が、小さすぎ、かつ遅すぎたことが原因である。株を買ったのは、金融緩和と無関係の海外投資家が、88兆円も買っただけであった。株式市場を負のバブルから正のバブルへと転換させるためには、金融緩和の規模を、今よりも大幅に拡大させる必要がある。

金融緩和の結果として、株価が上昇すれば、税収も必ず増える。しかし、より大きく税収を増やすためには、現在は70%である国内投資家の日本株式保有比率を、増やすことが必要である。理由は、日本株の30%を保有する海外投資家のキャピタルゲインに対しては、税金をかけることができないからである。もう一つは、海外投資家が大株主のまま株価が急上昇すると、対外純資産が急減するという現象が発生してしまうからだ(*2)。これは、国家的な大損失になる。日銀が、発行されている国債の全額購入を目指して国債をガンガン買っていけば、国債を売らざるをえなくなった国内投資家の資金の何割かは、株式市場に流れ込んでくるはずである。その時、海外投資家は、日本株を売り越してくるであろう。こうして、海外投資家から、できるだけ多くの日本株を買い戻すことが必要である。

そこからさらに金融緩和を強化すれば、いずれは本物の正のバブルへと発展する。その時は、まず質的緩和の名目で購入したETFを売却するのが最初の対策となる。日銀がETFを大量に保有していれば、株価がバブル化した時、ETFの売却が株価抑制の大変有力な手段となりうる。質的緩和という政策は、株価を下げさせないための政策であるが、同時に株価が上がりすぎることを防ぐために必要な政策でもある。同時にその時日銀が獲得するETFの売却益は、国の税収増加と同じ効果を持つことになる。その次が、キャピタルゲインに対する税率を引き上げることが上げられる。同時に、個人だけではなく、事業法人や非課税法人が負担する新しいキャピタルゲイン課税の導入などが選択肢になるであろう。こうした株価抑制策により、株価の上昇速度を鈍化させ、バブル化を防ぐのである。バブルにならない程度の株価の上昇と同時に税収の大幅な増加も長続きさせるのである。その結果、財政再建は急激に進展することになる。

では、日本の株価は、長期で見た場合、あとどれくらい上昇の余地があるのであろうか。株価の上値の余地を見るために、前回使ったものと同じ世界の株価を、最初のグラフと同じ期間である1985年からの変化を表すグラフを下記に示す。


世界株価1985

上位3ヶ国、イスラエル、インド、ギリシャはインフレが株価の上昇に寄与しているので、日本の手本にはならない。ギリシャの少し前までの株価の下落は凄まじかったが、ギリシャはユーロ加盟以前はインフレ率が高く、並行して株価も大幅に上昇させてきた。そのため、1985年1月基準ならば、日本とはケタ違いの株価上昇を実現させている。しかし、ギリシャは日本の手本にはならない。手本になるのは、4番目のスウェーデンである。スウェーデンのバブル崩壊と再生については、前回書いたので省略するが、1985年1月を基準とした今年6月末の株価を見ると、日本は134。スウェーデンは1,897、差は、14倍も存在する。(*3)でスウェーデンの地価は、「バブルの少し手前」と書いた。今年の3月23日の記事である。その後もスウェーデンの資産価格は上昇し続けたが、7月3日、スウェーデン中央銀行は、政策金利を0.75%から0.25%に引き下げた。上記のスウェーデンの株価や(*3)の中で示したスウェーデンの地価を見た場合、日本人エコノミストのほぼ100%は、スウェーデンの資産価格は、「バブル」と評価するであろう。私のような日本では超少数派の超金融緩和派が見ても、スウェーデンの資産価格の上昇を放置すればバブルになるので、利下げという選択肢は考えられない。しかし、スウェーデン中央銀行は、政策金利を引き下げた。これは、スウェーデン人の半分以上の頭がおかしいか、私も含めた日本人全員の頭がおかしいかの、どちらかである。どちらが正しいかは、将来、必ず明らかになる。

