日銀「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に対する代替案

9月21日に日銀はこれまでの金融政策についての総括的な検証を行い、新しく「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」への移行を発表した。この内容は難解ではあるが、多数の解説がすでに書かれている。ここでは内容にはふれず、私の意見だけを書かせてもらう。

まず、私の考え方は異端である。「日銀による大規模な国債購入と政府による増税とを組み合わせることにより、50年程度の時間をかけて国債の全額償還をめざす」という立場である。今回はこの立場から日銀の総括と新しい枠組みを批判することにする。

私が総括と枠組みを最初に読んだ第一印象は、多くの人たちと同じと思うが、「理解の難しい矛盾だらけの内容」であった。一方では、このような理解不能な政策を発表せざるをえない日銀の内部事情の方がよりはっきりと見えてきた。これは黒田総裁の就任以来、日銀を支配していたリフレ派と昔から日銀の多数派であった反リフレ派の妥協の産物であり、反リフレ派の方にやや有利な形で書かれたものである。

黒田総裁のリフレ政策にはいくつかの欠点があった。その中で黒田総裁が一番気にしていたことは、出口戦略がないことである。一応、米国式テーパリングが基本戦略ではある。しかし、FRBより実質的にはるかに大きなバランスシートを持つ日銀では、FRBと同じ政策を採用してもうまくいくはずがない。規模はよくわからないが、2003年のVARショック時を大きく上回る金利の上昇が発生する可能性が高い。

黒田総裁は、従来のリフレ政策がうまく効果を発揮できなかった理由を、原油価格の値下がりなどに求めている。この点が私の認識と全く異なる。失敗の最大の原因は、日銀の量的緩和の量が決定的に不足していたことと考えている。黒田総裁は2014年10月のバズーカ砲第2弾で量的緩和を打ち止めにしている。一方で、2%インフレの達成時期は何度も先延ばしにされた。黒田総裁に対する信認が薄れ、責任追及とも言える声が記者会見でも日に日に高まっていた。それでも、黒田総裁は追加の量的緩和を実施しなかった。黒田総裁は有効な出口戦略を持っていなかったため、追加の量的緩和をやりたくてもできなかったのである。この量的緩和の大幅な不足が失敗の最大の原因とみる。

もともと日銀プロパーの行員たちは、インフレ、バブルの発生防止を最優先し、デフレの悪影響を軽視する反リフレ派が主流であったはずだ。そこに安倍政権の誕生後、それまで日銀と対立していた黒田総裁を筆頭とするリフレ派が日銀に送り込まれた。トップがリフレ派になったため、日銀の行員もとりあえずは面従腹背するしかなかったのであろう。しかし、今や黒田総裁のリフレ政策の行き詰まりが明らかになった。この時、日銀内部の反リフレ派も、黒田総裁と同様の危機感を感じていたはずである。出口で金利上昇が起こり、経済が混乱に陥った場合、黒田総裁を始めとする一部のリフレ派だけの責任ですむことはない。リフレ政策に反対せず、本意ではないながらも協力してきた反リフレ派も含む日銀全体が歴史的な責任を負わされる。黒田総裁のリフレ政策の明らかな行き詰まりを目にして、日銀内部の反リフレ派がついに声を上げ始めたのであろう。苦悩していた黒田総裁も、日銀内部の反リフレ派の意見を取り入れざるをえなくなったのだと思う。

今回発表された「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という名の新しい枠組みについては、私の感覚では反リフレ派の勝利が4割、リフレ派の勝利が1割、残りの5割は両者妥協の引き分けという感じである。反リフレ派の意見とリフレ派の意見とが両方とも書かれてある。しかし全体としてはテーパリングに近い内容が中心で、黒田総裁は反リフレ派の方の意見をより優先的に扱っている。そのため、反リフレ派の勝利と言えなくもない。しかし、反リフレ派の完勝では全くない。

出口戦略のないリフレ派の意見は後退させられている。しかし、反リフレ派の言う通りにすると、急激な円高が起こり、デフレ不況に戻ってしまう恐れがある。これを防ぐ具体案を反リフレ派は持ち合わせていない。株は年間6兆円のETF買いで短期的には急落を阻止することができる。しかし、急激な円高だけでも、発生したならば十分に打撃である。従って、円高やあるいはアメリカ、中国経済の不況化などにより日本に再び不況の波が襲ってきたならば、反リフレ派には対応できる政策がない。リーマンショックの大波に対して、ごく小規模の金融緩和で立ち向かい、円高株安を通じて日本を震源地のアメリカ以上の不況におとし入れた白川前総裁流の政策を単に復活させるわけにはいかないのである。経済危機が再発の場合は、たとえ出口が怖くても、年間80兆円の国債購入金額を増やすなどしてデフレ不況の再発を防がなければならない。そのために、リフレ派の意見も2番目に書かれている。日銀内部で分裂しているだけではなく、両派とも有効な政策を打ち出すことができていない。幸運の神様が舞い降りてきて、賃金上昇率が3%、インフレ率が2%にまで上昇し、そこでぴたりと止まるなどの現象が発生しなければ、どちらの政策でも成功にはたどり着くことができない。これはリフレ派、反リフレ派に関係なく、日銀という組織に、幸運なしでは現在の状況を打開できる能力が備わっていないからだと考える。

現在の状況を劇的に好転させる案はありえない。しかし、上記の2案より多少はましな案なら存在する。それは現状を、日銀単独ではなく日銀、政府が協力して改善させるという案である。具体的には、日銀が量的緩和を拡大させる一方、出口戦略は政府が引き受け、インフレ発生時には政府が増税によってインフレを鎮める責任を負うという政策である。金利ではなく、政府が増税でインフレを抑制するので、金利を長期間低く維持しておくことが可能になる。名目金利を名目成長率よりも低く維持する金融抑圧という政策である。政治的に一番容易な政策は、消費税増税の時期を2019年10月ではなく、2%インフレの到達後、できるだけ早く実施に移すという案である。第2次大戦直後のハイパーインフレを鎮静化させたという見方が有力なドッジ・ラインのバージョン2を作成できれば理想である。日銀が無制限に国債を購入すると同時に、インフレやバブルが発生した場合、政府が包括的な増税策を実施し、インフレやバブルを長期間封じ込めるという政策である。インフレ税と行きすぎたインフレやバブルが起こった際の消費税、地価税などの増税により、国債は50年くらいの時間をかけてでも全額償還をめざすのである。日本経済は消費税増税を始めとする増税に大変弱い。非ケインズ効果が発生するような国では不可能であるが、増税に弱い日本なら増税によりインフレを簡単にデフレ不況に戻すことが可能である。

株式バブルは増税による封じ込めが難しくなりつつある。そのため、株価が安い間に、できるだけ多額のETFを日銀があらかじめ購入しておく必要がある。株価にバブル色が強まれば、ETF売却によりバブルの進行を抑制し、同時に巨額の売買益+配当金を獲得して政府に日銀納付金として支払うのである。

国債の償還財源の大半は増税(または歳出削減)になる。しかし、その増税の実質価値をインフレによって大きく減少させる手段が、金融抑圧を通じたインフレ税である。インフレ税は国債や預貯金といった確定利付き債権の保有者に実質的な税金を課す資産課税である。デフレ時代にデフレ補助金をもらい、実質的に資産を増やしてきた国債や預貯金の保有者に対して、今度は実質的には税金を課することによって国に資産を移転させるのである。デフレ補助金は使うあてのない金融資産を保有する資産家(あるいは企業)の金融資産を増やすという大変悪い補助金であった。現在、すでにインフレ税に変わってはいるが、波があるのでインフレ税が定着したとは言えない。インフレ税を払いたくない資産家は株や外国証券を買えば良い。それならば円安株高が自然に進行する。「目で見る総括」の冒頭に、リフレ政策の成功には円高株安が大きく寄与していたということが書かれている。

インフレ税の導入は、金融資産を大量に保有する資産家に対する累進性の高い税金なので、資産格差の縮小につながる。2%程度のインフレ税は1日も早く実現定着させる必要がある。国債発行とデフレによって恩恵を受けた世代の中のほんの一部の資産家にインフレ税を多めに支払ってもらうことが必要であるからだ。世代間の不公平はできるだけ少なくしなければならない。インフレ税は、収入の大半を年金収入に頼る資産の少ない高齢者にとっても負担は軽いため、良い税金である。

金融緩和策には限界があり、日銀はインフレを引き起こすことができないと言われることも多い。こんなバカな話はない。日銀が額面100円の国債を100京円の価格で購入すればよい。即刻インフレが起こる。この場合はハイパーインフレであり、100京円は高すぎる。しかし、100円と100京円の間に適切な価格が必ず存在する。量的緩和拡大の途中でマイナス金利が拡大して、日銀が国債を買えなくなるという意見も有力である。こちらの方を金融緩和策の限界と呼ぶこともある。しかし、マイナス金利による損失は、その後に発生するプラスのインフレで取り戻すことができる。とはいっても私もマイナス金利の大幅な拡大は容認しない。金融抑圧による財政再建の効果縮小は小幅なものにとどめる必要がある。短期金利を引き上げたり、財政法を改正して国債発行の全額を日銀引受にするなどのテクニックも存在する。加えて全額償還までの目標を50年くらいとしているのは、マイナス金利が続いたとしてもマイルドなものにとどめ、国債の償還まで待つことも考えているからである。50年という期間は、担保として必要な国債を他のものに変更するのに必要な時間としては十分長い。こうした意味において、日銀はインフレを必ず発生させる能力を保有しているのである。