しかし、スウェーデンは、1985年1月を基準にした場合、今年6月の日経平均の15,376円の14倍強まで株価を上昇させることに、すでに成功しているのである(厳密にはTOPIXを使うべきだが、ここでは近いものとして、日経平均で代用)。1985年1月を基準にして、日本とスウェーデンの今年6月の株価を同じ水準にさせるためには、日経平均を14倍強の21万円にまで引き上げる必要がある。そのような政策をスウェーデンはすでに実施してきたのである。日経平均を21万円まで引き上げるべき、といった主張はしない。キチガイ扱いにされたくないからだ。ただ、日経平均が21万円相当まで上昇しても、スウェーデン人は追加金融緩和を実施するという事実があることだけは伝えておきたい。21万円は上がりすぎである。しかし、21万円までは未踏ではなく、スウェーデンという先例がある。日本にはなく、スウェーデンにはあるいくつかの条件を満たせば、21万円は、実現可能なのである。繰り返すが、21万円は、実現可能と言っているだけで、21万円を目標にしろとは言っていない。私は、キチガイなどではなく、まともな人間だからである。ただ、上記のグラフで示したとおり、1985年1月を基準とした場合、今年6月の日本の株価は世界最下位である。直近の株価15,318円も、間違いなく世界最下位であり、安すぎである。今は、株価の上限を考えることなく、株価の上昇を目指して、日銀は、ひたすら国債の購入額を増やすことだけ考えれば良いのである。

現在、日本が抱える最大の問題は、財政再建である。それを実現するためには、株価を大幅に上昇させることが必要である。そうすると、株価と連動する税収を、同時に大幅に増やすことが可能になる。株価を大幅に上昇させ、税収を大幅に増やすためには、異次元緩和を上回る大規模な追加金融緩和策を繰り返すことが、必要不可欠なのである。


リンク先記事
株式市場のヒステリシス(*1)
2013年末対外純資産が過去最高を更新 ドル建てでは減少(*2)
地価の下落がもたらす財政破綻とその回避策(*3)


                  


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日本の株価低迷と世界の株価上昇

2012年11月を境にして、日本の株価はある程度の上昇を実現した。しかし、より長期の観点から見ると、日本の株式市場は、長期低迷のさなかにある。今回は、日本の株価を、世界の国々の株価と比較する。このことを通して、日本の株価の長期低迷という現象は、世界の標準から見ると全く異質であることを確認する。そして、株価上昇のための政策変更の必要性を、いつもと同じ結論として書くことにする。

まず、日本の株価と諸外国の株価との動きを単純に示すグラフを4種類掲載する。4種類といっても、期間と掲載国の数が違うだけである。それだけでもいろいろな事実が浮かび上がってくる。

まず、OECDのHPから、1959年1月=100とした株価推移を表すグラフを下記に示す。


株価1959

OECDのHPにある株価データは、最古が1950年1月からであるが、その時期には日本の株価は掲載されていない。掲載され始めたのが、1959年1月からであるため、上記のグラフを作成した。

日本の株価というのは、TOPIXのことである。ただ、TOPIXの月末値ではなく、毎月の日次平均値を使っている。TOPIXは1969年7月1日が計算開始日である。それ以前のTOPIXについては、証券系の調査機関が算出したと思われるTOPIXを見たことがある。OECDはそうした算出値の中の1つを使用したのであろう。

1959年1月-2014年6月の株価上昇率は、インド426倍、次いでスウェーデン198倍である。イギリス50倍、アメリカ33倍、日本24倍、最下位のオランダでさえ15倍である。長期で見た場合、株価というものは、上昇するものなのである。そして同時に、上昇しなければならないものなのである。

加えて、1959年1月をスタートとした場合で、ラストの時期が、1971年4月から1990年10月までの期間であった場合、日本は、株価の上昇率という点においては、世界でトップの地位を占める月が多かった。その後の長期の株価低迷とは、全く対照的であったのである。

次に、1980年1月以降の世界の株価推移のグラフを下記に示す。


株価1980

1980年は、第二次オイルショックが発生した翌年の年である。1980年代は、日本以外の多くの国は、スタグフレーションに悩まされていた時代である。その年を基準にしても、インド198倍、スウェーデン77倍のツートップに変化は無い。アメリカ16倍、イギリス14倍、ドイツ9.4倍、ブービーのニュージーランドが6.8倍、そして最下位が日本の2.7倍である。

先に書いたとおり、1959年1月基準では、バブル崩壊直後までの日本の株価上昇率は、世界のトップであった期間が多かったのである。しかし、1980年1月基準の場合、バブルのピークであった1989年12月の数字を見ると、スウェーデンが12倍、イタリアが8.8倍、フィンランドが7.2倍、日本が6.2倍である。1980年代は、日本だけで大きな株価上昇が発生したのではなかった。スウェーデンを始めとして、日本よりもはるかに大きく株価が上昇した国が存在していた。そして、日本と同様に、スウェーデンとフィンランドでも1990年代前半にバブル崩壊が発生した。しかし、その後のスウェーデン、フィンランドと日本は大違いである。

スウェーデンでは、バブル崩壊後の金融危機に対して、早めに大量の公的資金が投入された。その後は、投資家の株・土地離れが発生する前に、資産価格が右肩上がりの上昇を続けることが可能なくらいの、十分に緩和的な金融政策が採用され続けた。短期的には公的資金の投入効果が大きかったが、中長期的には十分な金融緩和策の効果が大きかったと思う。1990年-2014年(2014年分はIMF推定値)のGDPデフレーターの幾何平均を計算すると、年率で、スウェーデン+1.9%、フィンランド+1.7%、日本-0.6%となった。マイルドなモノのインフレと資産価格の上昇を目指す金融政策と、デフレと資産価格の低迷を容認する金融政策の差が、バブル崩壊以降の1990年代後半からの株価の巨大な格差を発生させた最大の理由であった。

なお、フィンランドは、1990年代初頭のバブル崩壊とその後の政策については、スウェーデンと共通点が多い。ただ、フィンランドは、スウェーデンとは異なり、ユーロ圏への加盟を選択した。そして、株価は、1990年代半ばから急騰し、2000年3月をピークにして大きく下落している。これは、ノキアが1990年代後半に世界最大の携帯電話会社として急成長し、スマホの台頭と共に没落し、2014年には携帯電話事業から完全に撤退したからである。この特殊要因を除けば、フィンランドの株価は健闘している方であろう。

インドの株価の上昇が一番大きいのであるが、実質GDP成長要因は確かに寄与している。しかし、それ以上に大きく寄与しているのは、インフレ要因である。1980年-2014年のGDPデフレーター上昇率は、年率+7.5%であった。株価だけが大きく上昇したのではなく、物価も比較的大幅に上昇し、次いで実質GDPも上昇している。この場合、株価だけではなく、名目GDPも大きく上昇しているので、バブルの発生にはつながらない。ただ、株価の上昇の中には、比較的高率のインフレという不健全な上昇要因が、かなりの程度寄与し続けている。従って、インドの株価上昇を、手放しで賞賛することはできない。

次に、1990年1月以降の世界の株価推移のグラフを下記に示す。


株価1990

日本のバブルのほぼ頂点を、スタート時の基準にしているので、日本の株価下落が目立つものとなっている。

上位を占める、トルコ、メキシコ、インド、チリ、イスラエルのGDPデフレーターを見ると、最悪のトルコが年率+34.9%、一番ましなイスラエルが年率+5.1%であり、いずれの国もインフレ率が高い。従って、健全な株価上昇とは言いがたい。その他の代表的な国の株価上昇率を見ると、スウェーデン6倍、アメリカ5.5倍、イギリス2.9倍、ドイツ2.7倍、ブービーのニュージーランド1.6倍、最下位の日本0.5倍と、日本が断トツに悪い。これは、先に書いたとおり、日本だけが、物価と株価の下落を、促進ないしは容認するような金融政策をとり続けてきた結果である。