国債がなくなったらどうするか。国債は将来増税予約証書とも呼ぶべきものである。将来増税予約証書は可能な限り少なくすべきである。日銀は将来増税予約証書とは言えない社債、財投機関債、政府保証債などを買うべきである。これだけでは足りないので今回導入した期間が最長で10年の固定金利オペによる貸出金額を大幅に増やす。なお、国債以外の政府債務だけでもGDPの半分を上回っている。政府債務は、国債以外だけで十分である。環境が激変しているとはいえ、昭和40年以前の日本経済は、国債がなくても高度経済成長が可能であったのだ。

ISバランスを均衡させるためには、政府部門が国債を発行して赤字になる必要があるという意見も存在する。しかし、この状態でストックに対してインフレ税を課すことには全く問題がない。使うあてのない過剰な資金を保有する個人、企業部門から政府部門に対して円滑に資金を移転させる手段がインフレ税なのである。そして今の政策なら政府部門の赤字は永久に続くことになる。しかし、少子高齢化が進むと個人部門は黒字から赤字に転落する。今は国内部門は黒字であるが、将来的には赤字になり、海外部門の黒字に頼るしかなくなる。これは、現在は世界最大の対外債権国である日本が、50年くらい先に今のギリシャのような国に転落する可能性が高まることを意味する。ギリシャ化だけは絶対に避けたいため、50年かけて政府部門の中で少なくとも国債だけはゼロにしたいのである。

インフレ税と増税による国債の全額償還。これは言うは優しいが、実際に実行するのは非常に難しい政策である。日銀金融政策決定会合で政策を決めることと、国会で増税法案を作って政策を決めることとの間には大きな差がある。その他にも様々な問題が噴出することはわかりきっている。現在の日本の前にバラ色の道は存在しない。イバラの道しか残されていない。選択すべき道は、イバラのトゲが一番少ない道である。その道とは、リフレ政策を放棄する道ではない。出口戦略をも日銀が引き受けながらリフレ政策を続ける道でもない。日銀が国債購入金額を大幅に拡大し、インフレ率が高まったら出口で政府が増税をしてインフレの高進を止める、そして50年くらいの時間をかけて国債を全額償還させる。この道がイバラのトゲが一番少ない道であると信じている。

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日本のAIIB(アジアインフラ投資銀行)への参加について

3月12日に、イギリスがアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を表明した。その後、ヨーロッパ諸国、オーストラリア、韓国などが相次いでAIIBへの参加を表明した。そのため、日本も参加すべきかどうかの議論が高まっている。私は参加すべきという立場である。私なりのAIIBに対する一番望ましいと思われる対応策を述べてみたいと思う。

AIIBの設立準備という、序盤のそのまた序盤の段階においては、中国は勝利を獲得した。しかし、日本はこれから中国と戦争を始めなければならない。日本は中国と武力を使った戦争をしてはいけない。一旦、戦争が勃発してしまうと、戦闘という点では、どちらか一方が戦闘の勝者になることができる。しかし、より大きな政治経済的な観点から見た場合、日中双方が戦争の敗者になることは間違いない。戦争を抑止するための自衛力は必要であるにしても、実際に武力を使った戦争は絶対に避けなければならない。しかし、平和的な激しい競争、経済戦争はいくらでもすべきである。案件によっては日本対中国、日米対中国だけではなく、日中対アメリカ、日本対米中という組み合わせもありうる。経済戦争であるから、戦争の敗者を除き、顧客と勝者の双方が戦争の勝利者になる。

中国がなぜAIIBの設立をはかったのであろうか。理由は2つ考えられる。1つは、第二次世界大戦後、主としてアメリカが作り上げたIMF・世銀体制に、中国が十分に意見を通すことができないことがある。習近平は、「中華民族の偉大な復興という夢を実現する」ことを国家目標として打ち出した。中国は世界第2位の軍事大国、経済大国へと成長した。そして、国連においては、5つしかない常任理事国の1つの席を獲得している。しかし、経済面においては、世銀への出資シェアは、(以下は財務省のHPに掲載されている数字)アメリカ16.7%、日本7.2%に対して、中国は4.6%でしかない。IMFにおいても、アメリカ17.1%、日本6.1%、その後、ドイツ、イギリス、フランスと続き、中国は6番目の3.7%である。アジア開発銀行(ADB)においては、日本15.6%、アメリカ15.6%、中国6.4%である。中国は今や世界第2位の経済大国であるにもかかわらず、国連以外の経済分野では影響力が少ない。影響力を引き上げようと努力はしてきたものの、アメリカというIMF・世銀体制を作り上げた大国が、中国の発言権を引き上げるのに不熱心である。そのため、中国は、現体制の中で発言力を高めるのではなく、その外側に中国主導の新体制を作ることを狙ったのだと思う。

もう1つの要因は、アジア諸国にある巨額のインフラ需要の存在である。少し古い数字であるがよく引用されるものとして、2009年にADBが、2010年-2020年の11年間に、アジア諸国のインフラ需要は8兆ドルにのぼるという見通しを発表した。その8兆ドルの資金需要に対して、ADBの2014年末時点の投融資残高は843億ドルでしかない。全然足りていない。

世銀・ADBというアメリカが作り上げた現体制下では、アジアのインフラ資金需要を満たすことができない。そこに中国は自国主導の新金融システムの存在意義があることを発見した。そのため、中国が主導して、アジアインフラ投資銀行=AIIBの設立をぶちあげたのである。その中国の呼びかけに応じる国が、直近において50ヶ国前後にまでにのぼっている。

先に序盤の序盤では中国の勝ちと書いたが、最大の敗者はアメリカである。アメリカこそがIMF・世銀体制の設立者であり、現体制を主導する国家である。IMF・世銀に対して、日本はアメリカに次いで第2位の出資国であるが、発言力は出資比率以下である。日本が経済的に台頭してきても、アメリカは日本に発言権を与えず、カネを出させても口は出させないという態度をとってきた。IMFは、トップのポストこそはヨーロッパ勢が独占している。それでも一番大きな影響を与えている国は、IMFの本部があるアメリカであることに変わりはない。

アメリカは、アジアにおいてさえ、日本の政治力が拡大することに反対し続けてきた。1990年にマレーシアのマハティール首相は、日本をリーダー格とするEAEC構想を提唱したが、アメリカは容認しなかった。2009年に鳩山政権が提唱した東アジア共同体も認めようとしなかった。そして、アメリカが主導するTPP体制の中に日本を組み入れようとしている。また、1997年のアジア通貨危機の際に、日本がIMFのアジア版であるAMFを作り、通貨危機に陥ったアジア諸国を救済しようとした。しかし、このAMFに対してもアメリカは反対して潰した。結局、アジア通貨危機は、背後でアメリカが主導するIMF体制の中で危機の処理が行われた。

このように、アメリカは、軍事同盟締結国である日本に対してですら、アジアを主導することを認めようとしなかった。アジアの主導者は、日本ではなくアメリカでなければならなかったのである。ただし、その中で唯一日本に権限を委任した分野がある。それが、1966年に設立されたADBである。世銀を補完する開発金融を行う機関である。この「アジアにおける開発金融の主導者」という地位だけは、アメリカが日本に委任したのである。これは、開発金融の性格が、援助でもあり、負担も伴うものであるからだ。アメリカは自らの負担を軽減させるために、負担とセットにする形で主導権を日本に委任したのである。そして、アメリカは、ADBに対する日本と同金額の出資者として、背後から日本を支援し、同時に監視もするような体制を作り上げた。

ADBの設立以来、アジア諸国は著しい経済成長をとげている。このアジアの成長に対して、ADBが大きな貢献をしたとは言えない。基本的にはアジアにあるそれぞれの国の努力の結果である。それでも、アジアの成長には、ADBの開発融資と日本の援助がある程度貢献したことも間違いない。アメリカが主導したラテンアメリカ、ヨーロッパが主導したアフリカをしのぐ成長を、アジアはとげてきたのである。そして、ADBの最大の借り手である中国(最近では1位かインドに次ぐ2位)が、世界第2位の経済大国となり、今度は中国が主導する開発金融機関を設立しようとしているのである。この点について、日本は少しは誇りに思ってもよいと思う。ADBの総裁がアメリカ人であれば、アジアの発展は、少しだけかもしれないが遅れていたであろう。

アジアの大部分の国が、AIIBに参加することは合理的である。日本と中国の両方に協力し、競争させることにより、より多くの融資や利益を獲得するというアジアの国々の知恵である。問題は、その中に政治的には反中国の立場にあるベトナムと、同じく反中国であり、ADBの本部のあるフィリピンまでもが加わっていたことである。これは、フィリピンでさえも、日本が主導するADBに十分満足していなかったことがあるはずだ。

一方、イギリスとヨーロッパのAIIBへの参加は、アメリカの失態、ないしは力の衰えととらえるべきであろう。過去に没落していてもおかしくないイギリスが現在のような地位を依然として保持している大きな理由の一つとして、ロンドンが国際金融センターとして大きな地位を獲得していることがあると思う。ポンドだけではなく、世界の多くの通貨の取引の中心地はロンドンである。イギリスが現在のロンドンの地位を守るためには、人民元取引の中心地となることが必要である。人民元の国際化を中国政府は進めつつあるので、ロンドンが中国国外での人民元の取引の中心地となることは、イギリスの繁栄を維持するために不可欠の条件である。人民元取引の中心地となるために、古い友人であるアメリカの反対を振り切り、中国に恩を売るという行動にイギリスは出たのである。イギリスに続くヨーロッパ諸国は、リーマンショック以降、アジアでの地位が大きく低下していた。ヨーロッパの金融機関、インフラ関連企業が失地を回復することができる一つの手段として、AIIBを利用したいのであろう。