次に、2000年1月以降の世界の株価推移のグラフを下記に示す。


株価2000

わかりにくいグラフであるが、39ヶ国もあるグラフを一覧にするためには、上記のような表示方法しか思いつかなかった。

2000年1月以降の39ヶ国の株価は、だいたいにおいて似た動きを示してきた。それは、「アメリカの住宅バブルの進行とともに株価は大きく上昇し、バブル崩壊とともに大きく下落し、リーマンショックの少し後から回復する」という傾向であった。国によって、高値安値の時期は異なるので、アメリカの株価ピークの2007年10月と、アメリカの株価ボトムの2009年3月の2点だけを選択した。2014年6月は直近であり、2000年1月はすべての国において100である。

上位のロシア、インドネシア、メキシコは、GDPデフレーターの上昇率が、年率+13.1%、+9.3%、+5%と比較的高い。従って、あまり健全な株価上昇とは言えない。その他の代表的な国の株価上昇率を見ると、アメリカ+62%、スウェーデン+37%、ドイツ+6%、イギリス+5%、日本-25%、ギリシャ-76%である。この期間だけ見ると、日本は39ヶ国中、下から7番目であり、マイナスであっても、断トツに悪いとは言えない。

しかし、この見方は正しくない。海外投資家による日本株の買い越し金額を表すグラフを下記に示す。


株価と海外投資家の買い

何度も掲載したことのあるグラフであるが、海外投資家は、バブルが崩壊した1991年以降、直近の7月1日までの間に89兆円もの日本株を買い越している。このうち、1991年-1999年に30兆円、2000年-2014年7月1日に59兆円買い越している。日本の株価は、この巨額の海外投資家による日本株買いがなければ、その水準は、現在よりも大幅に低い位置にあったはずである。海外投資家による日本株買いがなければ、日経平均株価はより大きく下落し、バブル崩壊後の不況はより激烈なものとなったことは間違いない。日本の株式市場は、海外投資家による巨額の日本株買いに救われたのである。しかし、そのツケのコストも高かった。昨年1年間に日本の対外純資産を3483億ドルも減少させるというひどい結果を導いた(*1)。それでも、2000年以降の株価の下落率が世界最下位にならなかったのは、こうした海外投資家による巨額の日本株買いがあったおかげなのである。

だが、これには反論があるはずだ。1990年以降、世界の機関投資家のグローバル運用は拡大し、海外投資家は、日本株だけではなく、他の国の株も大量に買い越している、というものだ。この意見に対して完璧に反論をできる人はほとんどいないと思う。私にもできない。ただ、一つの例として、イギリスをあげてみる。イギリスの場合、1997年において、海外投資家のイギリス株保有比率は20%であった。しかし、2012年においては65.9%にまで拡大した。日本は1990年3月末が4.2%、2014年3月末が30.8%である。この数字を見る限り、日本以上にイギリスの株価の方が、海外投資家によって買い支えられていたように見える。しかし、2014年3月末時点において、イギリスの投資家は外国株を9161億ポンド保有し、海外投資家はイギリス株を9823億ポンド保有していた。イギリスの株式部門の負債超過額は、662億ポンドであり、それほど大きな金額ではなかった。そして、イギリスは2014年3月末時点で、818億ポンドのネットの負債を持つ対外純債務国であった。確かに、1990年以降、世界各国間で、株の相互持ち合いというような関係が強まっている。規制の多い一部の発展途上国は、海外投資家の保有比率はまだ低いと思う。しかし、グローバル化した国、特にヨーロッパの小国などでは、国内株の多くを海外投資家が保有するという国は存在するであろう。