中国は、日本にもAIIBへの参加を求めている。これは、中国が日本の資金力に期待しているからではない。日本がインフラ融資についてのノウハウを提供してくれることを期待しているのである。中国は、日本からインフラ融資のノウハウを受け取り、そのノウハウを利用して中国主導のアジアでの融資体制を作り上げようとしたいのである。中国にはインフラ融資のノウハウという点で、日本を始めとする先進国よりも劣っている。ここに中国の最大の弱点がある。このインフラ融資のノウハウを獲得するために、日本以外の先進国にも参加を求めていたのである。そして、ヨーロッパの先進国の多くが、AIIBへの参加を決めた。

日本はここから中国に対して巻き返しをはかる必要がある。そしてその反攻に出るための拠点の一つがADBである。しかし、ADBには中国も加盟しており、その情報は中国に完全に筒抜けとなる。従って、日本がAIIBに対抗して勝つためには、日本もAIIBに参加する必要がある。つまり、日本は中国の求めに応じてインフラ融資のノウハウを提供するためではなく、AIIBサイドの情報を盗み取るために、日本もAIIBに参加するのである。敵を知らずして戦いに勝つことはできない。この理由を、アメリカには十分説明しておかなければならない。ここでは、日中両国は、キツネとタヌキのだまし合いをするしかない。互いのホームグランドであるADBとAIIBに両国が参加し、両国が互いにだまし合いながら、アジアのインフラ融資の主導権をめぐる戦争をすることになる。そして日本のAIIBへの参加は、万が一戦争に負けた場合に、少しばかりだと思うがヘッジにもなる。

日本では、少し前からインフラ輸出が重要な成長戦略であるという認識は広まっていた。そして、2013年にインフラシステムの輸出という計画が日本再興戦略の中に取り入れられた。日本は国際協力銀行(JBIC)とメガバンクなどが協力してインフラ融資を行い、インフラシステムの輸出を推進する体制を整えた。

しかし、日本再興戦略は、オールジャパンで、日本企業が建設に参加するインフラシステムの輸出を増やすための体制作りであった。現地企業が単独で行う地域密着型のインフラ融資資金を供給するためのものではない。このような地域密着型のインフラ融資を増やすためには、日本は組織を再編成する必要がある。従来は、インフラそのものの輸出に力点が置かれており、インフラ融資はその補完であった。今後は、インフラ融資の方により力を入れる必要がある。インフラ融資が主役であり、インフラ輸出がなくても対応が可能になる体制に再編成する必要がある。

インフラ融資の特徴は、リスクが高いことでもなく、リターンが低いことでもない。最大の特徴は、資金の回収期間が10年以上という長い時間を必要とするということだ。期間が長いが、安定的なキャッシュフロー収入が見込まれるので、ローリスク・ハイリターンであるという意見も存在する。日本の場合、従来のインフラ融資の主体は、JBICの他は、主として銀行であった。しかし、調達する預金の期間との関係で、銀行が期間が10年以上の融資をするのは長すぎる。銀行では対応しきれないケースが多い。そのため、欧米では、銀行ではなく、年金などのより長期性の資金を扱う金融機関が、インフラに対する投資をする機関として成長しつつある。

通常の融資をする銀行には、融資の期間が長すぎて、アジアでのインフラ需要に対する十分な資金を貸し付けることができない。一方、日本では、長期性の資金を運用する年金、生保、投信の運用は、株や債券への投資が中心であり、運用会社にインフラ投資のノウハウが不足している。欧米では、年金などの長期性の資金を運用する金融機関の側が、インフラ投資に従事する専門家を増やしつつある。この点においては、日本は欧米に比べて大きく遅れている。日本国内にはインフラ融資のノウハウを持つ人材がいるにもかかわらず、その人材と年金などの長期性資金の供給者との結びつきが弱く、国全体としてインフラ投資を短期間に拡大できる体制が整っていないのである。

日本にはカネがあり余っているが、融資対象がないと言われ続けてきた。しかし、日本だけではなく、アジアを見わたした場合、その正反対である。無限ともいえるインフラ資金需要があるのにもかかわらず、日本や他の先進国の資金が、ほんのわずかしかアジアのインフラ融資へと流れ込まなかった。その最大の責任は、アジアで昔からインフラ融資を担うADBを牛耳ってきた日本にある。日本が十分にインフラ融資の資金を供給することができなかったため、中国にAIIB設立というスキを与えてしまったのである。

アジアで不足するインフラ融資を短期間に増やすべきとの機運は、今まで日本では全く盛り上がらなかった。そもそも金融とは民間のやることであり、政府系の金融機関などは民営化してしまえとの声の方が大きかった。そこにAIIBが現れたのである。

ここは、日本も形だけは参加するAIIBを明確な敵と位置づけ、オールジャパンでインフラ融資システムを作り上げなければならない。強力な敵が出現して初めて、国内が一体化し、時間のかかる体制の整備が短期間で実現可能になる。経済発展のためには敵=競争相手が必要なのである。アジアのインフラ開発に必要な8兆ドルの資金はあまりにも巨額であり、日本一国で対応できるレベルの金額ではない。8兆ドルは無理にしても、従来の供給金額を大幅に上回る資金を捻出する必要があり、可能でもある。そのツールとしては、まずはJBICが中心にならなければならない。実際の資金の供給者は、従来のJBICや銀行だけではなく、年金、生保、投信などの長期性資金の運用者を加えなければならない。JBIC、あるいは国際協力機構(JICA)に蓄積されているインフラ融資のノウハウを、大急ぎで年金、生保、投信などの運用会社へと移転しなければならない。最初のうちは、年金、生保、投信などのインフラ投資に対して、JBICが保証をつけることも必要であろう。

日本は世界最大の対外純資産国である。日銀資金循環統計ベースで、2014年末の対外総資産は935兆円、対外純資産は376兆円ある。しかし、日本の対外資産には大きな欠陥がある。運用対象が、先進国の国債に偏りすぎていることだ。先進国の国債の金利は大きく低下し、マイナス金利の国債も増えた。日本の金融機関は、いやでも先進国の国債以外に新しい投資対象を見つけなければならない。

日本の年金、生保、投信には、先進国の国債以外に、アジアのインフラという巨額の資金の運用先があるのである。政府の指導により、JBIC、JICAから運用ノウハウを大急ぎで移転してもらい、短期間でインフラ投資が可能な体制を作り上げ、国策にも沿ったアジアへのインフラ投資を増やすことが必要である。インフラ投資と競合する超長期ゾーンではマイナス金利は発生していない。それでも、以前に比べて金利が低下していることに変わりはない。リスクは増えるが、それ以上のリターンを獲得するために、日本は満期が来た先進国の長期国債の多くを低金利の長期国債へと再投資せずに、アジアへのインフラ投資に切り替えることが可能になる。アジアへのインフラ投資は、国策としてだけではなく、日本のより有利な資金運用先の確保という点でも重要なのである。

投信は、キャッシュフローがインフラ投資と一致しておらず、インフラ投資には必ずしも適しているとは言えない。しかし、投信で運用される確定拠出型年金は、今後確実に増加する。加えて、日本においてもインフラ債券投資ファンドがすでに存在している。現状でもインフラ投資に資金を振り向けることは可能である。その規模をさらに拡大させるためには、インフラ投資をよりやりやすくするような仕組みを新たに整備することも必要であろう。インフラ投資のノウハウを十分蓄積した投信会社が、インフラ投資の初期段階から積極的に関与する形で投信を運用することができるようにすることが望ましい。社会貢献型ファンドが一時ブームになったこともある。真の目的がアジアを支援するための中国との援助競争であり、国にも社会貢献にも結びつくインフラ投資ファンドに資金を投じる投資家はいるはずである。投信が多数のインフラ案件に分散投資し、その投信を多くの投資家が分散して保有できる仕組みを作ることができれば、リスクを減らし、安定的でやや高めのリターンを獲得することが可能になる。

これからは、アジアのインフラ融資の主導権をめぐる日本と中国の戦争になる。ヨーロッパが中国に協力するかもしれない。しかし、AIIBはアジアインフラ投資銀行であり、名前のとおり中心はアジアなのである。出資金の75%はアジアが出すことが決まっており、ヨーロッパは参加はできても、主導権を握ることはできない。主導権は中国にあることが最初から決まっている機関である。ヨーロッパが本気でAIIBを支援するかどうかわからない。現時点では、国家レベルの支援は明らかではなく、先進国からの個人レベルの支援にとどまっている。しかし、ヨーロッパが国家レベルで一定水準以上の支援をするという情報が入れば、日本もそれに対抗する必要がある。日本は、JBICというツールの他に、ADBというツールを使い、インフラ投資がヨーロッパ並に進んでいるアメリカに支援をしてもらう必要がある。その場合、日中戦争をこえて、最終的には、「ADB+日米連合」対「AIIB+中国・ヨーロッパ連合」との全面戦争になる。日本は何としてもこの経済戦争に勝たなければならない。

ヨーロッパが中国に一定水準以上の融資ノウハウを提供しないのであれば、中国の建設会社が関与する案件以外では、AIIBはADBと世銀の補完の役割を果たすことに徹することになるかもしれない。ADBと世銀は、AIIBの補完を拒むことはできない。この場合は、日本はADBや世銀に協力をしながらも、オールジャパンの力で別の分野を自力で開拓していく必要がある。日本が自力で開拓した案件にもAIIBが割り込んでくるかもしれない。それでも、中国の建設会社が関与しない地域密着型のアジアにおけるインフラ融資の主導権は、日本、ADB、世銀の側にあり、AIIBは日本、ADB、世銀の決定に従って、その資金の一部を拠出するだけの機関であると、融資を受ける側のアジア諸国が見なすようにさせなければならない。この場合、日本はAIIBを一種の封じ込めの状況に置くことになる。この封じ込めを維持し続けることこそが、中国との経済戦争に勝ち続けるということを意味する。そして、日本のAIIBに対する出資金は、増えることはないが、減ることもない。