一方、日本は、2013年末時点において、日本の投資家は、外国株を75兆円保有していた。それに対して、海外投資家は、151兆円の日本株を保有していた。株に関しては、資産は負債の約半分であり、負債超過額は76兆円にのぼる。一方、日本の対外純資産は、325兆円で世界一である。にもかかわらず、株に関しては、資産が負債の約半分というのは、正常な姿ではないと思う。加えて、国際収支ベースで見た場合、1991年-2014年6月の期間の海外投資家による日本株の買い越し金額は110兆円、国内投資家による外国株の買い越し金額は35兆円である。この差をとれば、海外投資家による日本株の買い越し金額の方が75兆円多くなる。先に示した89兆円と110兆円の差は、110兆円の中には、発行市場での買いや非上場株の買いなどの金額が含まれているからである。海外投資家によるネットの日本株の買い越し金額が75兆円というのは、やはり日本の株価は、海外投資家による買いによって支えられていたと表現するのが適切であろう。

日本の株価が、1959年1月基準の場合、最下位でない理由は、バブル期以前の大規模な貯蓄があったからである。2000年1月基準の場合、最下位でない理由は、海外投資家が日本株を大量に買い越したことと、ギリシャが大きな経済危機に陥ったことである。海外投資家による大量の日本株買いにより、日本の株価水準は大きく高まったはずであるが、日本の株価は、1980年1月基準、1990年1月基準の場合、世界の中で上昇率がズバ抜けて低い国となってしまっている。

日本が、長年、世界で断トツの株価低迷が続いている最大の理由は、バブル崩壊後の金融政策にあった。少し前にも書いたことであるが、1992年に宮崎義一氏の「複合不況」という本がベストセラーになり、不況の原因の半分が資産価格の下落であることは、その時点で広く認識されていたのである。その場合、必要な政策は、資産価格を引き上げるための政策である。すなわち、公定歩合を速やかにゼロにまで引き下げ、国債を大量に買うという政策が必要であった。異次元緩和という政策は、2013年4月ではなく、20年前の1993年4月に実施されるべき政策であった。この時に異次元緩和が実施されていたならば、物価、株価、地価はすべて反転上昇に転じ、その後は、スウェーデン並の高い株価上昇を実現することができた可能性は十分に考えられる。失われた20年などは存在しなかった。異次元緩和の実施が20年遅れたために、日本はあまりにも多くのものを失い過ぎ、2度と取り戻すことができなくなってしまったものが多すぎるのである。日本は、もはや、以前のような経済大国として復活することは、非常に困難になってしまった。

ただ、当時の雰囲気を知る者としては、1993年4月の異次元緩和実施などという政策は、ほとんどの人の夢の中にすら存在しない政策でもあった。バブル期以前の経済成長の体験に、当時の日本人は染まりきっており、何もしなくても、時間がたてば、景気は回復し、株価も地価もいずれ戻るという確信がほとんど揺らいではいなかった。宮崎義一氏のいうように、資産価格の下落は問題ではあるが、そのうち戻るであろうという根拠なき楽観論が蔓延していたのである。

しかし、1993年4月は無理にしても、異次元緩和実施の機会は、その後いくらでも存在していたと思う。1995年住専に対する公的資金投入決定、1997年山一證券破綻、1998年長銀と日債銀の破綻、2001年ITバブルの崩壊、2008年リーマンショックなど、資産価格の下落や不況を阻止するために、金融を思い切って緩和することが必要な機会は何度も存在した。

特に、リーマンショックが起こった翌年である2009年の実質GDP成長率は、ショックの震源地であるアメリカやヨーロッパの主要国よりも、日本のマイナス幅が一番大きかった。しかし、このことは、リーマンショック前から下げ続け、リーマンショック直後に急落した株式市場では、既に予想され、材料として織り込まれていたのである。日経平均株価は、リーマンショック直後の2008年10月27日に7161円まで暴落し、バブル崩壊後の最安値である2003年4月28日の7607円を下回っていた。その後も株価は変動を繰り返しながら、2009年3月10日に7054円の大底をつけ、その後は緩やかながらも上昇に転じる。株式市場を見ていれば、2009年の日本経済が急激に悪化することは、十分に予想ができたのである。1990年代初頭のバブル崩壊時にも、真っ先に株価が大きく下落し、その後の経済不況を先取りしていたのであった。