日本がAIIBの封じ込めに成功しても、その先はイバラの道である。従来は、日本が主導するADB、世銀のなれ合い独占であった。しかし、今後は、封じ込めから常に復活する恐れのあるAIIBの脅威が常に存在する。かつてのような独占にあぐらをかくことは許されない。一方、ADB、世銀とAIIBの協調を唱える人も多い。しかしこの場合、アジアの大半の国が敗者となる。従来のADB、世銀のなれ合い独占が、ADB、世銀、AIIBのなれ合い独占に変わるだけだからだ。従来、日本は欧米以上にADBをうまく運営してきたが、独占であったがためにアジアのインフラ資金需要にほとんど対応できず、堕落していたのである。本当にアジアのことを大切に思う人は、ADBとAIIBの大戦争を主張すべきである。激しい競争、経済戦争こそがアジアを豊かにするのである。

アジア諸国に対するインフラ融資をも含む開発金融は、アメリカから日本に委任された日本の数少ない利権である。中国は、アメリカが作り上げた第二次世界大戦後のIMF・世銀体制に対抗するために、新たにAIIBを立ち上げた。ところが、地政学上の必然性から、AIIBと最初に衝突するのは、アメリカではなく、日本とADBになってしまう。従来、日本が巨額の資金を運用していた先進国の国債金利が大きく低下してしまったため、日本はインフラ融資の分野にも運用資金を移転させる必要がある。日本は、国内に分散してあまり機能していない現在のインフラ融資の能力、体制を整備し直さなければならない。そして、アメリカから全面的な協力を獲得してでも、最終的には中国との経済戦争に勝たなければならない。そのためには、最低限の資金、ノウハウ、情報をAIIBに提供し、見返りにAIIBから最大限の情報を獲得して敵の内情を深く知る必要がある。日本はAIIBに参加すべきである。

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Fed ビュー、BIS ビュー、日本が選択すべき ビュー

「主要国・地域の中央銀行や監督当局で構成する金融安定理事会(FSB)は先週、国際金融システム全体にとって重要な金融機関(G-SIFIs)の破綻時に納税者負担を回避するためのトータルな損失吸収能力に関する規制案で暫定合意に達した。

非公開情報であることを理由に事情に詳しい関係者3人が匿名を条件に語ったところでは、リスク加重資産の16-20%に相当する自己資本および損失吸収可能な劣後債などの証券の確保が2019年までに義務付けられる。」
              (2014年9月26日ブルームバーグ)

日本の3大メガバンクに対する自己資本比率規制の強化が、ほぼ確定した。この内容については、かなり以前から検討が進められていることが報道されてきた。9月14日に、日本経済新聞が、金融安定理事会(FSB)が最終調整に入ると大きく報道していた。それが一段と進み、暫定合意にまで達したようである。なお、ブルームバーグの英語版では、規制の比率を米英が20%、日仏が16%と主張していることが書かれている。

日本人の感覚からすると、大規模な金融緩和を実施し、銀行貸出を拡大しようとしているときに、自己資本比率規制を強化することは、貸出の増加が妨げられるだけの迷惑な規制に見えるであろう。仮にメガバンクが、規制達成のために劣後債の発行を大量に実施することになった場合、大量の劣後債を買うことのできる投資家がいるのか、という問題が発生することも予想される。

しかし、より重要と思われる点は、自己資本比率規制の強化が必要な理由である。上記の記事では、「国際金融システム全体にとって重要な金融機関の破綻時に納税者負担を回避するため」と書いてある。米英は、メガバンクの破綻という事態を想定しているのである。メガバンクは、再び破綻するかもしれない。その場合に、公的資金を注入すると、世論の反発をくらうので、破綻しても納税者の負担を増やさないようにすることが、自己資本比率規制強化の目的である。

この点は、多くの日本人にとっては、違和感のある考え方だと思う。メガバンクの破綻を想定するのではなく、メガバンクが破綻することがないような政策を採用することの方がより重要ではないか、という考え方である。日本のバブル崩壊やリーマンショックの発生前には、資産バブルが発生していた。従って、資産バブルが発生することを回避することがより重要であり、資産バブルが再び発生し、崩壊し、メガバンクが破綻し、その後の納税者の負担を避けるための規制強化というのは、方法論としておかしいのではないかと、多くの日本人は考えるであろう。

こうした日本と米英との違いは、思想の対立である。日本的な考え方は、BISビューという考え方に属する。一方、米英の考え方は、Fedビューという考え方である。Fedビュー、BISビューの定義は、人によって多少異なる。ここでは、Fedビュー、BISビューの資産バブルに対処する考え方の違いという点だけについて、説明することにする。

BISビュー
資産バブルの発生は、事前に防止する必要がある。その具体的な手法は、金融引き締めの強化である。

Fedビュー
資産バブルが悪い現象であるにしても、事前に資産バブルかどうかを見極めることは難しい。金融政策は、失業率の低下などのより重要で明確な目標に対して、優先的に使用されるべきである。金融政策が資産バブルかどうかわからないものに対して使用された場合、コストがかかるので、使用されるべきではない。資産バブルにつながる可能性のある現象が発生した場合、マクロプルーデンス(金融システム全体の安定を確保するための金融規制)の強化で対応すべきである。そして仮に資産バブルが発生して崩壊した場合、徹底的な金融緩和を実施するとともに、崩壊後のダメージをできるだけ少なくするための政策を、事前に準備しておけばよい。

私流の解釈が入っているので、人によっては納得できない点があるかもしれない。それでも大きな間違いはないと思う。

最初に示した米英が提案しているメガバンクに対する規制強化は、その背景に、Fedビューの思想が見えてくる。資産バブル崩壊とメガバンクの破綻を容認し、その時のダメージの最小化をはかるという考え方であるからだ。そのため、BISビュー的な思想を持つ多くの日本人にとっては、納得しづらい規制である。

日本の場合、1980年代後半にバブルが発生し、1990年代初頭にバブルが崩壊し、その後、長年バブル崩壊の後遺症に悩ませられてきた。従って、バブルにつながるような金融緩和政策は、極力避けるべきだと多くの人は考えていると思う。

ここで、日・米・英の株価と地価の長期推移を表すグラフを下記に示す。


日米英 株価

日米英 地価

日本人の中では、アメリカの株価はバブルであり、イギリスの住宅価格はバブルであると決めつける人は多いと思う。しかし、イエレンFRB議長は、アメリカの株価はバブルではないと発言し、カーニーイングランド銀行総裁は、イギリスの住宅価格高騰に警戒感を示してはいるが、バブルではないと発言している。イエレン、カーニー両氏にとっては、バブルの抑制以上に重要な役割が中央銀行にあると考えているのだ。それは、失業率を低下させることである。日・米・英3ヶ国の失業率を表すグラフを下記に示す。

日米英 失業率

米英の失業率は、最近大きく低下してはいるものの、日本よりもまだ水準が高い。特にアメリカでは、職探しを諦めたと思われる人が多くいるため、実際の失業率は統計上の失業率を上回っているとイエレンFRB議長は考えているのである。

日本の場合、金融政策の目標は、物価の安定である。アメリカの場合は、物価の安定に加えて雇用の最大化という目標が法律で定められている。イギリスの場合、物価の安定に加えて、物価の安定を妨げない範囲において、雇用に関する政府の経済政策を支援することが法律で定められている。米英の場合、物価が安定している現時点において、一番重要なことは、失業率をより低下させることなのである。そのため、現時点においては、金融引き締めを急いではいない。資産価格は上昇しているので、マクロプルーデンスの強化により、バブルの進行を抑制することを重視している。そして、不幸にもバブルが崩壊してしまった場合には、その後のダメージを最小化させるために、最初に示したメガバンクの自己資本比率規制の強化を提案しているのである。

日本が平時の状態にある場合なら、私は、BISビューを支持する。しかし、現在の日本は平時ではない。政府債務が大きく膨らみ、財政再建が重要な政策課題になっている。こうした環境下では、BISビュー、Fedビューとも異なる政策を採用すべきと考える。Fedビューとは異なり、事前的なバブルの防止は必要である。しかし、バブル発生の防止を、BISビューのように金融政策で対応すると、金利の上昇というコストが財政の方に発生してしまう。従って、バブル発生の防止を、金融政策ではなく、増税という財政政策によって対応すべきであるというのが、私の考え方である。

米英とは異なって、日本は、バブル崩壊後、バブル崩壊による痛みをやわらげるために、財政出動をあまりにも多用しすぎた。米英は、バブル崩壊後、すみやかに量的緩和政策を実施した。日本では、1990年代初頭にバブルが崩壊した後、意味があるとは思えない小規模な量的緩和政策が、2001年に開始された。しかし、本格的な量的緩和政策は、2013年まで待たなければならなかった。日本の量的緩和政策の開始は、あまりにも遅すぎたのであった。日本の場合、生産年齢人口が減少し、かつ労働者が賃金の引き下げを容認するという環境があったため、失業率はそれほど高くはならなかった。しかし、失業率以外では、大きな打撃を受けた部門がいくつも存在する。その中で最も大きなものとして、政府債務の拡大があると思う。

このブログでは、政府債務の拡大の原因が、モノのデフレ(*1)、地価のデフレ(*2)、株価のデフレ(*3)にあると主張し続けてきた。通説的には、社会保障費の拡大が、財政赤字の原因だと見られている。しかし、団塊の世代が完全に引退し、超少子高齢化がより進行してしまう今後においては、社会保障費の増加が財政赤字の最大の原因になるであろう。しかし、過去においては、社会保障費の増加率はそれほど高くはない。税収が多少なりとも増え続けていた場合、財政赤字の拡大は発生しなかったはずである。財政赤字の拡大は、税収の減少が最大の原因である。そして、税収の減少の原因が、モノと資産のデフレであったのである。