1990年代初頭の日本と同様にバブル崩壊に見舞われたアメリカ、イギリスでは、短期間で金利をゼロ近辺にまで引き下げた。そして、アメリカでは2008年11月、イギリスでは2009年2月に量的緩和政策が開始された。日銀は、この後に訪れる大不況の悪影響を可能な限り緩和するための政策、すなわち異次元緩和を、アメリカとイギリスに追随して開始すべきであった。しかし、株価暴落というあまりにもわかりやすい経済の先行指標が存在していたにもかかわらず、日銀は、従来と同様の、遅すぎて効果のない小出しの金融緩和策しか実施しなかった。

異次元緩和が開始されたのは、2013年4月4日である。しかし、あまりにも遅すぎた。リーマンショック直後には、株安だけではなく、円高も同時に進行した。一方、日本周辺のアジア諸国は、自国産業の競争力を高めるために、極端な自国通貨安誘導政策を続けていた(*2)。リーマンショック後の超円高・アジア通貨安によって、半導体、薄型テレビを始めとする国内のいくつかの重要な電機産業は、韓国、台湾の製品に全く勝てなくなり、回復不能の大打撃を受けた。そして、「業績不振の原因を円高に押しつける経営者は無能であり、為替相場に左右されない体質を作ることこそが経営者の役割」といった、とてつもなく誤った意見が、正しい意見であるかのような認識、雰囲気が、世間に広まってしまった。自動車を中心に、国内での競争力を保持していた企業も、輸出から大規模な現地生産へと移行する計画を立て、実行に移すことになる。超円高時に、為替相場に左右されない体質に変えるために作られた空洞化計画は、現在でも進行中である。対先進諸国通貨に対する円高は、かなり是正されたが、対アジア諸国の通貨に対しては、現在でも超円高・アジア通貨安が進行中である(*3)。一旦、決定した大方針を、超円高・アジア通貨安が少しばかり是正されただけでは、方針を変えることはできないのである。その結果、輸出は増えず、輸入ばかりが増え、貿易収支は、異次元緩和実施以降、悪化したのである。

異次元緩和の実施は必要不可欠であったが、時期を失していたのであった。従って、現状では、目に見える効果は、あまり多く現れていない。20年の遅れは、日本人の様々な行動パターンを大きく変えてしまった。普通なら効果のあるはずの政策が、効果が現れなくなってしまったのである。何度も繰り返しているが、異次元緩和のような政策の実行とその予想が出始めたならば、国内投資家は16.8兆円くらいの日本株を買い越すのが、普通の投資行動パターンなのである。ところが実際には、国内投資家は、16.8兆円の日本株を売り越したのである。現在の日本では、本来なら「異次元」であるはずの金融緩和策が、「同次元」になり、目に見える大きな効果を発揮することのない力不足の金融緩和策に変化してしまっていたのである。

金融緩和策の効果が発揮できているかどうかを識別するための、わかりやすいベンチマークの一つは、日本の株価と国内投資家の投資行動を見ることである。日本の国内投資家が、日本株を買い越し、その結果、株価が上昇するという、20数年間忘れ去られている普通の投資行動パターンを取り戻すように変わったかどうかを見るのである。国内投資家が高値で株を買い上がる、これが実現すれば、初めて金融緩和策が目に見える効果を発揮できたと言えるであろう。加えて、高値で買った国内投資家が損をしないように政策を誘導することも必要である。これは、日本の株式市場を、国内投資家の買いによって株価が上昇し、長期で見れば、右肩上がりの相場が続くという、普通の株式市場に戻すということだけを意味する。長年の株価低迷の結果、普通ではなくなった株式市場を、普通の株式市場に戻すことが必要なのである。そのためには、異次元緩和を大きく上回る大規模な追加金融緩和を繰り返すことが、必要不可欠であるのだ。


リンク先記事
2013年末対外純資産が過去最高を更新 ドル建てでは減少(*1)
購買力平価から見た円相場 超円高による産業の空洞化(*2)
実質実効為替レート 超円高・アジア通貨安の構造(*3)



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