黒田氏が総裁となる以前の日銀は、日銀による国債の購入は、政治家の安易な歳出拡大を招き、金利の急上昇、ハイパーインフレを招くと主張し、大規模な国債の購入を拒否し続けてきた。ところが実際は、日銀が国債の購入を拒否したために、モノと資産のデフレが長引き、税収が大きく減少してしまった。そして、政府がデフレ不況対策として、建設国債の増発による公共投資の拡大という景気対策を、断続的に実施し続けた。その結果、政府債務が異常なレベルまで拡大してしまった。長年にわたる日銀による国債の購入拒否が、金利の急上昇とハイパーインフレが発生する可能性を劇的に高めてしまったのである。日本では、BISビューのような金融引き締め政策は、あまり行われてこなかった。しかし、金融緩和の不足という、結果としては、ずっと厳しいバブル発生防止策につながる政策が、長年続けられてきた。そのため、バブル崩壊からの立ち直りに時間がかかりすぎた。さらには、バブル再発の防止には成功したが、日本経済をデフレ不況でガタガタにしてしまった。バブル再発の防止は必要な政策であるが、その対価として、あまりにも高すぎるコストがかかっていることに気がつくことができなかったのである。

私は、アメリカの株価、イギリスの住宅価格が実現できるくらいまで金融緩和を徹底的に強化すべき、と考えている。現在の日本の株価、地価は、米英を基準にした場合、あまりにも安すぎるのは明白である。資産価格が少しでも米英に近づくことができるまで、日本は金融緩和を繰り返し続けるべきである。

現在、日本の株価は上昇中である。しかし、1991年から24年間続く、株価上昇局面での海外投資家買いvs国内投資家売りという構図は変わっていない。その累積金額は、89兆円にまで及んでいる。国内投資家買いvs海外投資家売りという、ある意味では正常な構図を作ることにより、累積で89兆円も売り越してしまった日本株の何割かを買い戻す必要がある。バブル発生防止のためのキャピタルゲイン課税を、海外投資家に対して実施することが不可能であるからだ。まず始めに、キャピタルゲイン課税を実施することのできない30%強の海外投資家による日本株保有比率を、引き下げることから始める必要がある。過去24年間、国内投資家の資金は、対外投資を除けば、リスク資産から無リスク資産への移動というグレート・ローテーションを続けてきた。バブル再発の懸念もあって、こうした動きは問題とは見なされてこなかった。

日銀による国債購入金額を、現在の年間50兆円から、100兆円、200兆円と引き上げ続ければ、国債を売却した機関投資家の資金の何割かが日本株へと回ってくるはずである。グレート・ローテーションの方向を、1日も早く逆転させなければならない。方向を逆転させ、海外投資家による日本株保有比率を、目に見えるほど引き下げる必要がある。これは、海外投資家に安値で大量に売却した株を、高値で大量に買い戻すわけであるから、本当は実に馬鹿げたことなのである。私が、異次元緩和の実施が20年遅すぎたため、あまりにも多くのものを失ってしまい、取り戻すことができなくなってしまったと何度も非難してきた具体的な例の1つが、日本株という日本の大切な財産を、安値で89兆円も海外投資家に売り渡してしまったことである。それでも、さらなる損失の拡大をくい止めるためには、1日も早く買い戻すしか方法がないのである。その後も資産価格が上昇し続けた場合、そのキャピタルゲイン(株と土地)、売買(土地)、保有(土地)、に対する税率を大幅に引き上げることによって、資産価格の上昇を防ぐべきである。その増税分を財政再建に回すのである。

財政政策は、金融政策とは効果が共通する面がある。従って、バブルだけではなく、同時に発生するモノのインフレに対しても、増税という財政政策で封じ込めることが可能である。しかし、効果が完全に一致しているわけではない。金融引き締め政策ではなく、バブル発生を増税で封じ込めようとした場合、さまざまな歪みが発生することも予想できる。仮に、歪みの少ない理想的な増税案ができあがったとしても、その増税案が国会で成立するとは限らない。バブル発生防止のための増税は、口で言うほど簡単なことではない。

しかし、財政再建のためには、歳出削減だけでは不可能であり、増税は多くの人が必要と考えている政策である。そして、普通は、その増税が、消費税の増税であることが当然視されている。しかし、消費税の増税というのは、少なくとも短期間は、経済に非常に大きな悪影響があることは、2度の増税で証明済みである。超少子高齢化、人口減少、潜在成長率低下という重すぎる荷物を背負う将来の日本経済が、消費税増税の痛みに簡単に耐えられるとは思えない。従って、通常の政策では財政再建はもはや不可能であり、ハイパーインフレを起こすしかないという意見も出ている。私は、消費税増税とハイパーインフレの間に、資産バブルが発生するくらいの徹底的な金融緩和と、資産バブルを封じ込める大規模な増税の組み合わせという道が残されていると思う。この道も、安易な道ではないが、問題の発生が一番少ない道だと考える。

日本人が改めるべき考え方は、バブルは絶対悪という考え方である。米英は、バブルの発生と崩壊よりも、目の前の失業率の低下を優先させている。こうした政策の背後にある、Fedビューという考え方の理解を広げる必要がある。Fedビューと対立するBISビューは、日本の伝統的な考え方に近い。しかし、BISビューでは財政再建はできない。資産価格の上昇が定着すれば、金融引き締めではなく、バブル発生防止のための増税を実施すべきである。この場合、資産バブルの拡大を抑制し、崩壊を防ぐと同時に、税収が増大することにより、政府債務の削減に貢献することができる。バブル抑制のための増税策は、今から準備を始めるべきである。現在予定されている増税策は、実施が少し怪しくなった消費税の再増税だけである。そのため、さらなる金融緩和はバブルの再発をもたらすだけだ、出口戦略で金利が急上昇するという、反リフレ派の反対意見を封じ込めることができないのである。資産バブルを抑制する増税策の検討は、早急に始めなければならない。そして同時に、一刻も早くより大規模な追加金融緩和を実施することは、必要不可欠なのである。


リンク先記事
財政赤字とデフレの関係(*1)
地価の下落がもたらす財政破綻とその回避策(*2)
株価によって決定される国の税収(*3)



テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

ポートフォリオ・リバランス効果 巨額のマイナス効果が発生

私は、リフレ政策を強く支持する立場にいる。しかし、現在の異次元緩和という政策は、目に見える部分では、あまり効果が上がっていないと見ている。その原因の1つは、巨額なマイナスのポートフォリオ・リバランス効果が発生し、その状況が現在も継続中であるからだ。

最近、日銀と内閣府から、異次元緩和がポートフォリオ・リバランス効果を発生させているとの見解が示された。(「日本銀行の国債買入れに伴うポートフォリオ・リバランス:資金循環統計を用いた事実整理」「平成26年度経済財政白書」)。プラスのポートフォリオ・リバランス効果は確かに発生している。しかし、それとは別個に、巨額なマイナスのポートフォリオ・リバランス効果も発生している。私はこのブログで何度も書いてきた。しかし、上記の2論文のうち、特に日銀の方は、この現象自体は見えているのである。しかし、この現象をマイナスのポートフォリオ・リバランス効果として全く認識していない。これは大問題である。

そしてそれと同時に、巨額なマイナスのポートフォリオ・リバランス効果、すなわち、巨額の円買い・ドル売りが発生する中で、超円高ではなく、円安が進行するという不思議な現象も発生している。黒田日銀総裁は、「円高になっていく理由はない」と発言し、この不思議な現象を解明して説明することなく、単なる希望的観測だけを述べている。こうした日銀総裁の姿勢にも問題がありすぎる。

反リフレ派は、ポートフォリオ・リバランス効果は、ほとんど発生していないと主張する。私は、プラスのポートフォリオ・リバランス効果が一定程度発生していることを認める。しかし、それだけではなく、巨額なマイナスのポートフォリオ・リバランス効果が同時に発生していることが大問題であると考えている。従って、巨額なマイナスのポートフォリオ・リバランス効果を、巨額なプラスのポートフォリオ・リバランス効果に変えていかなければならない。そのために必要な政策について書くのであるが、今回も、いつもと同じ結論になる。

まず、異次元緩和、あるいは、大胆な金融緩和が行われるという予想が発生した2012年11月14日の前後から、直近までのいくつかの統計数字を示すことにする。

最初は、金融機関の貸出残高の変化を表すグラフを下記に示す。


貸出増加グラフ


上記のグラフは、銀行だけではなく、保険会社なども含めた金融機関全体の貸出残高の貸出先を、6つに分けて示したものである。よく見れば、2012年10-12月期から、全体として、貸出残高は、少し増加している。

グラフでは、増加額がはっきりわからないので、2012年10月-2014年3月までの数字を、下記に表として示す。2012月10月は、当時の野田総理が衆議院解散発言を行い、円安株高が始まった2012年11月14日の直前の時期であるからだ。


貸出増加 表

上記の表の数字は、資金循環統計からの数字であり、先に示した日銀の論文にも使われているデータの元の数字である。資金循環統計は3月末までの数字であるが、日銀が発表している「貸出・預金動向」という統計では、6月末までの貸出残高が発表されている。この統計によると、6月末の貸出残高は、3月末比で微減である。これは、季節要因であるのだが、3月末から6月末にかけて、貸出残高は増えることはなく、少し減っているのである。

2012年10月-2014年3月の間、貸出残高はストックベースで35.1兆円増加した。しかし、その中で最大の増加の寄与を示した先は、海外である。通常の貸出の中心である、非金融法人企業に対する貸出は、6.6兆円の増加にすぎない。これとは別に、貸出先別貸出という統計を日銀は発表しており、その統計数字を見ると、この期間での製造業に対する貸出残高は微増であり、大半が非製造業向けとなっている。原発停止で資金繰りの厳しい電力会社を含む電気・ガス・水道業、スプリント買収で借金を大幅に増やしたソフトバンクを含む運輸・通信業などに対する貸出が増えている。こうしたことも考慮に入れると、1年半で6.6兆円の増加は、それほど大きな増加額ではないと思われる。

なお、ストックとフローの金額は、一般政府以外は一致していない。これは、統計誤差と貸出先の倒産などがあったためだと考えられる。海外向けだけは、フローよりもストックの金額が大きい。これは、貸出の中に円投分(円で調達した資金を外貨に換えて貸し出すこと)が含まれており、ここに円安メリットが発生しているからである。円投は、円安・ドル高要因となる。確かなことはわからないが、フロー増加額13.9兆円の半分弱は円投であり、後で示すマイナスのポートフォリオ・リバランス効果を、一部であるが相殺している可能性が高い。

次に、国際収支統計の中の、証券投資の部分だけを取り出し、2012年11月以降から直近までの累積金額を示すことにする(旧バージョンのグラフを延長し、国内への流入を「+」、国外への流出を「-」とおいて計算したので、現行の国際収支統計の証券投資とはプラスマイナスが反対になる)。


国際収支 証券投資

2012年11月から2014年7月18日までの海外投資家買い・国内投資家売りの金額を見ると、外国株が6.0兆円、日本株が17.4兆円、日本債券が8.1兆円もの金額になる。外国債券だけは、直近に、国内投資家の外国債券投資が増えた結果、海外投資家買い・国内投資家売りの金額は-3.6兆円となっている。この4つの数字を合計した証券投資の累積金額は、27.8兆円になっている。

普通の国では、異次元緩和のような大規模な金融緩和が行われた場合、国内投資家の資金は、無リスク資産から日本株、外国株などのリスク資産に移るのである。ところが日本では、その正反対の動きを示したのである。すなわち、国内投資家は、リスク資産を大量に売却する一方、無リスク資産へと資金を移し変えたのである。国内投資家のこうした投資行動の変化は、2012年11月から2013年末までに大規模に発生した。2014年に入ってからは、横ばいか微増程度である。資金が投信などを通して無リスク資産からリスク資産へ移動すると、しばしば報道されるが、リスク資産から無リスク資産へ移動してもほとんど報道されることはない。日本国外では、資金が無リスク資産からリスク資産へ大量に移動し、バブル懸念を引き起こしている。しかし、日本国内に関しては、資金の流れの方向が、正反対なのである。

2012年11月から2013年末までの国内投資家の行動は、どう考えてもおかしい。大胆な金融緩和、異次元緩和が実施されると、無リスク資産はインフレの発生の結果、価値が目減りするのである。インフレに強い日本株や外国証券に資金を移すのが、普通の国では当たり前の投資行動であり、合理的な行動である。日本の国内投資家の大半は、経済学的な観点から見た場合、非合理的な行動をとったのである。直近においては、消費税増税もあり、現在年率3%以上のインフレが発生している。それにもかかわらず、日本の投資家は、インフレで価値が目減りする、利回りの低い日本国債か銀行預金へと、資金を寝かしたり移動させたりし続けているのである。

日本の投資家がこのような非合理的行動を取る原因は、バブル崩壊後の20年以上にわたる金融政策が完全な間違い続きであったからである。その結果、日本の投資家の行動は、おかしくなってしまったのである。過去20年以上の間、リスク資産を持つと、必ず円高株安で損をしてきた。こうした経験が積み重なると、リスク資産の価格が上昇すれば、必ず売るということが、一番正しい投資戦略となる。この現象は、株式市場ではずっと前から観察されていた。私は、「株式市場のヒステリシス」(*1)と呼び、その問題の深刻性を繰り返し書いてきた。2012年11月以降に発生した予想外の出来事は、外国株などの日本株以外のリスク資産にも、極端なリスク回避行動が発生したことである。外国債券も、当初は売り越しであったが、直近は少しばかりの買い越しへと変化している。外国株についても、ヒステリシスに達する強い効果が発生したかどうか、現時点ではわからないが、強いリスク回避志向の存在は明らかになった。外国債券については、多少の買い越しに転換したものの、普通の国と比較した場合、リスク回避志向が強いため、外国債券の買い越し金額が少なすぎるのである。このように、日本の国内投資家は、極端なリスク回避行動を取るようになり、資金の流れが、普通の国とは正反対になってしまった。しかし、日本の投資家が普通でない行動を取り続けているというこの事実を、日銀も内閣府も認識できていない。

こうした極端なリスク回避姿勢に凝り固まった、特殊な日本の国内投資家を相手にする場合、異次元緩和のようなレベルの低い金融緩和政策は、プラス方向ではなく、マイナス方向への効果が発生してしまうのである。プラスの効果を発生させるためには、日銀が、日本の国債を全部買い占めて、リスク回避のために国債の買いにしがみつく国内投資家から、国債という資産を無理やり引きはがすくらい強引なことを強行しなければならないのである。国債を買い続けたくてたまらない国内投資家は、異次元緩和の実施以降、国債市場の機能低下が発生しているから、これ以上、日銀は国債を買うべきでないと強く主張している。現在求められている政策は、国債市場の機能低下ではなく、国債市場を消滅させることである。国債の全額を日銀が買い取り、国内投資家の国債保有を不可能にさせることが必要なのである。

日銀が国債を全額買い取った場合、当然、インフレとバブルが進行する。しかし、インフレ、バブル発生の前に、所得、資産を大きく増やした個人や企業、可能であれば海外投資家に対して、大規模増税を実施すべきなのである(*2)。この場合、インフレ率は2%を上回るであろうが、それほど高くはならない。大増税を実施するわけだから、財政再建が一気に進む。しかし、大増税をしても、所得、資産の増加分に対しての大増税であるから、所得、資産の増加金額が大きく減少するだけであり、所得、資産の金額が増えることには変わりはない。遠くない将来、日銀が全額保有する国債が、大増税によって全額償還されることも、可能性としては存在する。夢かもしれないが、可能性がゼロとも思えないので、チャレンジする価値はあると思う。この政策が成功してしまった場合には、日本経済は、インフレとバブルがそれほど大きくならず、経済成長率もあまり低下しない中で、国債残高ゼロが実現する。

しかし、この政策は、国内的には可能であっても、国際政治的には不可能なのである。日銀が国債全額買い取りを目指して国債を買い進める途中で、資金が国債から外国証券へ資金が移動する。この場合、金融収支の黒字が大幅に拡大する。これは定義として、経常収支の黒字拡大とほとんど同じ意味になる。つまり、2014年7月以前とは異なり、経常収支の黒字金額が、必ず大幅に拡大するのである。数年前までの日本のように、強力な輸出産業が国内に存在していた場合、円安が少ししか進行しないまま、経常収支の黒字の金額だけが急増していたであろう。しかし、現在の日本は、輸出産業が弱体化してしまっている。この中で、金融収支の黒字が急激に拡大した場合、経常収支の黒字も同時に急激に拡大させる暴力的な力が働き、結果として、金融収支の大幅黒字=経常収支の大幅黒字が必ず実現してしまうのである。この経常収支の黒字を急激に拡大させる暴力的な力は何かというと、超円安の発生なのである。この場合、急激な輸出拡大と輸入縮小、対外純資産の大幅な増加というメリットが日本経済に発生する。

こうした巨額の利益獲得に対しては、アメリカだけではなく、世界中の国が、一国繁栄型の近隣窮乏化政策と激しく攻撃してくることは、目に見えている。超円安の発生は、ガソリンや食料価格が急騰する結果、一国繁栄型の政策とは正反対であり、自国窮乏化政策であると主張する人が日本国内には多数存在する。しかし、プラスとマイナスを総合すれば、日本は間違いなく大幅なプラスの利益を獲得できる。そして、その分、諸外国にマイナスの損害が発生してしまうことも事実なのである。ギリシャなどの対外純債務国の場合は、対外純債務が急増するので、こうした政策を採用できない。通貨安が進行しても、窮乏化するだけである。日本は輸出産業が弱体化する前に、この政策を採用しなければならなかったが、遅すぎた。それでも、日本が、弱体化しながらも輸出産業を残しており、世界最大の対外純資産を保有している間は、超円安による経常収支の黒字の急拡大と、対外純資産の急拡大は、日本に巨額の利益をもたらす。自国窮乏化政策などという間違った意見は、世界では全く通用しないのである。日銀が国債全額の買い取りを目指して国債を買い続けた場合、途中から一国繁栄型の近隣窮乏化政策と世界中から非難され、国債の買い取りは実施不可能にならざるをえない。日銀が国債を全額買い入れることは、国際政治的に見て、実現不可能なのである。

次に、証券投資の累積金額と、ドル・円レートを表すグラフを下記に示す。


証券投資と為替レート

大胆な金融緩和の予想、異次元金融緩和の実施の結果、海外投資家が大量の日本株、日本債券、日本の投資家が保有していた外国株式を買うことになる。7月18日までに、証券投資が27.8兆円の黒字になるということは、27.8兆円もの大量の円買い・外貨売りが発生したのである。これは急激な円高・ドル安の発生を意味する。ところが実際に発生したことは、それとは正反対の、円安・ドル高なのである。なぜ正反対のことが発生するのか。この疑問を持つ人が少なすぎる。そして、少数ではあるが疑問を持つ人の中では、ヘッジファンドが円買い・外貨売りをしているから、と考えている人が多いようだ。しかし、ヘッジファンドが1年半もの長期にわたって、円買い・ドル売りポジションを維持することは、あるかもしれないが、その金額は非常に小さな金額であるはずである。2012年11月以降、多くのヘッジファンドが大量の円買い・ドル売りをしていたであろうが、そのポジションの大半は、とっくの昔に閉じられているはずである。しかし、ポジションを閉じる際の円売り・ドル買いという売買に対しては、誰かが反対の円買い・ドル売りの売買を実施していたはずである。その誰かが解明されていない。またある人は、海外投資家が円安・株高を予想して日本株を買うわけであるから、100%の円売りヘッジをかけているはずだ、と考える。しかし、これも絶対にありえない話である。アメリカで販売されている日本株投信、外国株投信の中には、為替ヘッジを実施しないことを事前に決めて販売されている投信がいくつも存在する。加えて、国内投資家の外国株売りに伴う円買い・ドル売りに対して反対売買が発生する理由も説明していない。

2012年11月から円売り・外貨買いを継続し、現在もそのポジションを保持している投資家は、ほぼ間違いなく、海外に存在している。日本の株、債券だけで合計250兆円前後保有している海外の機関投資家である。具体的には、海外の投信、年金がその中心である。彼らが円安期待を持ち、全体の円売りヘッジ比率を10%引き上げた場合、25兆円の円売り・外貨買いが発生する。これは大変大きな円安圧力になる。彼らが円安期待を持たなくなった場合、25兆円の円買い・外貨売りが発生し、超円高が間違いなく進行する。彼らは、ヘッジファンドのように短期売買を繰り返すことは少ないが、10年単位でヘッジポジションを維持することも少ない。何らかの円高要因が発生し、彼らが短期間に円売り・外貨買いのポジションの解消を始めた場合、急激な円高・ドル安が発生する。私はその最悪のシナリオの発生確率を20%と以前は書いていた。ただ、日本の対外直接投資が継続して拡大し、そこから円売り・ドル買いの需要が増え続けている。2012年11月-2014年5月までのネットの対外直接投資は、合計で18.2兆円である。先に示した銀行による円投からも数兆円レベルの円売り・ドル買いが発生している。現状は最悪のシナリオの方向ではなく、2番目に悪いシナリオである、「空洞化シナリオ」の方向に進みつつある。そのため、超円高という最悪シナリオの発生確率は、20%からは少し低下したと考えている。それでも、対外直接投資、円投以外に円売り・ドル買いを実施してきたポジションは、まだ大量に残っているため、最悪シナリオの発生確率は、低下してもゼロにはならないのである。

先にも書いたとおり、5月21日に黒田総裁は、「円高になっていく理由はない」と発言した。この認識は完全に間違っている。超円高の発生という大きなリスクは、現在でも確実に存在するのである。

異次元緩和という過去に例がないほど、大規模な金融緩和を実施したが、国内投資家は日本株や外国株を大量に売却し、預金に資金を移す。巨額なプラスではなく、マイナスのポートフォリオ・リバランス効果が発生してきたのである。その事実認識をまず持たなければならない。その次に、巨額なマイナスのポートフォリオ・リバランス効果により、巨額の円買い・外貨売りが発生していたにもかかわらず、超円高ではなく、円安が発生してきたのである。見えないところで巨額の円買い・外貨売りが発生しているということを次に認識しなければならない。その主体は、海外のヘッジャーによる円売り・外貨買いのヘッジポジションだと私は推測しているわけである。海外のヘッジャーによる大量の円買い・外貨売りという反対売買は、遠くない将来、必ず発生する。その大量の円買い・外貨売りが短期間で発生すれば、超円高が必ず発生する。超円高のリスクは、今でもなお存在しているのである。

超円高が発生すると、日本経済はデフレ不況に逆戻りし、異次元緩和は無意味な政策であったという評価が確定してしまう。従って、そうした超円高の発生確率は、限りなくゼロに近づけなければならない。そのためには、目に見える円売り・外貨買いのポジションを積み上げることが必要である。具体的には、国内投資家に、外貨建て資産の保有を促し、長期間保有される、円売り・外貨買いのポジションを積み上げさせることである。海外のヘッジャーから外貨を買い戻し、国内投資家が安定的に長期間保有する円売り・外貨買いのポジションを積み上げるように誘導することが必要である。これが実現したならば、近い将来の大量の円買い・外貨売りの発生確率はゼロに近づき、安定的な円安の進行・維持が可能となる。国内投資家に巨額の外貨建て資産を保有させ、超円高の発生確率をゼロに近づけるためには、先に書いた政策と全く同じ政策、つまり、日銀が国債をガンガン買い進めることが必要である。

このように、長期の資産デフレと円高により、国内投資家は極端なリスク回避志向を強め、インフレで毎年価値が目減りする国債や銀行預金を手放そうとしなくなってしまった。こうした状況下では、日銀が、国債の全額買い取りを目指して、国債を買い続けるべきである。しかし、日銀に国債を売却した国内投資家による外貨建て証券の保有金額の拡大は、円安を引き起こし、ある一定の限度をこえる円安が進行する政策は、国際政治的に許されなくなる。しかし、現時点では、そのレベルにはまだ到達していない。景気が悪かろうと良かろうと、マイナスではなく、プラスのポートフォリオ・リバランス効果を発生させることが必要であり、これは同時に、海外のヘッジャーから外貨を買い戻し、国内投資家による外貨建て資産の保有金額を増やし、安定的な円安が長続きする状況を作りだすことと、同じことを意味する。そして、この政策が実行された場合、財政再建というとてつもなく大きな問題の解決も、同時に急激に進行する。そのためには、外国から非難の声が高まるギリギリの限度まで、追加の大規模な金融緩和を実施し続けることが、必要不可欠なのである。


リンク先記事
株式市場のヒステリシス(*1)
インフレ抑制とバブル防止を利用した財政再建策(*2)

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

偏在する対外資産の是正と拡大

我々は、様々な目的で、貯蓄をする。例えば、老後の備えのために貯蓄をする。そして、貯蓄は資産であり、金融資産と呼ばれることが多い。

ではGDP統計上、そうした貯蓄は、どのように扱われているのであろうか。GDP統計の確報を出す際、貯蓄を含めたストック統計を出している。その中で、日本全体の貯蓄や資産の合計、すなわち、国富(GDP統計上では「正味資産」と呼ばれている)の推移を表すグラフを下記に示す。


国富

国富は、バブル崩壊後、資産価格の低下を背景として減少し続けていたが、直近では横ばい傾向になっている。その中で、大半を占めるのは、土地や建物などの非金融資産である。それ以外は対外純資産だけであるが、これは金融資産に含まれる。

2012年末において、国内金融資産は5685兆円存在するが、それはゼロと扱われている。理由は、金融資産の背後には、それと同額の金融負債が存在するからである。銀行に預金をすれば、企業の負債や国債という政府の負債へと振り替わるであろう。従って、国内に貯蓄するのは、同額の国内金融負債を増やすだけであり、国の純資産である国富は増えないのである。国富を増やすための貯蓄とは、海外に貯蓄を持つことである。GDP統計でも類似の他の統計でも、資産を海外に持つ場合、その全てが、実物資産ではなく、金融資産の扱いになる。この場合、金融負債の保有者は国内ではなく、海外にいるので、国内の金融負債は増えない。その結果、対外純資産という金融資産が増加し、同時に国富が増加する。国富を増やすためには、海外に貯蓄をしなければ、意味がないのである。

国富の定義が、金融資産は対外純資産しか含めないというものであるので、「国内貯蓄は、それが直ちに国富の増加につながることはない」というところまでは100%正しい。しかし、「海外に貯蓄をしなければ、意味はない」という考え方は、あくまでも一つの考え方にすぎない。国内貯蓄なしには、国家の経済成長は絶対に不可能であり、国内貯蓄なしに、2700兆円もの非金融資産を創出することなど不可能であるからだ。しかし、現在と少し将来までの日本という時間と場所を限定した場合、老後などに備えて貯蓄をする場合は、海外への貯蓄を殖やさないと意味がなく、国富が増えないことも事実である。現在と少し将来までの日本においては、依然として国内に余剰な金融資産が存在しすぎている。そのため、国内での貯蓄増加は望ましくなく、海外への貯蓄の方が望ましい。

このように、国富に国内金融資産を含めず、対外純資産しか含めないことは、100%正しいとは言えないが、ある一定の合理性を持つ考え方である。今回は、国内非金融資産ではなく、対外純資産について、すなわち、対外純資産の金額拡大だけではなく、内容の改善も同時に追求する必要性を書くことにする。

まず、対外純資産とその変動金額、変動理由を表す表を下記に示す。


対外純資産

重要なところに色を付けた。薄黄色が2013年末の対外純資産が325兆円、前年比29兆円増加であることを示す。薄橙色がその変動要因である。取引フローで7兆円減少していることになっている。昨年は、誤差脱漏だけで-4.1兆円あったのであるが、これは主として、上記の表の「金融派生商品」、「その他投資」部門での申告漏れが原因であると推定している。おそらく、昨年の実際の「金融派生商品」、「その他投資」の数字は、正確な申告がなされていた場合、プラスの方向のもっと大きな数字になっていた可能性が高い。重要統計ではあるが、誤差の多い統計でもあるので、7兆円の減少は、減少金額としては大きすぎであり、小幅なマイナスか、小幅のプラスであってもおかしくなかったと考えている。

為替相場変動、すなわち円安で80兆円増加し、「その他調整」で45兆円、特に株式の部門で41兆円減少している。「その他調整」は、統計上の不都合を含むが、その多くは、為替以外の資産価格の変動である。主として日本の株高の影響により、41兆円の資産を失っている。

それから主要な資産として、株式、債券、外貨準備のところに薄青色をつけた。外貨準備は、9割以上が債券で運用されているので、外貨準備も含めた債券の純資産は、184兆円ではなく、300兆円をこえているはずである。一方、株式はマイナス76兆円である。これは、海外投資家が日本株を大量に保有している一方、日本の投資家は外国株を少ししか保有していないことを意味する。これは日本の対外純資産としては、非常にバランスを欠いていると言わざるをえない。これからの日本は、国内株を海外投資家から買い戻すと同時に、外国株の保有金額を増やす必要がある。安全な運用の大原則は、徹底的な分散投資である。日本の投資家は、リスクを抑えるために、外国の債券、中でもアメリカの国債を大量に保有しているのである。しかし、その個々の投資家の安全運用の方針が、日本という国レベルとしてみると、一部の債券に対する集中投資という高いリスクのポートフォリオになってしまっている。

次に、上記の対外純資産をドル建てで見た場合の運用資産の推移を見る。


ドル建て対外純資産

先に示したとおり、2013年の対外純資産増加の最大の要因は、円安であった。円安が考慮されないドル建てで見た場合、0.3兆ドルもの大幅な資産減少となる。詳しい内容は(*1)で説明したが、その最大の理由は、日本の株価の上昇であった。この減少金額は、より正確に表現すると、3483億ドルになる。経常収支に、企業会計の国際会計基準のような会計基準を適用した場合、ドル建てでは、おそらくアメリカに次ぐ、世界で2番目の巨額の赤字国となっていたに違いない。現在のIMF基準だけではなく、こうした角度を変えた視点から見ることも必要である。

次に、対外純資産を対外資産、対外負債に分けた表を下記に示す。


対外対内資産

対外資産では、薄橙色で示した105兆円が、資産の円安メリット金額である。純資産の表でも80兆円であった。日本が世界最大の純資産国である限り、円安のメリットは膨大なのである。対外負債では、薄橙色で示した数字が50兆円であり、その大部分が、昨年の日本の株価の上昇によってもたらされた。異次元緩和が、2013年4月より20年前倒しで実施されていたならば、日本の投資家は、リスク過敏症に陥らず、それ以前と同様に、日本の株や外国の株、債券を買い続けていたであろう。日本の投資家が大株主のままで株価が上昇し続けた場合には、日本の株価上昇の結果として50兆円もの対外純資産減少といった事件が発生することはありえなかった。加えて、円安が恒常的に進行し、対外純資産の金額も膨大なものとなっていたはずだ。その場合、日本は現在の日本経済とはケタ違いの強さを維持していたはずである。その代わり、政治的には凄まじいジャパン・バッシングが現在でも恒常化していたであろう。

上記の純資産は、直接投資については、簿価評価となっている。直接投資を時価評価にした場合の金額も財務省は公表しているので、その数字を下記に示す。


時価対外純資産

この場合、対外純資産は、簿価評価の時の325兆円から、373兆円まで増える。それでもドル建てで見た場合、減少金額が少し小さくなるだけで、大幅減少自体は変わらない。それだけ、昨年の日本の株価の上昇率は大きかったのである。

次に、IMFの統計から、2012年末の対外直接投資、対内直接投資の金額を表すグラフを下記に示す。


直接投資対GDP比率

国ごとに少し異なる基準を標準化した基準で各国を比較している。日本の場合、対外直接投資のGDP比率は、やや小さい程度であるが、対内直接投資の対
GDP比率は非常に小さい。先に示した、簿価基準の直接投資は、2013年末で対外が118兆円、対内が18兆円である。比率としては標準化されたIMF基準とあまり変わらない。日本は、対内直接投資が非常に少ないことは、疑いのない事実である。

安倍内閣の3本目の矢の政策の中には、賛成のものも反対のものもあるが、最も大反対の政策は、対内直接投資倍増計画である。分野を絞らない対内直接投資倍増計画は、日本経済に悪影響を及ぼす。仮に、対内直接投資を拡大させる政策を実施する場合には、日本経済に特にメリットが大きい分野に限定して、外資優遇の制度を設けるべきである。

先に書いたとおり、現在の日本は余剰資金を海外に流出させ、対外純資産を増やすことが何よりも重要な政策である。安倍氏を含めた政治家たちは、「世界からヒト、モノ、カネを集める」という発言をしばしばする。この中で最も間違っていることは、世界からカネを集めることである。カネは日本銀行が無制限に作り出すことができるのである。それだけではなく、日本は資金を外に出さなければならない時に、資金が外から流入し、結果として超円高が継続し、多くの輸出産業を潰してしまった。そして、現在でも資金の純流入は続いているのである。そのため、超円高が是正されたにもかかわらず、経常収支が赤字の月が増えるという結果をもたらしている。「世界からヒト、モノを集める」はともかく、カネだけは集めてはいけないのである。その意味において、対内直接投資倍増計画は、結果として日本経済破壊戦略につながる。

今年から採用されたIMF国際収支マニュアル第6版においては、経常収支=金融収支がだいたいにおいて成り立つ(厳密には、経常収支+資本移転等収支+誤差脱漏=金融収支)。経常収支を黒字化するためには、金融収支の黒字を増やせば、定義として経常収支も黒字化せざるをえないのである。従って、最も必要な政策は、金融収支の黒字拡大であり、余剰資金を海外へ流出させる政策である。為替レートは金融黒字=経常黒字が成立するように動く。2007年は年平均為替レートが1ドル=118円で、貿易黒字14.2兆円、経常黒字24.9兆円を実現していた。しかし、現在の日本には、2007年当時に存在していた輸出能力は大きく低下してしまった。そうした環境下で金融収支の黒字が急激に増加した場合、超円安となり、エネルギーや輸入食品の価格は急騰する。一方、今年の3月までバカがつくほど売れていた高級の海外輸入ブランド品の価格も急上昇し、そうした高級輸入品はさっぱり売れなくなる。この結果、輸出数量の増加は少なくとも、輸出金額は増加し、一方、輸入数量、輸入金額は大きく減少する。結果として、経常収支は黒字化し、貿易収支の黒字化も可能になる。必需の輸入品は大きく値上がりし、不満も高まるであろう。一方、対外純資産の金額も、超円安の結果、急激に拡大する。これは日本にとって、とてつもなく大きなメリットである。

経済危機に沈み続けている南欧諸国やフラジャイル5(トルコ、インド、ブラジル、インドネシア、南アフリカ)は対外ポジションが大きくマイナス、すなわち対外純負債国なので、急激な通貨安が発生すると、対外純負債の額が急激に拡大する。従って、こうした国々では、急激な通貨安を絶対に容認できないのである。それに対して、現在の日本では、急激な超円安は対外純資産を急激に拡大させ、巨額の円安メリットを獲得することができる。同時に、超円安という為替変動により、金融黒字が拡大したほぼ同じ金額だけ、経常黒字の拡大も必ず発生する。日本にとって、余剰資金を海外に流出させ、金融黒字と経常黒字を拡大させることは、他の多くの国とは異なって、小さなデメリット(=エネルギー価格などの急上昇)と巨額のメリットをもたらし、総合すれば、巨額のメリットの獲得が可能である。重要なことは、こうした形で経常収支、貿易収支を黒字化し、対外純資産を大きく増やすことのできる政策は、経済的には存在するということを理解することである。

ただこの場合、対外投資の方法を、従来と大きく変えるようにしなければならない。日本の投資家全体のポートフォリオの中で、外国債券の割合を減らし、外国株の割合を増やす形で対外投資を拡大させることが必要であるからだ。1つのアイデアであるが、厚生労働省と財務省とが、野村総研、大和総研などに補助金を出して、外国株のMSCI、外国債券のシティ債券インデックスを上回る、十分に分散された、外国株・外国債券総合のベンチマーク・インデックスを開発させるという政策が必要である。外国株と外国債券の比率は、外国株と外国債券の時価総額ウエートに等しくする。外国株と外国債券を総合したインデックスを作るのである。まずは公的年金がその総合インデックスを使用し、財務省の外貨準備の多くも、少しずつそうした総合インデックスを使用した運用に移行していくべきである。すでに財務省は外貨準備の運用を民間委託にすることを研究し始めていることが報道されているが、運用委託だけでなく、ベンチマーク・インデックス作成といったより壮大な構想を持つべきである。公的年金と財務省が、外国株・外国債券総合インデックスを使い始めた場合、他の多くの日本の機関投資家も、その総合インデックスをベンチマークにして運用し始めるであろう。この総合インデックスをベンチマークにした運用が広まる場合、外国株投資の比率は拡大し、日本全体としての、対外投資の安全性、収益性が高まるであろう。加えて、日本は経常黒字を獲得する一方、アメリカの危険な国債を無理矢理買わされているといった陰謀論も、完全に消え失せるであろう。ただ、新しい総合インデックスを政府が開発させるにしても、政府が前面に出るのではなく、GPIFの要望のような形にして、政府の介入色を極力減らすことは必要であろう。そして、民間はともかく、公的年金と財務省は、運用コストを最小化するために、インデックス運用に徹するべきである。

繰り返し主張してきたように、経常黒字を拡大させる政策は、経済的に可能であるが、政治的には不可能である。先に書いたとおり、輸出産業が弱体化した日本が経常黒字を大幅に増やすためには、大幅な円安が必要となる。しかし、この超円安の発生を、アメリカだけではなく、他の諸外国も、容認することは絶対に考えられない。従って、日本は政治的に許される範囲内のギリギリの線まで金融黒字を拡大させるしかない。金融黒字の拡大は、金融緩和を強化、すなわち、日銀が国債購入金額をガンガン拡大し、市場に存在する国債を、少なくするか、なくしてしまえば、必ず実現可能である。副作用のインフレとバブルに対しては、大規模な増税で封じ込め、急激な財政再建を同時に達成すればよい。金融緩和の強化を、国際政治の中で許される範囲内で、ギリギリまで追求し、金融黒字と経常黒字の拡大を目指すべきである。


リンク先記事
2013年末対外純資産が過去最高を更新 ドル建てでは減少(*1)

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